氷帝生活
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今日はホワイトデー。
バレンタインにまいたチョコレートのお返しがたんまり返ってくる日だ。
でも、あたしは今年、一人にしかあげなかった。
彼氏ができたから。
「幸村。」
朝練へと向かう、早朝の道の途中。角を曲がると見慣れた後姿が前を歩いていた。
「伝説のハジケリスト。」
春が近いといっても、まだ朝の空気は冷たい。
あたしを呼んだ幸村の唇から、白い息が少しだけ出た。
「おはよう。」
「おはよう。」
なにげない挨拶も、特別に感じる。
「まだ寒いね。」
「そうだね。」
幸村は音楽を聴いていたらしく、耳からイヤホンを外して首に垂らした。
「………。」
「………。」
会話はないけど、この沈黙が心地よい。
二人で並んで歩いているだけで、温かい。
幸村の隣は、こんなにも居心地がいい。
幸村は、その綺麗な顔立ちから弱々しいと思われがちだ。
でも、本当はとても強い人だ。
れっきとした男子だ。
背だってあたしより高い。
手だって骨っぽい。
いつもこうして、道路側を歩いてくれる。
そんなことを考えていたら、あくびが出てしまった。
退屈だったわけじゃなく、ただ単に眠かった。
幸村の隣にいるという、安心感からきたのかもしれない。
「眠いの?」
「うん。ちょっと眠い。」
幸村が、ふっと笑った。
「あくびしてるとこ見た?」
「うん。結構大きく開いてた。」
「ほ、ほっといてよ!Σ(〃□〃 )」
あははと笑って、幸村は楽しそうにあたしを見た。
たまにこうして、普通の男子みたく思い切り笑う。
その顔も、すごく好きで。
「ねぇ、さっき何聴いてたの?」
「3月9日だよ。聴く?」
そう言って、あたしの耳に片方だけイヤホンを入れた。
もう片方は幸村が。
イヤホンが外れないように、さっきよりもぐっと近い距離で歩く。
ゆっくり、ゆっくり。
ピッ、という音のあと、途中から曲が流れてきた。
きっと、さっきまで幸村が聴いてたところの続きだ。
「最初から聴く?」
「ううん。もうすぐ着いちゃうし、いいよ。」
あたしが好きな歌詞に近い部分からだったので、そこだけ聴ければいいかなと思った。
『青い空は凛と澄んで
羊雲は静かに揺れる
花咲くを待つ喜びを
分かち合えるのであれば
それは幸せ』
聴きながら、幸村にぴったりの歌だなと感じた。
優しくて、穏やかで。
『この先も隣で
そっと微笑んで』
前から好きだったこの歌。
幸村と一緒に聴くと、もっといい歌に聴こえる。
幸村も、同じ気持ちでいてくれてたら、嬉しい。
ちらっと見ると、とても穏やかな表情をしていた。
この歌みたいに。
『瞳を閉じればあなたが
まぶたのうらにいることで
どれほど強くなれたでしょう』
このままずっと、こうして歩いていたいと思ってしまう。
手が、いつのまにか繋がれていた。
この幸村の手が、あたしに幸せをくれるんだ。
『あなたにとって私も
そうでありたい』
「伝説のハジケリスト。」
「ん?」
心地よいメロディーが流れたまま、幸村があたしを呼んだ。
「ホワイトデーのお返し、今渡そうと思って。」
そう言って、あたしのもう片方の耳に、幸村がしてたイヤホンを入れた。
幸村がテニスバッグを肩から降ろそうとした、
その時。
ピッ!
『You は Shock!!
愛で空が落ちてくる』
北斗の拳だ。
「はい、お返し。」
綺麗な空色の、小さな紙袋を差し出した。
あたしはイヤホンを外し、それを受け取る。
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ。」
袋を開けると、細長い箱が出てきた。
袋と同じ、空色の箱。
ふたをそっと開けると、シルバーチェーンのブレスレットが入っていた。
「わぁ…」
「気に入ってもらえたかな?」
「うん!ありがとう!」
部活の時以外はずっと付けてよう。
そう思って、もらったブレスレットを手首に当てたとき、
『熱い心クサリでつないでも
今は無駄だよ
邪魔する奴は
指先ひとつでダウンさ』
外して首に掛けていたイヤホンから、かすかにそう聴こえてきた。
幸村はあたしの手からブレスレットを取ると、手首に付けてくれた。
「クサリ…」
「ん?どうかした?」
「なんでもない。」
少しだけ、
ほんの少しだけ
複雑だった
付き合って最初の
ホワイトデー。
終わり
[後書き]
バレンタインに告白され、晴れて両想いになったあの人へ私からのお返しです。が、不完全燃焼でごわす!
ホワイトデーのお返しといえば、飴だとオッケーで、マシュマロだとお友達、その他だとゴメス(ゴメンとスマンをミックス!)って聞いたような。
あぁ、私には伝説のハジケリスト様がこの画面に向かって「つまんねーんだよ!」と言って薙刀を振りかざしてるお姿がハッキリと見えます。
命だけは!命だけは!