隣の席の白石くん
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◎2日目◎
今日の白石は普通だった。
ただ、
「おはようさん。」
「おはよう。それ、どうしたの?」
「それってどれ?」
「そのマスクみたいなやつ。」
真っ黒い立体マスクを付けていた。白石の顔を見ながら、そのマスクをどこかで見たことあるような、でも思い出せないという気持ちの悪さを感じていた。
ていうかどれ?って、そのマスク以外に疑問に思うところはどこにもないと思うんだけど。
「あぁ、これか。これは竹炭マスクいうて、花粉とかウイルスを99.5パー以上分解してくれる優れもんなんやで。」
「へぇー」
静かに、でも嬉しそうに語る白石。まるでテレビショッピングのように分かりやすい説明だ。そういえば前、健康グッズを集めてるとか集めてないとか、そんな話をしたことがあったっけ。
そしてその竹炭マスクの機能がとても気になるのは確かで、けれどもそのマスクをどこで見たかをまだ思い出せず、あたしは頭を悩ませていた。
「せや、伝説のハジケリストには特別にコレやるわ。」
「何?」
そこで白石が取り出したのは、薄いピンク色のマスクだった。
「今流行のデザインマスクや。機能もバッチリやで。」
「でも、いいの?」
「お近付きの印や。受け取ってくれるか?」
「うん。」
「そらよかったわ。」
にこっと笑う白石を見て、やっぱりこの人基本は良い人なんだって思う。
「俺が付けたるわ。」
「いいよ、自分でできるし。ていうか今しないから。」
「ええから。」
そう言ってマスクを広げ、あたしの顔に近付けてきた。ついでに白石の顔も物凄く近くて、反射的に目を閉じた。
あまりの近さに、緊張というよりも、笑いが先行してしまう。そんなに近付かなくてもいいのにってくらい近くて逆にウケる。
耳に柔らかいゴムが掛けられ、鼻から口元に掛けて温かさを感じ、そこから白石の手が離れると
「目、開けてええで。」
そう言われて目をゆっくりと開けた。
「どや、似合うやろ?」
目の前には鏡があり、そこにはワンポイントのブタの鼻マークが眩しいマスクをした自分がいた。いや、もうマスクというか、これが本来の自分というか、見事にしっくり来てしまっている。
「ホンモンのブタさんみたいでかわええで。」
殴りたい、グーで。さっきまでいいヤツかもなんて思っていた自分がバカだった。そんな時
「おはようさん…って、ブタさんやん。」
謙也が来た。あたしの代わりに白石に突っ込んで欲しいという期待を込めたけど
「あ、伝説のハジケリストか。てっきりホンモンのブタさんかと思ったわ。教室で育てて、最終的に食うか食わんかの討論させられるんちゃうかーってな。」
「朝から失礼だな、殴っていい?」
白石同様に腹の立つ絡みをしてきた。でも、謙也には思いきり言えるから不思議だ。そんなことを考えていた直後
「俺は食うで。性的な意味で。」
「Σ( ̄□ ̄;)!!」
白石の下ネタに更に驚いた。この人も下ネタ言うんだ…
「つーかお前のその黒マスクなんや、幽白の鴉か。」
「そうだ!鴉だ!」
今まで自分が思い出せなかった、見たことのある何か。そう、それは幽遊白書の鴉。戸愚呂チームにいたあの鴉だ。
「あースッキリした。」
「なんやねんいきなり。」
「いや、それがずっと思い出せなくてね。」
「そんなのも思い出せんて、お前も甘いわ。」
「ど忘れしただけだし!」
「はいはい言い訳は結構や。まぁ、上には上がいるっちゅー話や。」
「うぜぇ!じぶんだってこないだローズウィップ思い出せなかったくせに!」
「おい鴉、ブタさんがブーブー鳴いてんで。」
「めっちゃかわいいやん。」
ムッとして白石を見ると、まるで動物を見る時のムツゴロウさんのような目をしていたので、この人は心底バカにしてこのマスクをあたしに与えたわけではないのかもしれないと、そんな気がした。
「でもブタやぞ?普通の女子はそんなんもろたら腹立つで。」
「何でや。」
「何でって、デブー言われてるようなもんやろ。なぁ?」
振られたあたしは、白石に悪気は無いと確信し始めているため、答えに困った。
「そか。そんなつもりやなかったんやけど…ごめんな。」
「あ、気にしないで。謝られると逆にツライ。」
「そや、もう一個あんねん。」
そう言って、もう一つマスクを取り出した。
「これならええやろ。」
これならいいと差し出してきたのは、派手なヒョウ柄のマスクだった。
「はは!お前悪趣味やな!そんなんあゆがしててもおかしいで!」
「あゆて。今はくーちゃんやろ。」
「俺にもマスクくれよ。あ、その鴉のはいらんで?」
「お前にはやらん。」
「何でや!」
「自分の胸に手ぇ当ててよう考えてみ。」
そんな二人のやり取りを聞きながら、最初にもらったこのブタマスクの方が、全然いい。そう思っていた。
この二つのマスクに関して、突っ込みたいことが多すぎる。けれど謙也と違ってあたしには何となくそれができないでいた。
本当に白石は趣味が悪いのだろうか、もしこれが本当に白石の趣味だったら何も言えない。あたしにはまだ、そこの見分けがつかない。白石の冗談と本気の境目は分かりづらい。
白石に近付いたと思ったら、また更に謎を深めてしまったような、そんな気がした。