隣の席の白石くん
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◎1日目◎
白石はおかしい。前々からおかしいとは思っていたけど、それは「もしかしてこの人ヘン?」くらいの曖昧なもので、けれど今回は、決定的にヘンなのだ。
具体的にどこがヘンかというと
「おはようさん。」
整った顔とモデルのような体型、それを際立たせるためのはずの装いが、
「おはよう。つーか…それなに…??」
「なにて、見ての通り翼やん。」
ヘンなのだ。
一見して普通のうちの制服なんだけど、両手に持っているのはそんなのどこで売っているのだろうかという、わりと大きなロウでできた翼だった。
「で、なんで翼持ってんの?」
「ギリシャの英雄イカロスや。」
目を伏せ、憂いを帯びた表情でそう言ってきたけど、答えになっていない。
これ以上追及するのも面倒なので
「そう、すごいね。」
とだけ返した。すると、わざわざ私の横に立ち
「イカロスはな、太陽に近づこ思て、ロウでできた翼背負って飛ぶねん。」
ロウでできたその翼を広げ始めた。
「せやけど、翼は太陽に溶かされ、イカロスは地上に落ちてまうねん。人間は所詮人間、神様には近付けんいうことや。」
だから、何だと言うのだろうか。イカロスの話をあたしに聞かせてくれたのかなんなのかよく分からないけど、翼が邪魔で、白石の後ろの席の謙也が遠回りして自分の席を目指しているのが見えた。
「へぇー、イカロスドンマイだね。」
さして興味も無いけど、とりあえずイカロスを労うと
「お前何しとんねん!朝から無駄に迂回させよって!めっちゃ邪魔なんやけど!」
ようやく謙也が辿り着いた。その時、助かった、と、心のどこかで安心した自分がいることに気付いた。
これ以上、何をどう返せばいいのか、あたしには分からなかったから。
「おう謙也、おはようさん。」
「はいおはようさん。つーかお前それアレやろ、イカロスやろ。しょーもな!」
朝からすごいなぁ、やっぱ白石に突っ込めるのは謙也だけたわ、なんて思いながら二人を見ていると
「せっかくやし、今日一日持っとったらええやん。ほしたらお前のことイカロスて呼んだるわ。おいイカロスー」
謙也が怒濤の突っ込みを入れ、それに感心していた矢先
「Σあたっ!!」
なんと白石、いやイカロスが、自慢の翼で謙也をどついた。
「なにすんねん!伝説のハジケリストの代わりに突っ込んだったのに!つーかそれ硬!」
「せやな、悪かったわ。でもちゃうねん。」
「なにがちゃうねん。」
「もうええわ。」
そう言うと、何が気に入らなかったのか、白石は翼を謙也にそっと手渡して自分の席に座った。
「なんやねんホンマ。これお前にやるわ。」
「え」
イカロスの翼を渡されたけど、あたしもこんなものもらっても困るので、白石に返そうとした。
けど、両肘をついてそこに顎を乗せ、なんだか物思いに耽ってるようだったので、話し掛けづらかった。
一体彼は何故イカロスで学校に来たのだろう。そして何故こんなに哀愁を漂わせているのだろう。あたしには全く理解できない。
いざ近くにきてみて、白石という人がますます分からず、これから先が不安になった。