♪さよならまでの7日間♪
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月森くんとあたしは、昼食を摂るためカフェテリアに来ていた。
いつもだったら屋上だったり広場だったり、静かなところで食べるんだけど、もうきっと、学院のカフェテリアで昼食を摂るなんてないだろうから、月森くんはここを選んだ。
「月森くん何にするの?」
「これといって食べたいものが思い浮かばないな。」
「じゃああたしと同じのにしたら?」
「それもいいかもしれない。で、君は何を?」
「カツ丼。」
「………。」
「何、嫌なの?」
「いや、何回かここへは来ているが、カツ丼を食べている女子を見たことがなかったから、少し驚いた。」
「女子がカツ丼食って何が悪い。」
「悪いとは言っていない。むしろ、君らしくていいと思う。」
あたしらしさ=カツ丼
月森くんの中でどうしてそうなってしまっているのか。
甘く微笑む月森くんを素直に喜べず、カツ丼を購入して空いている席に座った。
「いただきます。」
「いただきます。」
蓋を開けると、カツ丼のいい匂いがして、自然と笑顔がこぼれた。月森くんを見ると、
「わ、似合わない!」
「は?」
「月森くんとカツ丼似合わなすぎる!」
どう見てもがっつりモリモリ系の食事が似合わない月森くん。そんな彼が男らしい料理を食べるところが見てみたいっていうのもあって、カツ丼を選んだ。
思ったよりも面白い光景に、ついケータイに手が伸びて
『カシャッ』
「今、携帯のカメラで何を撮ったんだ。」
「カツ丼。」
「明らかにレンズがこちらを向いていた。」
「カツ丼しか撮ってないもん。」
「……。」
ケータイをしまい、お箸を持ち直して食べ始めた。
「美味しいね。」
「あぁ。」
月森くんは、食べ方がものすごく綺麗というか、上品だ。カツ丼といえば、ばくばくと口に入れ、最終的には丼を持って米をかっ込む、という食べ方が主流だと思ってたけど
「月森くんって、カツ丼食が相手でもそうなんだね。」
「どういう意味だ。」
「上品だって、褒めてるの。」
「心なしか残念そうに見えるんだが。」
この人絶対立ちションとかしないんだろうな、なんて思って見てると
「伝説のハジケリスト、口の横についてるぞ。」
「ここ?」
「違う。」
備え付けの紙ナフキンで、あたしの口の横を拭ってくれた。
「君は口が小さいのだから、少しずつ食べたらどうだろうか。」
「だって、カツ丼だよ?」
「意味が分からない。」
「丼物って、豪快に食べたいじゃん。」
「そういうものなのか?」
「うん。月森くんもやってみなよ。」
「俺には、そっちの食べ方の方が難しい。」
「そうかな。」
生粋のおぼっちゃまめ。男らしさのおの字も見当たらない。何でこんな、自分のタイプとは真逆な人を好きになってしまったんだろう。不思議でしょうがないんだけど
「あぁ。けど、君がそうやって、美味しそうに食べてる姿は…その…」
「何?」
「見ていて好ましい。」
そんなものなのかなって、思う。
食事も終わって食器を片付け、お茶を飲みながらゆっくりしていた。お腹もいっぱいで、いい気持ちだ。
「今日、練習室を抑えておいたから、そこで練習しないか?」
「二部屋とったの?」
「いや、一部屋だが…君がよければ、一緒に使おうと思って。」
「月森くんこそいいの?」
「あぁ。俺がそうしたいと思ったから。無理にとは言わないから、考えておいてくれないか。」
「考えるも何も、もちろんいいよ。」
「そうか、よかった。」
「あ、いいこと思い付いた。」
「?」
「ねぇ、腕相撲しようよ。」
「…それのどこがいいことなんだ?」
「勝った方が、好きな曲をリクエストできる、っていうのはどう?」
「勝負なんてしなくても、俺は別に…」
「クラシックとは限らないよ?あたしあれ聴きたいんだよねー、ゲゲゲの鬼太郎。」
「は?」
「月森くんも知ってるよね?」
「知ってはいるが、弾いたことはない。」
「だったら罰ゲームになるでしょ?」
「君の考える良いことは、大抵の場合良いことではないな。」
「やるの?やらないの?」
「やってもいいが、君は女で俺は男だ。いくらなんでも、力に差があるのでは…」
「……大丈夫でしょ。」
「今、失礼なことを考えただろう。」
「ううん、別に!」
「…では、俺が勝ったら、今俺が練習している曲をリクエストする。」
「えー!あんな超難しいの弾けるわけないじゃん!」
月森くんが今弾いてるのは、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ『クロイチェル』。
「第2楽章だけでいいから。」
「いいからって…」
キラキラしていて綺麗な曲なんだけど、聴いてるだけでもその難易度の高さは分かる。
「君に合ってると思う。」
「え~…」
「そんなに弾きたくないのなら、俺に勝てばいいことだろう。君は自信があるんだろう?」
なにげに根に持つタイプというか、負けず嫌いな月森くん。
知り合った頃だったら、絶対こんなことやってくれなかった。何故俺がそんなことをしなければならないんだ、って、どこかへ行っちゃってた。
でも今は、雰囲気も丸くて、柔らかい。
相手があたしだから?それとも、
残された時間がわずかだから?
…考えないようにしよう。
「伝説のハジケリスト」
「え?」
「どうかしたのか?」
「ううん!何でもない!よし、やろう!」
お茶をよけ、テーブルに肘をついて右手を握り合った。
「では。レディー…ゴー!」
「……!」
「………」
月森くんの腕力を、本当に甘く見ていた。
「想像以上に凄い力だな。」
月森くんの腕もプルプル震えてはいるが、なかなか倒れてくれない。
「あまり腕に負担をかけるのは良くないな。」
そう言うと、先程よりも力が強くなり、あたしの腕を倒しに掛かってきた。
けど、あたしもどちらかというと負けず嫌いだから
「っ…!!」
手首を返して、月森くんに抵抗したんだけど
「俺の勝ちだ。」
あっさり負けてしまった。
「意外と力あったんだね。」
「一応鍛えているから。君こそ、何故そんなに力が強いんだ?」
「酷い!人を怪力みたいに!」
「怪力とまでは言っていないが、女子にしては腕力がある方なのでは?」
「うん、それは認める。」
「では、この楽譜を君に預けておく。」
「はぁ~…無理だよこんなの…」
「言い出したのは君だろう?目を通しておくといい。」
今さっと見ただけでも、ちんぷんかんぷんだというのに。月森蓮演奏、ゲゲゲの鬼太郎も聴きたかったのに。
でも、月森くんが、楽しそうにしてるから
まぁいいか。
放課後になり、約束通りの罰ゲーム兼、月森くんの厳しいレッスンが実行された。
そして、結局弾いてくれたゲゲゲの鬼太郎。
練習室内に、二人のメロディーと
二人の笑顔が溢れた
2日目の放課後。
残り5日