隣の席の白石くん
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◎4日目◎
「おはよう。」
教室に入り自分の席に行くと、辞書を持った謙也と会った。ちなみに白石はまだ来ていない。
「おはようさん。」
「なんで辞書持ってんの?」
「今日一時間目国語やし。辞書忘れてもうたから、千歳に借りてきた。」
「あ!!」
「なんや、どないしてん。お前も辞書忘れたんか?」
「教科書忘れた…」
辞書はロッカーに入れてあるからいいとして、宿題のために持ち帰った教科書、それを忘れてしまったことに気付いた。
「借りに行かなきゃ。」
コートも脱がないまま、慌てて教室を出ようとすると
「ちょい待ち。」
謙也にそれを阻まれた。
「なに?」
「白石に見せてもろたらええやん。」
「え、いいよ、悪いし。」
「なに遠慮しとんねん。」
「だって迷惑じゃん。謙也ならまだしも。」
そんなあたしの言葉に、謙也はしばらく腕を組んで何か考えていた。
そして
「お前…白石苦手やろ?」
いきなり核心をつかれ、心臓がドキリと音をたてた。
「なんで?」
「いやな、席替えした時から思っててん。誰かおったら普通に話しとるけど、白石とサシでってなるとかたくなっとるし。まぁよくよく考えたら、みんなで話してる時もあんまし絡んどらんわな。」
そこから、名探偵謙也の推理が始まった。
「ほんで俺には手厳しいツッコミ遠慮せんと入れて来よんのに、白石のボケには対応できとらん。お前ともあろう奴がや。」
「なにそれどういう意味?」
「誉めとんねん。で、本来のお前なら笑てるところも笑てへん。せやからお前が白石を苦手にしとるんちゃうかな、と思ってんけど。」
「苦手っていうか…」
前々から自分の中で、なんとなく感じてきた違和感を、あたしは謙也に話すことにした。
「どこまでが本気でどこまでが冗談か分からないし、それに対してどう突っ込んでいいのか分からない。まだそこまで仲良くないし。」
「なるほどな、絡みづらいっちゅー話やな。」
その時、あたしの中でカチリと何かがはまった。
「そう!絡みづらい!それだ!」
今まで感じていた違和感の正体、それは仲が良いとか悪いとか、それ以前のものだった。そう、白石は絡みづらいんだ。
「まぁ確かに、あいつの狙ったボケほど対応に困るもんはないな。あいつは天然でやらかす時こそ真価を発揮するタイプやのに、本人気づいてへんからタチ悪いねん。」
「白石って天然なの?」
「せやで。周りが濃いから普段はツッコミ寄りになりがちやけど、ちょいちょい天然発揮すんねん。」
「じゃあ初日のイカロスは?あれも天然?」
「あれはどう考えても狙ってたやろ。その結果見事スベってたな。慣れんことするからや。」
謙也の話を聞けば聞くほど、初日からの白石の行動が分からなくなってきた。
それに、白石が天然ということについても想像ができない。
そんなあたしの心中を察したのか、謙也がため息をついて
「これ、言うていいか分からんのやけど…」
ためらいながら、でも何かを吹っ切ったように
「今回の場合は言うた方がええと思うから、言うわ。」
少し小さな声で話し始めた。
「白石な、お前と仲良くなりたいんやて。」
「えっ、そうなの?」
「せやから初日からあんな真似してきたんやで?お前にツッコミ入れて欲しかったんやと。」
「それにしたって、最初から大胆過ぎるでしょ。」
「そこが天然なんやて。変なトコ不器用やねん。ほんで、そん時は白石がどういうつもりであんなことしたんか分からんくて、俺が突っ込んでもーたやろ?」
「うん。」
「あの後何で機嫌悪なったのか聞いたら、俺がお前より先に突っ込んだからやったっちゅー話や。」
「でも謙也がいなかったら、あたしではとても突っ込めないよ。」
次々と分かる真相に、白石に申し訳ないことをしたという反省の心と、仲良くなりたくて頑張っていたという事実に対する喜びが、心の奥からむくむくしてきた。
「せやろ?せやから俺が助けてやったのにあいつホンマ。」
「で、マスクは?」
「おお、あれな。あいつも色々考えたみたいで、変なギャグかますより、プレゼントあげた方がええと思ったらしいわ。」
「あのセンスは?」
「ブタは本気でかわええと思っとったみたいやねんけど、ヒョウ柄はジョークやろ。」
「そうなの?でも白石の趣味なんてあたし知らないし、突っ込みづらくない?」
「分かるわ。ボケやと思って突っ込んだら傷付けてもうた、とか嫌やしな。けどな、白石の場合例え本気でも突っ込んだったらええねん。」
「傷付いたらかわいそうじゃん。」
「あんま誉めたくないけど、あいつはんなこと気にするような小さい器やないから大丈夫や。俺かてお前に失礼なこと散々言われとるけど、むしろ楽しい雰囲気やろ?」
「まぁそれは、謙也とはサシでもいっぱい話してるからじゃない?お互いをよく知ってるわけだし。」
「まぁな。せやけど、お前が本気で人が嫌がるようなことを言わんから、俺かて笑いにできるわけや。」
謙也のその言葉に、なんだかくすぐったくなった。まさかそんなことを思っててくれたなんて。
「大丈夫、白石に対しても同じようにできるて。それともなんや、実は苦手どころか嫌いか?」
「嫌いじゃないよ!むしろ興味津々!」
「意気揚々やな。そらよかったわ。」
「じゃあちょっと勇気凛々で白石に絡んでみようかな。」
「よし、その意気や。元気ハツラツでゲットしてこい。」
「分かった。オレはあいつと旅に出る!」
「もうええわ。」
そんなやり取りをし、心がふっと軽くなったところで、あたしは疑問に思っていたことを謙也に聞いてみた。
「ところで、なんでそんなに親身になってくれてんの?」
そしたら
「俺とお前と白石で色々話せたら絶対楽しいやん。」
普通にそう返されて、友達っていいなって、この瞬間心底感じた。
あたしも、そうだねって言おうとしたら
「お、来たで。今日のお前のミッションは、教科書を見せてもらうことや。」
謙也と話す前まで迷っていたのが嘘のように
「はい、博士!」
あたしは元気良くそう答えていた。
「いつまでポケモン引っ張んねん。まぁ検討を祈るわ。」
こうしてあたしは、守りから攻めに転じることになった。自ら積極的に白石に絡むべく、白石が席につくのを待っていた。