隣の席の白石くん
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今日の白石は、見る限り普通の格好で、普通に歩いて来ている。
と思ったら
「いつでも~さがしているよ~どっかにき~み~の姿を」
歌っていた。
「ゴミ箱の上、ゴミ箱の中、こんなとこにいるはずもないのに~」
「ゴミ箱しか探してねぇじゃん。」
思わずそう突っ込んでしまうと、白石は満足そうに微笑み、
「おはようさん。」
と言って席に着いた。あたしも白石におはようと言ってから謙也と目を合わせ、軽く頷き合って小さく深呼吸をした。
そして
「ねぇ白石、悪いんだけど今日国語の教科書見せてくれない?」
本日のミッションに取りかかった。仲良くなりたいと言ってくれた白石に、あたしからも歩み寄る最初の一歩を踏み出した。
「別にええで。忘れてもうたん?」
「うん。」
「ほな机くっつけんとな。」
快く承諾してくれたので、ホームルームが終わった後、お互い机を寄せた。
いつもよりもぐんと近い距離に白石がいて、少し緊張する。
「お腹の音鳴ったらごめん。」
「俺も鳴るねん。せやから合奏したるわ。」
「やな合奏なんだけど。」
「そうか?むしろ演奏終了後はクラスメイト全員スタンディングオベーションや。」
「じゃああたしも心込めるわ。」
「頼むで?」
謙也と話す時みたく、自然に心から言葉を出せてきている。これならもう大丈夫かもしれないなんて思っていると、先生が来て授業が始まった。
指名された生徒が、前回の続きから教科書を読んでいく。それを目で追って内容を理解しなきゃいけないんだけど、あたしは妙にそわそわしてしまって、内容が頭に入ってこない。
そんな中、白石は落ち着いた様子でページをめくった時だった。
「Σ( ̄△ ̄;)!!」
なんと、挿絵の少年達全員に、ポニーテールが付け足されていた。髪の毛の部分はボールペンで、しかもわざわざご丁寧にリボンも赤いボールペンで描かれている。
教科書の落書きは自分もするけど、何故全員ポニーテールなのだろうか。
チラッと白石を見ると、小声で
「ちゃうねん。」
と言ってきた。
「なにが??」
「や、ホンマにちゃうねん。」
だからなにが違うというのか。問い詰めたい衝動に駆られるも、今は授業中であり、机をくっつけてる状況でただでさえ先生からして目立っているので自重した。
それでも好奇心を抑えきれず、今開いているページを押さえながら、他のページも見てみた。
「…っ!(笑)」
なんと、他のページの挿絵全て、老若男女、人間動物問わず全てにポニーテールが施されていた。
シュール過ぎる。
思い切り笑いたいけど、それはできない。あたしはただただ俯いて、迫り来る爆笑地獄に耐えていた。
授業が終わって、先生が教室を出た後。
「笑いすぎや。」
机を元に戻しながら、あたしはやっと声を出して笑っていた。
「だってありえない!全部ポニーテール!」
「ええやん、ポニーテール。男のロマンの一つやで?」
「でもなんで全部??」
「一人三つ編みもおんねん。」
そう言って、最初の方のページを開いて見せてきた。そこには確かに一人三つ編みをした(ていうか描かれた)中年男性の写真があって
「なんでその人だけ?(笑)」
「分からん。その時そういう気分やったんちゃう?」
この教科書が、今日のために仕組まれたものとは思えない。笑いを取ろうと思って描いたワケじゃなく、ただ暇だったからなんだろう。
横で真面目に授業を受けてると思いきや、真面目にこんなものを描いていたなんて。
「楽しそうやん。俺も混ぜてくれ。」
謙也が身を乗り出してきたので、白石の教科書の落書きを見せた。
「なんやコレ!お前の落書き、暗いんか明るいんか分からんわ。一見しておもろいけど、見方によっちゃあ恐ろしいわな。」
「ポニーテール好きすぎてこうなっちゃったみたいよ。」
「はぁ~、見境無いなぁ。」
「いや、ちゃうねん。ホンマ暇やってん。」
「暇やから言うてもなぁ。」
「けどこれ捨てないで取っておいた方がいいよ!宝だよ宝!」
「せやな。これぞ予言の書や。」
謙也と色々突っ込んでいると
「謙也の自作ねりけしも取っといたらええやん。」
白石が反撃に入ったので、今度はそっちに便乗することにした。
「え、あんたそんなことしてんの?」
「せやで。謙也の机の隅っこに穴開いとるやろ?あそこに消しゴムのカスとのり詰め込んで、ぎゅうぎゅう押して練っとんねん。」
「小学生の頃はよく男子がやってるの見かけたけど…」
「かわいいやっちゃな。」
白石と二人で謙也を温かい目で見つめると
「なんやその目は!しとらんわアホ!んなこと言うたらお前かて消しゴムに好きなアイドルの名前書いてるやろ!あれこそ恥ずかしいわ!」
こんどはあたしに矛先が向いてしまった。
「なんでまたそんな?」
「消しゴムに好きな人の名前書いて、使いきったら両想いになれるんやと。せやけど相手アイドルやで?ホンマさみしい奴やわ。」
「乙女やなぁ……ちょっとかわいそうやけど。」
「うるさいうるさい!」
この後もしばらく二人にいじられて、こいつらうぜーって思ったけど、久しぶりに腹の底から楽しんだ気がした。
白石が天然だということもなんとなく分かったし、それに加えて少し不思議というか電波というか、そんなところもあるってことが分かった。
これからもまだまだ対応に困ることはあると思うけど、白石との距離はだいぶ縮まったと思う。
そう感じてるのはあたしだけじゃないといいなって思いながら、笑顔を交わしたのだった。