♪季節の行事♪
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「月森くん!トリックオアトリート!」
「は…?」
広場で練習をしていた俺を見付け、一目散に駆け寄って来た彼女の第一声がそれだった。
少女のように無邪気に笑い、両手を差し出している。
あぁ、今日はハロウィンか。
「すまない、何も持っていないんだ。」
「えー…じゃあしょうがないか。月森くん、また後でね!」
「あ、あぁ…」
去り際に不意に背中を叩かれ、少し驚いた。
元気に走って行く彼女の後ろ姿を見ながら、何かお菓子を持っていればと、少し残念な気持ちになった。
♪~♪~♪~♪~♪
しばらく練習し、ヴァイオリンを下ろした時だった。
「やぁ、練習お疲れ様。」
声のする方へ振り向くと、柚木先輩がいた。
「柚木先輩も練習ですか?」
「うん、練習していたんだけれど、どうもうまくいかなくてね。気分転換に少し散歩をしようと思って。」
「そうですか。」
「あ、そういえば、さっき伝説のハジケリストさんに会ったよ。」
「伝説のハジケリストに?」
「今日はハロウィンだから、みんなにお菓子を貰ってあるいているみたいだよ。子どもみたいで可愛いよね。」
やはり、何か持ってくればよかったと思う。しかし、普段お菓子など持ち歩く習慣がないし、ハロウィンという行事にもとりわけて興味がない。
でも、伝説のハジケリストの喜ぶ顔は見たいと思う。
「柚木先輩は何かあげたんですか?」
「うん。丁度飴を持っていたからね。それに、お菓子をあげなきゃ悪戯されてしまうからね。月森君のところへは来たのかい?」
「えぇ、だいぶ前ですけど。」
「君は何かあげたの?」
「いえ、何も。」
「あぁ、だから…」
そう言って、柚木先輩が俺の背中に手を回した。
「君にしたら、随分と安いなって思ったんだ。」
「は?」
「ほら、悪戯されちゃったみたいだね。」
柚木先輩の手には、『\298-』と書かれた小さなシールがあった。
これは明らかに値段だろう。伝説のハジケリストにとって、俺はこの程度の値打ちしかないと、そういう意味なのだろうか…
「ほら、そんな顔しないで。きっとただの悪戯だから、特に他意はないと思うよ?……月森君?」
俺の演奏が\298-なのか、それとも人として\298円-なのか…
音楽以外のことで、こんなに胸を痛めるなんて。
もしかして、昨日家庭科の授業で伝説のハジケリストが作ったという、小さな猫の人形を豚を間違えてしまったことを、まだ怒っているのかもしれない。
だからハロウィンを建前にして、こんな悪戯をしたんだろう。
「用事を思い出したので、失礼します。」
「そう、では気を付けてね。」
昨日散々謝ったが、改めて伝説のハジケリストに謝ろう。カフェテリアもまだ開いているし、甘い物を買ってから伝説のハジケリストを探そう。
プリンが好きだと言っていたから、プリンをあげたら喜んでくれるだろうか。
好きな物を食べながら、伝説のハジケリストの好きな曲も一曲プレゼントしよう。そう思ってカフェテリアへ行くと
『ミルクプリン…\298-』
冷たい秋風が、俺の横を通り過ぎて行った。
終わり