『シアワセの光』
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「ふぅ…。」
ダンボールの中の荷物を一通りしまい終わった俺は、新しい自分の部屋を見回した。
引越しの前日、宍戸さんが「手伝おうか?」と言ってくれたけど、そんなに大変そうじゃなかったので断った。
父さんが業者さんを呼んだので、家具や荷物は全て運び込まれている。あとは細かいものを自分で片付けるだけという、とても楽なものだ。
前に暮らしてた家を売り、家政婦さんにお礼を言ってお別れした。ずっと住んでいた、思い出の詰まった家を出るのはすごく淋しかったけど、それは父さんも同じだろうから。
新しい生活に向けて、気持ちを切り替えていかなくちゃ。
新しい家は、前の家より学校から少し遠い場所にある。だいたい二駅分くらい離れたけど、駅から近いし不便なことはない。
二階建ての一軒家で、広さも四人で生活するには丁度いい。一階にはリビング、ダイニング、キッチン、バスルーム、トイレ、洗面所と脱衣所、それと父さんと##NAME3##さんの部屋。二階に上がって俺の部屋と伝説のハジケリスト先輩の部屋、それともう一つ空き部屋がある。収納もいい感じだ。
俺がピアノとバイオリンを好きに弾けるようにと、地下室を付けてくれたのはとてもありがたかった。
「何かお手伝いすることありますか?」
一階に下りて、リビングとキッチンを行ったり来たりしている##NAME3##さん。手には調理用具を持っている。
「こっちは大丈夫!もうすぐお茶にするから、##NAME2##呼んできてくれる?」
「分かりました。」
再び二階に上がり、伝説のハジケリスト先輩の部屋の前に立った。
“そういうこと”がまた頭に浮かんだで、俺はそれを振り払うようにしてから、ドアをノックした。
「伝説のハジケリスト先輩、もうすぐお茶だそうです。」
ドアが開き、伝説のハジケリスト先輩が顔を出した。
「長太郎部屋片付いたの?」
「はい。元々荷物少ないですから。」
そう言うと、勢いよく部屋から出て、俺の部屋のドアを開けた。
「ちょっと、こっちの部屋の方が広くない?」
「そんなことないですよ。」
「えー、なんかあたしの部屋の方が狭く感じる。」
ほら、と言って自分の部屋を俺に見せた。
「たぶん本棚のせいですよ。」
伝説のハジケリスト先輩の部屋には大きな本棚があって、漫画がぎっしり詰まっていた。中には俺が貸してもらったものもあって、ちょっと不思議な感じだ。
「そうかなぁ。」
伝説のハジケリスト先輩と一緒に部屋の中を見回すと、ベッドが目に入った。うしろめたさから、俺は慌てて目を逸らした。
「でも、こんな広くて綺麗な家に住めるとは思わなかったよ。長太郎パパに感謝だね!」
伝説のハジケリスト先輩は嬉しそうに笑って、一階に下りていった。
リビングに戻ると、日本茶とお煎餅がテーブルに上に並べられていた。コの字型のソファには父さんと伝説のハジケリスト先輩が並んで座り、##NAME3##さんはキッチンにいた。
一階にある家具は何もかも新しい。食器もテーブルも照明も、何もかも。
「これ長太郎君のお茶ね。」
「あ、ありがとうございます。」
##NAME3##さんから湯飲みを受け取り、ソファに座った。##NAME3##さんも自分のお茶を入れ、ようやく落ち着いたみたいだ。
「クッキーとかの方が良かった?」
##NAME3##さんが俺にそう聞くと、
「長太郎ってクッキーと紅茶って感じするしね。」
伝説のハジケリスト先輩がお茶をすすりながら言った。
「そんなことないですよ。」
「長太郎パパは?お煎餅好き?」
「あぁ、好きだよ。」
そう言って、父さんが嬉しそうにお煎餅を食べた。父さんがこうして普段着でゆっくりしているのを見るのは本当に久しぶりで、なんだか変な感じだ。
「##NAME2##ちゃんはクッキーの方がいいかね。」
「うーん……どっちも。」
父さんが家で笑ってるところを見るのも、随分久しぶりだった。
「##NAME2##は部屋片付いたの?」
「もうちょい。」
「長太郎君、##NAME2##の部屋見た?」
「はい、見ましたよ。」
「漫画とかゲーム多くて男の子みたいでしょー?今は片付いてるけど、そのうちすぐスゴイことになるから。」
「多分もって三日くらいだよね。」
部活でキビキビ動く伝説のハジケリスト先輩を考えると、とても考えられない。確かに前、「あたしの部屋ヤバいよ」と言ってたけど…。少し散らかっている、という程度だろう。
「そうだ、今日のご飯何?」
その伝説のハジケリスト先輩は、お煎餅を食べながらもう夕飯の話をし出した。なんだかそれがおかしくて、笑いそうになるのを堪えた。
「うーん、どうしようか。」
「##NAME3##も引っ越しで疲れてるだろうから、外で済まそう。」
「じゃあそれまでに終わらせなきゃ。」
そう言って伝説のハジケリスト先輩は立ち上がり、急ぎ足で二階へと上がっていった。
時計を見ると、夕方の4時を過ぎたところだった。
あれから伝説のハジケリスト先輩は部屋の片付けを、##NAME3##さんは脱衣所と浴室を、俺は父さんと庭の手入れをし、それから食事へと出掛けた。
今日は中華を食べに行ったんだけど、伝説のハジケリスト先輩は嫌いなものをさり気なく俺のお皿に移して##NAME3##さんに怒られたり、口の周りを汚して注意されたり、子どもみたいだった。
伝説のハジケリスト先輩の意外な一面を見た気がしたけど、実は意外でもなんでもなくて、これが本当の伝説のハジケリスト先輩なんだろうなって思う。
「ただいま。」
「あー、お腹いっぱい。」
家に帰るとすぐ、父さんと伝説のハジケリスト先輩はソファに座り込んだ。テレビを付け、まったりとした空気を作り出していた。
「お風呂沸かして行ったから、いつでも入れるよ。長太郎君先入っちゃえば?」
「いえ、俺は最後でいいですよ。」
「##NAME2##もどうせまだ入らないだろうし、入っちゃって!」
「じゃあ、お言葉に甘えます。」
脱衣所に入ると、収納ボックスがあった。それにバスタオルやフェイスタオル、下着が入っている。さすがにまだ恥ずかしかったので、洋服をタンスにしまう時についでに脱衣所に来て自分で下着をしまった。右の列の、上から三番目の引き出しだ。父さんのは右の上から二番目、##NAME3##さんのはおそらくその横だろう。
伝説のハジケリスト先輩のは…
………
………
「(〃Д〃)!!」
俺は何を考えてるんだ!///
恥ずかしさで、自分でも顔が赤いのが分かる。
慌てて服を脱ぎ、洗濯物入れだと思われるカゴに入れて浴室に入った。
浴室に入ってすぐに少し熱めのシャワーを浴びて、気を取り直した。
深呼吸をして浴室内を見回すと、大理石が使われていて、結構広いつくりだということに気付いた。湯船も大きく、俺でも足が伸ばせるだろう。
シャワーの下には二種類のシャンプーとリンス(俺の家のと伝説のハジケリスト先輩の家の)、ボディソープが置いてあり、壁には体を洗うタオルが人数分掛けられている。
それに目をやりつつ湯船に入ってみると、いい感じに肘置きがあって浸かり心地抜群だ。伝説のハジケリスト先輩も、きっと喜ぶだろう。
そういえば、伝説のハジケリスト先輩もこのお風呂に入るんだよな…
………
………
「(〃Д〃)!!」
まただ!本当に俺は何を考えてるんだ///さっさと洗ってさっさと出よう!
新居での初めての入浴は、イッパイイッパイで何が何だかよく分からなかった。
お風呂から上がり、冷静になろうとパジャマを着てキッチンに行った。喉も渇いていたし、とにかく水が飲みたかった。
リビングには父さんと##NAME3##さんが、ソファに座ってテレビを見ているだけだった。
「お風呂上がりました。」
「次##NAME2##入れちゃってくれる?」
一瞬ドキッとしたけど、ちゃんと返事をした。
水を飲み干して、伝説のハジケリスト先輩の部屋に向かう。
部屋の前で深呼吸してから、ドアをノックする。
「なーにー?」
ドアは閉まったままで、奥から返事が聞こえた。今はその方が都合がいい。
「お風呂空きました。」
「りょーかーい。」
それを聞いて自分の部屋に入ると、すぐに伝説のハジケリスト先輩の部屋のドアが開いて閉まった。
なんだかソワソワしてしまう。
何か別のことを考えようと思い、カバンから数学のテキストを取り出して、前回の復習を始めた。
少し気が紛れてきた。
キリがいいところでテキストを閉じ、そのまま明日の準備をすることにした。
その時思っていたのは、4人で食事をしたり、リビングでああやってくつろぐことに、意外にも違和感があまり無いということだった。
振り返ってみればみるほどそうだ。父さんと伝説のハジケリスト先輩が仲良くしてるのは嬉しいし、##NAME3##さんと話すにも何の違和感も無い。
とても不思議だ。
でも、この分なら、俺と伝説のハジケリスト先輩も本当の姉弟みたくなれるんじゃないかって、そう思った時。
「長太郎、入るね!」
Tシャツに短パンの伝説のハジケリスト先輩が入って来た。
「ど、どうしたんですか??」
「いや、明日の打ち合わせを少し。」
そう言って、俺のベッドに腰掛けた。
お風呂上がりだからだろうか、ほっぺがうっすらピンクになり、シャンプーのいい香りが漂う。
「明日の…ですか?」
目のやり場に困る。
必死で平静を装いカバンの中を整理しながら、なんとか会話をする。
「うん、どう切り出すかとか。」
そうだ、明日先輩達に言うんだった。
「ていうか、長太郎思った通りだね。」
「な、何がですか?」
心臓が、どんどんうるさくなっていく。
「パジャマ。」
「へ?」
「スウェットとかじゃなくて、やっぱりちゃんとパジャマ着て寝るんだなーって。」
「はぁ…。」
何を言われるのかと思ったら…。
下心を見抜かれなかったとホッとした自分が、少し情けない。
「ま、いいや。で、明日なんだけど…」
伝説のハジケリスト先輩が何かを話していたけど、結局頭には何も入って来なかった。
「おやすみ」と言って俺の部屋を出た今でも、伝説のハジケリスト先輩のシャンプーの香りが残ってて、ベッドには座っていたという形跡が残っている。
電気を消してベッドに潜り、ぎゅっと目を閉じるけど、思い浮かぶのはさっきの伝説のハジケリスト先輩の姿だった。
Tシャツの下は下着を着けていたんだろうかとか、今隣で寝てるんだとか、そんないやらしいことばかり考えてしまう。
頭で別のことを考えようとしても、体っていうのは正直だ。俺も男だから、例外じゃない。
持ってしまった熱に耐えきれず、ついつい手が伸びてしまった。
妄想に駆られて全てを出した後、罪悪感と、これからに対する別の不安に苛まれた。
こんな日が毎日続くのだろうか。罪の意識に、俺はきっと耐えられない。
熱を出しきって冷静になった今、そんなことを思う。
今夜はあまり、眠れそうにない。
続く