氷帝生活
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終業式が終わったあと、今夜のクリスマスパーティーの最終確認をするため、一旦部室に寄った。
跡部が主催すると言ってくれたのだが、今年の年末は特に忙しそうだったので、忍足と長太郎が幹事をすることになった。
珍しい組み合わせだが、センスの良さを考えたら妥当な二人だ。予算は跡部バンク(跡部の財布)から出るので問題もない。
「では、17時に駅前に集まって下さい。それからお店に移動しますので。」
「なぁ長太郎、現地集合でいいんじゃねぇか?わざわざ集まんなくてもよ。」
「ちょっと分かりづらいところにあるので、俺と忍足さんで案内します。」
「そういうことやから…時間厳守で頼むわ…。」
去年のクリスマスは、今のメンバーから長太郎と日吉を除いたメンツでパーティーをした。樺地は当たり前のようにいたけど、長太郎と日吉はまだ一年生で、あたしたちにここまで馴染んでいなかった時期だった。
豪勢な食事の後、跡部の家でがっくんが持ってきた人生ゲームを夜通しやった。やたら子沢山の跡部と宍戸に、開拓地を買わされた忍足、そして転職ばかりのがっくんとジローを尻目に、あたしと樺地の大勝ちだったっけ。
罰ゲームでは、最終的に一番ビリが多かった忍足が掃除の時間にがっくんの学校指定ジャージ(もちろんツンツルテンのピッチピチ)を着用して、掃除をした。
思い出すと笑っちゃうくらい楽しかった。
今年は人数も増え、去年よりも賑やかになるなーと思っていると、日吉が鞄を持ってスッと出ていったのが見えた。
「ねぇ、今日って日吉来るよね?」
「誘ったんですけど、俺はいい、って…。」
「若の家って仏教なのか?」
宍戸も残念そうな声のトーンを出しているが、そうじゃないだろうに。まぁ確かにそういう可能性はあるけど、日吉の参加しない理由はそうじゃないと思う。
「日吉って、大勢で遊ぶの苦手っぽいもんね。」
「でも、一応予約人数に日吉を入れてあるんですよ。だから、後でもう一度誘ってみようと思ってるんです。」
「そうだよね、やっぱり全員揃ってた方が楽しいもんね。」
宍戸の疑問をスルーし、長太郎と真剣に話していると
「なぁ、伝説のハジケリストが誘った方が効果あるんじゃねぇか?」
突然がっくんが言ってきた。
「あたしが誘ったら余計来ないでしょ~。」
ただでさえ何となく煙たがられている感じであり、若干冷たい。
普段からわりとクールではあるが、そうじゃなくて、女子を極端に苦手にしている男子のような態度なのだ。
だから、あたしが言っても「行きません」の一点張りな気がしてならない。
「来たくないのを無理に来させる必要なんてねぇだろうが。なぁ、樺地。」
「そうですけど……全員揃ってお祝いしたいです。」
いつものように、ウス、と言うかと思ったけど、やっぱり樺地もみんなで楽しみたいというのが本音らしい。
「今年のクリスマスは今年しかないんだよ?そりゃあこっちのワガママかもしれないけど、一緒に戦ってきた仲間じゃん。時間共有したいじゃん。」
馴れ合いではなく、一緒に戦ってきた中で確かに絆が生まれた。それは日吉も感じているはずだが、今更なのと照れがあると思う。クリスマスくらい、みんなで仲良くしたっていいじゃないか。
「そないに言うなら…岳人の言う通り伝説のハジケリストが連れて来な…。」
「え。」
「どうせダメ元なんやから…とりあえず、言うだけ言うてみ…?日吉かて男から誘われるより、女の子から誘われた方が嬉しいやろ…。」
「そうだよな、コイツもギリギリ女子だもんな!」
とりあえず失礼極まりないがっくんを冷ややかな目で見た後、
「じゃあまた後で連絡するね。」
鞄を持って急いで部室を出た。
「日吉!」
日吉の帰る方向へ走ってしばらくすると、河川敷を歩いている日吉を見つけた。
うちの部員はみんな後ろ姿が特徴的なので、すぐに認識できて間違いもなく非常に助かる。
「そんなに急いで、俺に何か用ですか?」
予想通り迷惑そうな顔をされたけど、忍足の言うとおり言ってみるだけ言ってみようと思う。
「あのさ、今日のクリスマス会行かないの?」
すると、日吉はため息をついて言った。
「まさか、それを言うためだけに走ってきたんじゃないですよね。」
「あ…いや…その…」
「行かない、と鳳に伝えたはずです。では失礼します。」
ぶっきらぼうに言い放ち、踵を返して歩き出そうとしたので、必死だったあたしは日吉の腕を両手で掴んだ。
「日吉って仏教?」
「は…?違いますけど。」
後で宍戸に報告しよう、と、どこかで冷静になりながらも、刻々と日が暮れていくのを見て気持ちが焦ってくる。
「全員揃ってのクリスマス会だよ?せっかく長太郎と忍足が幹事やってくれてるわけだし、樺地も日吉に来て欲しいって言ってたよ?みんなでご飯食べるのって楽しいしさ。あたしも日吉と一緒に遊んでみたいし、いっぱい話したいし、それに」
「…あの、放してもらえませんか。」
「あ、ごめん!」
熱く訴えているうち、思いっきり掴んでしまっていた事に気付いて、慌てて両手を離した。
少しの沈黙を挟んで、日吉が呆れた口調で尋ねてきた。
「伝説のハジケリストさんは、そんなに俺に来て欲しいんですか?」
「え?あ、うん…そりゃあまぁ…。そうじゃなかったらここまで来てないし。」
「今日、全員来るんですか?」
「うん。だから日吉も…」
「行きません。」
何この流れ!
そんなに団体行動が嫌なのだろうか。この先あんたはどうするんだ。
ちょっとムッとしながらそんなことを考えていたら
「…伝説のハジケリストさんと二人なら行ってもいいんですけどね。」
「え?!」
自分の耳を疑った。
「聞いてなかったんですか?伝説のハジケリストさんと二人だったら行くと言ったんですよ。まぁ、俺は別にクリスマスとかいう浮ついたものに興味はないですけど、せっかくですから。」
「それってつまり、あたしと過ごしたいって事??」
「全く…何度も同じ事言わせないで下さい。」
ため息混じりに口説かれるのなんて初めてで、ましてやその相手があの日吉で…
「で、どうなんですか?」
正直戸惑うというか、何というか…
「えっと…とりあえずクリスマス会には出ようよ。」
「………。」
日吉は何とも言えない苦い表情をしている。前々からちょっと思ってたけど、日吉って結構顔に出るタイプかもしれない。
「で、途中から抜けて、二人で遊ぼうよ。」
「………。」
ほら、一瞬で目が見開いた。
「ダメかな?」
「……しょうがないですね。」
「やった!約束!」
日吉の小指に自分の小指を絡めて指切りをした。
こうして指切りをしててなんだかむず痒い。告白とも取れる日吉の言葉に、心臓がドキドキしている。
指切りを終えると、日吉にまた後で、と言って別れた。帰り道に忍足に日吉出席のメールを打ちながら、日吉に言われたことを打とうとしては消した。誰かに聞いて欲しくてしょうがなかった。
どうしてこんなに嬉しいんだろう。
今までそんなに日吉と話したことがなかったけど、何かが変わりそうな気がする。それは何か、分かるようで分からない。
今夜、それを確かめようと思う。
何を着ていこうか…今日はいつもよりも支度に時間が掛かりそうだ。
終わり
[後書き]
メリークリスマス!ということで、クリスマス話を書いてみました。久しぶりのアップですね。最近行事をことごとくシカトしていたので、(マイペースなので現在の脳内行事は文化祭あたりでごわす)
Yちゃんの大好きな(ていうか愛)日吉を恐れ多くも書いてしまいましたが、なんか中途半端で盛り上がりに欠けますね。やはり私はこんなレベルです。Yちゃんすまねぇ!
ドキサバで私も日吉に胸キュンしました。ちょっとYちゃんの気持ちが分かりました。