お題DEキリ番小説
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「おっいたいた!伝説のハジケリストー!」
休み時間、トイレから出てくると、機嫌よさげなブン太が、赤也を引き連れて走り寄って来た。
「どうした?」
あの笑顔からして、部活後のお楽しみ『ファミレス新作試食会』のことかしら?なんて思っていると
「お前に頼みがあんだけどよ」
赤也が今にも笑いだしそうになっているのが気になりつつ聞いた。
「なに?」
「真田に告ってくれ!」
ブン太がそう言った瞬間、赤也の今まで堪えていた笑いが解き放たれた。あたしはというと
「ぶふっ!」
あまりに普通に、「教科書貸してくれ!」みたいなノリで言われ、驚きのあまり笑いが先行し、吹き出してしまった。
あたしは別に真田のことがずっと前から好きで、付き合いたいとかそういうんじゃない。それなのに何故、しかもよりによって真田に告らなければならないのか。
意味不明すぎて笑えてくる。これはブン太の新しいギャグなのだろうか。でももしこれがギャグではなかったらどうしよう。
「えっ、待って待って、つーかなんで?」
「いいから頼む!悪いようにはしねぇからさ!」
この通り!と両手を顔の前で合わせてみてるけど、もう十分悪いようになっている。
「丸井先輩、ちゃんと説明しないとダメっスよ。」
笑い終わって一息ついていた赤也が、目尻に残る涙を拭いながら言うと
「私から説明しましょう。」
突然柳生が、眼鏡を押し上げながら現れた。「いつの間に、どこから?」という疑問を提示するあたしにお構いなしに説明を始めた。
先日、朝練が終わってみんなで着替えてた時のこと。ブン太と赤也で、めざましの占いで自分達の順位を話していて、もう一方では参謀と柳生が、細木数子と江原さんの話をし、本の貸し借りをしていたらしい。
参謀みたいな理論野郎が細木数子の本を読んでるのは確かに不思議だったけど、お母さんの影響ということで妙に納得したっけ。
まぁどうでもいいけど。
「占いで思い出したけど、そういえば最近幸村がタロットに興味持ってなかったけ?」
「そうなんです。」
で、それを知らない真田が、そこでこう言ったらしい。
『占いなど下らんな』
「まぁ、真田ならそう言いかねないよね。」
「はい、我々もそれは承知の上です。問題はこの後です。」
参謀が、自分もそう思っていたけど、占いも馬鹿にできないと真田に言ったところ
『蓮二、お前までそんな女々しいものにうつつをぬかしているのか。』
その後幸村が、人の趣味はそれぞれだろう、と真田に言って、真田も一応言葉だけ納得はしたらしい。
けれど、その「女々しい」の一言が、みんなの反感を買った、ということだった。
「あまりにも馬鹿にするもんだから、じゃあお前も一度占いをやってみるといい、って仁王先輩が言ったんスよ。」
「で、真田を占ったの?」
「はい。副部長は乗り気じゃなかったんスけど、みんなにいいからやってみろって言われて、無理矢理占いました。」
幸村あたりに、「まぁまぁ」とか言われてしぶしぶ椅子に座らされてる真田が頭に浮かんだ。
「何占い?」
「タロットです。仁王君がタロットカードを扱えるとは知りませんでしたが、私も尊敬する江原さんを否定された思いでしたので、特に口出しはしませんでした。」
柳生が少し厳しい口調で言った。柳生がそこまで江原さんを好きだったとは。
「そんで、仁王が嘘か本当か分からないタロットで真田を占って、近いうちに告白されるって結果を出したんだよ。」
「じゃああたしが告らなくたっていいじゃん。」
「お前何も分かってねぇよ。占ってたの仁王だぜ?本当にそういう結果が出たのか聞いても、カードがそう言っとった、とか言って教えてくれねーんだよ。」
「なるほど、それであたしに告れって言ってるのね。」
何が何でも占いの結果を本当のものにしたい、という意志が、特に柳生から伝わってきた。
「でもあたしからじゃ意味なくない?別に好きじゃないし。占いが当たるってことを真田に証明したいんでしょ?」
「好きか嫌いかなど、さして問題ではありません。その後の事は我々がフォローしますので、どうか協力していただけませんか?」
なんという恐ろしさだろうか。オーラが、決して断れないオーラが眼鏡から出ている。
「ほ、ほら、あたしなんかよりも、赤也の学年の子の方がリアルなんじゃない?」
赤也に助けを求めてみるも
「俺らもそう思って声掛けてみたんスけど、見事に断られちまいました!」
なんという不人気!
「伝説のハジケリストさん、もちろんタダでとは言いません。お礼は必ずします。」
「お礼って…幸村は何て言ってるの?」
「期待してる、って言ってたぜ?」
きっと、ものすごくイイ笑顔で言ったんだろうなぁ…。
「伝説のハジケリスト先輩お願いしますよ~。そりゃあ俺だって伝説のハジケリスト先輩が他の誰か、まして真田副部長に告ってんのなんて見たくないっスけど」
でも、と赤也が半笑いつつ続けようとした時
「ここにいたのか。」
ボス・幸村が登場した。
「このメンツということは、あの話か?」
「はい、伝説のハジケリストさんは快く引き受けて下さいましたよ。」
「ちょっ、まだやるなんて一言も…」
「そうか。悪いな、こんなことに巻き込んじゃって。」
いや、だからあたしはまだやるなんて言ってないんですけどって、言いたいところだけど、幸村が力強くあたしの肩に手を置いて(っつーか軽く握って)
「よろしく頼む。」
断ったらこのまま肩を握り潰されそうだったので
「分かりました…」
頷くしかなかった。
「あの頭でっかちの唐変木、黙らせてやらなくちゃ。」
「フフ、幸村君も意外とひょうきんなんですね。」
ひょうきんって今日びつかわねーよ!つーか眼鏡割ってやろうかこいつ。
そんなことを思いながら、まぁよく考えたら面白そうかもなんて、あたしもあたしでワクワクしてきたのだった。
練習後、あたしは真田を部室の裏に呼び出した。
話が聞こえる範囲で、みんなも隠れて様子を伺っている。
なんてことはない、実際好きでもなんでもないんだから、サラッと告ってしまえばいいや、その後どんな面白い反応をするのやらと、余裕で真田を待っていた。
けど
「待たせたな。」
「ううん、こちらこそごめんね、疲れてるところ。」
「いや、構わん。で、わざわざこんな所に呼び出して、何の話だ。」
さぁ、サクッと言うのよ!ホラ!
だがしかし
「あの…あのね?」
恥ずかしい。何故か猛烈に恥ずかしい。
しかもこんなに照れていては、何だかあたしが本当に真田に告るみたいになってて、ものすごく恥ずかしい。
真田の顔が見れず、俯いてしまっている時点で、何でこんなこと引き受けてしまったのだろうかと今さら後悔してきた。
「どうした。」
「や、だから、その…」
この状況を見て、きっと赤也あたりが吹き出して、ブン太あたりに「静かにしろぃ!」とか小声で頭叩かれて、ジャッカルの頭に仁王が手をついてるけどツルツル滑ってるんだろうとか、色々よぎる。
まぁ、軽くパニックだよね。
「言いたいことがあるならはっきりせんか。」
「はい、すみません…」
「まったく、呼び出しておいて何も言わんとは。用が無いなら帰るぞ。」
こいつは本当に鈍感すぎる。普通女子に呼び出されて、照れて口ごもってるのを見たら大体察するというのに。
「待って!言うから!」
深呼吸をし、目を閉じること数秒、あたしは覚悟を決めた。
真田の、気を抜いたら笑ってしまいそうになる顔を見据え
「真田のことが、す、好き」
だが恥ずかしくなって、どんどん頭が下がっていって
「なんだけど…」
言ってしまった。もうどうにでもなったらいい。こうなったらお礼はたんまり頂いてやるから。
そう思って、ゆっくり真田を見上げると
「………。」
固まっていた。
きっと今頃、みんな声を殺して超笑ってんだろうな、楽しんでんだろうなって、そう考えるとあたしもやっぱりあっち側に行きたいと思う。
「じゃあ、それだけだから。」
役割も終えたことだし、さぁあっち側へ!と歩き出したその時。
「待て。」
まさかの展開が待ち受けていた。
「その…お前が今言った好きとは、その、友情という意味ではなくて、つまり」
すげぇ動揺してる!つーか照れてる?ちょっと気持ち悪い!なんて失礼極まりないことを思ってしまった。
「恋仲になりたいと、そういうことか?」
「え、うん、まぁ…」
「そ、そうか…。お前の気持ち、嬉しく思う。」
「えっ…」
助けて!
そう思った直後
「だが、今はお前の気持ちに応えるわけにはいかない。」
振られた。
好きでもないヤツに告って振られたとか、惨めを通り越して完全にネタだ。
きっとあっち側では、振られたー!とかで盛り上がってるんだろう。でもこっちは気まずいったらなくて、頼むから誰か出てこいよと思ってると、ジャッカルらしき人影が、真田の肩越しに見えた。
出てくる時勢いづいて前のめりになっていたので、きっと誰かがジャッカルを押したに違いない。「今だ、行け!」「俺かよ?!」とかってね。
よし、これで誤解は解けるぞ、なんて思ってたのに
「今は全国制覇に向けて、テニスに全力を注ぐ。それはお前も理解しているだろう。」
真田が再び語り出したことで、またサッと隠れた。役に立たないハゲだよまったく!
「う、うんまぁ、そうだよね。」
「俺達は必ず全国三連覇を成し遂げる。返事はそれからになるが、それまで待てるか?」
しかも上から目線かよ。まぁしょうがないか、あたしが告ってるからね。
でもこれ、何て返せばいいのかしら。
真田の真っ直ぐな目を見ていると、なんだか自分のしたことがとても悪いことのように思えてきた。この人はこんなにも真剣に自分の考えをあたしにぶつけてきて、自分は高倉建のように不器用だから、一つのことに全力を注ぎたい、それが終わったらその全力を、今度はあたしに注ぐと、そう言ってくれた。
ヤバイ、ちょっとときめいた。真田のくせに、ときめいた。
夕暮れの中、呼吸を止めて数秒真田真剣な目をしたからそこから何も言えなくなるの星くずロンリネス、みたいになってしまっている。
そんな雰囲気で、ついうっかり、あたしは頷いてしまったのだった。
真田が帰って行くのを見送ると、隠れていたあっち側のヤツらがわらわら出てきた。
「お前振られてんじゃん!(笑)」
「副部長のあの固まり方!写メ撮っときゃよかった~」
爆笑するブン太と赤也に、
「俺が言えた立場じゃねぇけど、ホントえげつないよな…」
二人を見て苦笑するジャッカル。
「これで真田君も、占いをバカにすることはなくなるでしょう。」
満足げに眼鏡を光らす柳生に
「弦一郎もまんざらではなさそうだったな。」
何の気無しに言ってみせる参謀。
「でも、伝説のハジケリストを選んだのは、人選ミスだったかもしれないね。」
「そうやのう、嘘が本当になりそうな雰囲気だったしの。」
好き勝手言う幸村と仁王。
「っつーかどうすんの?!明日からちょっと気まずいんですけど!」
叫ぶあたしにお構いなしに、あっち側のヤツらは話を進めていく。
「でも、伝説のハジケリスト先輩振られてたじゃないっスか。」
「そう思うか?」
「どういうことだよ。」
「大丈夫、全国制覇までまだ時間があるから…」
言ってる途中、幸村はあたしに向き直り、両肩に手を置くと
「そうはさせないよ。」
にっこり笑って、両手に力を込めた。
その地味な痛みに耐えながら、あたしのこの告白が、こいつらの復讐から始まったニセの告白が、確実にあたしの中の何かを変えたことを感じていた。
「柳生。」
「はい。」
「お礼、くれるんでしょ?」
「そうですね…、連休などのお休み前、皆さんと交代で伝説のハジケリストさんの上履きを洗ってきて差し上げましょう。」
「眼鏡割っていい?」
終わり
【後書き】
リク内容『立海のみんなと真田をいじめながらギャグ』
もう何年お待たせしてしまったことやら…本当に申し訳御座いません。
しかもコレってね。いじめっていうか、究極のいじめですよね。本人達が直接手を下してないあたり、タチの悪いいじり方。
このままでは真田が不憫過ぎるので、伝説のハジケリスト様だけでも真田に、少しでもいいのでときめいてあげて下さい。
キエラ様、お待たせしてしまって大変申し訳御座いませんでした。私めの後頭部を、目玉が飛び出るまでスリッパでお殴り下さい。書き直しもちろん承ります。
伝説のハジケリスト様、ここまで目を通して頂きまして、ありがとうございました。