♪さよならまでの7日間♪
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放課後、月森くんの待つ音楽室へと向かった。
今日はいい天気だから、屋上とか外で練習するのかと思っていたら
『放課後、音楽室で待っている。』
といういつ見ても簡潔なメールが届いた。
いつも、急がなくていいと月森くんは言うけど、一分一秒でも一無駄にしたくないから
「お待たせ!」
「走って来たのか?」
「まさか。」
「前髪が、真ん中だけ逆立っている。」
「!!」
「小動物みたいだな。」
ふっと笑って、あたしの前髪を、撫でるように直してくれた。
「月森くんは…鳥っぽいよね。鷹とかそこらへんの。」
「鷹か…初めて言われた。」
「あ、ごめん、ちょっと良くいい過ぎた。やっぱりキタキツネ。」
「そうか。」
ケースからヴァイオリンを取り出すと、弦の調整を始めた。月森くんには何度もやり方を教わったので、あたしも随分と手慣れてきたと思う。
弓を取り出した時、
「動物の話をしていて思い出したんだが」
作業をしながら、月森くんは続けた。
「前に君が観たいと言っていた豚の映画…」
「えっとなんだっけ…あ、豚のいた教室?」
「あぁ。結局、観に行けなかったな。」
「そうだね。」
「もし、今他に観たい作品があったら…」
言いかけて、月森くんは気まずそうに下を向いた。それからすぐ顔を上げ、
「なんでもない。練習を始めようか。」
どんな些細なことであっても、果たせるかどうか分からない約束を、月森くんはしない。
それは月森くんの優しさであり、誠実さでもある。
分かっているからこそ、今少しだけ、胸が痛んだ。
でも今は、つらくなってる場合じゃない。
少しでも多く、一緒に笑い合いたいから
「つーかさ、それってあたしの顔見て思い出したでしょ。あたしの顔見て、豚って思ったんでしょ。」
「思ってない。君は時々悲観的すぎる時があるな。」
「そお?あ、月森くん、どうしても上手く弾けないところがあるんだけど…」
「どの辺りが?」
「ここ、いっつも引っかかっちゃうの。」
「あぁ、ここはもう少し弓を寝かせて…」
いつもみたいに、何でもないように
「あ!月森くん今あたしのおしり触った!」
「す、すまない。自分では触ったつもりはなかったんだが…」
「うん、だって触ってないもん。触ったか触ってないかくらい、自分で分かるでしょうに。」
「……。」
「あ、怒った?」
「いや。」
「ごめんごめん、触っていいから許して?」
「なっ…!!君は何を言っているんだ。」
「えー、じゃああたしが月森くんのおしり触ればいい?」
「…いい加減にしてくれ。」
この手の話が、男としてどうかと思うほどに苦手な月森くんは、顔を真っ赤にしてまいっていた。
そんな、楽しい時間はあっという間に過ぎ、下校のチャイムが流れた。
音楽室を出てみると
「わー!雨降ってるし!」
さきまでの天気が嘘だったかのように、空は曇り、雨がしとしと降っている。
「天気予報を見なかったのか?だから音楽室を選んだんだが…ところで君は、何をしているんだ。」
雨が降るだなんて聞いてなかったので、もちろん傘がない。ということは、もうこれでしのぐしかないと、マフラーを広げて頭からかぶり、首に巻いた。
左右の長さの調節がうまくいかず、長くなった片方だけが首に巻かれた状態になってしまった。けど直すの面倒なので、そのままでいいやって思いながら
「何って、雨対策だけど。」
そんなあたしをじっと見つめ、何を言うかと思えば
「今日、地理の授業で、そういう格好をした女性の資料を見たんだが…」
「は?」
「あれは確か…インドだったな。」
だから、なんだというのだろう。
「思い出せてよかったね。」
「それより、傘を持ってきていないのか?」
「うん。」
「だったら…その…君がよければだが、入って行くか?」
「え、月森くん今朝傘なんて持ってなかったじゃん。」
「折りたたみのものを鞄に入れてある。」
「さすが!じゃあ、お言葉に甘えて入れてもらいます。」
一本の傘に二人で入ると、いつもの帰り道よりも、距離がぐっと縮まる。
「ところで、いつまでその格好を?」
「あ!取るの忘れてた。」
「一度止まろう。」
マフラーを外し、首に巻き直し、気を取り直して歩き始めた。
「まだ少し冷えるな。」
「そうだね、風邪引かないようにしないとね。」
「折りたたみだから、あまり大きくない。濡れないように、もっと側に寄ってくれ。」
「うん。」
空いてる方の手で、月森くんのブレザーの後ろを掴むと、月森くんはあたしを見て優しく笑った。
傘の下は、まるで違う世界みたいで
この雨が、ずっと止まなければいいって
そう思った
3日目の帰り道。
残り4日