あれから6年…
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幸村「久しぶり。元気だった?」
伝説のハジケリスト「うん。幸村は?」
幸村「俺は元気だったよ。それに…」
伝説のハジケリスト「ん?」
幸村「ずっと、伝説のハジケリストに会いたかった。」
成人式の時、人が多すぎてあたし達は会えなかった。電話で連絡を取れるようになった頃、みんなで集まろうという話になった。
仕度に時間がかかってしまい、少し遅刻してしまったと思って急いで歩いていると、居酒屋の前で幸村にばったり会ったのだ。
幸村の優しい笑顔も柔らかい声も、あの頃のままだった。
幸村「入ろうか。みんな待ってる。」
伝説のハジケリスト「うん…。」
幸村の後に続いてお店の座敷に入ると、そこには懐かしい面々が揃っていた。
真田「遅刻するなどたるんどる。」
ジャッカル「全く…。お前は相変わらずだな。」
なんていうか…真田の顔がちっとも変わってないのは、あたしの気のせいだろうか。
『子どもの頃から老けている人は、大人になっても変わらない。』
とよく言われているが、真田によって事実が証明された瞬間に立ち合った気がする。
丸井「だぁー!!早く始めようぜ!腹減った!」
仁王「御通しだけじゃ足らんじゃろ。」
柳「そろそろ注文しないと、店にも悪いしな。」
柳生「そうですね。皆さんお決まりですか?」
他の面々も、見た目は少し大人っぽくなったものの、大きな変化は見られない。
少し安心した。
幸村「伝説のハジケリストは何飲むの?」
伝説のハジケリスト「うーん…どうしよっかな。幸村は決めた?」
幸村「うん。とりあえずビール。伝説のハジケリストはビール飲めるの?」
伝説のハジケリスト「飲めなくないけど、あんま好きじゃない。」
丸井「梅酒にすれば?俺と一緒☆」
伝説のハジケリスト「じゃああたしもそうしよっかな。ブン太ビール飲めないの?」
丸井「飲めなくないけど、あんま好きじゃねぇよ。にげぇじゃん。お、これうまそーvV」
相変わらず甘党なブン太は、メニューのデザートを見てウキウキだ。
外見はそんなに変わっていないが、ちょっと太ったように見える。ほんのちょっとだけど。
柳「伝説のハジケリストは梅酒でいいんだな。ロックか?」
仁王「おう、ロックで。」
伝説のハジケリスト「何であんたが答えんのよ。ソーダ割りで。」
柳「分かった。」
テーブルにあるボタンを押して店員を呼ぶと、蓮二は全員分の飲み物と料理を注文した。
柳生「まとめて注文して頂いてありがとうございました。」
柳「造作もない。」
柳生も相変わらずの紳士だ。外見も、ポリシーなのかなんなのか、ソフトな七三分けを保っている。変わったところと言えば、その分け目が左右逆になっただけだ。
柳生「おや、どうしました?私の顔に何か付いてます?」
伝説のハジケリスト「あ、ごめんごめん。なんでもないの。」
仁王「柳生に見惚れてたんじゃと。」
柳生「か、からかうのはやめたまえ///」
仁王も髪型とかは変わっていないけど、何を経験してきたのかものすごく色っぽくなった。オトコの魅力をこれでもかと凝縮している、そんな感じだ。
ジャッカル「伝説のハジケリストもそんなには変わってないよな。」
そう言うジャッカルは、ものすごく風変わりしている。なんてったって毛がある。元々天然パーマだったらしく、髪のある時の池内博之みたいでちょっとかっこいい。
幸村「そんなことないよ。すごく綺麗になった。」
伝説のハジケリスト「そうかなー?そんなことないと思うけど。」
柳生「いえ、幸村君のおっしゃるとおり、とても綺麗になられましたよ。」
柳「女性は、少し見ない間に変わっているものだからな。」
そんな話をしていると、注文したお酒と料理が運ばれてきた。
真田「幸村。」
幸村「あぁ。」
真田の呼び掛けに幸村が返事をすると、みんなそれに合わせてグラスを持った。
幸村に対する、こういう礼節というかルールというかそういうのは、きっといくつになっても忘れないだろうと思う。
幸村「久しぶりにこうして皆と会えて、嬉しく思う。今日は楽しく飲もう。乾杯。」
全員『乾杯!』
幸村らしい簡潔な挨拶の後、みんなでグラスを合わせて飲み始めた。
丸井「やっと食えるぜー!いただきます!」
ジャッカル「おい、全部一人で食うなよ?他のやつらも食うんだからな。」
丸井「うめぇ。」
もはや聞いちゃいない。
次から次へと減っていく料理を見ていると、真田からゴクゴクと喉が鳴る音が聞こえてきた。
伝説のハジケリスト「真田ってビール好きなの?」
真田「好きというわけではないが、ビールくらい飲めんようでは社会に出た時に困るだろう。」
柳生「なるほど。確かに社会人になると、お酒の付き合いが多くなると聞きますからね。」
柳生はグラスビールを少し飲み、眼鏡を直した。やっぱり癖というものは、中々治らないらしい。
そういえば、あたしとブン太以外全員ビールだ。正直蓮二あたりはお茶しか飲まないと思っていたので、なんか違和感がある。
伝説のハジケリスト「柳はビール好きなの?」
柳「いや、好きではない。ビールを飲むのは乾杯のときだけだ。アルコール自体あまり好んで飲まないからな。」
伝説のハジケリスト「ふーん。」
確かにちびちび飲んでいて、あまりすすんでいないみたいだ。
柳「俺としては、精市がビールを飲んでいることが予想外だが…。」
真田「俺も同感だ。」
二人の発言はお構いなしに、幸村は早くもビールグラスを空にした。
仁王「俺には、ゆっきーはかなり強いようにみえるがのぅ。」
こんなアクの強い連中をまとめてきた男だ、酒にもつよいはずだ、と勝手に納得していると、ブン太とジャッカルが何かごちゃごちゃやっていた。
ジャッカル「お前いい加減にしろってι真田に殴られるぞ?」
丸井「らっへはらへっへんぶぁも(だって腹減ってんだもん)。」
さっきまでたくさんあった料理が、ほとんど三分の一くらいになっていた。
すでに空いた皿もあり、それをジャッカルが下げていた。
真田「まったく…。食欲旺盛なのは相変わらずだな。」
柳生「丸井君、何かご飯物でも注文しますか?焼そば等ありますよ?」
丸井「お!いいじゃん☆伝説のハジケリストも食うだろぃ?」
伝説のハジケリスト「え?あたし?!」
丸井「何今さら驚いてんだよ。お前も食うの好きじゃん。」
そりゃまぁそうだけど、メニューにあるのは何人かで取り分けて食べるような量だ。どうやらあたしは今だに女として見てもらえてないらしい。
伝説のハジケリスト「ブン太と赤也には負けるよ。食べる量が違うし。」
柳「俺達もそれなりに食うが、丸井と赤也は常軌を逸していたからな。」
ジャッカル「みんなでバイキング行った時、ほとんどこいつらが食っちまったしな。」
話題のブン太は、マイペースに焼きそばを注文していた。
柳生「そういえば、切原君はお元気ですかね?」
伝説のハジケリスト「あたしたまにメールくるよ。」
丸井「なんて?」
伝説のハジケリスト「合コンしましょーよって。」
真田「合コンなどと浮ついたことを。相変わらずたるんどるな。」
仁王「真田は合コンせんの?」
言って、最後の一口を飲み干した。
真田「するわけなかろう。」
真田も最後の一口を飲み干した。
伝説のハジケリスト「仁王って合コンとかすんの?」
仁王「してた方がいいか?」
伝説のハジケリスト「え…?」
仁王「グラス、空だぜ?」
一瞬、仁王の挑戦的かつ妖艶な眼差しに、動きを止められてしまった。昔もこういうことはあったが、効果が増している。
柳「そろそろ注文しようと思うが、次は何にする?」
仁王「ジントニック。お前さんは?」
伝説のハジケリスト「あ、カシスオレンジで…。」
真田「日本酒を熱燗で貰おう。」
幸村「じゃあ俺も。」
丸井「俺カルーアミルクと厚焼き玉子。」
ジャッカル「まだ食うのかよ?!」
柳「ジャッカル、お前は何にするんだ。」
ジャッカル「あ、あぁ、悪い。俺はビールで。」
つっこんだり謝ったり、ジャッカルも相変わらず苦労が耐えない。苦労しすぎてまたそのうちツルツルになりやしないか不安に思えてきた。
蓮二が注文してしばらくすると、あたし達の二杯目がきた。
真田「そもそも、合コンとはどういう仕組みなんだ。」
丸井「気になるんじゃねぇか。」
伝説のハジケリスト「やってみたいの?」
真田「馬鹿なことを言うな。少し疑問に思っただけだ。」
熱燗をキュッと飲むと、だんだん赤みが増してきた。その様子に違和感が無いところがどうかと思う。きっと就職して上司と飲むとこんな感じなんだろうと思う。
仁王「そんなに気になるなら、やってみるか?」
柳生「まさか、合コンをですか?」
仁王「いや、王様ゲーム。」
何を企んでいるのか、男7人女1人で王様ゲームをやることを提案した仁王。やっぱり考えが読めない。
真田「王様ゲームとはなんだ。」
仁王「お前さんの気にしとる合コンでよくやる遊びぜよ。…まぁ待ちんしゃい。」
仁王は割り箸を4つ貰ってくると、紙から出して割り始めた。
柳生「私もお手伝いしましょう。」
仁王「おう、ありがとな。」
蓮二から赤と黒のボールペンを借りると、割れた割り箸の一本にマークを、残りの割り箸に番号をふっていった。
丸井「柳ってさ、いつもペン持ち歩いてんの?」
柳「そうだが。」
丸井「今更だけど、お前ホントに真面目だよな。」
柳「……。」
仁王「さぁ、できたぞ。」
仁王は真田が見やすいように割り箸を並べ、王様ゲームの説明をした。
真田「よかろう。」
伝説のハジケリスト「真田ってこういうの嫌いじゃないの?」
ジャッカル「さぁ…人間丸くなったんじゃねぇか?それか、王様って部分が好感を得たかだな。」
仁王「さぁ、一斉に引きんしゃい。」
普通ならここで『王様だーれだ?』と、みんなでノリ良く言うところだが、このメンツにそれは望めない。
仁王「王様は誰じゃった?」
幸村「あ、俺だ。」
真田「うむ。流石だな。」
誰が王様になっても救いはない中、よりによって本物のキングがキングを引いてしまった。
幸村「どうしようかな…。じゃあ、2番が…
(あたしセーフ!!)
3番の…
(あー、もう大丈夫だ。2番3番ご愁傷様。)
恥ずかしい話をしてくれ。」
仲間の恥ずかしい話を仲間にさせる。やはり、幸村の恐ろしいところは健在でいらっしゃる。
仁王「2番。」
丸井「へーい。」
仁王「3番。」
柳「俺だ。」
幸村「丸井が柳の恥ずかしい話をするのか。楽しみだな。」
ちょっと変な空気の中、ブン太が話を始めた。
丸井「柳の恥ずかしい話だろぃ?えーっと…あ!柳は中学ん時、引退するまで白ブリーフ穿いてたぜ?今でもそうなのかは知らねぇけど。」
柳「……。」
白ブリーフはイタイ。蓮二の下着は謎だったが、まさか白ブリーフとは思わなかった。今でもそうだったらどうしよう、そう思うと蓮二の顔がマトモに見れない。
真田「丸井、どこが恥ずかしい話なんだ。」
丸井「えっ…恥ずかしいじゃん白ブリーフなんて。女は嫌がるよな?な、伝説のハジケリスト!」
伝説のハジケリスト「Σえ?!いや、うん、別にいいんじゃないの!」
ジャッカル「無理してんのバレバレじゃねぇかよι」
真田「ほら見ろ。普通ではないか。」
丸井「つーことは、真田もそうなの?」
真田「あぁ。たまにな。」
柳よりも、自分の恥ずかしいところを自信たっぷりに言う真田に乾杯だ。
仁王「王様は満足か?」
幸村「うん、もういいや。」
あんまり面白くなかったらしく、苦笑して酒を口に運んだ。
仁王「次な。」
仁王は割り箸をまとめると、取るよう促した。みんな割り箸を取り、隠しながら自分の番号やマークを確認する。
仁王「悪いのぅ。王様は俺。」
柳「命令は?」
最初ちょっと王様ゲームをなめていたっぽかった蓮二は、いささか警戒気味に尋ねた。
仁王「そうじゃのう…1番が…
(ヤバイ。何を隠そう1番はあたしだ。仁王の命令なんて、絶対恐ろしいに決まってる。さぁ、あたしは誰に何をする、もしくはされるはめになるんだ?!)
王様の…
(えー!お前かよ!しかも王様『の』って何だよ?!奴隷とかかな?マジこえー!!)
膝に五分間座る。」
伝説のハジケリスト「はぁ?!///無理無理!!」
仁王「おう、お前さんじゃったか。それなら早くこっちへ来んしゃい。」
伝説のハジケリスト「だから無理だって!///」
ジャッカル「お前勇気あるよな。真田が1番だったらどうすんだ?」
仁王「ピヨ。」
柳「伝説のハジケリスト、覚悟を決めろ。」
真田「膝に座るくらい、どうってことなかろう。」
幸村に助けを求めて視線を送るも、幸村がたこわさを食べていて通じなかった。
丸井「早くしろよー。」
伝説のハジケリスト「わ、分かったよ!座ればいいんでしょ?!座れば!」
あたしは恥をしのんで仁王に近づいた。
仁王「ここ、な。」
仁王が指を指したのは、あぐらをかいている隙間だった。
言われたとおりにそこに座ると、仁王はあたしの肩に顎を乗せてきた。
仁王「さすがにお前さんを膝の上に五分も乗っけてたら、足がしびれちまうからの。」
しゃべるたびに首筋に掛かる息が、なんとも恥ずかしい。
そして、耳たぶに唇らしきものが当たった。
仁王「ククッ。耳、赤いぜ?」
伝説のハジケリスト「あーもう!うるさい!///」
柳生「やりすぎですよ、仁王君。」
幸村「本当、君は油断ならないね。」
仁王「ハイハイ。もうせんから。んな恐い顔しなさんな。」
すると、仁王の上半身があたしから離れた。
なんだかやたら喉が渇いたあたしは、自分の席に戻るとお酒を多めに一口飲んだ。
柳「仁王、お前も相変わらずだな。今度から俺が箸を持つ。」
幸村「そうだね、それがいい。」
仁王「俺は真田に合コンっつーモンを知って欲しかっただけなんじゃがのう。」
真田「合コンとはこんな卑猥な事を女子に要求するのか?」
丸井「全部が全部そうじゃねぇけど、大体こんなモンなんじゃね?」
真田「やっておれん。次で最後にするぞ。」
仁王に代わって蓮二が割り箸を持ち、最後の王様決めが始まった。
柳「王様は誰だ。」
ジャッカル「俺だ。」
ジャッカルならば安心だ。最後の最後で真田だったら盛り上がりに欠けそうだ。
ジャッカル「最後の命令か。じゃあ…
(常識人のジャッカルのことだ、そんな困った命令はしないだろう。)
全員…
(全員?!まさか脱げとか言わないよね…)
今だから言える話をカミングアウトする。」
無難なようなそうでないような…。まぁ全員全裸よりはマシだ。
幸村「面白そうだね。順番は?」
ジャッカル「そっちの端からでいいんじゃねぇか?」
蓮二、幸村、あたし、真田、テーブルを挟んで仁王、柳生、ブン太、ジャッカルという座り方なので、カミングアウトの順番はこうなる。
柳「では、俺からだな。今だから言えるが、中学二年の第一回目のプールの授業で…」
丸井「まさか、プールん中で漏らしたとかじゃねぇよな?」
真田「そんな事するわけなかろう。最後まで聞け。」
柳「弦一郎をプールに突き落としたのは俺だ。」
真田「何?!」
伝説のハジケリスト「え、どういうこと??」
柳「今考えれば下らないことだが…」
【柳蓮二のカミングアウト】
当時同じクラスだった俺と弦一郎は、クラスでも優秀な部類に入る二人だった。
どの教科も努力を惜しまず、精一杯やってきた。
だが、それが裏目に出る事もあった。
第一回目のプールの授業は、体を水に慣らすために、水中で歩く事から始める。その後ビート板を使って一列になってコースを泳ぐ。それから個人の能力別に分かれ、泳ぎを練習していくというカリキュラムだった。
ビート板を使ってバタ足をしていた時だ。他の生徒がダルがっている中、弦一郎も俺も基礎が大事だと思っているので真面目に参加していた。俺の前に弦一郎が並び、バタ足の順番を待っていた。
しばらくして、弦一郎の番がきた。後ろからバタ足の様子を見ていたが、水しぶきをあまりあげない、華麗な泳ぎだった。
ある程度距離が開いたので、俺も後に続いた。
一定の距離を保って泳いでいたんだが、途中で前の生徒が止まったらしく、弦一郎のスピードが落ちた。必然的に俺と弦一郎の距離が近くなる。その時俺は、ペースを乱されるのが好きではないので、少し苛ついていた。
少しして弦一郎が進んだ時だ。
さっきまで水しぶきをあげずにバタ足をしていた弦一郎が、足を大きくバタつかせ、豪快な水しぶきを俺の顔面目掛けて放ったのだ。
ゴーグルをしていなかった俺は、目にプールの水が入り、とても不快感を覚えた。
それだけではない。また急に止まると、俺のビート板の頭をバタ足で蹴り上げたのだ。
悪気はないと分かっていた。
だが、若かった俺は、苛つきの感情に任せて弦一郎をプールに突き落とした。
タイミングを見計らい、気配を殺し、女子が大勢泳いでいるプールの中へと…。
真田「蓮二…、すまなかったな。無意識とはいえ、お前に不快な思いをさせてしまっていたとは。」
柳「気にするな。俺が子どもだっただけの話だ。」
幸村「ねぇ柳、その当時の映像は残ってないの?」
柳「すまない。プールだったのでビデオもカメラも持ち込めなかった。」
幸村「そうか…。」
幸村が心底残念そうな顔をした。よほど真田が突き落とされる様子を見たかったのだろう。あたしとしては、水泳キャップを真面目に被った二人を見てみたかった。
柳「次は精市、お前だぞ。」
幸村「あぁ。俺の今だから言える話は、入院してた時の話なんだけど…」
【幸村精市のカミングアウト】
毎日退屈で、一人でいるとロクな考えが思い浮かばなかった。皆今頃何してるのかなとか、ちゃんと練習してるかなとか、うちのマネージャーに悪い虫がついていないかとか、いつも考えてたんだ。
お見舞いに来てくれるのはとても嬉しかった。けど、帰った後がやっぱり淋しかったよ。
だから、一度だけ病院を抜けて、学校に行った事があるんだ。
バレないように裏から忍び込んで、部室に入った。皆授業中だったから、誰もいなくて動きやすかったよ。
懐かしい部室と、俺がいつ帰ってきてもいいように綺麗に整理されてたロッカーを見て、とても嬉しくて泣きたかった。
でも、部室の棚に貼ってあったある物を見て、気が変わった。
そこにあったのは、丸井と伝説のハジケリストのツーショットのプリクラだった。
俺でさえ伝説のハジケリストとプリクラなんて撮ったことがないのに…。
これは一刻も早く元気になって戻ってこなくちゃと思ったよ。その帰りに、そのプリクラに落書きした。
お見舞いに来た時に言ってた落書きの犯人は俺なんだ。
伝説のハジケリスト「落書きしたの幸村だったの?!」
丸井「つーかアレ、変顔プリクラだからヤキモチ妬くほどのモンでもねぇだろぃι」
ジャッカル「いや、お前らそこじゃねぇだろ!病院抜けて学校来たことに驚けよ!」
幸村「ふふ、俺も柳と同じで、まだまだだったって話だよ。次は伝説のハジケリストだね。」
伝説のハジケリスト「はーい。えっと、部室の掃除してたときの話なんだけど…」
【伝説のハジケリストのカミングアウト】
練習中、特に仕事がなかったあたしは部室の掃除をしていた。ブン太のお菓子のゴミを片付けたり、棚を整理したり、みんなのロッカーを拭いたり。
そこで、ある物が落ちていることに気付いた。
それは、真田の生徒手帳だった。
中を見てはいけないと思ったが、近くに誰もいないこともあり、つい魔が差して生徒手帳をひらいてしまった。
ほとんど白紙で、必要最低限のことしか書いておらず、ちょっとがっかりしながら最後のページを開いた。
すると、保護者の名前を書く欄に、真田の担任の先生の名前が記入されていたのだ。
よく見ると担任の名前の記入欄に保護者の名前が書いてあったので、きっと間違えたのだろうと思い、あたしはそっと矢印を書き足した。
伝説のハジケリスト「勝手に見てごめんね?」
真田「いや、生徒手帳なら構わん。しかし、生徒手帳を見ることなどあまりなかったから気付かなかったな。」
丸井「真田って意外と抜けてるよな。」
柳生「そっと訂正する伝説のハジケリストさんの優しさに、私は感動しましたよ。」
伝説のハジケリスト「そ、そう?ありがとう。次は真田だね。」
真田「うむ。仮入部の時の話だが…」
【真田弦一郎のカミングアウト】
俺はテニスの強豪校である、立海大付属の中等部に入学した。仮入部からテニス部へ行き、そのレベルの高さに歓びを感じていた。
毎日のようにテニス部に通っていると、いつも顔を合わせる生徒がいることに気付く。
蓮二と幸村だ。
蓮二とは話も合い、すぐにいい練習相手となった。だが幸村には、声を掛けられずにいた。
その時俺は、幸村を女子だと思っていたんだ。
可憐で花のような女子生徒が、何故男子テニス部の仮入部に来ているのか、不思議でならなかった。
常人ではないテニスセンスを感じていたが、女子テニス部と間違えているのだと思っていた。
そこで、蓮二に話してみたのだ。
すると、幸村は男であり、かなりの強者だということが判明した。当時の俺は、見た目だけで性別を判断し、幸村という男の強さを見抜けなかったのだ。
真田「すまなかった。今では見紛う事はないぞ。」
幸村「いいよ、別に。」
柳生「すみません、私も失礼ながらそう思っていました。」
伝説のハジケリスト「ごめん、あたしも女の子だと思ってた。でもそれは、カマっぽいとかじゃなくて、キレイだったから!」
幸村「うん、分かってるよ。でも、俺から見れば伝説のハジケリストの方が断然綺麗だけど。」
伝説のハジケリスト「それはないから///」
真田「次は仁王か?」
仁王「俺か…。そうじゃのう、今だから言えるけど…」
【仁王雅治のカミングアウト】
授業が退屈で仕方なかったから、抜けて部室に行った。特にする事もなかったので、ロッカーからダーツとミニダーツボードを出して、暇を潰すことにした。
壁にダーツボードを掛け、俺はダーツを投げた。その日も好調で、真中にバシバシ刺さった。
けど、一瞬の気の緩みで、取り返しのつかないことになる。
一人でただ単にダラダラやってただけのダーツ。緊張感なぞ皆無じゃった。その時俺は、考え事をしながらダーツを投げていた。考えがどんどん深みに行き、俺の手元が狂った。
俺のダーツが刺したのは、的ではなく、伝説のハジケリストが嬉しそうに貼っていた亀梨和也のポスターじゃった。
マズイと思って額に刺さったダーツを抜こうとしたら、結構深く刺さってて中々抜けんかった。なんとかダーツをグリグリ回し、穴を広げて抜いた。
そしたら亀梨の額に小さい穴が開いて、千昌夫みたいになりよった。
だから俺は、慌ててポスターを剥がした。
伝説のハジケリスト「えー?!あの時仁王が言ったんじゃん!『真田が剥がした』って!だからあたし諦めたのに!」
仁王「悪かったって。」
ジャッカル「でもすぐに違うポスターになってなかったか?」
丸井「あぁ、玉木宏だっけ。」
真田「玉置浩二ではなかったか?」
柳「弦一郎、勘違いだ。」
仁王「次、柳生ぜよ。」
柳生「はい。あれは中学三年の時です…」
【柳生比呂士のカミングアウト】
仁王君が、対青学戦用の作戦を持ちかけてきて、やむなく了承した時の話です。入れ替わりという奇抜でリスクも伴う作戦は、特に完璧でなければなりませんでした。
そこで、仁王君から、丸一日学校で入れ替わる練習をするという提案が出されました。最初は、なんて非常識な考えをするのだろうと思いましたが、それは勝利への執念からくるものだと理解できましたので、その提案をお受けしました。
さすがに幸村君と柳君には気付かれてしまいましたが、クラスの皆さんと先生方はお気づきになりませんでした。この作戦を通じて、仁王君という人をより深く知る事もできましたし、今となってはいい経験です。
ですが、その中で、私はあるミスを犯してしまったのです。
仁王君には、クラスメイトに話し掛けられて困った時には、「プリッ」、もしくは「ピヨ」と答えるように言われておりました。
仁王君に好意を寄せていると思われるクラスの女性から、「仁王君て、彼女いるの?」と聞かれた時に、返事に困った私はこう答えてしまったのです。
「ブピッ」
その女性は、なんとも不可思議な表情をなさっていました。それから、彼女は仁王君の姿をした私に話し掛けるのはおろか、目も合わせてくれなくなってしまいました。
伝説のハジケリスト「まぁ、しょうがないんじゃない?」
柳生「ですが、仁王君の印象を悪くしてしまったのではないかと不安だったんですよ。」
仁王「別によかよ。どっちにしろそいつと付き合うつもりはなかったしな。」
幸村「仁王はモテるけど媚びないよね。」
仁王「ブピッ」
丸井「お、あんま違和感ねぇじゃん。」
柳生「本当にすみませんでした。おや、丸井君で最後ですね。」
幸村「その前に、注文していいかな?」
ジャッカル「そうだな。つまみも少し頼むか。」
蓮二「店員を呼ぶぞ。」
またもや蓮二がまとめて注文をすると、少しして注文の品が運ばれた。
量はそんなに飲んでいないが、ビールにテキーラ、日本酒に焼酎等、アルコール度数の高いものを飲むこいつら。あたしとブン太だけは、サワーとかカクテルの甘いお酒に落ち着いている。
それにしてもさすが元王者立海大だ。誰も酔い乱れていない。
幸村「さぁ、お酒も来たことだし、続きを始めようか。」
丸井「俺で最後だろぃ?最後っつっても別にオチとかないぜ?」
伝説のハジケリスト「別に落とせとは言ってないから、普通に話せばいいじゃん。」
丸井「だよなー。じゃあ、俺的今だから言えること…」
【丸井ブン太のカミングアウト】
あの時、俺と伝説のハジケリストとジャッカルと赤也の間で漫画を貸し借りしていた。真田に見つかるとうるさかったんで、帰りにこっそり渡してた。
そんなある日のことだ。
確かその時、俺が伝説のハジケリストに鋼の錬金術師を、伝説のハジケリストは赤也に銀魂を、赤也はジャッカルにBLEACHを渡し、俺はジャッカルからスラムダンクの完全版を受け取った。
家に帰って読もうと、わくわくしながら帰っていたら、道にケーキの箱が落ちていたのを見つけた。別に落ちてるモンまで食うつもりはなかったが、なんでこんな所に落ちてるのかが気になって屈んで取ろうとした時、肩からテニスバッグが落ちた。
俺は基本、バッグを開けっぱにしてるから、同然中身が道に飛び出た。その中にはジャッカルから借りたスラムダンクがあって、俺は慌てて拾おうとしたんだ。そしたら、
『ビチャッ!』
スラムダンクの上に、鳥のフンがタイミング良く落ちた。
あと一歩早かったら、俺の手の甲に落ちてたかもしんねぇ…。
丸井「わりぃ!買って返そうと思ったんだけどよ、中々金と暇がなくてさ。」
ジャッカル「Σお前反省してないだろ?!」
伝説のハジケリスト「今日買って来ればよかったじゃん。」
丸井「忘れてた。あー…次会うときはぜってー買ってくっから!ごめんな!」
ジャッカル(絶対悪いと思ってねぇな…。)
真田「それより、お前達は学校に漫画を持って来ていたのか。」
伝説のハジケリスト「別にいいじゃん。」
幸村「真田、ちょっと堅いよ。」
真田「む…。」
それからあたし達は、お酒を飲みながら色んなことを話した。主に、あの時の誰のプレーがどうだったとか、そんな話を延々と。
テニスの話をしている時のみんなは、6年前のあの頃に戻ったみたいだった。
結局みんな、いつまでたってもテニスが好きで、そんなみんなが私も好きで。
丸井「なぁ、今度みんなで集まってテニスしねぇ?」
仁王「そうだな。久しぶりに柳生とのダブルスもしたいしの。」
柳生「そうですね。きっと有意義な時間になるでしょう。」
真田「言っておくが、腕は衰えていないぞ。」
柳「赤也にも連絡して、定期的に集合してはどうだ。」
幸村「うん。いい考えだ。もちろん、伝説のハジケリストも参加するんだよ?」
伝説のハジケリスト「いいの?」
ジャッカル「当たり前だ。頼むぜ、マネージャー。」
伝説のハジケリスト「うん!」
柳「そろそろ行くか。」
真田「そうだな。」
月に一度集まってテニスをすることを約束し、あたし達は居酒屋を後にした。
居酒屋を出て解散した後、幸村があたしを送ってくれると言ったので、それに甘えることにした。
伝説のハジケリスト「みんなお酒強かったね。幸村があんなに強いとは思わなかったよ。」
幸村「そうかな。普通だと思うよ?」
幸村が、あたしに歩調を合わせて歩いてくれてるのが分かる。
あの頃はまだ、どこか幼さが残っていたので「女だよ」と言われれば納得してしまうくらいだった。
けど今は、どこからどう見ても綺麗な男性だ。
恥ずかしくて、直視できない。
伝説のハジケリスト「月一だけど、またみんなでテニスできるんだね。」
幸村「あぁ。現役の時のようには動けないだろうけどね。」
伝説のハジケリスト「そうかな?」
幸村「受験もあったし、昔と比べて体を動かす時間が減ったから。その証拠に、丸井が少し太ってた。」
伝説のハジケリスト「あはは!」
幸村「伝説のハジケリスト。」
歩く足を止め、幸村があたしの方を向いた。
月明かりの下の幸村は、吸い込まれそうな程綺麗で
伝説のハジケリスト「なに?」
幸村「ずっと、伝説のハジケリストに言いたかったことがあるんだ。」
一度目を見てしまったら、もう離せない
幸村「聞いてくれる?」
伝説のハジケリスト「う、うん…。」
息が、止まってしまいそうだ。
幸村の形の綺麗な唇が、言葉を発するために動いた。
幸村「中三の時に貸した三千円、覚えてる?」
伝説のハジケリスト「三千円…ですか。」
幸村「うん。三千円。」
伝説のハジケリスト「あぁ…あれね、今返すよ…。はい。」
幸村「ありがとう。中々言い出せなかったんだ。お金のことはきちんとしとかないとね。」
伝説のハジケリスト「そうだよね…。お金は大事だもんね…。」
あたしの6年ぶりの胸のときめきは、三千円が財布から出て行くように、冬の夜空へと昇っていった。
終わり