♪愛しき日々♪
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月森くんとポニョを見た。
その帰り道
「ポニョかわいかったねー!」
「あぁ、久石譲の音楽も、あの世界観も良かったと思う。」
「なんかさ、ああいう気持ち忘れちゃダメだなって思うよね。」
相変わらずかみ合わない会話をし、(それでも成り立っている)あたしは感動の涙を拭いながら、とても幸せな気分に浸っていた。
月森くんもすごく優しい顔をしていて
「あの歌が、頭から離れないな。」
「うん、ついうっかり口ずさみそうだよね。」
「すでにさっき口ずさんでいた。」
「え、うそ。月森君が?」
「いや、君がだ。」
そんな他愛ない会話をしながら駅へ向かう。
「でもさー、あんな金魚いたらかわいくない?ポニョ、れん、好き!とか言ってさ。」
「………もし伝説のハジケリストが…いや、なんでもない。」
「何?」
「いや、いい。」
「ちょっと、すごい気になるんだけど。つーか月森くんそれ多いよね。せっかく言いかけたんなら言いなよ。」
そう言うと、月森くんはしばらく黙って
「もし君が」
あたしを一回見て、また視線を前に戻して続けた。
「あの金魚の立場で、俺がそれを拾ったらどうなるのだろうかと、ふと思い付いただけだ。」
意外にファンシーなこと考えるんだなーと驚きつつ
「ちょっ、待ってよ。あれはポニョだからかわいいのであって、あたしの姿だったらかなり気持ち悪いんだけど。いくら子どもの時とはいえ。」
素直な感想を言った。そんなあたしに
「そういうことを言いたいんじゃない。」
「じゃあ何?」
「あれは人魚姫が元になっているんだろう?第一俺達は子どもではないから、あの姿にはなれない。」
どう切り返したらいいか分からない、彼独自の世界観を披露してきた。
「じゃあ今の状態のままで、あたしは人面魚ってこと?」
「そうじゃない。」
「意味分かんない。」
「俺が言える立場ではないが、君も鈍いな。」
「何それ!」
そうこうしているうちに駅に着き、改札を抜けてホームまで来た。ホームの表示を見ると、次に来るのは急行だったので、まだ時間に余裕がある。
ベンチに腰掛け、電車を待っている間もポニョの話は続いた。
「いやぁ、本当に感動したよね。リサもよかったし、おばあちゃん達もよかったよ。リアリティ溢れてるよね。」
「あぁ。」
「でもやっぱりポニョかわいいに尽きるね。ポニョ、そーすけ、好き!ポニョ、そーすけんとこ、来た!ってね。」
「こどもの頃、俺はあんなふうに自分の気持ちを素直に言えなかった。」
「へぇ。」
その時、急行通過のアナウンスが流れ
「君はぶた…」
月森くんがそこまで言った時、物凄い音を立てて電車がホームに入ってきた。
口は動いているけど、何を言っているか全く聞き取れない。
ようやく通過した頃
「…みたいだと、そう思う。」
そう聞こえた。
君はブタみたいだと思う?
何で?
子どもの頃は素直になれなかったから、今素直になっちゃったのだろうか。
電車が通ってる間、何かを言っていたのは分かるけど、あたしにはその部分しか聞こえなかったわけで。
「ごめん、今何言ったのか全然聞こえなかった。もう一回言って?」
すると、月森くんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「ねぇってば。」
「もうじき電車が来る。そろそろ並んだ方がいい。」
はぐらかされてしまった。
『君は、舞台に立って音楽を奏でている時、あの子たちのように素直で真っ直ぐな音を出している。きっと、君自身がそうだからなんだろうな。あの映画は、君そのものみたいだと、そう思う。』
そんなことを言ってもらったなんて知らずに、
「月森くんはいつも正直だと思うよ。」
「俺が…?」
「うん、ハッキリものを言うし。」
「それは…そうかもしれないな。だが、肝心なことは、そう簡単に言えない。」
「例えば?」
さっきは人のことをブタと言っておきながら、まだ何か言い足りないというのだろうか。
そんな思いで月森くんを見つめる。
「それは…」
電車が来たので、それに乗った。その際、あたしを先に車内に入れ、自分は後からあたしを守るようにして入った。
こういうところに、ドキッとさせられる。
「物語の最後に、男の子が魚の子の母親に答えたセリフを覚えているか?」
「えーっと……あ。」
それからあたしは、何も言えなくなってしまった。もうこれは、ドキッとさせられるどころの騒ぎではない。
さっきブタと言われてたとしても、もうそんなことはどうでもいい。
電車の揺れる音と、自分の心臓の音
そして
『まっかっかーのー』
『ポーニョポーニョポニョ魚の子♪』
エンディング曲が、頭の中、体中を巡っていた。
おしまい。