♪お誕生日のあなたへ♪
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金澤紘人、三十路。
職業、高校教師。
教科担当、音楽。
そんな彼は今、消毒液の独特の匂いのする保健室にいた。
ベッドのわきに丸椅子を置き、とある一人の女子生徒の寝顔を見て、困った顔をしていた。
少し前、保健の先生から頼まれごとをされた。なんでも女子生徒が具合が悪くて寝ているそうだ。しかし、先生は出張で保健室を空けなければならなかった。そこで、ちょうど授業のない金澤が代わりを頼まれた、というわけだ。
特に断る理由もないので、了承した。あわよくば自分も保健室でうたたねできるかもしれない、そんな事が頭をよぎった。
その、寝ている女子生徒の名前を聞くまでは。
伝説のハジケリストは目を瞑り、小さな寝息を立てている。その眠りはどうやら深いものらしく、外から聞こえる生徒達の声や足音に対し、全く反応がない。ただ、たまに伝説のハジケリストの鼻がピーと鳴るのだった。
まるで魔法にでもかけられたかのように眠る伝説のハジケリスト。金澤にとって、生徒でもあり思い人でもある。
まさかこんなにも歳のはなれた少女に、ましてや自分の学校の生徒に、こんな想いを抱くなんて。
一時は悩み、その気持ちを否定したこともあった。相手は高校生。児童福祉法、淫行条例に引っかかっているではないか。
しかし、好きになってしまったものは仕方ない。ウメさん達もそう言っていた。あれこれ迷うな、心のままに愛してしまえ、と。
伝説のハジケリストの寝顔を見ながら、愛に生きた自分に酔った。そして、伝説のハジケリストの寝顔に将来を重ねてみた。
顔が緩む。
白衣の胸ポケットからタバコを取り出そうとし、ここが保健室であることを思い出た。タバコを戻したてはそのまま腰のポケットへ。すると、何かが手に当たった。
金澤は自分のポケットの中にある物が何かを思い出した。それは、純白のパール(みたいなもの)が付いた髪留め。それが入っている小さな紙袋には、白いリボンテープが装飾されている。
それは、金澤の目の前で眠る、愛しい彼女への誕生日プレゼント。
イマドキの女子高生の趣味が分からず、かと言って高価なものをあげても逆に負担になってしまうだろう。あーでもないこーでもないと、一人悶々と選んだのがこのヘアアクセサリーだった。
一人でアクセサリーショップに入ったのなんてかなり久しぶりであり、少々気恥ずかしかったが、伝説のハジケリストの喜ぶ顔を思い浮かべると、疲れ切った中年の心に潤いが満たされた。
そして、いつこれを渡そうかと考えていた矢先に、今のこの状況になった、というわけだ。
「さて、どうしたものかな。」
金澤が来てからすでに30分以上は経っていた。このまま伝説のハジケリストの寝顔を見ていて、目が覚めたら渡したいところだが、次の時間は授業がある。かと言って無理矢理起こす気は毛頭ない。
腕時計に目をやると、この時間の授業が終わるまで、後5分、といったところだった。
もう一度、目を伝説のハジケリストに戻す。こどもでもない大人でもないこの年頃の娘。演奏中なんかは大人びた雰囲気を出すけれど、寝顔はまだあどけない少女だ。
ゆっくりとその頬に手を伸ばし、大きな手で包み込む。親指の腹で優しくなでると、愛おしさが溢れてくるようだった。
時間が、止まってしまえばいいのに。
そう思うも、授業終了のチャイムが無情にも響き渡った。
金澤はふぅ、とため息をつくと、伝説のハジケリストから手を離し、丸椅子から立ち上がった。そして、ポケットの中のプレゼントを取り出すと
「誕生日、おめでとさん。」
枕元にそれをそっと置き、伝説のハジケリストの額に軽く優しく唇を寄せた。
「おっと、授業授業。」
もう一度だけ伝説のハジケリストの頭をなでてから、保健室を後にした。
終わり