立海生活その②
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蒸し暑く、雨の降る午後、テスト期間中の身であるレギュラーの面々は、部室に集まり勉強をしていた。
学校自体は午前中で終わり、午後は各自勉強の時間に割り当てろ、ということなのだが、例えテストにおいても負けてはならないのが王者立海大。それぞれの得意分野を、苦手とする者に教えていた。
だが、この蒸し暑さで集中力が続くはずもなく、早くもだらけてきていた。運動ならまだしも、勉強である。
普段は耐え、進んで勉学に励む幸村でさえ、若干不機嫌な様子だった。
その原因は、湿気、である。
クセのある幸村の髪の毛は、うねりが収まらずにいる。ブン太も通常時に比べてもりもりしているし、赤也もいつもより増えてしまっている。
年頃の男子としては、テンションの落ちる出来事だ。
それに加えてこの部室内のむさ苦しさときたら、暑苦しさも2倍である。
そんな中、柳生に勉強を教わっていた、紅一点である伝説のハジケリストがふとこんなことを言った。
「ねぇ、今日って七夕だよね。」
それに答えたのは
「そうですね。しかしこの天気だと、今年の彼等の逢瀬は残念ながら叶わないのでしょうね。」
伝説のハジケリストを教えていた柳生だった。伝説のハジケリストは書く手を止め、机に頬杖をついた。
「それって超かわいそうじゃない?一年に一度しか会えなくて、そんで他人の願いを叶えてやってんのにさ。雨が降ったら会えないとか、どこまで条件厳しいの、あの二人。」
他の面々も、突然何を言い出すんだろうと思いつつ、伝説のハジケリストの話を聞いていた。
「次に会うの来年でしょ?今日まで365日我慢して、今年ダメで、来年まで会えないってことは…」
「730日、会えないということになるな。」
蓮二が素早く答えをだした。
「俺だったら耐えらんないっスね。好きだったら毎日会いたいし。」
「俺は毎日じゃなくてもいいけど、一年とか、ヘタしたらもっとだろぃ?それはいくらなんでも、って話だよな。」
赤也にブン太、
「どっちも浮気しとったりしての。」
「おい、伝説のハジケリストの前でそういうこと言うなよ。」
仁王とジャッカルも話に入る。
「別に大丈夫だよ。もしあたしが織姫の立場だったら、確実に違う男見付けるもん。」
「こいう時、女の子の方が逞しかったりするよね。」
幸村も、書く手を止めて伝説のハジケリストを見た。
「でも、実際の二人はそうもいかねぇじゃん。」
「そうなんだよねー…なんか切ないね。」
伝説のハジケリストは大きくため息をつくと、勉強で疲れた目をこすり、
「ちょっとトイレ行ってくる。」
そう言って、目薬の入ったポーチを持って部室を出て行った。
伝説のハジケリストが出ていった後の部室では、すっかり勉強モードが解かれていた。
勉強が嫌いな者、元々する気のない者、成績に不自由していない者も、この蒸し暑さには気力を削がれていた。
部活をしていない日々も相俟って、このまま勉強を続ける気にはなれないのが本音だった。
たった一人を除いては。
「真田。」
幸村の呼びかけに、鉛筆を動かしながら返事をした。
「さっきの話、聞いてた?」
「フン、あんなことを話している間に、俺は問題を三問解いたぞ。」
くだらない、と言わんばかりの真田に対し、
「確かに今は試験期間中で、俺達は一つでも多く勉強をしなければならない。」
幸村は静かに言った。真田は、その通り、と腕を組んで頷く。
「でもね、勉強よりも大切なものってあるんだよ。」
優しく、諭すような眼差しが真田を捕らえる。
「ほう、それは一体何だと言うのだ。」
他の皆も、幸村に注目する。
「伝説のハジケリストが泣いていた。」
幸村の言葉を理解できない真田。話しは何となく耳に入ってはいたが、彼はずっと問題集と向き合っていたので、伝説のハジケリストの変化に気付いていなかった。しかし、そうでなくても理解できないだろう。なぜなら伝説のハジケリストは泣いてなどいない。
「今日は七夕なのに、織姫と彦星が会えないって。心を痛めて涙を流してた。」
後ろで赤也が、え?伝説のハジケリスト先輩泣いてたっけ??と思うも、こういう時は下手に発言しない方がいいことを知っているので、黙っていた。
「ねぇ、蓮二。」
急に話しを振られた柳は、至って冷静に
「少々目が赤かったな。それからトイレに行くと言って出て行ったが…」
柳生も後に続く。
「今頃、お独りで涙を拭っているのかもしれませんね。」
「………。」
「………。」
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは真田だった。
「お前達がなにを言わんとしているのかは分かった。」
伝説のハジケリストを元気づけようと、そういうことが言いたいのだと真田は察した。
「だが、天候ばかりは人間の力ではどうすることもできない。」
するとそこへ、待ってましたとばかりに瞳を輝かせた幸村の手が、真田の肩に置かれ
「確かに天気をどうこうするのは無理だ。けどね、例え厳しい条件でも、やってやれないことは無いんだよ。」
「どういうことだ。」
いぶかしげに幸村の顔を見る真田。幸村はというと、そうだなぁ、と少し考える素振りをした後
「真田が彦星になればいい。」
全員の驚いた