あれから6年…
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成人式を終え、久しぶりにテニス部のみんなと集まる事になった。
式場では誰にも会う事が出来なかったのだが、式典終了後、大石から、飲み会をやるから来て欲しいと連絡が来たのだ。
振り袖から私服に着替えたあたしは、会場である駅前の居酒屋に入った。
菊丸「お~い♪こっちこっちぃ!」
英二が座敷から手を振った。
座敷に行くと、すでにみんな揃っていた。
不二「やぁ、久しぶりだね。ここどうぞ?」
不二が自分の隣をすすめたので、あたしはそこに腰を下ろした。
伝説のハジケリスト「不二髪の毛短くなってる!」
不二「変かな?」
伝説のハジケリスト「ううん。大人っぽい。似合ってるよ!」
不二「ふふ、ありがとう。」
みんなを見ると、やっぱり成人を迎えただけあって見た目が大人っぽくなっている。だが、やはり手塚はあの頃のまんまだ。見た目的にはまぁ適齢かと思われる。
大石「積もる話もあるだろうけど、とりあえず注文しよう。伝説のハジケリストは何がいい?」
大石がメニューをくれた。みんなとお酒を飲むなんて、なんだか不思議だ。むしろこいつらお酒飲むのだろうか。あたしの中で、みんなポカリとかアクエリアスとか乾汁のイメージしかない。
伝説のハジケリスト「じゃあカシスピーチで。」
大石「了解。すみませーん!」
その手際の良さに、大石って絶対コンパで幹事やらされてるんだろうなーと考えていたら、店員さんが来て注文を取り始めた。
その間、あたしはトイレに立った。
トイレから戻ると、すでにグラスと料理が並んでいた。
大石「手塚、何か一言。」
手塚は黙ってグラスを持った。それに合わせてあたし達もグラスを持つ。
手塚「皆、久しぶりだな。あまりハメを外しすぎず、油断せず飲もう。乾杯!」
全員『かんぱーい☆』
みんなが頼んだお酒を見てみた。
手塚とタカさんはビール、乾はウーロンハイ、大石は緑茶ハイ、不二はウィスキーのシングルをロックで。英二はカンパリオレンジをそれぞれ飲んでいる。
伝説のハジケリスト「手塚ってお酒飲むんだ。」
手塚はお酒も煙草もやらない人だと思っていたが、普通にジョッキでビールを飲んでいる。
手塚「社会に出た時、酒が飲めないと色々困るからな。」
伝説のハジケリスト「ふーん。じゃあ好きってワケじゃないんだ。」
手塚「あぁ。」
そのわりには、美味しそうにグビグビ飲んでいる。
不二「でも、手塚が酔ったところって見てみたいよね。」
グラスの中の氷を転がしながら不二が言った。その姿が妙に様になっている。
伝説のハジケリスト「つーかあんた!よくウィスキーなんて飲めるね!」
不二「美味しいよ?一口どう?」
伝説のハジケリスト「遠慮しときます…」
乾の方に目をやると、すでに顔が赤くなっていた。
伝説のハジケリスト「乾平気?まだ半分も飲んでないよ?」
乾「あぁ、気にするな。顔に出るだけで酔ってはいない。それより、英二のピッチが早いのが気になるな。」
乾に言われて英二の方を見ると、グラスがすでに空で、メニューを見ながら次のお酒を選んでいる。
伝説のハジケリスト「英二ってお酒強いの?」
河村「ビールとか日本酒は好きじゃないみたいだけど、カクテルとかサワーの甘いお酒は好きみたいだよ?」
伝説のハジケリスト「へーぇ。あ、そういえばタカさん。お店はどう?」
河村「なんとか形にはなってるけど、親父に比べればまだまだだよ。」
英二「タカさんのお店でお祝いしたかったにゃ~。」
すでにいい具合になりつつある英二が、軟骨の唐揚げにレモンを搾りながら言った。
その時にレモンでベタベタになった手を、大石のおしぼりで拭いていた。
大石「タカさんもそう言ってくれたんだけど、そうしたらタカさんが全然飲めなくなるだろ?だから居酒屋にしたんだ。」
伝説のハジケリスト「じゃあさ、みんな就職決まったら、その初給料でタカさんのお店に行こうよ!」
河村「ありがとう。待ってるよ!俺も今以上に修業しないとな。」
タカさんが嬉しそうにジョッキのビールを飲み干した。
英二「でも、中学の卒業式の後タカさんのお寿司みんなで食べに行ったじゃん?すっげーおいしかったけど…。」
乾「職人というのは、修業の年数がものを言うらしい。」
河村「みんなが働いたお金で来てくれるんだから、最高のものを出せるように頑張るよ。」
乾のグラスも空になり、話をしながら飲んでいたあたしも、いつの間にか飲みおわっていた。
大石「みんな、次何頼もうか。」
河村「じゃあ、冷酒にしようかな。ありがとう大石。」
手塚「日本酒か。俺も河村と同じものを頂こう。」
不二「僕はウイスキーをダブルでもらうよ。」
乾「俺はウーロンハイ…いや、酸味のあるものを飲んでおこうかな。」
英二「いいから早く言えよぉ!」
確かに、そういう葛藤は心の中でして欲しい。
乾「グレープフルーツサワー。」
英二「俺カルーアミルクー♪」
伝説のハジケリスト「あたしも!」
大石「分かった。すみませーん!」
みんなの注文を一度で覚えた大石は、店員に難なく伝えた。
伝説のハジケリスト「そういえば、リョーマとか桃とか海堂ってどうしてるのかな?」
英二「俺桃ちんならよく会うよん♪おっきくなったぞぉ~(笑)」
伝説のハジケリスト「よく食べてたもんねー。」
乾「海堂は相変わらずだ。ただ…」
菊丸「ただ?」
乾が口を開いた時、注文したお酒が来た。
伝説のハジケリスト「で、なんだっけ。」
英二「海堂の話だよぉ!乾、続き続き!」
乾「あぁ。最近の海堂なんだが…靴下を履いていた。」
手塚「ごほっごほっ!」
伝説のハジケリスト「Σてっ、手塚!?」
手塚「大丈夫だ。気にするな。」
海堂の靴下がどうこうより、意外な人が意外なところでむせたのに驚いた。日本酒が喉に引っ掛かったのだろうか。それとも、手塚にとって海堂が靴下を履いていた事がそんなに衝撃的だったのだろうか。
どちらにせよ、今の出来事のおかげで、海堂の靴下に突っ込むタイミングを誰もが失った。
英二「おチビは~??」
大石「この前久しぶりに学校に行ったら、竜崎先生がいらっしゃったから聞いたんだ。越前は今海外でテニスをしているそうだ。」
英二「ほぇ~!スミレちゃんまだいるのぉ?!」
不二「確か、あと2年で定年じゃなかったかな。」
伝説のハジケリスト「そっか…。スミレちゃんにはマジで色々お世話になったよね。」
河村「うん。それに、下手したら俺達よりも元気だったよね。」
大石「近いうちにみんなでご挨拶に行かないとな。」
手塚「そうだな。」
伝説のハジケリスト「リョーマおっきくなったかな。」
話題がすっかりスミレちゃんになってしまったので、軌道修正してみた。
不二「越前なら、少し前に見かけたよ。」
伝説のハジケリスト「マジ?どこで?」
不二「大学のサークルで写真を撮りにお台場に行ったんだけど、その時にね。」
すると不二は、鞄からアルバムを取り出してページをめくった。
不二「ほら、これ。」
伝説のハジケリスト「あ!リョーマが男になってる!」
英二「どれどれ??…おー!おチビかっけーじゃーん(笑)」
大石「これは…もしかしてケビンじゃないか?」
りりしくなったリョーマの隣に、美形の外人さんが写っている。ケビンと言えば、肌も白く透き通り、顔立ちも綺麗なので、初めて見た時女の子かと思った。
ジュニア選抜の大会後、いきなり呼び止められて「リョーマなんてやめて、俺の女になれよ」って言われたが、あたしはリョーマの女でもなんでもなかったし、国境を越えた年下との恋愛ができる器じゃなかったので丁重にお断わりしたんだ。
不二「一時こっちに帰国してたみたい。それでケビンがついてきたって言ってたよ。」
河村「ケビン、男前になったね。」
写真のケビンは、そりゃもうかっこいい。二つ下なのにあたしよりも全然大人っぽい。しかも写真からもフェロモンが出ている。なんてセクシーなんだ。
ちょっと勿体ない事したかな、なんて思った。
英二「このおチビ身長どんくらいなの??」
不二「僕よりも少し高かったよ。そうだな…中三の英二と同じくらい。」
英二「えぇ~?!それじゃおチビじゃないじゃぁん!」
伝説のハジケリスト「そんなに伸びたんだ!やっぱり、あの時乾に牛乳をたらふく飲まされたからだね。」
不二「そういえば、もう乾汁作ってないの?」
乾「今は製造中止だ。大学で作ったら引き気味だったからな。要望があれば作るが…。」
河村「なつかしいなー。不二だけだったよね、アレ飲めたの。」
不二「ふふふ。青酢はさすがに無理だったけどね。」
菊丸「つーかさぁ!手塚って乾汁一度も飲んでなくなーいー?!」
ちょっと出来上がってきた英二は、手塚に絡み気味で言った。そして、ここにいる誰もが一瞬止まり、手塚をチラッと見た。だか、手塚は英二を相手にせずに涼しい顔をして日本酒を飲んでいる。
そう言えば手塚と英二って二人で話しているところを見たことがなかった。手塚は英二が少し苦手だということは、なんとなく分かっていたけれど。
菊丸「ずるいぞぉ!」
酔った勢いもあるのか、英二は手塚の両肩を掴んでガクガク揺さ振り出した。
大石「英二、よさないか!」
不二「あたま振ると、酔いが回るの早くなるらしいね。」
そう言われて手塚の顔を見たが、なんてことないいつものブッチョウ面だ。
河村「手塚強いな…。」
乾「手塚は酒に強い…と。」
伝説のハジケリスト「あんたまだデータとってんの?!」
菊丸「おーいし~、カシスオレンジ~!」
大石「分かったからιみんなは?」
こんな具合に、昔話に花を咲かせながらお酒がどんどんすすんで行った。
―2時間後―
菊丸「おぇ~ιトイレ行ってくる…」
伝説のハジケリスト「ちょっと大丈夫?!」
河村「ハーッハッハ!!オーライオーライ!英二は俺がなんとかしてやるぜ!!」
飲み過ぎて気持ちが悪くなった英二を、酔って昔のバーニング症状になったタカさんがトイレに連れて行った。
懐かしいメンツの懐かしい話題がそうさせたのか、はたまた隠れた素質があったのか。個人差はあるものの、あれからかなりの量を飲んだ。
そして、みんなすっかり出来上がり、色々面白い事になっている。
大石「たまに、自分が何のために存在してるか…グスッ。分からなくなるよ…。」
乾「自分が何のために存在しているのか…か。ヒッ!そもそも人間のヒッ!存在価値とアイデンティティーというのは…ぶつぶつ」
どうやら泣き上戸の大石。ため込む所はやはり変わっていないらしく、結構深刻な話題を、グラス片手に泣きながら乾に振っている。
乾も乾で、しゃっくりを挟みつつ的外れな事をぶつぶつ言い続けている。
まだイケるのはあたしと不二と手塚だ。
と、思ったら。
不二「ねぇ手塚。今日こそ君と決着を付けておきたいんだけど。」
手塚「……。」
不二「君がやらないと言うなら、僕にだって考えはあるよ。」
手塚「…分かった。手加減はしない。」
不二「ふふ。光栄だよ。」
何やら物騒な会話が終わると、テーブルに焼酎のボトルと氷と水が来た。
不二「伝説のハジケリスト、悪いけどお酒作ってくれる?」
伝説のハジケリスト「いいよ。手塚も?」
手塚「あぁ。頼む。」
あたしはグラスに氷を入れ、少し薄めに水割りを作った。
伝説のハジケリスト「おまたせ。こんなもんでいいでしょ?」
不二「もう少し濃くてもよかったけど、アルコールの好きじゃない手塚には丁度いいんじゃないかな。」
手塚「……。」
いつの間にか不二が開眼していた。先程からやけに手塚に挑戦的なのは、酔っているからだろうか。しかし、あたしには不二が酔っているかどうかは分からなかった。
手塚「いつでもいいぞ。」
不二「じゃあ、始めようか。」
伝説のハジケリスト「何やってんのー( ̄□ ̄;)!!」
何を始めるのかと、茄子の浅漬けを食べながら見ていたら、二人はグラスを合わせてから水割りを飲んだ。
一気に飲んだ。
不二「もう一杯作ってくれるかな。」
手塚「頼む。」
伝説のハジケリスト「だから、あんた達何してんの!」
不二「それは後で説明するから、とにかくグラスが空になったらどんどん作って欲しい。」
あぁ…。飲み競べね。
伝説のハジケリスト「いいけど、大丈夫なの?」
手塚「心配するな。」
不二「伝説のハジケリストは見守ってて。これは僕と手塚の問題だから。」
意味が分からないが、とても止められる雰囲気ではない事は確かだ。言われた通り、二人のお酒をグラスが空になるたびに作った。
英二とタカさんはまだトイレから帰ってこないし、大石は泣いてるし、乾は笑い出したしで、もうどうにでもなれだ。
伝説のハジケリスト「ねぇ、もう8杯目だよ?やめた方がいいんじゃ…」
不二「僕はまだ大丈夫。やっと体にアルコールが入った気がするよ。」
手塚「そうだな。」
顔がほんのり赤くなってはいるが、はっきりとした口調で言った。さすが元青学のNo.1とNo.2。化け物だ。
伝説のハジケリスト「もぅ…。一体何の勝負してんの?」
不二「知っておいた方がいいのかな。手塚はどう思う?」
手塚「いずれ分かる事だ。知っておいてもいいだろう。」
不二「……そうだね。」
不二はこちらに顔を向けると、真剣な眼差しであたしを見た。
不二「単刀直入に言うよ。中学3年の時…いや、もっと前からかもしれない。君の事が好きだったんだ。僕も、手塚も。」
伝説のハジケリスト「えぇ?!嘘でしょ?!」
昔の事とはいえ、いきなりのカミングアウトに心臓が跳ねた。
手塚「嘘ではない。」
伝説のハジケリスト「でも、それが何で今勝負になるの?」
不二「あの時の僕には、君と話したり、君を見てるだけで満足だったから。ただ、そばにいたかった。手に入れたいという気持ちよりもね。」
手塚「……。」
不二「手塚にも事情があって、君に何をするでもなく、想いを温めてただけだったから。」
不二はゆっくりと、力強い口調で話を続けた。
不二「僕達は、臆病だったのかもしれない。それぞれがお互いの様子を伺ってばかりいて、そのまま、君に何も伝えられなかった。」
手塚「情けない話だが、事実だ。」
不二「だから、手塚と決着を付けたいんだ。どっちが君にふさわしいかを。」
伝説のハジケリスト「酒でか。」
手塚「すまない。だが、何かしらの方法でけじめをつけたい。」
あー、もうなんか嫌だ。男ってのは何でこうなんだ。あたしの気持ちは無視で、勝手に勝負。こいつら昔から何につけても勝負だ。意味が分からない。
あー、なんかモヤモヤしてきた。
伝説のハジケリスト「お酒…」
不二「え?」
伝説のハジケリスト「あたしも飲む!」
あたしは空になった自分のグラスに、焼酎濃いめで水割りを作った。
そして一気に飲んだ。
手塚「伝説のハジケリスト…。」
伝説のハジケリスト「ふぅー。…あのさぁ、二人の気持ちはありがたいけど、あたしの気持ちはどうなるわけ?」
不二「うん。勝手な事だって分かってるよ。でも、決着をつけないと諦めがつかないんだ。」
伝説のハジケリスト「バカ言ってんじゃないよ( ̄皿 ̄+)!!あたしはねぇ…!」
言おうとしたその時。
菊丸「ゔ~…ιまだ気持ち悪い~。みんなもう帰ろぉぜー?」
河村「そうだね。もう遅いし。」
どうやらバーニングモードが解除されたらしいタカさんと、タカさんの肩につかまってグロッキーな英二が帰ってきた。
河村「あれ?乾と大石寝ちゃったのかい?」
やけに静かになったと思ったら、大石はテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。眼鏡で分からなかったが、乾も頬杖をついたまま寝ていた。
菊丸「おきろぉー。かえっぞー。」
大石「ん…。」
河村「乾、帰ろう。」
乾「……ぁ、あぁ。」
大石「寝てしまったのか。すまなかった。会計しないとな。」
大石は伝票を取ると、携帯で一人分の料金を出した。先程まで寝ていたとは思えない手際の良さだ。
大石にお金を渡し、あたしはコートを着た。
あの続きは、言うタイミングを失ってしまったし、さっきの一気でなんか疲れたのでまたの機会でいっかなと思っていた。
そしたら、会計を済ませてる間に不二があたしに耳元で言った。
不二「さっきの続きだけど、時間あるならこの後少し話さない?手塚と僕と、3人で。」
手塚を見ると、あたしと目が合った瞬間目を伏せた。
さて、どうしたものか…。
伝説のハジケリスト「あたしもこの事ははっきりさせときたいけど、3人で話すのはちょっとアレだから。だから店出て少ししたら10分以内にどちらかに電話する。でも、もしかしたらしないかもしれない。」
不二「…分かった。どちらにもかかってこなかったら、僕にも手塚にも恋愛感情はないってことだよね…。」
不二はどこか悲しそうに、あたしの言葉の意図を言ってみせた。
伝説のハジケリスト「手塚もそれでいいよね?」
手塚「あぁ。」
大石「お待たせ!さ、解散だ。」
会計を終え、あたし達は外に出た。
大石「今日はみんなとこうして飲めて嬉しかった。ありがとう…」
菊丸「ははは!おーいし泣いてやんの~!」
先程お前がトイレでリバースしてる時に、すでに散々泣いてたよと言いたいけれど、今のあたしに余裕はない。
乾「手塚、しめてくれ。」
手塚「分かった。皆…」
手塚が話始めると、みんな一斉にそちらを向いた。部活の時を思い出す。
手塚「今日はとても有意義な会合だった。また機会があったら集まろう。帰り道、気をつけて帰るように。解散。」
あたしはみんなに挨拶をし、携帯を取り出した。
英二や乾が送ってくれると言ったけど、それを断って少し離れた路地に移動した。
まさか、こんなことになるなんて。
あの頃は、ただ必死にボールを追い掛けてたあの人達。あたしはそんな彼等を追い掛けた。マネージャーという形で一緒に戦ってきたつもりだ。
邪魔だけはしたくなかった。だからあいつへの想いも伝える事はなく、仲間でいようと心に決めた。
あたしも不二や手塚と一緒で、臆病なだけだったのかもしれない。
でも今は違う。
今日久しぶりに会って、あの時に心の底に鍵をかけてしまったはずの気持ちが、
動いてしまった。
今日告げないと、きっと後悔する。
あたしは深呼吸してから携帯の電話帳を開き、あいつの番号を出した。
手塚国光
不二周助
菊丸英二
乾貞治
式場では誰にも会う事が出来なかったのだが、式典終了後、大石から、飲み会をやるから来て欲しいと連絡が来たのだ。
振り袖から私服に着替えたあたしは、会場である駅前の居酒屋に入った。
菊丸「お~い♪こっちこっちぃ!」
英二が座敷から手を振った。
座敷に行くと、すでにみんな揃っていた。
不二「やぁ、久しぶりだね。ここどうぞ?」
不二が自分の隣をすすめたので、あたしはそこに腰を下ろした。
伝説のハジケリスト「不二髪の毛短くなってる!」
不二「変かな?」
伝説のハジケリスト「ううん。大人っぽい。似合ってるよ!」
不二「ふふ、ありがとう。」
みんなを見ると、やっぱり成人を迎えただけあって見た目が大人っぽくなっている。だが、やはり手塚はあの頃のまんまだ。見た目的にはまぁ適齢かと思われる。
大石「積もる話もあるだろうけど、とりあえず注文しよう。伝説のハジケリストは何がいい?」
大石がメニューをくれた。みんなとお酒を飲むなんて、なんだか不思議だ。むしろこいつらお酒飲むのだろうか。あたしの中で、みんなポカリとかアクエリアスとか乾汁のイメージしかない。
伝説のハジケリスト「じゃあカシスピーチで。」
大石「了解。すみませーん!」
その手際の良さに、大石って絶対コンパで幹事やらされてるんだろうなーと考えていたら、店員さんが来て注文を取り始めた。
その間、あたしはトイレに立った。
トイレから戻ると、すでにグラスと料理が並んでいた。
大石「手塚、何か一言。」
手塚は黙ってグラスを持った。それに合わせてあたし達もグラスを持つ。
手塚「皆、久しぶりだな。あまりハメを外しすぎず、油断せず飲もう。乾杯!」
全員『かんぱーい☆』
みんなが頼んだお酒を見てみた。
手塚とタカさんはビール、乾はウーロンハイ、大石は緑茶ハイ、不二はウィスキーのシングルをロックで。英二はカンパリオレンジをそれぞれ飲んでいる。
伝説のハジケリスト「手塚ってお酒飲むんだ。」
手塚はお酒も煙草もやらない人だと思っていたが、普通にジョッキでビールを飲んでいる。
手塚「社会に出た時、酒が飲めないと色々困るからな。」
伝説のハジケリスト「ふーん。じゃあ好きってワケじゃないんだ。」
手塚「あぁ。」
そのわりには、美味しそうにグビグビ飲んでいる。
不二「でも、手塚が酔ったところって見てみたいよね。」
グラスの中の氷を転がしながら不二が言った。その姿が妙に様になっている。
伝説のハジケリスト「つーかあんた!よくウィスキーなんて飲めるね!」
不二「美味しいよ?一口どう?」
伝説のハジケリスト「遠慮しときます…」
乾の方に目をやると、すでに顔が赤くなっていた。
伝説のハジケリスト「乾平気?まだ半分も飲んでないよ?」
乾「あぁ、気にするな。顔に出るだけで酔ってはいない。それより、英二のピッチが早いのが気になるな。」
乾に言われて英二の方を見ると、グラスがすでに空で、メニューを見ながら次のお酒を選んでいる。
伝説のハジケリスト「英二ってお酒強いの?」
河村「ビールとか日本酒は好きじゃないみたいだけど、カクテルとかサワーの甘いお酒は好きみたいだよ?」
伝説のハジケリスト「へーぇ。あ、そういえばタカさん。お店はどう?」
河村「なんとか形にはなってるけど、親父に比べればまだまだだよ。」
英二「タカさんのお店でお祝いしたかったにゃ~。」
すでにいい具合になりつつある英二が、軟骨の唐揚げにレモンを搾りながら言った。
その時にレモンでベタベタになった手を、大石のおしぼりで拭いていた。
大石「タカさんもそう言ってくれたんだけど、そうしたらタカさんが全然飲めなくなるだろ?だから居酒屋にしたんだ。」
伝説のハジケリスト「じゃあさ、みんな就職決まったら、その初給料でタカさんのお店に行こうよ!」
河村「ありがとう。待ってるよ!俺も今以上に修業しないとな。」
タカさんが嬉しそうにジョッキのビールを飲み干した。
英二「でも、中学の卒業式の後タカさんのお寿司みんなで食べに行ったじゃん?すっげーおいしかったけど…。」
乾「職人というのは、修業の年数がものを言うらしい。」
河村「みんなが働いたお金で来てくれるんだから、最高のものを出せるように頑張るよ。」
乾のグラスも空になり、話をしながら飲んでいたあたしも、いつの間にか飲みおわっていた。
大石「みんな、次何頼もうか。」
河村「じゃあ、冷酒にしようかな。ありがとう大石。」
手塚「日本酒か。俺も河村と同じものを頂こう。」
不二「僕はウイスキーをダブルでもらうよ。」
乾「俺はウーロンハイ…いや、酸味のあるものを飲んでおこうかな。」
英二「いいから早く言えよぉ!」
確かに、そういう葛藤は心の中でして欲しい。
乾「グレープフルーツサワー。」
英二「俺カルーアミルクー♪」
伝説のハジケリスト「あたしも!」
大石「分かった。すみませーん!」
みんなの注文を一度で覚えた大石は、店員に難なく伝えた。
伝説のハジケリスト「そういえば、リョーマとか桃とか海堂ってどうしてるのかな?」
英二「俺桃ちんならよく会うよん♪おっきくなったぞぉ~(笑)」
伝説のハジケリスト「よく食べてたもんねー。」
乾「海堂は相変わらずだ。ただ…」
菊丸「ただ?」
乾が口を開いた時、注文したお酒が来た。
伝説のハジケリスト「で、なんだっけ。」
英二「海堂の話だよぉ!乾、続き続き!」
乾「あぁ。最近の海堂なんだが…靴下を履いていた。」
手塚「ごほっごほっ!」
伝説のハジケリスト「Σてっ、手塚!?」
手塚「大丈夫だ。気にするな。」
海堂の靴下がどうこうより、意外な人が意外なところでむせたのに驚いた。日本酒が喉に引っ掛かったのだろうか。それとも、手塚にとって海堂が靴下を履いていた事がそんなに衝撃的だったのだろうか。
どちらにせよ、今の出来事のおかげで、海堂の靴下に突っ込むタイミングを誰もが失った。
英二「おチビは~??」
大石「この前久しぶりに学校に行ったら、竜崎先生がいらっしゃったから聞いたんだ。越前は今海外でテニスをしているそうだ。」
英二「ほぇ~!スミレちゃんまだいるのぉ?!」
不二「確か、あと2年で定年じゃなかったかな。」
伝説のハジケリスト「そっか…。スミレちゃんにはマジで色々お世話になったよね。」
河村「うん。それに、下手したら俺達よりも元気だったよね。」
大石「近いうちにみんなでご挨拶に行かないとな。」
手塚「そうだな。」
伝説のハジケリスト「リョーマおっきくなったかな。」
話題がすっかりスミレちゃんになってしまったので、軌道修正してみた。
不二「越前なら、少し前に見かけたよ。」
伝説のハジケリスト「マジ?どこで?」
不二「大学のサークルで写真を撮りにお台場に行ったんだけど、その時にね。」
すると不二は、鞄からアルバムを取り出してページをめくった。
不二「ほら、これ。」
伝説のハジケリスト「あ!リョーマが男になってる!」
英二「どれどれ??…おー!おチビかっけーじゃーん(笑)」
大石「これは…もしかしてケビンじゃないか?」
りりしくなったリョーマの隣に、美形の外人さんが写っている。ケビンと言えば、肌も白く透き通り、顔立ちも綺麗なので、初めて見た時女の子かと思った。
ジュニア選抜の大会後、いきなり呼び止められて「リョーマなんてやめて、俺の女になれよ」って言われたが、あたしはリョーマの女でもなんでもなかったし、国境を越えた年下との恋愛ができる器じゃなかったので丁重にお断わりしたんだ。
不二「一時こっちに帰国してたみたい。それでケビンがついてきたって言ってたよ。」
河村「ケビン、男前になったね。」
写真のケビンは、そりゃもうかっこいい。二つ下なのにあたしよりも全然大人っぽい。しかも写真からもフェロモンが出ている。なんてセクシーなんだ。
ちょっと勿体ない事したかな、なんて思った。
英二「このおチビ身長どんくらいなの??」
不二「僕よりも少し高かったよ。そうだな…中三の英二と同じくらい。」
英二「えぇ~?!それじゃおチビじゃないじゃぁん!」
伝説のハジケリスト「そんなに伸びたんだ!やっぱり、あの時乾に牛乳をたらふく飲まされたからだね。」
不二「そういえば、もう乾汁作ってないの?」
乾「今は製造中止だ。大学で作ったら引き気味だったからな。要望があれば作るが…。」
河村「なつかしいなー。不二だけだったよね、アレ飲めたの。」
不二「ふふふ。青酢はさすがに無理だったけどね。」
菊丸「つーかさぁ!手塚って乾汁一度も飲んでなくなーいー?!」
ちょっと出来上がってきた英二は、手塚に絡み気味で言った。そして、ここにいる誰もが一瞬止まり、手塚をチラッと見た。だか、手塚は英二を相手にせずに涼しい顔をして日本酒を飲んでいる。
そう言えば手塚と英二って二人で話しているところを見たことがなかった。手塚は英二が少し苦手だということは、なんとなく分かっていたけれど。
菊丸「ずるいぞぉ!」
酔った勢いもあるのか、英二は手塚の両肩を掴んでガクガク揺さ振り出した。
大石「英二、よさないか!」
不二「あたま振ると、酔いが回るの早くなるらしいね。」
そう言われて手塚の顔を見たが、なんてことないいつものブッチョウ面だ。
河村「手塚強いな…。」
乾「手塚は酒に強い…と。」
伝説のハジケリスト「あんたまだデータとってんの?!」
菊丸「おーいし~、カシスオレンジ~!」
大石「分かったからιみんなは?」
こんな具合に、昔話に花を咲かせながらお酒がどんどんすすんで行った。
―2時間後―
菊丸「おぇ~ιトイレ行ってくる…」
伝説のハジケリスト「ちょっと大丈夫?!」
河村「ハーッハッハ!!オーライオーライ!英二は俺がなんとかしてやるぜ!!」
飲み過ぎて気持ちが悪くなった英二を、酔って昔のバーニング症状になったタカさんがトイレに連れて行った。
懐かしいメンツの懐かしい話題がそうさせたのか、はたまた隠れた素質があったのか。個人差はあるものの、あれからかなりの量を飲んだ。
そして、みんなすっかり出来上がり、色々面白い事になっている。
大石「たまに、自分が何のために存在してるか…グスッ。分からなくなるよ…。」
乾「自分が何のために存在しているのか…か。ヒッ!そもそも人間のヒッ!存在価値とアイデンティティーというのは…ぶつぶつ」
どうやら泣き上戸の大石。ため込む所はやはり変わっていないらしく、結構深刻な話題を、グラス片手に泣きながら乾に振っている。
乾も乾で、しゃっくりを挟みつつ的外れな事をぶつぶつ言い続けている。
まだイケるのはあたしと不二と手塚だ。
と、思ったら。
不二「ねぇ手塚。今日こそ君と決着を付けておきたいんだけど。」
手塚「……。」
不二「君がやらないと言うなら、僕にだって考えはあるよ。」
手塚「…分かった。手加減はしない。」
不二「ふふ。光栄だよ。」
何やら物騒な会話が終わると、テーブルに焼酎のボトルと氷と水が来た。
不二「伝説のハジケリスト、悪いけどお酒作ってくれる?」
伝説のハジケリスト「いいよ。手塚も?」
手塚「あぁ。頼む。」
あたしはグラスに氷を入れ、少し薄めに水割りを作った。
伝説のハジケリスト「おまたせ。こんなもんでいいでしょ?」
不二「もう少し濃くてもよかったけど、アルコールの好きじゃない手塚には丁度いいんじゃないかな。」
手塚「……。」
いつの間にか不二が開眼していた。先程からやけに手塚に挑戦的なのは、酔っているからだろうか。しかし、あたしには不二が酔っているかどうかは分からなかった。
手塚「いつでもいいぞ。」
不二「じゃあ、始めようか。」
伝説のハジケリスト「何やってんのー( ̄□ ̄;)!!」
何を始めるのかと、茄子の浅漬けを食べながら見ていたら、二人はグラスを合わせてから水割りを飲んだ。
一気に飲んだ。
不二「もう一杯作ってくれるかな。」
手塚「頼む。」
伝説のハジケリスト「だから、あんた達何してんの!」
不二「それは後で説明するから、とにかくグラスが空になったらどんどん作って欲しい。」
あぁ…。飲み競べね。
伝説のハジケリスト「いいけど、大丈夫なの?」
手塚「心配するな。」
不二「伝説のハジケリストは見守ってて。これは僕と手塚の問題だから。」
意味が分からないが、とても止められる雰囲気ではない事は確かだ。言われた通り、二人のお酒をグラスが空になるたびに作った。
英二とタカさんはまだトイレから帰ってこないし、大石は泣いてるし、乾は笑い出したしで、もうどうにでもなれだ。
伝説のハジケリスト「ねぇ、もう8杯目だよ?やめた方がいいんじゃ…」
不二「僕はまだ大丈夫。やっと体にアルコールが入った気がするよ。」
手塚「そうだな。」
顔がほんのり赤くなってはいるが、はっきりとした口調で言った。さすが元青学のNo.1とNo.2。化け物だ。
伝説のハジケリスト「もぅ…。一体何の勝負してんの?」
不二「知っておいた方がいいのかな。手塚はどう思う?」
手塚「いずれ分かる事だ。知っておいてもいいだろう。」
不二「……そうだね。」
不二はこちらに顔を向けると、真剣な眼差しであたしを見た。
不二「単刀直入に言うよ。中学3年の時…いや、もっと前からかもしれない。君の事が好きだったんだ。僕も、手塚も。」
伝説のハジケリスト「えぇ?!嘘でしょ?!」
昔の事とはいえ、いきなりのカミングアウトに心臓が跳ねた。
手塚「嘘ではない。」
伝説のハジケリスト「でも、それが何で今勝負になるの?」
不二「あの時の僕には、君と話したり、君を見てるだけで満足だったから。ただ、そばにいたかった。手に入れたいという気持ちよりもね。」
手塚「……。」
不二「手塚にも事情があって、君に何をするでもなく、想いを温めてただけだったから。」
不二はゆっくりと、力強い口調で話を続けた。
不二「僕達は、臆病だったのかもしれない。それぞれがお互いの様子を伺ってばかりいて、そのまま、君に何も伝えられなかった。」
手塚「情けない話だが、事実だ。」
不二「だから、手塚と決着を付けたいんだ。どっちが君にふさわしいかを。」
伝説のハジケリスト「酒でか。」
手塚「すまない。だが、何かしらの方法でけじめをつけたい。」
あー、もうなんか嫌だ。男ってのは何でこうなんだ。あたしの気持ちは無視で、勝手に勝負。こいつら昔から何につけても勝負だ。意味が分からない。
あー、なんかモヤモヤしてきた。
伝説のハジケリスト「お酒…」
不二「え?」
伝説のハジケリスト「あたしも飲む!」
あたしは空になった自分のグラスに、焼酎濃いめで水割りを作った。
そして一気に飲んだ。
手塚「伝説のハジケリスト…。」
伝説のハジケリスト「ふぅー。…あのさぁ、二人の気持ちはありがたいけど、あたしの気持ちはどうなるわけ?」
不二「うん。勝手な事だって分かってるよ。でも、決着をつけないと諦めがつかないんだ。」
伝説のハジケリスト「バカ言ってんじゃないよ( ̄皿 ̄+)!!あたしはねぇ…!」
言おうとしたその時。
菊丸「ゔ~…ιまだ気持ち悪い~。みんなもう帰ろぉぜー?」
河村「そうだね。もう遅いし。」
どうやらバーニングモードが解除されたらしいタカさんと、タカさんの肩につかまってグロッキーな英二が帰ってきた。
河村「あれ?乾と大石寝ちゃったのかい?」
やけに静かになったと思ったら、大石はテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。眼鏡で分からなかったが、乾も頬杖をついたまま寝ていた。
菊丸「おきろぉー。かえっぞー。」
大石「ん…。」
河村「乾、帰ろう。」
乾「……ぁ、あぁ。」
大石「寝てしまったのか。すまなかった。会計しないとな。」
大石は伝票を取ると、携帯で一人分の料金を出した。先程まで寝ていたとは思えない手際の良さだ。
大石にお金を渡し、あたしはコートを着た。
あの続きは、言うタイミングを失ってしまったし、さっきの一気でなんか疲れたのでまたの機会でいっかなと思っていた。
そしたら、会計を済ませてる間に不二があたしに耳元で言った。
不二「さっきの続きだけど、時間あるならこの後少し話さない?手塚と僕と、3人で。」
手塚を見ると、あたしと目が合った瞬間目を伏せた。
さて、どうしたものか…。
伝説のハジケリスト「あたしもこの事ははっきりさせときたいけど、3人で話すのはちょっとアレだから。だから店出て少ししたら10分以内にどちらかに電話する。でも、もしかしたらしないかもしれない。」
不二「…分かった。どちらにもかかってこなかったら、僕にも手塚にも恋愛感情はないってことだよね…。」
不二はどこか悲しそうに、あたしの言葉の意図を言ってみせた。
伝説のハジケリスト「手塚もそれでいいよね?」
手塚「あぁ。」
大石「お待たせ!さ、解散だ。」
会計を終え、あたし達は外に出た。
大石「今日はみんなとこうして飲めて嬉しかった。ありがとう…」
菊丸「ははは!おーいし泣いてやんの~!」
先程お前がトイレでリバースしてる時に、すでに散々泣いてたよと言いたいけれど、今のあたしに余裕はない。
乾「手塚、しめてくれ。」
手塚「分かった。皆…」
手塚が話始めると、みんな一斉にそちらを向いた。部活の時を思い出す。
手塚「今日はとても有意義な会合だった。また機会があったら集まろう。帰り道、気をつけて帰るように。解散。」
あたしはみんなに挨拶をし、携帯を取り出した。
英二や乾が送ってくれると言ったけど、それを断って少し離れた路地に移動した。
まさか、こんなことになるなんて。
あの頃は、ただ必死にボールを追い掛けてたあの人達。あたしはそんな彼等を追い掛けた。マネージャーという形で一緒に戦ってきたつもりだ。
邪魔だけはしたくなかった。だからあいつへの想いも伝える事はなく、仲間でいようと心に決めた。
あたしも不二や手塚と一緒で、臆病なだけだったのかもしれない。
でも今は違う。
今日久しぶりに会って、あの時に心の底に鍵をかけてしまったはずの気持ちが、
動いてしまった。
今日告げないと、きっと後悔する。
あたしは深呼吸してから携帯の電話帳を開き、あいつの番号を出した。
手塚国光
不二周助
菊丸英二
乾貞治
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