氷帝生活
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
学校も終わり、春休みの真っ最中。後は高等部に上がるのを待つばかりとなったあたしは、暇を持て余していたので薬局に向かった。高校生になるんやし、コスメでも見にいこうと。
「伝説のハジケリストさん。」
ふと呼び止められて振り向くと、かつてのクラスメイトの柳生がいた。
「柳生やん。何してんの?」
「私は参考書を買いに行った帰りですよ。伝説のハジケリストさんはどちらへ?」
「暇やってん。薬局に化粧品でも見に行こ思ってな。」
「ここで会ったのも何かの縁でしょう。よろしければお茶しませんか?もちろんご馳走します。」
「オゴり?!行く行くvV」
ファミレスに入り、ドリンクバーを2つ頼んだ。
「念のため聞くけど…」
「なんでしょう?」
「あんた本当に柳生やんな?」
過去に一度、こいつらが入れ代わってて騙された事がある。あたしかてバカやない。一度犯したミスはもう二度とせえへん!ここは慎重にいかんと…。
「見れば分かるでしょう?」
「入れ代わってたら見てても気付かんもん。」
「何故休日にまで仁王君と入れ代わらなければならないのです。」
そらそうやわ。休日にまで入れ代わる理由が分からん。
「ごめんな。仁王に関する事には敏感になっててん。トラウマみたいなもんや。」
「確か伝説のハジケリストさんは一、二年生の時、仁王君と同じクラスでしたよね?三年生になってからもよく一緒におられたので仲がいいように見受けられますが。」
柳生は眼鏡を直しながら、鳥肌の立つような事を言ってきよった。
「誰と誰が仲いいって?!どこをどう見たらそうなんの!眼鏡の度、合ってないんちゃう?!」
「しかし、仁王君が女性と楽しそうに話すのを初めて見たものですから…。」
柳生はコーヒーを一口飲むと、ミルクを少し足した。
「ちゃうねん!あいつはあたしと話すのを楽しんでるんじゃなくて、あたしをからかって楽しんでんねん!」
あたしはアイスティーを少しだけ飲み、ストローで軽く掻き混ぜた。
「そもそも、お二人が話したきっかけは何だったのですか?」
「初めて話したの…?あぁ!アレや!一年の時、体育の授業でサッカーやったやん?そん時な…」
○●○●○●
ジャンケンで買ったあたしは、キーパーをやっていた。
『伝説のハジケリスト!行ったよ!』
『任せとき!絶対止めたるわ!』
相手チームの子がゴール目掛けてシュートを放ったので、あたしはボールが来る方に移動した。
その瞬間
《ボコッ!!》
おもいっきり蹴られたボールはあたしの顔面を捕らえた。
『ごめん!平気?!』
『気にせんといて!平気やから!』
シュートを打った子や##NAME2##が駆け寄ってきた。
『でも…』
『気にすることないよ?事故やもん!な?』
そんなやり取りをしていると、後ろから拍手が聞こえてきた。
振り向くと、拍手をしていたのは仁王やった。
『根性あるのぅ。』
『どーも。』
『顔面でゴール守りよるなんてすごいねぇ。今日からお前さんの事、"立海の守護神"って呼ぶぜよ。』
仁王がそう言うと、一緒に見てた男子が大爆笑。
『なんやのあんた!腹立つわ~!!』
仁王は口の端を上げて邪悪な笑みを浮かべている。
『そう興奮しなさんな。鼻から鮮血が出とうよ』
そう言われて鼻の辺りを触って見ると、手には血がついていた。
『伝説のハジケリスト大丈夫?!保健室行こう!』
『お大事に…立海の守護神サン。』
○●○●○●
「…ってわけ。最新から最悪やろ?!それからしばらくの間男子に『立海の守護神』て呼ばれてたわ…。」
「なるほど。それはお気の毒でしたね。」
「せやろ?!それが始まりかのようにこの三年間ずーっとやられっぱなしやってん!」
「例えば?」
「聞いてくれます?!あれも一年の時や…」
○●○●○●
『何コレ。』
朝下駄箱を見ると、手紙が上履きに乗っていた。
伝説のハジケリストさんへ
お話があります。放課後体育館の裏でお待ちしてます。来るまで待ってます。
『名前書いてへんやん。』
あたしはその手紙を##NAME2##に見せた。
『これラブレターじゃない?!』
『まさか~。どうせ呼び出されてしばかれるとかやないの?』
『だって男子の字じゃんvV伝説のハジケリストもついに彼氏持ちかー。』
『やめてー。まだ分からへんのに…///』
『どうなったか教えてね!』
てな具合に二人で気分が盛り上がり、放課後になった。
放課後、あたしはドキドキしながら体育館裏にいた。めくるめく青春ライフを描きながら手紙の主を待っていると、後ろから足音がした。
『待たせたね。』
高鳴る胸を押さえ、あたしは声の方へ振り返った。
『!Σ( ̄□ ̄;)』
なんとそこには教頭がおった。
『なんで教頭がおるん…?』
『手紙をくれたのは君かい?朝靴箱を見たら手紙があってね。悩み事があるんだって?担任の先生には言えない事かい?』
目の前には優しく微笑む教頭。しかも会話の中で何かが違う。
『いや…その…』
『遠慮しないで言ってごらん?』
遠慮も何も、実際教頭に用はない。
それでも教頭は好きだったので、あたしはテキトーに質問した。そんなテキトーな質問に、教頭は丁寧に説明してくれた。
一時間かけて。
―次の日―
『よ。』
朝一で仁王に話し掛けられた。
『おはよーさん。』
『昨日うまくいったん?』
『何がよ。』
『前にお前さんが"あたし教頭好きやで"って言っとったじゃろ?』
『はっ!Σ( ̄□ ̄;)あんたまさか…!』
『ククッ。』
○●○●○●
「信じられる?!頭パーやで!」
「それで、伝説のハジケリストさんは教頭に何を質問なさったんですか?」
柳生は眼鏡をなおすと、カップに口をつけた。
「あん時イッパイイッパイやったから、地球はどうやってできたんか聞いたんや。それを丁寧に教えてくれた教頭は教師の鏡やで。」
あたしもストローに口を付けた。
「そんな悪戯、可愛いものじゃないですか。」
「可愛いくないわ!こっちはめっちゃ期待したっちゅーねん!」
「これは失礼しました。二年生になったら少し落ち着いたのではないですか?」
「まさか!もっとタチ悪いで?!」
○●○●○●
『なんスか?』
一回目の進路希望を提出した日、あたしは担任に呼び出された。
『お前…やる気あるのか?』
『へ?』
あたしが書いたのは、
第一希望→立海大付属高等部
第二希望→立海大付属高等部
第三希望→立海大付属高等部
『そんなにあきまへんか?成績は普通やと思うんですけど。』
『成績とかじゃないだろう。何だこれは。』
担任はあたしの進路希望調査表を目の前に突き付けた。
『Σ何コレ?!』
そこにはこう書かれていた。
第一希望→ジャパネットタカタで社長の右腕になる
第二希望→天下統一
第三希望→海賊王
『今から真面目に考えないと、後で辛い思いをするのはお前だぞ?』
『すんません…。』
『先生何だって?』
教室に帰ると、##NAME2##が心配そうに聞いてきた。
『進路の事でな…。あたしの調査表がおかしな事になっててん。』
すると、仁王がこっちに歩いて来て、すれ違い様に耳元で呟いた。
『でっかい夢じゃのぅ…。頑張りんしゃい。ククッ。』
『お前かー?!(`□´)』
○●○●○●
「集める時にあたしの進路希望調査表とすり替えてん!書くとき余計に一枚貰っててん!」
「……。」
「何が"ジャパネットタカタや!"メーカー希望小売り価格"なんて言いたないねん!海賊王のがええっちゅーねん!!ほんま腹立つ!」
「おや、グラスが空ですね。お気持ちは分かりますが、ジュースでも飲んで落ち着きたまえ。」
「せやな。ちょっと興奮してもーたわ。ごめんな。」
二人で新しくドリンクをつぎ、テーブルに戻った。
「何にしたん?」
「ミルクティーにしました。伝説のハジケリストさんはオレンジジュースですか?」
ミルクティーでふと思い出す。
「ミルクティーか…。あれは2年の時や。ミルクティー言うたらな…」
○●○●○●
『知っとる?』
『何が!』
お昼にミルクティーを飲みながらパンを食べていたら、仁王が話し掛けてきた。
『つーかなんであんたここにおんの?あたしと##NAME2##の邪魔せんといて?』
『ミルクティー好きなの?最近よう飲んでるみたいじゃけど。』
『スルーかい!ミルクティー好きや!何か文句あんの?!』
仁王はあたしの手からミルクティーを取ると、中身を覗いた。
『仁王君何してんの?』
『知らんわ。ほっとこ。』
二人でランチタイムを再会しようとすると、仁王は溜息をついた。
『この会社のミルクティーのミルクって、何か知っとる?』
『はぁ?ミルクっちゅーからには牛乳ちゃうん?』
すると仁王は一瞬目を見開いた。
『まぁ、ここの会社だけなんけど、このミルク…母乳じゃけん。』
『ごめん、あたしトイレ。』
##NAME2##はあたしを置いてトイレに行ってしまった。
『嘘やん。んなアホな。』
『嘘じゃないぜよ。新聞見んの?"妊婦の為のアルバイト"って載っとったよ?』
『ほな知らんうちに他人の母乳飲んでるってこと?』
『そうじゃ。』
なんか気分悪くなってきた…。今は自分の母親の母乳かて嫌やのに。
『かと言って飲むの止める必要はない。ずっと飲んどったらお前さんの微々たるモンも成長しよるかも分からん。』
仁王の目線の先は明らかにあたしの胸。
『Σなっ!なんやのあんた!もしかしてそれが言いたかっただけ?!』
『あ、分かった?』
『…ッ!大きなお世話じゃアホー!!(`□´)』
『ただいまー…ってあんた達何してんの?!』
##NAME2##が見たのは仁王に馬乗りになり、胸倉を掴んで揺さ振るあたしの姿。誤解を招くには持ってこいやった。
『伝説のハジケリストって意外に積極的じゃけん。ククッ。そーゆーの、俺は嫌いじゃないぜ?』
『伝説のハジケリスト…。そうだったの?あたし何も聞いてないよ?』
『ちがっ…!』
『あーあ。友達に隠し事はいかんよなぁ。』
『あんたは黙ってろ!!ちゃうねんで?!これはな…』
○●○●○●
「あの時は最悪やったわ…。まぁ##NAME2##は分かってくれたからよかったけどな。」
「なんで仁王君と二年間過ごしてきてそんな簡単に騙されるんです?」
柳生は溜息をつきながら中指で眼鏡を直した。
「なんか説得力あんねん。それに、あんま覚えてないけどもっとリアルな事言うてきたんやもん。分かるかっちゅーねん。」
「まぁ、貴女にも多少問題はありますね。何でもすぐ信じてしまいますから。」
この歳で人を信じなくなるのはさすがに嫌だ。
「でも三年生になって違うクラスって分かった時は嬉しかったなぁ。」
「……。」
「けど結局同じやった。まさかあんたと仁王が仲いいなんてな…。」
あたしも溜息をつき、ストローで氷を突いた。
「毎日のように私達のクラスに来ていましたからね。貴女と離れて淋しかったんでしょう。」
「そらそうやろな。玩具がなくなってしもたんやし?だからわざわざ毎日からかいに来ててんやんか。そや、あんな事もあったな…」
○●○●○●
『伝説のハジケリスト。』
『なんや。』
10分休みに仁王が教室に来た。何でクラス違うのに毎日顔見なあかんの?と来るたび思ってた。
『歴史の教科書貸して。』
『嫌。』
仁王に貸したら返って来なそうな気がしたし、何よりコイツの全てが疑わしい。
『ケチやのぅ。』
『あたしに借りんでも、柳生に借りればええやん!柳生ー!仁王に歴史貸したってー。』
そう叫ぶと、柳生はあたしと仁王のところにわざわざ来てくれた。
『おや、仁王君。忘れ物ですか?』
『歴史の教科書忘れたんやて。貸したって。』
『今日うちのクラスは歴史の授業ありませんから、申し訳ありませんが、私は持っていません。』
『え?!教科書持って帰ってんの?!』
『当然でしょう。教科書が無くては予習、復習できないではありませんか。』
柳生が優等生であるということを、改めて実感した。
『伝説のハジケリストさんが貸してあげたらいかがです?貴女の机には教科書が全て入っているとおっしゃってましたよね?』
『ちょっと!余計な事言わんといて!』
『お、ホントじゃ。』
仁王はあたしの机の中を覗くと、その中から歴史の教科書を取り出した。
『何してんの?!返してよ!』
『分かっとる。終わったらすぐ返しに来るけん。サンキューな。』
『ちょっと!』
仁王は後ろ姿のまま、教科書を持った手を軽く振って行ってしまった。
『教科書が拉致られた…』
○●○●○●
「教科書返ってきたじゃないですか。」
「返ってきたよ?あたしの歴史の教科書に載ってる有名人物が全員みつあみになって返ってきたわ…。全員やで?」
「それはお気の毒に…。仁王君はやり過ぎかもしれませんね。人から借りた教科書に落書きするなんて、非常識極まりない。そんな幼稚だとは思いませんでした。」
心なしか柳生の眉間が寄ってるような気がした。普段は穏やかな彼だが、教科書に落書きは許せなかったらしい。
「あの時私が歴史の教科書を持っていればあんなことには…。」
「柳生が気にすることないねんで?」
「しかし、さっきの話も踏まえて考えると、レディに対しての礼儀もなってないではないですか!」
段々柳生が興奮してきた。
「大体仁王君はおふざけが過ぎる傾向がありますからね。だから誤解されやすいんですよ。」
「でもな?仁王も優しいとこあんねんで?」
柳生の興奮を鎮めるためなのか、仁王をフォローするためなのか、とっさに言葉が出た。
「優しいとこ…ですか?例えば?」
「三年の時、あたしが熱で休んだ事あったやんか。そん時な…」
○●○●○●
体温計が表したのは38度9分。流石のあたしも起き上がれなかった。
両親は仕事で夜にならなければ帰って来ず、朝から何も食べずにただ寝ていた。
【ピンポーン】
昼頃になり誰か来たけど起き上がれない。二、三回でインターホンが切れた。すると今度は携帯が鳴った。
『ハイもしもし…。』
『俺。入ってもええ?』
電話が切れると、玄関が開く音がした。しばらくするとあたしの部屋の扉が開いた。
『生きとう?』
『……。』
勝手に入って来た事とか、学校はどうしたのかとか気になったけど、熱で頭がぼーっとして喋る気になれない。
『重症みたいじゃねぇ。』
ビニール袋を漁る音が聞こえた。
『これ、熱取るやつじゃから。』
その瞬間、おでこに冷たい物が貼られた。でも、貼られる少し前、「間違えよった…」という小声が聞こえたのは気のせいだろうか。
『ポカリ買ってきたから飲めよ?授業始まるから帰るけん。お大事に。』
仁王が出てった後、段々目が痛くなり、変な匂いがした。
『……ι』
やはりさっきのは聞き間違えではなかった。おでこに貼られていたのはサロンパス。これがわざとでもそうでなくても、病気で一人心細かった時に仁王が来てくれたので嬉しかった。
あたしはサロンパスを貼り直し、ポカリを飲んで眠りについた。
―翌日―
『おはよー。』
『体調はよろしいのですか?』
その当時、隣の席だった柳生は読んでいた本をたたむとあたしに声をかけた。
『なんとかな。なぁ、仁王は?』
『昨日学校を抜け出したらしく、部活の時真田君に怒られていましたよ。彼が真田君に怒られるなんて珍しいので驚きましたよ。』
『ふーん…。』
『仁王君がどうかしましたか?…おや?湿布のような匂いがしますね。』
なんや…優しいトコあるやんか。
○●○●○●
「なるほど。あの時は貴女のお見舞いに行っていたのですか…。」
「聞いてないの?」
「ええ。あまり自分の事を話さない人ですから。」
「ふーん。でも…思い返せば結構仁王に助けられた事あるのよね。」
「ほう。」
「最初の頃男子に大阪弁からかわれた時も『俺の事も馬鹿にしとう?』ってごっつい睨み効かしてん。」
あれ…?
「二年の体育祭で混合リレーに出た時も、あたし抜かされてな、もう駄目やと思ってたら『俺に任せときんしゃい』ってあたしからバトンを受け取って…」
なんか…
「えらい差があったのにぐんぐん追い付いて一位になってん。そんでな、『お前さんは手がかかるのぅ。』って…」
あたし…
「伝説のハジケリストさんは…」
「ん?」
「伝説のハジケリストさんは仁王君をお嫌いなのですか?」
嫌い…?
「最初は嫌いやったし、今でも嫌いなはずなんやけど…」
考えた事もなかった。ただ、当たり前のように仁王がいつも傍にいて、ちょっかい出してきた。
「どうしました?」
「分からへん。ただな、あたしの三年間を振り返ろうとすると、仁王しか出て来ないんよ…。」
グラスを見れば、氷は完全に溶け、透明な膜のようになっている。
「おや、もうこんな時間。すっかり話し込んでしまいましたね。」
柳生は時計を見て、苦笑した。
「お話の途中ですみませんが、遅くなってはご両親が心配しますからね。送りますよ。」
柳生は伝票を持ってレジに向かった。
「あたしが払うわ。話聞いてもらったし。ありがとうな!」
「しかし…」
「いいから!また今度おごって?」
あたしは柳生から伝票を奪うと会計を済ませた。
「今日は楽しかったです。ではまた入学式でお会いしましょう。」
「うん。ほなまたな!」
柳生に送ってもらい、部屋に入ると携帯が鳴った。
"仁王 雅治"
ディスプレイに出てる名前を見て、いつもは嫌な緊張感が走るが、今日は違っていた。
「何や。」
『相変わらず冷たいのぅ。さっきはごち。』
「は?言ってる意味がわから…」
!!Σ( ̄□ ̄;)ま、まさか…
『お前さんも懲りないのぅ。』
「もしかしてさっきの柳生はあんたやったん…?」
ちょっと待った…。あたし何話した…?
『お前、俺に惚れとるじゃろ。』
「Σあほか!んなわけないやろ?!///」
『そのまま表出ろ。』
脅迫チックに言われ、電話したまま外に出た。
「ククッ。」
「なんでおんの?!」
そこにはさっきの柳生と同じ服を着た仁王が立っていた。
「高校入る前にケリつけようと思って。」
「何のケリよ。」
「お前、俺に惚れとるじゃろ。」
「だから惚れてなんかないって言うてるやろ?!///」
でも何故かさっきから心臓がうるさい。
「素直じゃないねぇ。やっぱりお前さんは俺の計画通りにならん。」
「計画…?」
「中学三年間でお前の心に入り込む。」
読めない表情からは、いつもただ恐怖と嫌悪感を抱いていたのに、今日は違う。
吸い込まれそう。
「で…?」
「高校三年間でお前の全てを手に入れる。」
嘘やん…。
「またまた!冗談やろ?もう騙されへんで!」
「失敗じゃ。」
「は?」
「俺の負けじゃ。」
「何がよ。」
「捕まえる予定が、先に捕まっちまったんよ。」
そう言った仁王は、今まで見たこともない表情をしていた。
「正直悔しい。だから高校入ったら覚悟しときんしゃい。」
なんか仁王って…
「俺が負けっぱなしでおると思う?」
可愛いかも
「ええよ。」
「……?」
「あんたの計画に乗ってもええよ!」
あたしは初めて仁王に勝った気がして嬉しかった。
「ククッ。降参じゃ。俺の完敗。」
フッと笑った仁王を見たと思うと、気付いたら仁王の腕の中だった。
「入学式楽しみやんなぁ♪もうイヤガラセせんといてな。」
「せんよ。イヤガラセはせんけどイタズラはするかもな…ククッ。」
「……(-_-)」
ケリがついたのかついてないのか分からないが、あたし達はこれからなんや。
「お前…太った?」
「なっ!Σ(〃□〃)シバく!ほんまシバく!」
一つ気付くのに三年間かかった。これからの何年かで、いくつ仁王の事に気付くか楽しみやわ。
こうやってあたし達は大人になって行く。
終わり
[後書き]
長!!今までで最長です。記念すべき一万打目ですから☆(迷惑)
リク内容が『関西弁ヒロインと仁王の甘夢』という事ですが、仁王の言葉が分からなくてあやふやになっちまいましたι真由美さんごめんよー(>_<)
長すぎて読むの疲れるし、読みたくないであろう事請け合いな中読んで下さった真由美様、伝説のハジケリスト様、本当にありがとうございましたm(__)m
「伝説のハジケリストさん。」
ふと呼び止められて振り向くと、かつてのクラスメイトの柳生がいた。
「柳生やん。何してんの?」
「私は参考書を買いに行った帰りですよ。伝説のハジケリストさんはどちらへ?」
「暇やってん。薬局に化粧品でも見に行こ思ってな。」
「ここで会ったのも何かの縁でしょう。よろしければお茶しませんか?もちろんご馳走します。」
「オゴり?!行く行くvV」
ファミレスに入り、ドリンクバーを2つ頼んだ。
「念のため聞くけど…」
「なんでしょう?」
「あんた本当に柳生やんな?」
過去に一度、こいつらが入れ代わってて騙された事がある。あたしかてバカやない。一度犯したミスはもう二度とせえへん!ここは慎重にいかんと…。
「見れば分かるでしょう?」
「入れ代わってたら見てても気付かんもん。」
「何故休日にまで仁王君と入れ代わらなければならないのです。」
そらそうやわ。休日にまで入れ代わる理由が分からん。
「ごめんな。仁王に関する事には敏感になっててん。トラウマみたいなもんや。」
「確か伝説のハジケリストさんは一、二年生の時、仁王君と同じクラスでしたよね?三年生になってからもよく一緒におられたので仲がいいように見受けられますが。」
柳生は眼鏡を直しながら、鳥肌の立つような事を言ってきよった。
「誰と誰が仲いいって?!どこをどう見たらそうなんの!眼鏡の度、合ってないんちゃう?!」
「しかし、仁王君が女性と楽しそうに話すのを初めて見たものですから…。」
柳生はコーヒーを一口飲むと、ミルクを少し足した。
「ちゃうねん!あいつはあたしと話すのを楽しんでるんじゃなくて、あたしをからかって楽しんでんねん!」
あたしはアイスティーを少しだけ飲み、ストローで軽く掻き混ぜた。
「そもそも、お二人が話したきっかけは何だったのですか?」
「初めて話したの…?あぁ!アレや!一年の時、体育の授業でサッカーやったやん?そん時な…」
○●○●○●
ジャンケンで買ったあたしは、キーパーをやっていた。
『伝説のハジケリスト!行ったよ!』
『任せとき!絶対止めたるわ!』
相手チームの子がゴール目掛けてシュートを放ったので、あたしはボールが来る方に移動した。
その瞬間
《ボコッ!!》
おもいっきり蹴られたボールはあたしの顔面を捕らえた。
『ごめん!平気?!』
『気にせんといて!平気やから!』
シュートを打った子や##NAME2##が駆け寄ってきた。
『でも…』
『気にすることないよ?事故やもん!な?』
そんなやり取りをしていると、後ろから拍手が聞こえてきた。
振り向くと、拍手をしていたのは仁王やった。
『根性あるのぅ。』
『どーも。』
『顔面でゴール守りよるなんてすごいねぇ。今日からお前さんの事、"立海の守護神"って呼ぶぜよ。』
仁王がそう言うと、一緒に見てた男子が大爆笑。
『なんやのあんた!腹立つわ~!!』
仁王は口の端を上げて邪悪な笑みを浮かべている。
『そう興奮しなさんな。鼻から鮮血が出とうよ』
そう言われて鼻の辺りを触って見ると、手には血がついていた。
『伝説のハジケリスト大丈夫?!保健室行こう!』
『お大事に…立海の守護神サン。』
○●○●○●
「…ってわけ。最新から最悪やろ?!それからしばらくの間男子に『立海の守護神』て呼ばれてたわ…。」
「なるほど。それはお気の毒でしたね。」
「せやろ?!それが始まりかのようにこの三年間ずーっとやられっぱなしやってん!」
「例えば?」
「聞いてくれます?!あれも一年の時や…」
○●○●○●
『何コレ。』
朝下駄箱を見ると、手紙が上履きに乗っていた。
伝説のハジケリストさんへ
お話があります。放課後体育館の裏でお待ちしてます。来るまで待ってます。
『名前書いてへんやん。』
あたしはその手紙を##NAME2##に見せた。
『これラブレターじゃない?!』
『まさか~。どうせ呼び出されてしばかれるとかやないの?』
『だって男子の字じゃんvV伝説のハジケリストもついに彼氏持ちかー。』
『やめてー。まだ分からへんのに…///』
『どうなったか教えてね!』
てな具合に二人で気分が盛り上がり、放課後になった。
放課後、あたしはドキドキしながら体育館裏にいた。めくるめく青春ライフを描きながら手紙の主を待っていると、後ろから足音がした。
『待たせたね。』
高鳴る胸を押さえ、あたしは声の方へ振り返った。
『!Σ( ̄□ ̄;)』
なんとそこには教頭がおった。
『なんで教頭がおるん…?』
『手紙をくれたのは君かい?朝靴箱を見たら手紙があってね。悩み事があるんだって?担任の先生には言えない事かい?』
目の前には優しく微笑む教頭。しかも会話の中で何かが違う。
『いや…その…』
『遠慮しないで言ってごらん?』
遠慮も何も、実際教頭に用はない。
それでも教頭は好きだったので、あたしはテキトーに質問した。そんなテキトーな質問に、教頭は丁寧に説明してくれた。
一時間かけて。
―次の日―
『よ。』
朝一で仁王に話し掛けられた。
『おはよーさん。』
『昨日うまくいったん?』
『何がよ。』
『前にお前さんが"あたし教頭好きやで"って言っとったじゃろ?』
『はっ!Σ( ̄□ ̄;)あんたまさか…!』
『ククッ。』
○●○●○●
「信じられる?!頭パーやで!」
「それで、伝説のハジケリストさんは教頭に何を質問なさったんですか?」
柳生は眼鏡をなおすと、カップに口をつけた。
「あん時イッパイイッパイやったから、地球はどうやってできたんか聞いたんや。それを丁寧に教えてくれた教頭は教師の鏡やで。」
あたしもストローに口を付けた。
「そんな悪戯、可愛いものじゃないですか。」
「可愛いくないわ!こっちはめっちゃ期待したっちゅーねん!」
「これは失礼しました。二年生になったら少し落ち着いたのではないですか?」
「まさか!もっとタチ悪いで?!」
○●○●○●
『なんスか?』
一回目の進路希望を提出した日、あたしは担任に呼び出された。
『お前…やる気あるのか?』
『へ?』
あたしが書いたのは、
第一希望→立海大付属高等部
第二希望→立海大付属高等部
第三希望→立海大付属高等部
『そんなにあきまへんか?成績は普通やと思うんですけど。』
『成績とかじゃないだろう。何だこれは。』
担任はあたしの進路希望調査表を目の前に突き付けた。
『Σ何コレ?!』
そこにはこう書かれていた。
第一希望→ジャパネットタカタで社長の右腕になる
第二希望→天下統一
第三希望→海賊王
『今から真面目に考えないと、後で辛い思いをするのはお前だぞ?』
『すんません…。』
『先生何だって?』
教室に帰ると、##NAME2##が心配そうに聞いてきた。
『進路の事でな…。あたしの調査表がおかしな事になっててん。』
すると、仁王がこっちに歩いて来て、すれ違い様に耳元で呟いた。
『でっかい夢じゃのぅ…。頑張りんしゃい。ククッ。』
『お前かー?!(`□´)』
○●○●○●
「集める時にあたしの進路希望調査表とすり替えてん!書くとき余計に一枚貰っててん!」
「……。」
「何が"ジャパネットタカタや!"メーカー希望小売り価格"なんて言いたないねん!海賊王のがええっちゅーねん!!ほんま腹立つ!」
「おや、グラスが空ですね。お気持ちは分かりますが、ジュースでも飲んで落ち着きたまえ。」
「せやな。ちょっと興奮してもーたわ。ごめんな。」
二人で新しくドリンクをつぎ、テーブルに戻った。
「何にしたん?」
「ミルクティーにしました。伝説のハジケリストさんはオレンジジュースですか?」
ミルクティーでふと思い出す。
「ミルクティーか…。あれは2年の時や。ミルクティー言うたらな…」
○●○●○●
『知っとる?』
『何が!』
お昼にミルクティーを飲みながらパンを食べていたら、仁王が話し掛けてきた。
『つーかなんであんたここにおんの?あたしと##NAME2##の邪魔せんといて?』
『ミルクティー好きなの?最近よう飲んでるみたいじゃけど。』
『スルーかい!ミルクティー好きや!何か文句あんの?!』
仁王はあたしの手からミルクティーを取ると、中身を覗いた。
『仁王君何してんの?』
『知らんわ。ほっとこ。』
二人でランチタイムを再会しようとすると、仁王は溜息をついた。
『この会社のミルクティーのミルクって、何か知っとる?』
『はぁ?ミルクっちゅーからには牛乳ちゃうん?』
すると仁王は一瞬目を見開いた。
『まぁ、ここの会社だけなんけど、このミルク…母乳じゃけん。』
『ごめん、あたしトイレ。』
##NAME2##はあたしを置いてトイレに行ってしまった。
『嘘やん。んなアホな。』
『嘘じゃないぜよ。新聞見んの?"妊婦の為のアルバイト"って載っとったよ?』
『ほな知らんうちに他人の母乳飲んでるってこと?』
『そうじゃ。』
なんか気分悪くなってきた…。今は自分の母親の母乳かて嫌やのに。
『かと言って飲むの止める必要はない。ずっと飲んどったらお前さんの微々たるモンも成長しよるかも分からん。』
仁王の目線の先は明らかにあたしの胸。
『Σなっ!なんやのあんた!もしかしてそれが言いたかっただけ?!』
『あ、分かった?』
『…ッ!大きなお世話じゃアホー!!(`□´)』
『ただいまー…ってあんた達何してんの?!』
##NAME2##が見たのは仁王に馬乗りになり、胸倉を掴んで揺さ振るあたしの姿。誤解を招くには持ってこいやった。
『伝説のハジケリストって意外に積極的じゃけん。ククッ。そーゆーの、俺は嫌いじゃないぜ?』
『伝説のハジケリスト…。そうだったの?あたし何も聞いてないよ?』
『ちがっ…!』
『あーあ。友達に隠し事はいかんよなぁ。』
『あんたは黙ってろ!!ちゃうねんで?!これはな…』
○●○●○●
「あの時は最悪やったわ…。まぁ##NAME2##は分かってくれたからよかったけどな。」
「なんで仁王君と二年間過ごしてきてそんな簡単に騙されるんです?」
柳生は溜息をつきながら中指で眼鏡を直した。
「なんか説得力あんねん。それに、あんま覚えてないけどもっとリアルな事言うてきたんやもん。分かるかっちゅーねん。」
「まぁ、貴女にも多少問題はありますね。何でもすぐ信じてしまいますから。」
この歳で人を信じなくなるのはさすがに嫌だ。
「でも三年生になって違うクラスって分かった時は嬉しかったなぁ。」
「……。」
「けど結局同じやった。まさかあんたと仁王が仲いいなんてな…。」
あたしも溜息をつき、ストローで氷を突いた。
「毎日のように私達のクラスに来ていましたからね。貴女と離れて淋しかったんでしょう。」
「そらそうやろな。玩具がなくなってしもたんやし?だからわざわざ毎日からかいに来ててんやんか。そや、あんな事もあったな…」
○●○●○●
『伝説のハジケリスト。』
『なんや。』
10分休みに仁王が教室に来た。何でクラス違うのに毎日顔見なあかんの?と来るたび思ってた。
『歴史の教科書貸して。』
『嫌。』
仁王に貸したら返って来なそうな気がしたし、何よりコイツの全てが疑わしい。
『ケチやのぅ。』
『あたしに借りんでも、柳生に借りればええやん!柳生ー!仁王に歴史貸したってー。』
そう叫ぶと、柳生はあたしと仁王のところにわざわざ来てくれた。
『おや、仁王君。忘れ物ですか?』
『歴史の教科書忘れたんやて。貸したって。』
『今日うちのクラスは歴史の授業ありませんから、申し訳ありませんが、私は持っていません。』
『え?!教科書持って帰ってんの?!』
『当然でしょう。教科書が無くては予習、復習できないではありませんか。』
柳生が優等生であるということを、改めて実感した。
『伝説のハジケリストさんが貸してあげたらいかがです?貴女の机には教科書が全て入っているとおっしゃってましたよね?』
『ちょっと!余計な事言わんといて!』
『お、ホントじゃ。』
仁王はあたしの机の中を覗くと、その中から歴史の教科書を取り出した。
『何してんの?!返してよ!』
『分かっとる。終わったらすぐ返しに来るけん。サンキューな。』
『ちょっと!』
仁王は後ろ姿のまま、教科書を持った手を軽く振って行ってしまった。
『教科書が拉致られた…』
○●○●○●
「教科書返ってきたじゃないですか。」
「返ってきたよ?あたしの歴史の教科書に載ってる有名人物が全員みつあみになって返ってきたわ…。全員やで?」
「それはお気の毒に…。仁王君はやり過ぎかもしれませんね。人から借りた教科書に落書きするなんて、非常識極まりない。そんな幼稚だとは思いませんでした。」
心なしか柳生の眉間が寄ってるような気がした。普段は穏やかな彼だが、教科書に落書きは許せなかったらしい。
「あの時私が歴史の教科書を持っていればあんなことには…。」
「柳生が気にすることないねんで?」
「しかし、さっきの話も踏まえて考えると、レディに対しての礼儀もなってないではないですか!」
段々柳生が興奮してきた。
「大体仁王君はおふざけが過ぎる傾向がありますからね。だから誤解されやすいんですよ。」
「でもな?仁王も優しいとこあんねんで?」
柳生の興奮を鎮めるためなのか、仁王をフォローするためなのか、とっさに言葉が出た。
「優しいとこ…ですか?例えば?」
「三年の時、あたしが熱で休んだ事あったやんか。そん時な…」
○●○●○●
体温計が表したのは38度9分。流石のあたしも起き上がれなかった。
両親は仕事で夜にならなければ帰って来ず、朝から何も食べずにただ寝ていた。
【ピンポーン】
昼頃になり誰か来たけど起き上がれない。二、三回でインターホンが切れた。すると今度は携帯が鳴った。
『ハイもしもし…。』
『俺。入ってもええ?』
電話が切れると、玄関が開く音がした。しばらくするとあたしの部屋の扉が開いた。
『生きとう?』
『……。』
勝手に入って来た事とか、学校はどうしたのかとか気になったけど、熱で頭がぼーっとして喋る気になれない。
『重症みたいじゃねぇ。』
ビニール袋を漁る音が聞こえた。
『これ、熱取るやつじゃから。』
その瞬間、おでこに冷たい物が貼られた。でも、貼られる少し前、「間違えよった…」という小声が聞こえたのは気のせいだろうか。
『ポカリ買ってきたから飲めよ?授業始まるから帰るけん。お大事に。』
仁王が出てった後、段々目が痛くなり、変な匂いがした。
『……ι』
やはりさっきのは聞き間違えではなかった。おでこに貼られていたのはサロンパス。これがわざとでもそうでなくても、病気で一人心細かった時に仁王が来てくれたので嬉しかった。
あたしはサロンパスを貼り直し、ポカリを飲んで眠りについた。
―翌日―
『おはよー。』
『体調はよろしいのですか?』
その当時、隣の席だった柳生は読んでいた本をたたむとあたしに声をかけた。
『なんとかな。なぁ、仁王は?』
『昨日学校を抜け出したらしく、部活の時真田君に怒られていましたよ。彼が真田君に怒られるなんて珍しいので驚きましたよ。』
『ふーん…。』
『仁王君がどうかしましたか?…おや?湿布のような匂いがしますね。』
なんや…優しいトコあるやんか。
○●○●○●
「なるほど。あの時は貴女のお見舞いに行っていたのですか…。」
「聞いてないの?」
「ええ。あまり自分の事を話さない人ですから。」
「ふーん。でも…思い返せば結構仁王に助けられた事あるのよね。」
「ほう。」
「最初の頃男子に大阪弁からかわれた時も『俺の事も馬鹿にしとう?』ってごっつい睨み効かしてん。」
あれ…?
「二年の体育祭で混合リレーに出た時も、あたし抜かされてな、もう駄目やと思ってたら『俺に任せときんしゃい』ってあたしからバトンを受け取って…」
なんか…
「えらい差があったのにぐんぐん追い付いて一位になってん。そんでな、『お前さんは手がかかるのぅ。』って…」
あたし…
「伝説のハジケリストさんは…」
「ん?」
「伝説のハジケリストさんは仁王君をお嫌いなのですか?」
嫌い…?
「最初は嫌いやったし、今でも嫌いなはずなんやけど…」
考えた事もなかった。ただ、当たり前のように仁王がいつも傍にいて、ちょっかい出してきた。
「どうしました?」
「分からへん。ただな、あたしの三年間を振り返ろうとすると、仁王しか出て来ないんよ…。」
グラスを見れば、氷は完全に溶け、透明な膜のようになっている。
「おや、もうこんな時間。すっかり話し込んでしまいましたね。」
柳生は時計を見て、苦笑した。
「お話の途中ですみませんが、遅くなってはご両親が心配しますからね。送りますよ。」
柳生は伝票を持ってレジに向かった。
「あたしが払うわ。話聞いてもらったし。ありがとうな!」
「しかし…」
「いいから!また今度おごって?」
あたしは柳生から伝票を奪うと会計を済ませた。
「今日は楽しかったです。ではまた入学式でお会いしましょう。」
「うん。ほなまたな!」
柳生に送ってもらい、部屋に入ると携帯が鳴った。
"仁王 雅治"
ディスプレイに出てる名前を見て、いつもは嫌な緊張感が走るが、今日は違っていた。
「何や。」
『相変わらず冷たいのぅ。さっきはごち。』
「は?言ってる意味がわから…」
!!Σ( ̄□ ̄;)ま、まさか…
『お前さんも懲りないのぅ。』
「もしかしてさっきの柳生はあんたやったん…?」
ちょっと待った…。あたし何話した…?
『お前、俺に惚れとるじゃろ。』
「Σあほか!んなわけないやろ?!///」
『そのまま表出ろ。』
脅迫チックに言われ、電話したまま外に出た。
「ククッ。」
「なんでおんの?!」
そこにはさっきの柳生と同じ服を着た仁王が立っていた。
「高校入る前にケリつけようと思って。」
「何のケリよ。」
「お前、俺に惚れとるじゃろ。」
「だから惚れてなんかないって言うてるやろ?!///」
でも何故かさっきから心臓がうるさい。
「素直じゃないねぇ。やっぱりお前さんは俺の計画通りにならん。」
「計画…?」
「中学三年間でお前の心に入り込む。」
読めない表情からは、いつもただ恐怖と嫌悪感を抱いていたのに、今日は違う。
吸い込まれそう。
「で…?」
「高校三年間でお前の全てを手に入れる。」
嘘やん…。
「またまた!冗談やろ?もう騙されへんで!」
「失敗じゃ。」
「は?」
「俺の負けじゃ。」
「何がよ。」
「捕まえる予定が、先に捕まっちまったんよ。」
そう言った仁王は、今まで見たこともない表情をしていた。
「正直悔しい。だから高校入ったら覚悟しときんしゃい。」
なんか仁王って…
「俺が負けっぱなしでおると思う?」
可愛いかも
「ええよ。」
「……?」
「あんたの計画に乗ってもええよ!」
あたしは初めて仁王に勝った気がして嬉しかった。
「ククッ。降参じゃ。俺の完敗。」
フッと笑った仁王を見たと思うと、気付いたら仁王の腕の中だった。
「入学式楽しみやんなぁ♪もうイヤガラセせんといてな。」
「せんよ。イヤガラセはせんけどイタズラはするかもな…ククッ。」
「……(-_-)」
ケリがついたのかついてないのか分からないが、あたし達はこれからなんや。
「お前…太った?」
「なっ!Σ(〃□〃)シバく!ほんまシバく!」
一つ気付くのに三年間かかった。これからの何年かで、いくつ仁王の事に気付くか楽しみやわ。
こうやってあたし達は大人になって行く。
終わり
[後書き]
長!!今までで最長です。記念すべき一万打目ですから☆(迷惑)
リク内容が『関西弁ヒロインと仁王の甘夢』という事ですが、仁王の言葉が分からなくてあやふやになっちまいましたι真由美さんごめんよー(>_<)
長すぎて読むの疲れるし、読みたくないであろう事請け合いな中読んで下さった真由美様、伝説のハジケリスト様、本当にありがとうございましたm(__)m