氷帝生活
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今日この日
あたしは絶対ジローに告る。
そう、心に決めていた。
「侑士!伝説のハジケリスト!バレーボールやろうぜ!」
昼休み、あたしと忍足のクラスにがっくんがやってきた。バレーボールを小脇に抱え、例のごとく無駄に跳ねている。
「やるやる!忍足はどーする?」
「俺もやるわ…。やることないしな…。」
「よっしゃ!早く行こうぜ!」
忍足が「それはアカン」と言ったのを無視し、あたしはスカートの下にジャージを履いて教室を出た。
「で、どこでやんの?」
「バレーボール言うたら屋上やろ…。」
「だよな!」
一昔前のOLさんの昼休みの過ごし方みたいだ。きっと忍足もそのイメージで言ったに違いない。がっくんは、単に高いところが好きなだけだから賛同したんだろう。
「今日はわりとあったかいね。」
「最近マジで寒かったよなー。」
屋上は広いし、季節の関係もあって、バレーボールをやるスペースは十分にあった。
そこに移動し、暗黙のルールとばかりにそれぞれ結構距離をあけ、三角形の位置に立った。
「古今東西でやらへん…?」
「順番は?」
「そんなのめちゃくちゃに決まってんだろ!行くぜ?」
がっくんがボールを構えたと同時に、忍足が言った。
「古今東西…」
すると、打ち合せでもしたかのようにボールを高く上げ、打ちながら叫んだ。
「跡部の名台詞!『俺様の美技に酔いなぁ!』!」
がっくんが打ったボールは、忍足へと。
「『俺様を誰だと思ってやがる』…。」
忍足が上げたトスはあたしにきた。
「えっと、『腑抜けてんじゃねぇよ!』。」
あたしは忍足にトスを返した。
「『全身の毛穴をブチ開けろよ』っと…。」
忍足のトスは、またあたしへと。
「う、あ、『アーン?』!」
あたしはがっくんにトスを上げた。
「『俺様にロブを上げたお前が悪い』!」
体勢を崩したが、持ち前の反射神経でうまくレシーブした。
がっくんのレシーブは忍足へ。
「ナイス…。『ウコン?下品な事言ってんじゃねぇよ』…。」
忍足はまたがっくんにトスを上げた。
ちなみに、この前あたしと忍足が「ウコンって漢方薬だっけ?」みたいな話をしてたら、いきなり叫んだ台詞だ。
「くそくそ!『ポルテ?なんの呪文だよ。』っ!」
頑張って上げたトスが、あたしの方へ。
これも同じ日に、あたしが跡部に「ポルテいる?」って聞いた時に返ってきた台詞だ。
「『そんなはした金、たいしたことねぇよ』!」
名台詞かどうか、際どくなってきた。
あたしはもう一度、がっくんにトスを上げた。
「また俺?!…っ『よっちゃんイカ?どこの海に生息してんだ?』っ!」
跡部の痴態が、屋上にこだまする。
しかし、二人ともさすが現役プレイヤーだ。ボールを追いながらよく思いつくもんだ。あたしはボールを見るのがやっとで、ネタが中々思い浮かばない。
そして、がっくんが上げたボールは忍足へ。
「『取れ、樺地。』…。」
過去の跡部の名言を必死に探していると、それを見抜いたかのようなスピードボールがあたしにきた。
「う!?『ウス』……あ。」
それのフリが樺地だったもんだから、反射的に返事をしてしまった。
もちろん取りそこねたので、ボールはあたしの後ろへと転がっていってしまった。
「侑士ナイスー!伝説のハジケリストバツ1個な!」
「なんや…伝説のハジケリスト。いきなりバツイチかい…。」
バツが3個になると、ジュースをおごらなければならない。
「バツイチって言い方やめてくれる?!もう…。」
結構遠くまで転がっていったボールを拾いに行くと、貯水タンクの脇から足が出ているのが見えた。
「あ…。」
覗いて見ると、そこにはやはりジローが寝ていた。日当たりがいい場所で、とても気持ち良さそうだ。
あたしは今日、ジローに告るんだ。
寝顔を見ながら、胸がきゅんとなると同時に、ものすごく緊張してきた。
あたしは今日、ジローに告るんだ!
「おーい!おせぇぞ!何してんだよ。」
中々戻って来ないあたしに痺れを切らしたのか、がっくんと忍足がやって来た。
「ううん。なんでもない!」
隠す必要はなかったが、考え事が考え事だったので慌てて二人の元へ走り寄った。
「さ、続き続き!」
「怪しいなぁ…。なんか見たんちゃうん…?」
「べ、別に何も?」
「おい侑士!あれ、人の足じゃねぇ?」
ジローの足を発見したがっくんは、小走りで貯水タンクの方へ行った。
「あ!芥川じゃん!こんなとこで寝てやんの。」
「あかんなぁ…。風邪ひいてまうで…?」
忍足もジローに近寄り、しゃがみ込んでジローを見た。
「岳人…、教室からペン持って来てくれへん…?」
「なんで俺が。」
「ジローに風邪ひかれると…困るやろ?」
風邪とペンと、どういう関係があるというのか。忍足の思考は、あたしには読めない。
「あぁ、そういうことか。じゃあちょっと行ってくるぜ!」
「頼むで…。」
テニスでも普段でもツーカーコンビのこの二人。がっくんは鈍いくせに、忍足の伝えたいことだけは大体読み取る。
あたしには、忍足の気持ちを読むのが難しい。
「ねぇ、なんで風邪ひかれたら困るからって、なんでペンが必要なの?」
「なんでって…こないなとこで寝てたら風邪ひくやろ…?」
「起こせばいいじゃん。」
「簡単に起きるか…?普通に起こしにかかったら、貴重な昼休みが終わってまうで…。」
「じゃあどうすんの??」
「起こしても起きないなら、無理矢理起こすしかないやろ…?(妖笑)」
「まさか…!」
「お待たせ!!」
ちょうどいいタイミングで、がっくんが戻ってきた。手にはポスカやら何やらいっぱい持っている。
「早かったな…。」
「おう!女子からいい物借りてきたぜ♪」
そう言って、オレンジのチークを忍足に渡した。
「ナイスや…。さぁ、始めよか…。」
「よしきた!」
分かっている。こいつらジローの寝顔に落書きする気満々なんだ。忍足は予告通り、ジローの閉じられたまぶたに目を書き始めた。
がっくんは、それを見ながら肩で笑っている。
好きな人がポスカと油性ペンで落書きされているのだ。この二人を止めたい気持ちは当然ある。
けど、
好奇心には勝てなかった。
「ブフッ!忍足やりすぎでしょ(笑)」
「岳人にはかなわんて…。コレのおかげで、一気にアホの子みたいになったしな…。」
「俺が描いたうんこマークに伝説のハジケリストが使った化粧品、侑士の描いたヒゲと目ん玉と眉毛…。ガハハ!最高だな!」
夢中になって楽しんだ結果、ジローは大変身を遂げた。
おでこには白いポスカで描かれたうんこの絵。鼻にはオレンジのチークが塗られ、酔っ払い、もしくは畑仕事系になっている。そこへ、カールおじさんのごとく、黒いポスカで口の周りが囲われている。当然、眉毛もつながっている。
まぶたの上には油性ペンの目玉があるので、起きているかのようだ。
「あはは!これヤバイって!あ~、お腹痛い!」
「記念にこのうんこマン写メ撮ろうぜ!」
「一緒に撮ったるわ…。岳人、横に寝てみぃ…。」
撮影会で盛り上がっていると、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「あー楽しかった!そんじゃ、部活でな!」
「うん!また後でね!」
がっくんと別れ、あたしと忍足は自分の教室に戻った。
「起きて自分の顔見た時の反応が楽しみやな…。」
「びっくりするだろうねー(笑)」
「最後まで気付かんかったりしてな…。」
「あり得る!あれで部活やられたら……あ!!」
「どないしたん?」
困る。非常に困る。
今日、あたしはジローに告るんだ。あのままでいられたら、とても告りづらい。
「なんでもない…。」
午後の授業の中休み、落書きを消させるためにジローを探し回ったが、結局見つからなかった。
授業なんて手につかず、ただひたすら、本人が気付いて顔を洗っていることを祈るばかりだった。
ジローを見つけることができないまま、無情にも部活動の時間がやってきてしまった。
あの時、どうして二人を止めなかったのだろう。止める止めないの以前に、一緒に参加してしまった自分が悔やまれる。
「なぁ、芥川見なかった?」
「見てねぇけど、ジローがどうかしたのか?」
まだ部活に来てないらしく、がっくんはストレッチ中の宍戸に尋ねていた。
「あいつ、今日うんこマンだからよ!」
「意味分かんねぇよ。」
「見りゃあ分かるって!」
あたしはマネージャーの仕事をしつつ、近場でジローの睡眠スポットを探してみたが、どこにも見当たらなかった。
顔の落書きを見て怒って帰ってしまったのだろうか。
イジメにあったと勘違いして、どこかで泣いているのだろうか。
いや、それはない。
ジローに限ってそれはない。
大体、監督が来るまでどっかで寝てるし。
昨日部活でハッスルしてたから、今日は寝ててもおかしくないし。
だがしかし、と、色々考えながら仕事をしていたので、跡部のドリンクに間違えて雑巾の絞り汁を入れてしまった。
そして、時間は刻々と過ぎていった。
部活終了間際。いつものように跡部が樺地におつかいを頼んでいた。
「おい樺地、ジローを起こしてこい。そろそろ監督が来る。」
「ジローさんは…今日は用事があるそうです。」
用事?!用事があるのにあの顔はマズイぞ。
「そうか…。そういや今日だっつってたな。」
「なにが?!なんで今日ジローいないの?!」
跡部が何か知っているようだったので、つい聞いてしまった。
「アーン?そんなこと本人に聞けよ。」
「だって、もう帰っちゃったんでしょ?大事な用事とか?」
「そうだな…。あいつにとっちゃ大事な用事だな。」
「跡部、昼休み以降ジローに会った?」
「いや、会ってねぇが…。どうかしたか?」
「…ううん。なんでもない。」
まぁ、顔にあんなペイントを施されていようが、ジローならなんとかなるだろう。パンツで試合に出るくらいだ。
それに、いくら好きと言えど、あの顔に告るのはちょっと無理だ。
また、日を改めよう。
部活も終わり、あたしはとっとと部誌を書き、とっとと着替えてみんなに挨拶をして部室を出た。
今日、ジローに告ると決めていたが、その誓いもキャンセルになってしまった。士気が下がってしまったが、自業自得な部分もあるし、落書きの余韻があるままでの告白ってのは微妙なので、これはこれで良かったと思う。
それに、ジローに用事があったのだから、どっちにしろ今日は無理だったわけだし。来週あたりがいいかも。あぁ、落ちていく夕日がキレイだな…
と、考え事をしながら校門を出ると、
「おーい!」
後ろから、いないはずのジローの声が聞こえてきた。
「あれ?用事があったんじゃなかった…の?!Σ(○□○;」
振り向き様に驚いてしまった。驚くなと言う方が無理だ。
夕日に照らされ、昼休みのまんまのジローがこっちに走って来た。
「用事?あー…これから!」
満面の笑みだ。ジローの必殺スマイルも、この落書きの前では必殺の意味が違ってくる。
まてよ。ジローの用事の前にせっかく会えたんだし、これは告るチャンスじゃないか?いやいや、この顔を前に笑わずに言えるか?無理だろう。現に昼休みのことがフラッシュバックしてきて、笑いがこみ上げてきているではないか。やはり今日はやめておこう。
「今までどこにいたの?」
「ん~、ちょっと買い物。」
ブーッ!!そのままでどこまで行ってきたのさ?!やめて、せっかく夕日がキレイで、二人きりなのに笑わせないでくれ。むしろ夕日がキレイなトコも面白い要因にすら思えてきた。
「へ、へぇ~。何買ってきたの?」
「コレ!」
ジローはポケットからブラックブラックガムを取り出した。
意味が分からないのと、ジローの顔の落書きと、がっくんの「うんこマン」が後押しして、どんどん笑いを堪えるのが辛くなってくる。
「それで部活サボったの?」
「サボってないよ~?跡部にはちゃんと言ってあるC~。」
「そっか、じゃああたし帰るね!」
これ以上話すのは危険だ。ジローも用事があるだろうし、なにより爆笑してしまう。
名残惜しいが、あたしは踵を返した。
が、
「待った!」
ジローに腕を掴まれた。その強さから、必死な様子である事が伝わってきた。
「な、何?」
「ちょっとオメェに話があるんだけど。」
あ!Σ( ̄□ ̄;もしかして、落書きしたのがバレた?!
ヤバイ…。
「うん、ちょっとならいいけど…。忍足とがっくんはいいの?」
「オシタリと向日?なんで??」
「だってその落書き…ブッ!!」
顔を見上げた瞬間吹き出してしまった。
「なになに?なんかおもしれーコトでもあんの?」
「ううん!なんでもないの!思い出し笑いしちゃっただけだから。」
「そっか。あの…さ、オレがなんでこんなガム買ったかなんだけど、その~」
ガム??どうやら落書きの話ではないようだ。なら安心だ。後は笑いをどう堪えるかだ。
「笑わないで、真剣に聞いてくれる?」
「えっ?!は、うん!」
たった今、自分で思っていたこととリンクしたことを対象である本人に言われ、必要以上にびっくりしてしまった。
なにやら冗談では済まされない雰囲気が、冗談のような顔から出ているので、あたしは真剣に話を聞こうと腹をくくった。
「これ、眠気覚ましのガム。だから、え~と…その…。」
どこか一点を見つめればいいんだ。顔全体を見るから笑ってしまうんだ。
おでこ…いやだめだ。がっくんのうんこマークがある。
目…ここもだめだ。つながってる眉毛に目が行ってしまう。しかも瞬きするたび、忍足が描いた第二の目が現れる。
鼻…あ!夕焼けでちょうどチークが見えない!よし、鼻見てよう。
「オメェに好きだっつーのに、眠かったらいえないからっ!」
「へ…?」
目のやり場を探すのに必死で、ジローの言ったことを理解するのに時間が掛かった。
でも、確かに聞こえた。
「だから…その…オレは伝説のハジケリストが好きなんだって!///寝てばっかいるし、オメェにも怒られてばっかだけど…」
「もしかして、あたし今告られてる??」
「そうそう!」
あっちゃ~。嬉しいんだけど、すっごく嬉しいんだけど、敬遠した日に限ってコレ…。
よりによって昼間のまんま。しかも犯人の一人はあたしってコレ…。
「伝説のハジケリストは…オレのこと…好き?」
「あたしは…ふっ…」
ダメだ!嬉し過ぎるのと、このシチュエーションのおかしさに耐えられない!!
「ふふっ…あは、あははははは!(≧▽≦)」
「なんで笑うんだよ~!オレ超真剣なんだけど!」
「ごめん、ごめんね…(ひぃ、ひぃ)」
「マジショック~…。オレ帰るC…。」
ジローが肩をがっくり落とした。笑ってる場合じゃない。伝えないと。
「待って、あたしもね、今日ジローに告ろうと思ってたの!」
「マジ?!それって、オメェもオレのこと好きってこと?!」
落ちていた肩と頭が、一瞬にして上がった。
「うん!」
せっかくいい感じ(?)なのに、顔を見るとまた笑ってしまいそうだ。
けど、そんな心配は不要だったみたい。
「マジうれC~っ☆昼間いっぱい寝といて良かったよー!サイコー!」
「ちょっ!くるし…!」
あたしの目の前には、ジローの肩越しに見える校舎しか映ってないから。
思ってたのとはだいぶ違うけど、念願叶って付き合うことができた今日。
告白は、ジローから。
「なぁなぁ!手ぇつないで帰ろーぜ!」
「ごめん。その前に、水道行こう。」
明日、忍足とがっくんに、この面白いなれ初めを聞かせてあげよう。
終わり
後書き
[後書き]
いつもお世話になっている紗宮羅ちゃんが、素敵な相方さんと新たなスタートを切ったということで、勝手にお祝いで押し付けました。
ハイ!すみません!こんなスットコドッコイな話を貰っても困るだけですね!
しかもまた無駄に長い!ハイ!迷惑ですね!
紗宮羅ちゃん、京様、合同サイトの開設おめでとうございます。管理人一同、とても喜ばしく思います。お二人の愛のホームページ、とても素晴らしい世界です。お互い楽しんでサイト運営していきましょうね☆
伝説のハジケリスト様、ここまでお付き合い頂きありがとうございました!