♪お題♪
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昼休み、本を読みながら広場で彼女を待っていた。
他人を待つことなど、時間の無駄だと今まで思っていた。しかし、特別な人なら話は別だと彼女に教わった。
こうして誰かを待つことが、こんなにも楽しいと思えるなんて。
少し冷たい風も、枯れ葉の舞う音も、なにもかもが心地良い。
彼女に特別な感情を抱き、想いが通じ合ってから約4ヶ月が経つ。たった4ヶ月かもしれないが、俺達が共有してきた時間と内容はそれ以上に深いものだった。
きっとこの先も、俺が彼女を信じているということ、どんな時でも彼女を、伝説のハジケリストを想っているということは何があっても変わらないだろう。
そう考えているのは俺だけだろうか。彼女も俺に対して、同じ想いを持っていたら嬉しいのだが…。
「月森くん!」
そんなことを考えていたら、伝説のハジケリストが駆け足でやってきた。
「ごめん、待った?」
「いや、俺も今来たところだ。」
購買が混んでて、と言いながら俺の横に腰掛けた。
「いただきまーす。」
伝説のハジケリストは頻繁に購買を利用するようで、昼食はいつも戦争だと言っている。
「うん、美味い。やっぱコロッケパン最高。」
伝説のハジケリストは音楽科の女子にはない活発さがあり、最初は戸惑うこともあった。言葉遣いも丁寧な方ではないし、美人でもなければ頭も良い方ではない。
それでも俺は、彼女の奏でる音が好きで。
その音を奏でる彼女を愛しいと思う。
いつのことだっただろうか。土浦が伝説のハジケリストに対し、「お前ホントに女子かよ」と言っていた。それを隣で聞いていたのだが、フォローの言葉が出てこなかった。
それでも俺はそんな伝説のハジケリストを、いや、むしろそんな伝説のハジケリストが好きなんだ。
「口の横にころもが付いている。」
ハンカチで伝説のハジケリストの口の横を拭うと、
「ありがと…」
照れながら少しだけ笑った。
彼女の全てが愛しい。
だが、一つだけ気になっていることがある。
「伝説のハジケリスト。」
「なに?」
「その…」
「なに?」
「……いや、何でもない。」
「??」
音楽科校舎では、いや、生まれてから一度も目にしたことのないもの。常識では考えられないもの。
彼女がそうする理由は見当がつく。おそらく寒いからだろう。致し方ないことだと頭では理解しているつもりだ。
「ごちそうさま。さて、食後に一曲弾いてもいい?」
「あぁ。」
立ち上がり、ヴァイオリンを構える伝説のハジケリストの姿はとても綺麗だ。ただ、
"君は何故、最近スカートの下にジャージを履いているんだ"
気になっているのに、この一言が言えない。明らかにおかしい格好だなんて、とても言えない。
それに、もしかしたら普通科の女子の間で流行している格好なのかもしれない。その場合、理解の無い男だと彼女に思われるだろう。
それは避けたい。
彼女の短所も長所も全てを愛しく思う。この気持ちに変わりはない。音楽も彼女自身も自由であり、そういうところに惹かれたのだから。
この奇抜な格好も、やがて見慣れていくだろう。
もう一度、彼女の下半身に目を向ける。
スカートの下にジャージ。
「月森くん、どうしたの?そんな難しい顔して。あたしの演奏やばかった?」
「いや、すまない。そうではないんだ。」
どうも見ていられなくなり、不自然に目を逸らしてしまった。伝説のハジケリストを不安な気持ちにさせてしまったようだが、こればかりはどうにもならないことに気付く。
彼女への想いが足りないのだろうか。いや、そんなことはない。
こんな小さなことでこんなにも悩むなんて俺らしくないかもしれない。いや、小さなことだからこそ胸を離れないんだ。
そんな葛藤をしているうちに、また伝説のハジケリストと過ごす貴重な昼休みが終わってしまった。
それじゃあまた、と手を振る君の姿を見送って、切ないようなもどかしいような、何とも例えがたい感情を残して校舎へと向かった。
『まだ認められない』
[後書き]
お年寄りが若者のファッションを理解できないように、月森という名の天然記念物は一般女子文化を理解できなさそうです。なんでそんなヘンな格好してるのか聞きたい、けど彼女をき傷付けたくないと、妙なところでフェミニストな月森でいて欲しい。音楽に関しては傷付けるどころか木っ端微塵にする勢いですが、どうでもいいところで引っ込んで勝手に悩みまくってる月森でいて欲しい。
寒い日や女の子の日はスカートの下にジャージ、最高ですよね。一度履いたら脱ぐのが嫌でした。まぁそれも遠い昔の話ですが。
ここまでお付き合い下さりありがとうございました!