立海生活その①
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「あ!幸村君!またラケット降ってる!」
「ごめん。つい…」
「もぅ。気持ちは分かるけど、ほどほどにしなきゃだめよ?…なんて言ってみたりしてね(笑)」
そう言って笑う伝説のハジケリストさん。彼女はここの看護婦さんだ。
「みんなが頑張ってると思うと、いてもたってもいられないんだ。」
「幸村君も頑張ってるじゃない。」
俺がベンチに腰掛けると、伝説のハジケリストさんもその横に座った。
伝説のハジケリストさんは数少ない若い看護婦さんの一人で、人柄もよく明るいのでとても話しやすい。俺が心を開くのに、そう時間はかからなかった。
「幸村君も、ちゃんと闘ってる。」
「はは。それ、真田にも言われたよ。」
伝説のハジケリストさんには何でも言えてしまう。
伝説のハジケリストさんも俺に色々話してくれる。
「真田君て言えば、最初見た時あたしより年上に見えたよ。制服着てたからなんとか分かったものの。」
「ふふっ。真田老けてるからね。赤也が入部した時、
"あのおっさんやるっスね!コーチっスか?"って聞かれた時は腹がよじれたよ。」
「あはは!!何それー!おもしろすぎだよ!」
今となっては、伝説のハジケリストさんは俺にとってかけがえの無い人だ。なくてはならない存在かもしれない。
「風が冷たくなってきたから中入ろっか。」
「うん。」
車椅子に乗ると、伝説のハジケリストさんは膝かけをかけてくれた。
「出発進行!」
「ふふ。安全運転でお願いします。」
病室までの道程で、伝説のハジケリストさんは『今日の主任』の話をしていた。今日はおやつのバナナを取られたそうだ。
「到着~☆また何かあったらナースコール押してね!絶対あたしが出るから!」
「ありがとう。」
伝説のハジケリストさんが慌ただしく病室から出て行くのを見送ると、俺はベットに寝転び、無機質な天井を見つめた。
さっき別れた伝説のハジケリストさんの顔が浮かんできた。
思えば彼女は本当に面白い。
一番最初に主任の看護婦さんと採血に来た時の事だ。
『新人ですけど大丈夫ですよ。ホント。絶対痛くない…ハズ。』
彼女はだいぶ無理のある笑顔で俺に伝えた。
『ちょっと伝説のハジケリストさん!患者さんを不安にさせるような事言っちゃだめじゃない!』
『Σすみません!えーと…痛いのは最初だけで、慣れればE気持ちに…』
『伝説のハジケリストさん!!』
結局、伝説のハジケリストさんの教育係である主任の看護婦さんが俺の採血をした。
その時から、なぜか彼女が気になって仕方なかったんだ。
俺がラケットを振っているのが、初めて伝説のハジケリストさんに見つかった時もおかしかった。
『あ!幸村君だ!』
『こんにちは。』
注意されると思った俺は、ラケットを後ろに隠した。
『幸村君バドミントンやりたいの?』
『いえ、これはテニスラケットです。』
見られていたのでは言い訳しても仕方ないので、素直にラケットを出した。
『テニス?!幸村君テニスやってるの?!』
『えぇ。一応部長なんですよ。』
『ふーん…。ねぇ、黙っててあげるから、あたしにも素振りさせて?』
『ふふ。いいですよ。』
この人は本当に看護婦なのだろうか。
俺からラケットを受け取ると、真田ばりのスイングを始めた。
『テニスやってたんですか?』
『ううん。やった事はないけど、岡ひろみに憧れてて。あ、"エースを狙え!"ね!』
美人が白衣を着て力いっぱいラケットを振るという不思議な光景を見た人は、世界に何人いるだろうか。
『いいスイングですね。』
『そう?ありが…Σあ!!』
ありがとうと言いかけた伝説のハジケリストさんの手からラケットがすっぽ抜けた。
《ゴスッ!!》
すっぽ抜けたラケットのヘッドが、歩いていた婦長さんの腰に見事に当たった。
『やべ…!幸村君………ごめん!!』
『え…?』
そう言うと、物凄いスピードで
逃げた。
その後、俺が婦長さんに謝りに行った。
素振りは禁止されているが、婦長さんは俺の事が好なので怒られない事は分かっていた。実際、「あまり無理しちゃだめよ?」と言われただけだった。
ナースセンターから「あの時の感触が忘れられないの」という婦長の声も聞いてしまったけど。
その次の日の夜、見回りに来た伝説のハジケリストさんが俺のベットを覗いた時の事。
『幸村君、もう寝た?』
『起きてますよ。』
すると、稲川淳二のように懐中電灯を顔の下から照らしながら、パイプ椅子に腰掛けた。
『昨日はごめんね。婦長に何かされてない?』
『特に何も。それより、よくもラケットと俺を置いて逃げてくれましたね。』
『だからごめんて。主任にもこってり怒られたし…許して?』
かわいらしく首を傾げてみせたけど、下から当たるライトのせいで不気味だ。
なんだか可笑しくて、怒る気になれない。
『いいですよ。許します。』
『ホント?!』
『そのかわり、敬語使わなくていいですか?』
伝説のハジケリストさんはキョトンとしているが、ライトはホラー調のままだ。
『だめですか?』
『いいけど…。』
『けど?』
『いや、なんかもっと凄い事要求されるのかと思って…。幸村君て優しいね☆』
本当はもっと凄い要求をしたかったけど、それはまだ早いから。
『早く行かないと、また主任さんに怒られるよ?』
『あ、そうだった!またゆっくり話そうね!おやすみ~』
『ふふ。おやすみなさい。』
それから俺達は色々話すようになったんだ。
初めて真田達がお見舞いに来た時は…
『幸村君!今の学生さん達、幸村君のお友達?!』
『うん。前に話した部活の仲間だよ。』
『老けてる副部長さんと、糸目の参謀さんと、情熱のハーフ君はすぐ分かったけど、あとの子達は分からなかったわ。』
どうやらあいつらが帰る時に廊下ですれ違ったらしい。
『じゃあ、今度ゆっくり紹介するよ。』
『ホント?!嬉しいな♪あ、幸村君が高校生くらいになったら合コンしようよ!』
『合コン?』
伝説のハジケリストさんはパイプ椅子に座り、柳がお見舞いに持って来た煎餅を見た。
『うん!合コン。ねぇ、このお煎餅…』
『さっき貰ったんだ。よかったらどうぞ?』
『わ♪ありがとうvVここのお煎餅美味しいんだよねー。いただきま~す。』
伝説のハジケリストさんは物を食べてる時、とても幸せそうな顔をする。俺はそれを見てるのが好きだったりする。
『あの赤い髪の子…』
『丸井?』
『あ、あの子が丸井君なの?妙技が好きでお菓子が得意だという。』
微妙に違うけど間違ってはないから、俺は敢えて訂正しない。
『そうだよ。丸井がどうかした?変な事された?』
『ううん。あの子可愛いなーと思って。モテるでしょ?』
『さぁ…。そういう話はしないから。』
今、少しだけ嫌な気分になった。
『多分…いや、絶対モテるな。あ~あ、あたしがあと10若かったらなー。って歳ばれちゃうか!』
ほら、また。
まるで、胸に熱い鉛が入ったみたいだ。
『丸井君て…『合コンしないよ。』
伝説のハジケリストさんの口から他の男の名前が出ると、気分が悪くなる。
『えー。残念だなぁ。』
『丸井ももう呼ばない。』
自分でもどうかしてる事は分かる。
だけど嫌なんだ。
『丸井君とけんかでもしたの?』
『別に…。』
『それならいいけど。あ、あたしもう行かなきゃ!』
伝説のハジケリストさんはパイプ椅子を畳みながら続けた。
『合コンやりたかったな。幸村君、大人になるにつれて素敵になりそうなのに…。お煎餅ごちそうさま☆またねー!』
なんでだろう。
さっき重かった心が、軽くなった。
軽くなったけど、熱いままだ。
その時俺は気付いたんだ。さっきのは"嫉妬"
そして
俺は伝説のハジケリストさんが好きだ。
だから、さっき別れたばかりの伝説のハジケリストさんが恋しいんだ。
ずっと一、緒にいたいと願ってしまう。
"幸村君!ジャンプ貸して!"
"幸村君!あたしを主任からかくまって!"
"幸村君、これこないだ話してた『NANA』。おもしろいから読んでみて!"
君が俺の名前を呼ぶだけで、不安が和らぐから。
だから、俺はまたナースコールに手をかける。
「はいはーい!すぐ行くね♪」
俺からのナースコールは、必ず伝説のハジケリストさんが取るから。それが嬉くて。
「お待たせー!どうしたの?」
コールした後、すぐに来てくれる君が愛しくて。
「少しでいいから、話し相手になってくれないか。」
「少しと言わずにたくさん話そうよ!」
無邪気に笑う伝説のハジケリストさんを見ているとつい忘れてしまうけど、彼女は"大人"なんだ。
そして、彼女にとって俺はまだまだ子どもであり、一人の"患者"なんだ。
「幸村君あんこ食べられるんだよね?ナースセンターからまんじゅう持ってきたの!食べよ☆」
叶わぬ恋なら、思い切りこの立場を利用するだけ。
「食べさせてよ。」
「あらあら、甘えたさんなんだから。はい、あ~ん。」
入院中はこのままでいいよ。
君は俺の大切な人。看護婦としても、女性としても。
「幸村君、お茶ちょーだい!」
「ふふ。そこに入ってるよ。」
だから…お願いだから、こうしている時は僕の傍にいてくれないか。
君が…
貴女が好きなんだ。
終わり
[後書き]
遅くなって申し訳ありませんでした!風花ちゃんとメイ誕生日一日違い記念の幸村ドリームです☆
リク設定は『入院中の幸村とその看護婦さん』でございましたが、これでいいのか?!書いてる本人がダメ人間なので、こんなんしか書けなくてごめんなさい(>_<)気合い入れて書いてみたものの撃沈!!しかも『AM11:00』意識して書いてみてしまったという無謀っぷり。
すみませんすみません。
大変遅くなりましたが、風花殿!お誕生日おめでとうございましゅ☆
伝説のハジケリスト様、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m