立海生活
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良く晴れた土曜日。ただ今全校生徒による町内清掃という、なんとも面倒な行事の真っ最中。
あたしのクラスの担当エリアは河原で、軍手をして、ゴミ袋片手にゴミを拾っていた。
読み捨てられた雑誌、空き缶、ビニール袋等、一つ見付けたらその先にもまた一つある、というくらい河原にはゴミが捨てられていた。
「もう!ゴミはゴミ箱に捨てろって書いてあるのに!つーかなんであたし達がこんなことしなくちゃならないの?」
「こうして自分達で町内の掃除をすることにより、ゴミのポイ捨てはいけないことだという意識が持てませんか?」
近くで一緒にゴミを拾っていた柳生が、トングで濡れたビニールを挟みながら言った。
柳生は学校指定のジャージですら襟を立てており、ただでさえ似合っていないジャージ+軍手+品の良い七三分け、という、一生解けそうもない方程式を体現している。
チラッと見て、やっぱり変だということを確認し、ゴミを拾いつつ会話を続けた。
「まぁそうだけど、あたしポイ捨てなんてしないもん。」
「そうですね。けれど、こうしてボランティア活動をするのも気持ちが良いではないですか。」
「そう?見返りないとイマイチやる気出ないし。うわ、何コレ、きったね!」
ゴミを拾いながらそんなことを話していると、
「口を動かす暇があるなら手を動かさんか。」
どこから見付けたのか、真田がボロボロの車輪を持ってやってきた。
「わ、何それ!それもゴミ?」
「あぁ。」
ゴミの収集場にドサッと置くと、その衝撃でずれた軍手を引っ張って直した。
「信じらんないね、そんなもん捨てるなんて。つーか手も動かしてたし!」
「柳生、そっちはどうだ。」
「無視?ていうか聞けよ、手ぇ動かしてるんだけど。このゴミ全部あたしが拾ったんだけど。」
「えぇ、だいぶ減りましたよ。伝説のハジケリストさんも頑張ってくれましたから。」
言いながら、私に微笑みを向けた柳生に感動していると、
「そうか、ではこちらを手伝ってくれ。」
「いいですよ。」
真田が柳生を連れて行ってしまった。
話し相手もいなくなり、ここらのゴミも拾いきった感じだったので、あたしも二人の後を追った。
少し離れた所で、真田が立ち止まった。そこには古いテレビ、小さな冷蔵庫、扇風機等の家電が捨てられていて
「勿体ない!まだ使えそうじゃん。」
家電のゴミ山に近付いて言うと、
「ええ、これは酷いですね。こんなに堂々と不法投棄が行われているなんて…」
柳生も心底残念そうな声を出した。
「運ぶぞ。」
そう言った真田の回りにはハエが数匹飛んでいて、その様子を目で追いながら
「え、でもこんなの学校まで運べなくない?」
すると、飛んでいたハエのうちの一匹が、真田の頭にとまった。教えようか教えまいか迷っていると、
「後ほど先生方が、業者の方と一緒にトラックで来ますから。」
「そうなの?」
「河原と裏山のエリアはトラックが来ると、最初に言っていただろう。お前は先生の話を聞いていなかったのか。」
「じゃあ最初から業者がやればいいじゃん。」
真田はテレビを、柳生は扇風機を持ち上げて
「それでは我々が町内清掃をする意味が無いではないですか。」
「これも学習の一環だ。文句ばかり言ってないでお前もゴミを拾わんか。」
クソ真面目というかなんというか、見上げた精神のオフタリサンだ。
けど、それはなかなかできることじゃないし、素直にスゴイと思う。面倒なのは変わらないけど、
「じゃあ、あたしも運ぶ!」
少しは見習おうと思って、さっきから真田の頭にとまって離れないハエを気にしつつも、ラジカセに手を掛けた。
「伝説のハジケリストさんはこの下の、空き缶等のゴミを拾って頂けますか?」
「え、でも…」
「力仕事は男の仕事だ。分かったら早く持ち場につけ。」
「では、何かありましたら呼んで下さい。」
「うん、分かった。」
家電のゴミを持って収集場へと向かっていく二人を見てから、完全にハエのことを言うタイミングを失い、結局言えないままあたしは言われたとおり下に降りた。
さっきいた場所と同じようなゴミが、ここら辺にも落ちている。
「だから、ゴミはゴミ箱に捨てろっつーの。」
ため息混じりにゴミを拾っていると、
「何これ」
よく交通整備の人が持ってるような、赤いライトセーバーみたいなのが落ちていた。交通整備の人にのみ持つことが許されるこのライトセーバー。をれを今まさに、この手で持っていることに少々の感動を覚え
「さなだー!やぎゅー!見て見て!」
家電ゴミの所へと駆け出した。
「ほら!これ!すごいの見付けた!」
興奮しながら叫ぶと、片手にポット、片手に炊飯器を持った柳生が
あたしのライトセーバーを見た。
「それは…トラフィックライトですね。」
「トラフィックライト?」
どうやらこのライトセーバーの真の名は、トラフィックライトというらしい。
ていうか、さっきまで真田の頭にいたハエが、柳生の肩に移動していた。いや、真田の頭にいるのとはまた別のハエかもしれない。
教えてあげたいけど、こっちの用事の方が先だ。
「これまだ使えるかな?」
「電池を入れれば点灯するかもしれませんね。」
是非点灯させたい、そんな思いでトラフィックライトを見つめていると
「遊んでないで掃除せんか!」
汚れたストーブを運んでいる真田に怒られたので、真田の頭をチラッと見た。するとそこにはハエはいなくて、やっぱり柳生の肩に移動したんだと納得してから、急いで持ち場に戻った。
トラフィックライトを傍らに置いてゴミ拾いを続けること十数分。だいたい自分の中で、『ポイ捨てされるゴミランキング』なるものが出来上がりつつあった。
一位はダントツでペットボトル。二位はタバコの吸い殻、三位は…と、広いながら組み立てていると
「おっ、これはこれは。」
エロ本が落ちていた。パラパラめくると、女優のアイコラやパンチラブラチラといった、下らない内容満載だった。
これは報告しなければと、あたしはまた駆け出した。
「さなだー!やぎゅー!」
上がっていくと、二人で一緒に大きな冷蔵庫を持ち上げたところだった。ハエはもうどこにもいない。
「今度は何だ。」
「見て見て!エロ本落ちてた!」
二人に見えやすいように、ずいっと前に出すと
「馬鹿者!女子がそんなもの持って嬉しそうにしているとは何事か!」
真田がカッ!と目を見開き、怒鳴った。
「だって落ちてたんだもん。」
「だってではない!」
「まぁまぁ真田君。伝説のハジケリストさんもお一人で淋しいのでしょう。ここが終わったらすぐ行きますので、もう少し待っていて下さい。」
柳生にそんなふうに言われてしまっては、
「はい、すみませんでした。」
と言うしかない。しょうがないから下へと降りようとすると、
「伝説のハジケリストさん、背中にハエがとまってますよ。」
「やだ!気持ち悪い!」
言われてジャージの上着を必死に動かした。
「もう大丈夫です。」
あの二人ならまだしも、なんであたしのところにまで来るかなぁ、なんて憤慨しながら、また自分の持ち場に戻った。
数は多いくせに代わり映えのないゴミを拾い続けていると、だんだん飽きてくる。それに冬とはいえ、日差しを遮るものが無く少し暑い。一回ババシャツ脱ぎに行って、帰ってくる頃には終わってたらラッキーだな、なんて考えていた。
しかし、こういう地味な作業ほど黙々とやってしまうわけで、そんな下らないことを考えながらゴミを拾っていると、気付いたらゴミ袋がいっぱいになっていた。
「あー疲れた」
いっぱいになったゴミ袋を閉じると、どっと疲れが襲ってきた。ほとんど前屈みでゴミを拾い続けていたので、腰も痛い。
伸びをしてそこに座り込むと、爽やかな風があたしの頬を撫でた。遠くからは、うちの生徒の声が小さく聞こえてくる。
さっきまでゴミでいっぱいだった河原は、すっかり綺麗になっていて、川の流れる音も、陽の光でキラキラ揺れる水面も、何もかもが気持ちよくて清々しい。
ちょっと休憩しようかな、なんて仰向けになると、日差しと疲れで自然に瞼が降りてくる。
こんな所で寝たらダメだと思いつつも、あたしの意識は沈んでいった。
意識が戻りかけ、まだまどろみにいる中
「真田君、一度私とダブルスを組んでみませんか?」
話し声が聞こえてきて
「ダブルスも悪くないが、お前とのシングルスでの真剣勝負も捨てがたい。」
自分の体中に響いてくるような、真田の声で目が覚めた。
「ん…」
「お目覚めですか?」
顔を上げると、あたしは真田の背中にいて、隣には柳生がいた。
「まったく、清掃中に土手で眠る奴があるか。風邪でも引いたらどうするんだ。」
そういえば、全然寒くない。真田の体温と、あたしの肩に掛けられた真田のジャージ。なんで真田のジャージだと分かったかいうと
「半袖、寒くない?」
「寒くなどない。鍛え方が違うからな。」
誇らしげに言う半袖真田に、
「そっか、ありがと。」
と、まだ半分寝ぼけた状態でお礼を言った。
「背中に人肌もありますからね。伝説のハジケリストさんは体温が高そうですし。」
そう言う柳生の手には、学校指定のスニーカーがあった。それは自分の物だということにすぐ気付いて
「柳生も、靴ありがとね。臭い?」
「いえ、臭くなどありませんよ。」
それを聞いて安心し、軽く伸びをすると冷たい風が頬をかすめた。完全に目が覚めて、あたしはアレの存在をふと思い出した。
「ねぇ、あたしのパシフィックライトは?」
「トラフィックライトのことですか?それでしたら、残念ながら先生が回収されましたよ。」
「えぇ~!」
「こら!暴れるな!」
こんなことなら抱いて寝ればよかったと後悔していると
「目が覚めたなら自分で歩かんか。」
真田が歩みを止め、あたしを降ろそうとした。
「精神的に傷を負ったので、降りれません。」
真田になら重いと思われてもいいし、ていうかゴリラみたいに力あるから思ってなさそうだし、何よりこの状況が居心地良くて、自分でも珍しいけど甘えてしまう。
「おやおや、甘えん坊さんですね。あと少しですから、このままおぶって差し上げたらいかがです?きっと足腰の強化に繋がりますよ?」
「トレーニングの一環だと思ってさ、ね!」
「先程粗大ゴミを運んでいた延長だと思って…」
「え、あたしも粗大ゴミってこと?!ふざけんなよヒロシ!」
「いえ、物の例えですから。」
「だとしたら完全に粗大ゴミに例えられてんじゃん!」
「人の上で暴れるなと言ってるだろうが!」
真田がさっきよりも怒ったので、
「ごめんなさい…」
素直に謝った。すると、小さくため息をつき、あたしの体を一瞬持ち上げると、体勢を整え
「まったく…今日だけだぞ。」
「やったー!」
そしてまた、学校へ向かって歩き出した。
綺麗な夕焼けの中、成績のこと、部活のこと、最近読んだ本のこと、二人らしい会話をしているのを聞いてたら、またうとうとしてきて
「おや、また眠ってしまいましたね。とても気持ちよさそうですよ。」
「子どもみたいな奴だな。」
「よほど真田君の背中が安心するのでしょうね。まるで、お父さんみたいですよ。」
「………。」
その時のあたしは、なんだかとても温かい夢を見ていた気がする。
二人には迷惑だろうけど、もう少しこのままでいたいな、なんて思っていたのは、夢の中でなのか現実でなのか。
たぶん、両方。
終わり
【後書き】
パンパカパーン!☆6ゴリラおめでとうございまーす!!6ゴリラ賞のオマケとして、僭越ながら書かせて頂きました。別に頼んでねぇしいらねぇし、みたいな感じですよね。
柳生と真田が候補に挙がっていたので、保護者な二人の話を書きたくなったのでした。
甘くもなくギャグでもない、単なる日常風景ですが、少しでも雰囲気を感じて頂けたら幸いです。こんな文章じゃ無理か!
涼様、6ゴリラ報告ありがとうございました。そして、最後の最後で台無しにしてすみませんでした!