あれから6年…
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ここは懐かしの跡部邸。6年を経た今でも、変わらずキャッスルだ。むしろ豪華さが少し増したような気さえする。
成人式を終えた元氷帝テニス部のレギュラーとそのマネージャーのあたし達は、成人してお酒が飲めるようになった事を記念して、跡部から召集命令が来た。
跡部低に着いて待合室に案内されると、主催者である跡部以外の懐かしい顔触れがすでに揃っていた。
伝説のハジケリスト「ヤダ!みんなオトナになってる!」
宍戸は傷も治り、身長も高い。髪の毛も整っていてイケメンみたいになっている。
忍足は外見はそんなに変わってないが、確実に20代ではない大人のオトコのフェロモンが出ている。
ジローとがっくんは身長が伸びたくらいで特に変化は見られない。がっくんに至っては、髪型すらあの時のままだ。
向日「つーかお前全然変わってねぇのな!」
伝説のハジケリスト「そう?」
忍足「そんな事ないで…?綺麗になってるやん…。どこのお嬢さんかと思ったわ…。」
宍戸「少しやせたんじゃねぇか?」
芥川「え~!俺伝説のハジケリストの柔らかっぷりが好きだったのにぃー!」
向日「今思えば芥川って侑士よりエロかったよな。」
伝説のハジケリスト「あれ?滝は?」
なぜか滝の姿が見当たらない。跡部ならまだしも、滝が後で登場するとは考えがたい。誘われてないのかな…。
宍戸「滝なら便所行ったぜ?」
伝説のハジケリスト「トイレか!なーんだ。それならいいんだ。」
向日「それにしても遅くねー?」
宍戸「迷ってるんじゃねぇか?」
滝の身を案じていると、いきなり照明が落ちた。
跡部に限って停電はまずあり得ないので、あたし達はそのままじっと待っていた。
芥川「ぶえっくしよっ!」
宍戸「Σうおっ?!」
ジローのいきなりのくしゃみに、宍戸が声を大にして驚いた。あたしもちょっとびっくりした。どちらかというと、宍戸の声に。
忍足「俺の顔の左半分に…めっさ汁飛んできたんやけど…」
芥川「わりぃわりぃ!」
忍足を気の毒に思っていると、いくつかのスポットライトが点いた。薄暗い程度なので、目がしぱしぱする事はない。
そして、あたし達の目の前に巨大スクリーンが現れた。
向日「相変わらず意味わかんねーな。」
宍戸「しかしすげぇぜ。うちのテレビ6個分くらいあるんじゃねぇか?」
チーム庶民に懐かしさを覚えつつ、ふとエセ庶民だった忍足を見ると、先程飛び散ったジロー液を拭いていた。
『今日はよく来たな。』
忍足が顔と眼鏡を拭いている様子に見入っていると、四方八方から跡部の声が聞こえてきた。
そしてスクリーンには、若干老けたと思われる跡部が映し出されていた。
『会場の準備は整った。正面の扉を開けて、ひいてあるじゅうたんの通りに歩いてこい。じゃあな。』
映像が止まり、証明が元の明るさになった。
伝説のハジケリスト「まさか、これだけのためにあのスクリーン使ったの?」
忍足「せやなぁ…。演出にこだわる奴やったもんなぁ…。」
宍戸「なんでもいいから早く行こうぜ。」
そしてあたし達は、入ってきた扉と対象の位置にある扉を開けた。
跡部の指示どおり扉を開けると、渋い深緑のじゅうたんが敷かれていた。
どこかへ続いてるであろうそのじゅうたんに沿って、だらだらと歩いていった。
伝説のハジケリスト「なんかさ、安い靴でこのじゅうたんの上を歩くのって申し訳ない気ぃするね。」
向日「そうか?」
芥川「オレ中学ん時、ビーサンで歩いたことあるよ~。」
忍足「ヘンタイやな…」
宍戸「お前がな。」
見た目は大人っぽくなってても、懐かしいメンツが揃うと、会話の内容はあの頃と変わらない。
話をしながら歩いていると、先程いた部屋の扉よりももっと大きな扉にぶつかった。
向日「ここか?」
伝説のハジケリスト「忍足開けてよ。」
忍足「いやいや…こういう時の宍戸やろ…。」
宍戸「意味わかんねぇよ!」
芥川「なぁなぁ、アトベ待ってんじゃねーのー?」
ジローの一言で意味の無い譲り合いが止まり、宍戸が「ったく。」と言いながらその扉を開けた。
伝説のハジケリスト「うわぁ…。」
向日「すげー!」
そこは大広間というかなんというか、とにかくスイートルームのめちゃめちゃ広いバージョンみたいだ。昔跡部の家にみんなでよく行っていたが、こんな部屋を見るのは初めてだ。
さすが跡部。大きなテーブルと大きなソファがたくさんあり、くつろいで飲めるような空間が出来上がっていた。
跡部「よう。久しぶりだな。」
芥川「アトベ久しぶりー☆元気だったか?!」
跡部「あぁ。お前ら変わってねぇじゃねぇか。」
伝説のハジケリスト「跡部は変わったね。」
跡部「アーン?」
伝説のハジケリスト「ちょっとかっこよくなったよ。」
跡部「フン。今更気付いたのかよ。」
向日「“ちょっと”と“なった”って、誉めてんのか微妙じゃね?」
忍足「その部分、跡部の耳に入ってへんと思うで…。」
感動(?)の再会を果たしたあたし達。いつまでもつっ立ってるのはなんだからと、跡部が座るよう促した。
ソファに腰を掛け、改めて広い室内を見渡すと、本格的なバーカウンターが設けられていた。そこで、バーテンダーの人がグラスを磨いていた。
跡部「洋酒、日本酒、ワイン、カクテル…なんでもある。好きな物を飲め。」
芥川「飲み放題?!」
跡部「あぁ。だが、あまり飲み過ぎてヘベレケになっても面倒見ねぇからな。」
ヘベレケという表現が使われていたのは、何十年前だっただろうか。
忍足「つまみも豪勢やなぁ…。見てみぃ。岳人の大好きな唐揚げもぎょうさんあるで…?」
向日「おぉー!!」
チーズ、オードブル、フルーツの盛り合わせ等、かなり豪勢だ。残念ながら、納豆ばかりは用意されていない。
跡部「カクテルが飲みたきゃあそこのカウンターに行って作ってもらえ。腕は一流だ。だがその前に…」
跡部が指をパチンと鳴らすと、執事さんがカートを持ってきた。その上には、ボトルとシャンパングラスが置かれている。
跡部「こいつで乾杯だ。」
忍足「ドンペリかい…。さすがやな…。」
伝説のハジケリスト・向日・宍戸「ドンペリ?!」
庶民三人同時に声が出た。
ドンペリなんて、ホストクラブに行かなければ飲めないもんだと思っていた。いや、考えて見ればこの状況がまさにホストクラブなのだが。
芥川「オレドンペリなんてナマで初めて見たC~!」
執事さんはグラスにドンペリを注ぐと、トレイに乗せて持ってきた。
トレイからドンペリを取り、あたし達は一度立ち上がった。
跡部「成人を迎えたということで、こうして堂々と美味い酒が飲めるようになった。昔話を肴に、今日は好きなだけ酒を楽しめ。乾杯!」
全員『乾杯!』
“俺様の美酒に酔いな”とか言うかと思ったら、案外普通でがっかりだった。
がっかりしつつ、あたしは初ペリ(初めてのドンペリの意)に口を付けた。
向日「ペペッ!なんだコリャ!」
伝説のハジケリスト「飲みやすいような、そうでないような…。」
一本何十万という未知のお酒に胸を踊らせていたのだが、あまり口に合わなかった。跡部と忍足は、普通に飲んでいる。
宍戸「俺もパスだな。おい跡部!ビールもらっていいか?」
跡部「ドンペリの美味さが分かんねぇとはな。おい、ビールだ。」
執事さんが返事をすると、すぐに宍戸の元に冷えたグラスビールが運ばれた。
跡部「お前ら、今度から欲しいもんは俺様じゃなく執事に言え。」
向日「了解!とりあえず食おうぜ。」
伝説のハジケリスト「賛成!」
宍戸「そうだな。空きっ腹に酒はツライよな。」
芥川「オレおにぎり食べたーい☆」
忍足「胃に膜張るから、チーズ食べとき…。」
跡部の家に呼ばれたときは、腹を空かせて行けという、昔からの暗黙のルールみたいなのがあたし達の中であった。
なので、お腹を空かせたあたし達は、美味い美味い言いながらとにかく食に走った。
伝説のハジケリスト「腹拵えも済んだし、そろそろ飲みますか!」
向日「だな!」
芥川「ビールくださーい!」
跡部「ジローがビールを飲むようになるとはな。」
シャンパングラスを片手に足を組む跡部は、やはり様になっている。ホストの域を超え、俺様ドンペリ様だ。
芥川「ビールも好きだけど、芋焼酎も好きだよー。」
伝説のハジケリスト「あー、ジローって昔からクセのあるもの好きだったもんね。」
芥川「そうだったかも~。」
てっきりジローは甘いお酒しか飲めないと思っていたが、予想とは逆に酒飲み体質だったようだ。運ばれたビールをゴクゴク飲むと、「ぷはー!」と言った。
伝説のハジケリスト「あたしカクテルもらって来る。」
向日「俺も!」
宍戸「男のくせにカクテルかよ!だらしねぇな。」
そう言って、喉を鳴らしながらビールを飲む宍戸。よく見りゃ2杯目で、少し顔が赤くなってきたみたいだ。
向日「うっせー!カクテルシャカシャカやるとこ一度見てみたかったんだよ!伝説のハジケリスト行こうぜ!」
忍足「いつまでたってもお子様やな…。」
芥川「ビールうめぇ~☆」
跡部「黒ビールもあるぜ?」
がっくんに手を引かれ、あたしもさっきから気になってたバーカウンターに行った。
伝説のハジケリスト「がっくん何飲む?」
向日「そうだな…。お前は?」
伝説のハジケリスト「うーん。居酒屋にあるメニューでいいのかな?」
向日「カシオレとか?」
伝説のハジケリスト「そうそう。」
初めての本格的なバーに戸惑っていると、先程カクテルをバカにしていた宍戸がやってきて、バーテンダーに話し掛けた。
宍戸「あー…、跡部からの伝言で“伝説のハジケリストには例のものを、岳人にはアレを”だそうだ。」
それを聞いたバーテンダーの人は、「分かりました」とだけ言い、手際良く何種類かの液体をシェイカーに入れた。
伝説のハジケリスト「何?どーゆーコト??」
向日「例のものとかアレとか意味わかんねーし。」
宍戸「俺だって分かんねぇよ。跡部に言ってこいって言われただけたしよ。」
シェイカーを持つ手を高く掲げ、シャカシャカとかっこよく振り出した。
伝説のハジケリスト「……。」
向日「……。」
宍戸「……。」
初めて生で見るその光景に、あたし達は釘づけになった。きっと、3人とも口が開いていたに違いない。
しばらく振ると、カクテルグラスにカクテルを注いだ。それはとても綺麗なカクテルで、下の方が水色、真ん中は桜色、表面は白い。
バーテンダー「お待たせしました。“アイス・メモリー~初恋協奏曲~”です。」
えっ…
伝説のハジケリスト「綺麗だけど、ネーミングやばくない?」
宍戸「跡部だし、しょうがねぇだろ。」
するとまた、ちがうシェイカーでもう一つカクテルが作られた。
2層になっていて、下が水色、上が紫と黄色のマーブルだ。
向日「すげーな…魔法みてー。」
伝説のハジケリスト「どうやったらそうなるんだろうね。」
バーテンダー「魔法ですよ。こちらは“アイス・メモリー~最後のジャンプ~です。」
宍戸「なんか…縁起良くねぇタイトルだな…。」
伝説のハジケリスト「大会で最後に跳んだ時をイメージしてんじゃないの?」
向日「なんか伝説のハジケリストと俺の扱い違くね?」
伝説のハジケリスト「かつて共に戦った仲間への贈り物だと思いなよ。色だって綺麗じゃん。」
バーテンダーの人にお辞儀をし、宍戸とブツブツ言ってるがっくんと、跡部ネーミングのカクテルを持ってソファに戻った。
跡部「どうだ。俺様のセレクトは。」
ソファに戻ると、ドンペリを持っていたはずの二人の手には、赤ワインがあった。
伝説のハジケリスト「素敵なカクテルをありがとう。ところで、2人とも何飲んでるの?」
跡部「ロマネコンティーだ。」
向日「は?コマネロンティー?」
忍足「岳人…、ロマネコンティーや…。」
芥川「忍足はすっげー高いっつーんだけど、オレはおいCと思わないんだよね~。」
そう言うジローは、黒ビールをおいしそうに飲んでいた。
ソファに腰掛け、もらったカクテルに口を付けた。
伝説のハジケリスト「おいしい!かなり飲みやすい!なんつーか、優しい甘さ?それでいて爽やか、みたいな!」
跡部「当然だろ?俺様が考えた、お前だけのカクテルだぜ?」
向日「俺のもイケるぜ!甘酸っぱくてさっぱりしてるな。」
跡部「お前のムーンサルトもそんな感じだったか?」
向日「分かんねーし!俺に難しいコト聞くなよ。」
跡部はワインをグラスの中で転がしながら、ふっ、と機嫌良さそうに笑った。
伝説のハジケリスト「がっくんの一口ちょうだい。ムーンサルトの味が知りたい。」
向日「なんだよソレ。いいけど、お前のも飲ませてミソ。」
がっくんとグラスを交換し、互いに口を付けた時。
芥川「間接キスだ!なんつって☆」
向日「お前なぁιまだそんなこと言ってんのかよ。」
宍戸「激ダサだな。」
伝説のハジケリスト「そんなこと言って、2人とも中学の頃めちゃめちゃ照れてたクチだったくせに。」
向日・宍戸「なっ…!Σ(〃□〃 )」
宍戸とがっくんが顔を赤くして、慌てて一斉にこっちを向いてきたので、少し驚いてむせてしまった。
忍足「懐かしいなぁ…。アレやろ?『みんなの反応~飲みかけのジュース大作戦~』…。」
伝説のハジケリスト「そうそう!アレかなり面白かったよね!」
『みんなの反応~飲みかけのジュース大作戦~』とは、当時あたしと同じクラスだった忍足と考えた遊びだ。何をするかというと、あたしがみんなから飲みかけのジュースを貰い、「間接キスだね♪」と言って反応をみるという、今考えると非常にくだらない遊びだ。
伝説のハジケリスト「2人とも顔真っ赤にしちゃってさ、かわいかったよね~(笑)」
向日「くそくそ!やなこと思い出させるんじゃねーよ!飲もうぜ宍戸!」
宍戸「だな!」
すると純情ボーイ2人は、酒を煽り始めた。
忍足「お2人さんも楽しませてくれはったけど…1番は鳳やろ…。」
伝説のハジケリスト「あぁ!そうだ!チョタこそキングだわ!」
忍足「責任取ります、ときたもんなぁ…。」
チョタに作戦を決行したところ、最初はがっくんと宍戸のように照れていたのだが、急に真剣な目になって手を握ってきてそう言われた。
今だから笑えるが、当時は本当に参ったもんだった。忍足がうまいこと言ってくれて、なんとかその場は納まった。その時チョタに惚れそうになったというのは、自分の中でのトップシークレットだ。
伝説のハジケリスト「そういやチョタってどうしてんの?」
宍戸「あぁ、長太郎ならしょっちゅう連絡来るぜ?たまに一緒に打ちに行くしな。」
なぜか得意気に言う宍戸は、どうやら出来上がってきたようだ。質問の答えになってるようでなってない。
宍戸「そんでよ、お前にメール送ったら送れなかったとかでへこんでたぜ?」
伝説のハジケリスト「そういえば教えてなかったかも…。じゃあ宍戸から教えといて。」
宍戸「分かった。」
跡部「鳳と言やぁ、俺と同じ大学にいるぜ?」
伝説のハジケリスト「マジ?!」
跡部の大学って言ったら、そんじょそこらの人間じゃとても入れない、超一流大学だ。時々忘れてしまいそうになるが、やはり長太郎はボンボンなんだ。
芥川「なぁなぁ、カバヂはどーしてんの?」
確かに、跡部と言ったら樺地だ。今でも2人はプリキュアばりに一緒にいるもんかと思っていたが、樺地はいなかった。
跡部「樺地なら、ボランティア団体に入って世界中渡り歩いてる。今はカンボジアだったか…。あいつらしいだろ?」
ロマネなんちゃらを一口飲むと、跡部は嬉しいような淋しいような、少し複雑な顔をした。
芥川「なんかかっちょE~☆」
向日「中学ん時から芥川のこと起こしに行ったり、跡部の鞄持ったりしてたしな。うん、あいつらしいぜ!」
忍足「まぁ…あの場合はパシリとも言うんやけどな…。あ、シーバス水割りで…。」
会話の途中でごく自然に執事さんに注文したので、忍足がウイスキーを頼んだことに対してコメントをする間がなかった。
伝説のハジケリスト「下克上等日吉は?」
芥川「ヒヨシなら、オレんちに新聞届けに来たよ?」
伝説のハジケリスト「へ?!何それ。」
芥川「朝方、鍵閉まってて妹が家に入れなかったことがあってさー。電話で起こされて鍵開けてあげた時に、ヒヨシが新聞持って家の前にいたんだよー。」
向日「新聞配達のバイトやってるってことか。もし髪型変わってなかったら、メットしててもしてなくても分かんねーな!」
髪型について、がっくんも人のこと言えないよと、私は6年前から言いたくて仕方なかった。だが、今でもコレということは相当気に入ってるのだろう。言うのは髪型を変えたその時が妥当だ。
忍足「あいつは頑張り屋さんやからなぁ…。バイトでも何でも、他人の倍以上努力してそうやんなぁ…。」
跡部「そうでなきゃ氷帝テニス部の部長になんてなれねぇんだよ。」
満足そうに、またワインを口に運ぶ跡部。頬が赤らんできた。どうやらアルコールが入ると顔に出るらしい。
宍戸「おいジロー、黒ビールうめぇか?」
芥川「うん。おいしいよー。でも一杯でE~やってカンジ。あ、オレ梅酒飲みたいなー。」
日吉にまつわるいい話はもう飽きたらしく、宍戸もジローも次のお酒を注文しだした。
向日「なぁ、せっかくだからなんかゲームしねー?」
伝説のハジケリスト「ゲームって?」
何がせっかくなのかよく分からないが、がっくんはまったりムードが落ち着かないらしい。
芥川「ハイハーイ!たけのこニョッキなんでどう?!」
向日「おっ、いいじゃん!」
忍足「バツゲームありやろ…?」
伝説のハジケリスト「一気飲みとか?」
宍戸「上等だぜ!」
たけのこニョッキをやるということで盛り上がってきた中、
跡部「なんだその“タケノコニョッキ”ってのは。」
ハイキター!!
6年ぶりの跡部の疑問に、少々テンションが上がった。あの頃はみんな、跡部が庶民トークに質問をすると、「またかよ」みたいな雰囲気になっていたが、久しぶりに『ぼっちゃまの質問』が発動されて嬉しそうなのが分かった。
樺地がいない今、あたしが代わりに説明しなければならない。
伝説のハジケリスト「えっと、たけのこニョッキってのはね…」
跡部は頭がいいので、詳しく説明しなくても大体理解してくれる。なので、軽く説明した後、跡部以外のメンバーで実際にやってみせた。
伝説のハジケリスト「…ってゆうゲーム。じゃ、最初の一回は練習でやってみようか。」
跡部「練習はいい。」
伝説のハジケリスト「え、大丈夫なの?」
跡部「俺様を誰だと思ってやがる。こんなの一回見りゃ分かんだよ。」
芥川「マジすげ~☆(≧▽≦)」
宍戸「牛タンゲームも覚えるの早かったしな!しかもぜってぇ負けなかったよな。」
忍足「宍戸はダメダメやったけどな…。」
宍戸「Σうるせぇにょ!」
伝説のハジケリスト「噛んだ…。」
忍足「噛んだなぁ…。」
向日「それじゃ、始めるか!」
がっくんの一声に、みんなニョッキの構えを取る。
が、
跡部「待ちな。」
跡部の待ったで構えは解除された。
向日「今度はなんだよ。」
跡部「バツゲームはどうする。」
芥川「イッキだよ?な?」
伝説のハジケリスト「うん。イッキだよ。」
跡部「お前らよく考えてみろ。種類も量も違う酒で、バツゲームが成立するとでも思ってんのか?」
忍足「せやなぁ…。見事にバラバラやし…統一した方がええな…。」
宍戸「何で統一するんだ?ワインとかカクテルは嫌だぜ?」
伝説のハジケリスト「ウーロンハイとかでよくない?みんな飲めるだろうし。」
忍足「ま、それが無難やな…。」
向日「だな。」
跡部「決まりだな。おい、ウーロンハイ6つだ。」
すると、執事さんがウーロンハイをテーブルに置いた。いよいよ始まる。
向日「いくぜ?せーの!」
全員『たけのこたけのこニョッキッキ!』
宍戸・跡部「「1ニョッキ!!」」
芥川「はいブー!」
開始して早々、二人がブーになった。先手必勝が裏目に出たらしい。
跡部「おい宍戸、真似してんじゃねぇよ。一番は俺様に決まってんだろーが。」
宍戸「あ?知るかよ。お前が勝手にかぶったんだろ。」
伝説のハジケリスト「はいはい、2人ともイッキね!」
芥川「グラス持って~☆」
跡部「ちっ。ぶっ倒れんじゃねぇぞ?」
宍戸「お前もな。」
グラスを持ち、一気に飲み干した。飲んでる最中にコールをかける人が誰もいなくてなんか飲みづらそうだった。
宍戸「余裕だぜ!」
跡部「こんなの酒じゃねぇな。ただの烏龍茶だ。」
強がってはいるが、2人とも顔が真っ赤だ。跡部達の分の次のウーロンハイがテーブルに置かれた。
向日「次いくぜ?せーの!」
全員『たけのこたけのこニョッキッキ!!』
伝説のハジケリスト「1ニョッキ!」
宍戸「2ニョッキ!」
向日「3ノッキ!…あ。」
忍足「岳人ブーやな…。」
先程の宍戸につられたのか、がっくんが噛んだ。
芥川「あははは!ノッキってなんだC~!」
向日「くそくそ!飲めばいいんだろ?!」
そう言ってグラスを持ち、男らしくぐいっといった。飲み干した後、涙目になっていたように思えた。
執事さんが、がっくんの分のウーロンハイを持ってきた。
向日「ここからだぜ!せーの!」
全員『たけのこたけのこニョッキッキ!!』
跡部「1ニョッキ!」
芥川・向日「「2ニョッキ!」」
またしてもがっくんがブーになってしまった。ジローが狙っていたのかどうかは定かでない。
忍足「ご愁傷さん…。」
向日「だぁー!!お前ふざけんなよ!」
芥川「しょうがないっしょ☆ま、飲もうよ!」
ジローにグラスを持たされ、せーので一気に飲み干した。ジローのほっぺも赤いが、酔っている様子はない。ジローがお酒に強いなんてとても以外だ。
向日「侑士、チェンジ…。」
ジローとは逆に、見た目通りお酒に弱いらしいがっくんがグロッキー入ってきた。とても掛け声を出せる状態じゃないらしい。
がっくんに代わって忍足の掛け声でたけのこニョッキを開始してから、2時間くらい経過した。
結果は、跡部とがっくんが6杯、忍足2杯、宍戸8杯、ジロー4杯、あたしが3杯イッキした。
元気なのはジローとあたしと忍足で、後は半分死んでいる状態だ。跡部がかろうじて持ちこたえている。
がっくんは顔面を両手で覆い下を向き、宍戸はソファの背もたれにぐったり寄りかかり、仰向けでおでこに腕を乗せている。跡部はというと、目を真っ赤にしながらそれでもチビチビ飲み続けている。
向日「俺、もうダメだ。」
がっくんがか細い声で言った。
伝説のハジケリスト「大丈夫?お水持ってこようか?」
向日「あ、ヤバイ。リバる。」
すると勢い良く立ち上がり、ダッシュで部屋から出て行ってしまった。
宍戸「おいおい、大丈夫かよ。」
伝説のハジケリスト「リバるって言ってたよ。ちょっとあたし様子見てくる。」
宍戸「俺も行く。」
執事さんからお水を貰い、がっくんのあとを追った。跡部の家は部屋からトイレまでがちょっと遠いので、途中でのたれ死んでないか心配だ。
部屋から出て角を曲がったところの廊下にがっくんの姿があった。
が、
向日「オ゙エ゙ェェェ!!(ビチャビチャビチャ)」
伝説のハジケリスト「!!Σ( ̄□ ̄;」
廊下の両端に置いてある、いかにも高そうな壷の中にリバっていた。たしか、オールドマイセンっていう名前の壷だったと思う。
宍戸「うっ…」
横で宍戸がうめいたと思ったら、なつかしのテレポートダッシュでもう1つの壷へと移動した。
宍戸「ゲェェェェ!!(ビチャビチャ)」
伝説のハジケリスト「?!Σ( ̄□ ̄;」
なんと、宍戸がもらいゲロをしてしまった。右の壷にはがっくんのゲロが、左の壷には宍戸のゲロが。
伝説のハジケリスト「2人とも大丈夫??」
宍戸「あぁ、なんとかな。」
向日「頭いてぇ…。」
2人にお水を半分ずつ飲ませ、フラフラしているがっくんを宍戸に担がせて部屋に戻った。
すると、そこもおかしなことになっていた。
跡部「オッスィータルィ!てめぇも中々イケるじゃねぇの!」
忍足「おおきに…。」
跡部がやたら外国語風に忍足の名前を呼んでいて、片手にはウイスキーのビンが握られていた。どうやら相当キてるらしい。
伝説のハジケリスト「跡部大丈夫?」
忍足「なんかテンション上がってもーてん…。岳人は…?」
伝説のハジケリスト「宍戸が連れて…」
振り返ると、2人が床に転がっていた。
忍足「しょーもないなぁ…。執事さんらももうどっか行ってもうたし…。明日学校やってこと、みんな忘れてるんちゃう…?」
跡部「学校だと?んなもんサボっちまえ!おい伝説のハジケリスト、こっち来いよ。かわいがってやるぜ?」
伝説のハジケリスト「えー…。」
サボるのには大賛成だが、酔っ払いを相手にするのは御免だ。
忍足「少し行ったり…?いつもお偉いさん方と飲むと酔えへんらしいから…今日ぐらい酒を楽しませたって?」
確かに跡部は、あたし達が想像もつかないようなすごい場面にも顔を出している。それも小さい頃から。そんなんばっかだから、たまにあたし達と庶民遊びをする時は、ふと同い年の顔を見せていた。
態度が態度なので忘れてしまいがちだが、跡部はなにげに苦労人だったりする。
伝説のハジケリスト「全く…。今日だけだからね。」
忍足「ほなトイレ行ってくるわ…。戻るまで相手したってて…。」
跡部の隣に座ると、懐かしい香水の匂いがした。
跡部「おい、ちょっと見ねぇ間にずいぶんいいオンナになったじゃねぇの。男でもできたか?」
伝説のハジケリスト「跡部飲みすぎ。」
跡部「お前が飲んでねぇだけだろうが。」
ソファの背もたれに腕を回し、あたしの顎を指で上げた。
跡部「しょうがねぇ、俺様が直々に飲ませてやるよ。」
跡部はウイスキーを口に含むと、そのままあたしの唇に自分の唇を当て、ウイスキーを流し込んだ。
一瞬クラッときたが、どうせ酔ったうえでの行動だ。特に深い意味はないだろう。明日になったら忘れてる。
そう思わないと、期待してしまいそうな自分がバカみたいだから。
伝説のハジケリスト「おえっ!マズ!」
ウイスキーは、あたしにはまだ早いと思った。よくこんなのが飲めるよなと、本気でそう思う。
跡部「もう一口欲しいか?アーン?」
伝説のハジケリスト「いりません。」
跡部「そうかよ。お前は昔からそうだったな。」
伝説のハジケリスト「何が?」
跡部「ククッ。なんでもねぇよ。」
伝説のハジケリスト「意味分かんないし。」
跡部「そうだな…。これだけは教えといてやるよ。俺は必ずお前を…」
言いかけて、あたしの膝に倒れこんでしまった。
忍足「ただいま…。」
伝説のハジケリスト「あ、お帰り。」
忍足「跡部寝てもーたんか…。」
伝説のハジケリスト「うん。」
忍足「みんな寝てしもーて…。残ったんはお前と俺だけやなぁ…。」
伝説のハジケリスト「あれ?ジローは?」
忍足「伝説のハジケリストと宍戸が岳人んとこ行ってる間に睡眠モードや…。」
伝説のハジケリスト「どこで?」
忍足「そこのソファー…。」
忍足が指した先にある、少し離れたソファの上に何か乗っていた。ソファと同系色の毛布を頭から被っているので、気付くのは難しかった。
ソファの下には、何故かジローが着ていた洋服が散らばっている。
伝説のハジケリスト「ねぇ、なんであんなとこに服落ちてんの?」
忍足「なんや知らんけど脱ぎだしてん…。」
伝説のハジケリスト「まっぱ?」
忍足「まっぱ。」
くっそー。跡部さえ膝に乗ってなきゃ拝みに行くってのに。
伝説のハジケリスト「ねぇ、あの毛布、ペローンてしてきて。」
忍足「ジローの全裸が見たいんかい…。」
伝説のハジケリスト「はい、とっても。」
忍足「相変わらずやなぁ…。俺ので我慢しとき…?むしろ俺の方がスペクタクルやで…?」
忍足はあたしの横に移動すると、耳元でアホ発言をしてきた。無駄に色っぽい声なのが、残念で仕方ない。
忍足「跡部がお前の膝にいてへんかったら…真面目に口説いてんけどな…。」
伝説のハジケリスト「はいはい。」
忍足「ホンマ、外見以外は昔となんも変わらんな…俺も、お前も…。」
伝説のハジケリスト「跡部と同じようなこと言わないでよ。」
忍足「……。延長戦ってとこやな…。」
伝説のハジケリスト「何が?」
忍足「こっちの話や…。気にせんといて…。」
それから、あたしと忍足はみんなを起こさないように小さな声で思い出話をした。テニスのこと、みんなのこと、まぁほとんどがくだらない話だったけど。
あたしも疲れていたみたいで、話の途中でいつの間にか寝てしまった。
○●○●○●
翌朝、目が覚めて辺りを見回すと昨日のままだった。
床にはがっくんと宍戸が死骸のように転がり、ジローは毛布に包まったままだ。忍足はあたしの手を握りながら横で寝ていて、膝には跡部が寝ていた。
あたしも二度寝を決め込もうと思って背もたれに体を預けたとき、ドキリとするような光景が目に入った。
テーブルの下に滝が寝ていたのだ。
いつからいたのか分からない。もしかしたら最初からいたのかもしれない。
すっかり存在を忘れ飲み明かしてしまったことを心の中で滝に謝り、あたしは再び瞼を閉じた。
テーブルの下で眠る滝が、お酒の残りが見せた幻覚で、次に目が覚めたときには幻覚が消えてますように…。
終わり