氷帝生活
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「…これは幸村の、…これはブン太の。」
あったかくなってきたこの時期。練習で体が温まると、みんなジャージを一箇所に脱ぎ捨てる。
あたしはそれを拾い、誰のものかを匂いで分別して畳んでおく。もう慣れたもので、素早く的確に分けられるようになった。
「立派な嗅覚だな。」
いつものように嗅ぎ分けているところへ、みんなのデータを取っていた蓮二が声を掛けてきた。
「どうも。ていうか、みんな分かりやすいよ?」
「そうか。俺にはよく分からないが。」
「匂い袋好きなのに?」
「それとこれとは別だ。男の匂いなど、好んで嗅ぎたくはない。」
あたしだって好きで嗅いでるわけではない。名前の書いてない同じジャージ。サイズもだいたい同じなので、匂いの方が確実だ。
「…これは真田、…これは柳生。」
「伝説のハジケリスト。」
「んー?」
「あいつらの匂いの特徴を、参考までに聞かせてくれないか。」
至って真面目に聞いてきたので、あたしも真面目に答えようと思う。
「うーん、幸村のは洗濯洗剤のいい匂い。」
「そうか。」
「うん。ブン太のはガムの匂い。」
「予想通りだな。」
カバンにガムを入れてるので、制服も同じ匂いがする。
「で、真田はおじいちゃんちの匂い。」
「線香か畳の匂いではないのか?」
「それと墨汁みたいな。」
「なるほど。」
蓮二はふっと笑うと、データノートに何やら書き込んだ。目線の先はスマッシュ練習をしている赤也だったので、あたしと会話しながらもデータを取っているんだろう。さすがだ。
「柳生も洗濯洗剤のいい匂いなんだけど、柳生のは微妙にあったかい匂いなんだよね。幸村のに比べると。」
「使っている洗剤が違うからだろうな。」
「うん。でもいい匂いなのこの二人だけなんだよね。」
蓮二はジャージを滅多に脱がないので、もちろんこの中には入らない。
あたしは引き続き、嗅ぎ分けながらジャージを畳んでいった。
「…これは赤也の。」
「理由は?」
「なんか男の子臭いっていうか、汗臭いっていうか。」
「嗅いでいて気分が悪くならないか?」
「ずっと嗅いでるわけじゃないから平気だよ。」
若干潔癖の気がある蓮二は、解せないといった顔であたしを見下ろしてきた。
「…これは仁王かな?」
「確信が持てないのか?」
「仁王は無臭だから、嗅ぎ分けてって最後に残ったのが仁王のジャージなの。」
「そうか。危険な匂いはしないのか?」
何気に上手いこと言って、蓮二はまたふっと笑った。上級すぎて上手く返せないので、仁王のジャージという確信を得るために最後の一枚を嗅いだ。
「…やっぱりそっちは仁王のだ。で、これはジャッカル。」
「ジャッカルのジャージはどんな匂いだ?」
「下駄箱の匂いに、微妙にだけど濡れた犬みたいな匂いを足した感じ。」
「一体どんな匂いだ。」
そんなはずはないだろうみたいな、不可思議な顔つきをしたので、あたしはジャッカルのジャージを蓮二に渡した。
「嗅いでみなよ。」
「遠慮する。」
「いいから。」
しばらく沈黙したあと、蓮二は好奇心に負けたようにゆっくりジャージを鼻に近付けた。
「うっ…」
顔をしかめ、素早く顔からジャージを遠ざけた。
「ね?分かるでしょ?」
「あぁ。伝説のハジケリストは凄いな。」
そう言って、ジャッカルのジャージを押し付けてきた。
「ありがとう。ちなみに蓮二のジャージは……おばあちゃんの匂いがする。」
「………。」
コートから「集合!」という真田の声が聞こえてきたので、あたしはジャッカルのジャージを急いで畳み、蓮二と一緒にコートへと走った。
集合の時、蓮二がジャッカルと対極の位置に立ったのを見て、少し気まずくなった。
終わり
[後書き]
バスケ部時代、みんなジャージを匂いで当てていました。
「これ○○の家の匂いだ。」とか、「これメイちゃんの匂いだ。」とか。自分の匂いって自分じゃ分からないので、友達同士で嗅いで渡してました。
男バスにはワキガがいたので大変そうでした。
微妙な話ですみませんでした!