♪さよならまでの7日間♪
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朝家を出ると、いつものように月森くんが待ちかまえていた。
「おはよう。」
「おはよう。眠そうだな。」
「眠いもん。」
「夜更かしでもしたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、冬って眠いじゃん。」
そんなあたしに対し
「冬眠が必要な動物みたいだな。」
と、彼流のジョーク(かどうかは分からないけどとにかく絡みづらい)を投げかけてきた。
そんなやりとりをしながら、二人で歩いて登校をする。これが日課。
けど、今日はいつもと違うことがしたくて
「…ちょっと待ってて!」
「忘れものか?」
「うん、すぐ戻る。」
自転車を運び出してみた。
「なぜ自転車を?」
「乗って行こうよ。」
「は…?」
「だから、二人乗り!」
月森くんは腕を組んで、難しい顔をしながら自転車を見つめている。
「で、どちらが運転を?」
「もちろんあたしだけど。」
「こういう時は普通、男が運転するものなのだろう?」
「でも、月森くん自転車乗れるの?」
どう見ても自転車に乗れない、または乗ったことがない、最悪の場合触ったことすらなさそうだ。
しばしの沈黙の後
「ようは足でペダルをこげばいいんだろう?…預かっていてくれ。」
あたしにヴァイオリンケースを渡すと、自転車に跨った。
「大丈夫?」
「あぁ。」
そして、ゆっくりとペダルを踏み、さぐりさぐりというか、まぁびびった様子で進み始めた。
月森くんのこぐ自転車は、ハンドルがガタガタと不安定に揺れ、ゆっくりゆっくりフラフラ進んでいった。
その表情は真剣そのもの、まさに命がけ、といった感じだ。
「月森くーん!スピード出さなきゃ余計危ないよー!」
2M弱くらいのところで止まったので、月森くんに駆け寄って
「やっぱりあたしがこぐから。」
納得いってないような感じの月森くんを、自転車から降ろした。
「やっぱり、やめた方がいいと思う。二人乗りは危険だし、ヴァイオリンもある。何より、君に怪我をさせたくない。」
「大丈夫だって。二人乗り慣れてるし。」
「しかし…」
気持ちは嬉しいけど、心配性過ぎもどうかと思う。もういいから乗れよ、と言いそうになるのをぐっと堪え
「そうだよね…月森くんが怪我でもしたら、それこそ大変だよね。」
わざとらしく、しゅんとしながら続けた
「安全運転には自信あるし、月森くんと二人乗りしてみたかったけど、危ないもんね。」
「伝説のハジケリスト…」
あとひと息!と思ったら
「いや、俺のことよりも君だ。だが、危険だということを分かってくれればそれでいい。」
作戦ミスもいいとこだった。こうなったら、引いてダメなら押すしかない、ていうかちょっとイライラしてきた。
「あぁもう!いいから乗ろうよ!確実に安全運転するから!今日だけだし!あたしのこと信じて命預けて!」
「さっきと言ってることが…」
「やだ!二人乗りじゃないとやだ!今日は二人乗りで登下校するの!」
だだっ子のように叫ぶと、さすがの月森くんも、
「…分かった。今日だけなら。」
ため息混じりにようやく折れてくれた。
「やったー!さ、乗って乗って!」
ヴァイオリンケースをどうにか籠に乗せ、カバンを月森くんに持ってもらい、自転車に跨った。
「疲れたら言ってくれ。すぐに降りるから。」
「ありがとう、けど多分あたしの方が体力あるから。つーか遅刻しちゃうから早く乗って。」
「そうだな、すまない。」
体力に関しての謝罪なのか、遅刻する可能性についての謝罪なのかが気になったけれど、月森くんが後ろに乗った重みを感じたのが嬉しくて、一瞬でどうでもよくなった。
「じゃあ行こっか。出発進行!」
テンションも上がってきたところでペダルに足を置いた時、
「ちょっと待ってくれないか。」
「何?」
「その…どこにつかまればいいだろうか。」
自分の肩越しには、困ったように照れてる月森くんの顔が見えて
「じゃあ、腰にでも。」
あたしも少し照れてしまった。
「分かった。」
腰のあたりに、月森くんの意外と大きい手が当てられ、そこだけあったかく感じた。
「ところで、自転車通学の際、ヘルメットを着用するという規則があっただろう。このままでは良くないのではないだろうか。」
「確かにあったね、そんな規則。でも誰も守ってないからいいよ。」
「そうなのか?自転車で通学している生徒自体少ないから、気付かなかった。自分達もこうして規則を破っておいてなんだが、守られていない規則など、存在する意味はあるのだろうか。」
小さいことをぶちぶちと言い始めたが、無視して今度こそ自転車をこぎ始めた
が、しかし
『ガラガラガラガラ』
「ちょっ、何?!あっ!」
地面に片足をつき、音がする方へ目を向けると、月森くんに預けたあたしのカバンの角が、後ろの車輪に当たってこすれていた。
腕にぶら下げているせいで、付けてたキーホルダーが車輪にからまっていたのだとわかった。
「ちょっと!カバン肩に背負ってよ!」
「すまない。」
「つーか足置こうよ!」
月森くんは足を微かに浮かせ、見てるこちらが足つりそうな状態になっていた。
「どこへ足を置けばいいのか分からないんだが…」
「もうホントお前めんどくせぇな!足置けるところあるだろうが!ほらそこ!」
車輪の横にある骨組みを指さすと
「君は女子だろう。お前、という言い方は…その…良くないと思う。」
「え、それ今言うこと?!てゆーかあたしのキーホルダーの塗装剥げちゃってんだけど!」
「すまない。」
「もういいや、はい、足乗っけて。」
「ここか。」
「そうそこ。もう行ってもいいかな。」
「あぁ。」
ゴタゴタしつつも、そんなやり取りが楽しくて
「怒っているのか?」
「うん、怒ってる。」
「では何故、そんなに楽しそうなんだ?」
「だって楽しいもん。」
「……君には振り回されてばかりだな。けど…」
小さい声で、悪くない、って言った月森くんも、楽しそうだった。
「今日、香水か何か付けているのか?」
「ううん。なんで?」
「いや…なんでもない。」
やっぱり月森くんの方が上手だな、なんて
「伝説のハジケリスト。」
「んー?」
「温かいな。」
背中に月森くんの存在を感じながら、改めて実感した
1日目の朝。
残り6日
「おはよう。」
「おはよう。眠そうだな。」
「眠いもん。」
「夜更かしでもしたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、冬って眠いじゃん。」
そんなあたしに対し
「冬眠が必要な動物みたいだな。」
と、彼流のジョーク(かどうかは分からないけどとにかく絡みづらい)を投げかけてきた。
そんなやりとりをしながら、二人で歩いて登校をする。これが日課。
けど、今日はいつもと違うことがしたくて
「…ちょっと待ってて!」
「忘れものか?」
「うん、すぐ戻る。」
自転車を運び出してみた。
「なぜ自転車を?」
「乗って行こうよ。」
「は…?」
「だから、二人乗り!」
月森くんは腕を組んで、難しい顔をしながら自転車を見つめている。
「で、どちらが運転を?」
「もちろんあたしだけど。」
「こういう時は普通、男が運転するものなのだろう?」
「でも、月森くん自転車乗れるの?」
どう見ても自転車に乗れない、または乗ったことがない、最悪の場合触ったことすらなさそうだ。
しばしの沈黙の後
「ようは足でペダルをこげばいいんだろう?…預かっていてくれ。」
あたしにヴァイオリンケースを渡すと、自転車に跨った。
「大丈夫?」
「あぁ。」
そして、ゆっくりとペダルを踏み、さぐりさぐりというか、まぁびびった様子で進み始めた。
月森くんのこぐ自転車は、ハンドルがガタガタと不安定に揺れ、ゆっくりゆっくりフラフラ進んでいった。
その表情は真剣そのもの、まさに命がけ、といった感じだ。
「月森くーん!スピード出さなきゃ余計危ないよー!」
2M弱くらいのところで止まったので、月森くんに駆け寄って
「やっぱりあたしがこぐから。」
納得いってないような感じの月森くんを、自転車から降ろした。
「やっぱり、やめた方がいいと思う。二人乗りは危険だし、ヴァイオリンもある。何より、君に怪我をさせたくない。」
「大丈夫だって。二人乗り慣れてるし。」
「しかし…」
気持ちは嬉しいけど、心配性過ぎもどうかと思う。もういいから乗れよ、と言いそうになるのをぐっと堪え
「そうだよね…月森くんが怪我でもしたら、それこそ大変だよね。」
わざとらしく、しゅんとしながら続けた
「安全運転には自信あるし、月森くんと二人乗りしてみたかったけど、危ないもんね。」
「伝説のハジケリスト…」
あとひと息!と思ったら
「いや、俺のことよりも君だ。だが、危険だということを分かってくれればそれでいい。」
作戦ミスもいいとこだった。こうなったら、引いてダメなら押すしかない、ていうかちょっとイライラしてきた。
「あぁもう!いいから乗ろうよ!確実に安全運転するから!今日だけだし!あたしのこと信じて命預けて!」
「さっきと言ってることが…」
「やだ!二人乗りじゃないとやだ!今日は二人乗りで登下校するの!」
だだっ子のように叫ぶと、さすがの月森くんも、
「…分かった。今日だけなら。」
ため息混じりにようやく折れてくれた。
「やったー!さ、乗って乗って!」
ヴァイオリンケースをどうにか籠に乗せ、カバンを月森くんに持ってもらい、自転車に跨った。
「疲れたら言ってくれ。すぐに降りるから。」
「ありがとう、けど多分あたしの方が体力あるから。つーか遅刻しちゃうから早く乗って。」
「そうだな、すまない。」
体力に関しての謝罪なのか、遅刻する可能性についての謝罪なのかが気になったけれど、月森くんが後ろに乗った重みを感じたのが嬉しくて、一瞬でどうでもよくなった。
「じゃあ行こっか。出発進行!」
テンションも上がってきたところでペダルに足を置いた時、
「ちょっと待ってくれないか。」
「何?」
「その…どこにつかまればいいだろうか。」
自分の肩越しには、困ったように照れてる月森くんの顔が見えて
「じゃあ、腰にでも。」
あたしも少し照れてしまった。
「分かった。」
腰のあたりに、月森くんの意外と大きい手が当てられ、そこだけあったかく感じた。
「ところで、自転車通学の際、ヘルメットを着用するという規則があっただろう。このままでは良くないのではないだろうか。」
「確かにあったね、そんな規則。でも誰も守ってないからいいよ。」
「そうなのか?自転車で通学している生徒自体少ないから、気付かなかった。自分達もこうして規則を破っておいてなんだが、守られていない規則など、存在する意味はあるのだろうか。」
小さいことをぶちぶちと言い始めたが、無視して今度こそ自転車をこぎ始めた
が、しかし
『ガラガラガラガラ』
「ちょっ、何?!あっ!」
地面に片足をつき、音がする方へ目を向けると、月森くんに預けたあたしのカバンの角が、後ろの車輪に当たってこすれていた。
腕にぶら下げているせいで、付けてたキーホルダーが車輪にからまっていたのだとわかった。
「ちょっと!カバン肩に背負ってよ!」
「すまない。」
「つーか足置こうよ!」
月森くんは足を微かに浮かせ、見てるこちらが足つりそうな状態になっていた。
「どこへ足を置けばいいのか分からないんだが…」
「もうホントお前めんどくせぇな!足置けるところあるだろうが!ほらそこ!」
車輪の横にある骨組みを指さすと
「君は女子だろう。お前、という言い方は…その…良くないと思う。」
「え、それ今言うこと?!てゆーかあたしのキーホルダーの塗装剥げちゃってんだけど!」
「すまない。」
「もういいや、はい、足乗っけて。」
「ここか。」
「そうそこ。もう行ってもいいかな。」
「あぁ。」
ゴタゴタしつつも、そんなやり取りが楽しくて
「怒っているのか?」
「うん、怒ってる。」
「では何故、そんなに楽しそうなんだ?」
「だって楽しいもん。」
「……君には振り回されてばかりだな。けど…」
小さい声で、悪くない、って言った月森くんも、楽しそうだった。
「今日、香水か何か付けているのか?」
「ううん。なんで?」
「いや…なんでもない。」
やっぱり月森くんの方が上手だな、なんて
「伝説のハジケリスト。」
「んー?」
「温かいな。」
背中に月森くんの存在を感じながら、改めて実感した
1日目の朝。
残り6日