氷帝生活
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「アイス食いてー。」
「あたしも。」
ブン太は新しくガムを噛み始めた。
ソーダの匂いがした。
「ここはサッパリとシャーベット系がよくない?」
「いや、俺はソフトクリームがいい。」
「ソフトクリームか…。ソフトクリームってさ、遊園地のが一番おいしくない?」
「分かる!格別だよなー!あー、食いてーなー。そうだ!遊園地行こうぜぃ♪」
「いいっスね!俺も連れてって下さいよ!」
赤也チャック開いてるし。
「どうせだったらみんなで行こうよ!」
赤也の社会の窓から覗くパンツから目を反らし柳生の方を見た。
「遊園地…ですか。そうですね、たまには息抜きも必要でしょう。あ、切原君、ファスナー開いてますよ。」
紳士参加決定。
「仁王も行くでしょ?」
「プリッ。」
いつも思うけどそれ何の効果音?
詐欺士参加決定。
「ジャッカル!お前も行くだろぃ?」
「遊園地っていくらかかるんだ?」
「そんなかかんねぇよ。割引券使って2500円くらいじゃね?」
「そうか。それならどうにか稼げそうだ。」
あんた何して稼ぐつもりよ?!
とてもじゃないけど怖くて聞けない。
ジャッカル、ギリギリで参加決定。
「何の話しだ?」
あっ、真田と蓮二。
掃除当番終わったんだ。
真田はまさか来ないよねぇ…。遊園地ってツラじゃないしね。
「みんなで遊園地行こうって言ってたんスよ!」
「遊園地か…。久しく行っていないな。」
蓮二が先に口を開いた。
「蓮二も遊園地行ったりするんだ。」
「小さい頃、父に貞治と一緒に連れて行ってもらった以来行っていないがな。」
サダハル…?
あぁ、青学の乾君ね。
てっきりどこぞのでかい犬かと…。
「じゃあ久しぶりに行こうよ!」
「ああ、参加させてもらうよ。」
達人参加決定。
「待てぇい!!幸村の留守中にそんな浮ついた所に遊びに行くとは何事か!!」
お前が何事か。
「幸村にはお土産買ってあげればいいじゃん。別にまた退院したら一緒に行けるんだしさ。」
「弦一郎は留守番か。」
「誰がそんなこと言った!俺も行く!」
…行きたいんじゃん。
皇帝渋ったわりにあっさり参加決定。
「今週の木曜日は開校記念日ですね。」
「平日だし調度空いてるだろう。」
「楽しみっスね!」
「ソフトクリーム~♪」
―当日―
あたしは少し早めに着いた。電車から降りて待ち合わせ場所に向かうと、すでに真田と柳生と蓮二がいた。
「おはよう!3人とも早いね。」
「時間厳守だからな。」
真田はやる気満々で、何が入っているのかリュックサック…いや、ナップザックをしょっていた。
後からジャッカル、仁王、ブン太、赤也の順に到着。
無事全員集まった。
「フリーパスは誰か一人か二人でまとめて買いに行ったほうがよさそうですね。」
「よし、俺が行こう。中学生8枚だな。」
Σちょっと待った!!
真田なんかが行ったら間違いなく疑われる!
そんなことでモメて雰囲気悪くしたくない。
「いいよ!真田は待ってて☆赤也とあたしで行ってくるから!赤也行こう!」
あぶねー。
「真田副部長が中学生なんて有り得ないっスもんね。」
「シッ!…聞かれたら何されるか分かったもんじゃない。」
無事フリーパスを買い終え、入場ゲートをくぐった。
「ねぇねぇ!あたしあれ乗りたーい!」
「ソフトクリームが先だろぃ!」
「俺絶叫系どんとこいっスよ!」
「まぁまぁ、みなさん落ち着いて。順番に巡って行きましょう。」
柳生の意見に従い、入口に近い乗り物から乗っていった。
やっぱり遊園地は楽しい。
今日は王者立海大という肩書を忘れ、みんな満喫しているようだ。
そして半分くらいアトラクションを乗り終えた。
「そろそろ昼食の時間だな。」
蓮二が腕時計を見ながら言った。
「そうだねー。何食べよっか?」
昼食の相談をしていると、
「心配無用。弁当をこしらえてきた。」
真田ー!!Σ( ̄□ ̄ )
そのナップザックには弁当が入っていたのねー!!
みんなの動きが固まった。
なにせ真田の手づくり。
大方相当早起きしたんだろう。
そんな中、
「昼飯代が浮いて助かるぜ!」
ジャッカルが心底ありがたそうにしている。
「せっかくですし、ご馳走になりましょう。」
「遠慮はいらん。」
真田がナップザックの中から重箱と水筒を出した。
ご丁寧に人数分の割り箸と紙コップまで用意されていた。
真田がゆっくりと蓋を開けた。
…スゴイ!!
うちの母さんよりスゴイ!!
「遠慮せず食べろ。」
みんなでいただきますをして真田のお弁当に舌鼓を打つ。
「弦一郎、腕を上げたな。」
「マジでうまいっスよ!」
「ほんとおいしー♪あたし真田と結婚する!」
「ングッ?!」
真田がむせた。
「いいのか?弦一郎は亭主関白だぞ。」
「あー、小煩さいしね。」
「俺が伝説のハジケリスト先輩を幸せにするっス!」
「お前はヒモっぽくなりそうじゃのぉ。」
お前もな!
なんだかんだで昼食を終え、次のアトラクションへ向かった。
「次は…ここですね。」
ハイ、きちゃいました。
お化け屋敷。
「ムリムリ!絶対イヤ!」
「お、俺も…。」
ブン太とあたしは断固拒否。
「そうはいかんよ。」
仁王に引きずられて強制連行された。
「イヤー!!(T□T)」
「8人全員では入れませんから4人ずつに別れましょう。」
「だったらあたしは柳生と真田と蓮二とがいい!!」
なぜそう思ったか。
柳生は紳士なので優しくエスコートしてくれるだろう。真田は風格的に傍にいるだけで心強い。
蓮二はいつも冷静だからあたしも冷静でいれそうな気がしたからだ。
暫く並んでから先にブン太、赤也、仁王、ジャッカルが入った。
ブン太はジャッカルにしがみついていた。
「………。」
…この待っている時間が嫌だ。
また暫くすると遂にあたしたちに入るよう係員が言った。
「心配するな。お前に近づく輩は俺がたたっ斬ってくれるわ!」
真田…カッコイイかも。
でも斬らなくていいから。
真田の腕につかまり暗い道を歩く。
何故かみんな無言だった。
あたしは目をつむり、ただ真田にしがみついて歩いていた。
暗がりの廊下であたしたちの足音だけが響く。
「………くせ者ォ!!!!!」
「キャァー!(T□T)」
真田がいきなり大声を上げて振り返った。
何?!何なの?!
「伝説のハジケリスト、弦一郎、落ち着け。ただの人形だ。…しかしよく出来ているな。なるほど、これはたぶん中世ヨーロッパの…」
蓮二がなにやらブツブツ言っている。
あたしは真田を見上げた。
彼も冷や汗かいてイッパイイッパイになっていた。
周りを警戒しすぎていて目がギラついている。
もうイヤ…。出たい!
明らかに人選をミスった。
『ギャー!!』
どこからかすごい悲鳴が聞こえた。
「丸井君の声ですね。」
「位置としてはそう遠くないな。」
「も、もう出たい…。早く行こう!」
あたしたちは早足で進んだ。
目の前に不自然な扉が現れた。
「…これ、開けなきゃいけないの…?」
「よし!俺が開ける!皆壁に寄れ!姿勢を低くしろ!」
真田がゆっくりとドアノブを回し、少し溜めてからバン!!と勢いよく開けた。
部屋の四隅に蝋燭が不気味に揺らぎ、視界が一段と悪くなっていた。
薄暗くて分かりにくいが、そこには人形みたいな物がたくさん落ちていた。
いよいよ我慢の限界を迎えた。
「もう出るー!(T□T)」
あたしは走り出した。
「あっ!危ないですよ!」
柳生の制止を無視し、目をつむったまま一心不乱に走っていたら何かを踏んでその場に倒れた。
「痛…。」
恐る恐る目を開けた。
「ッギャアァ!!」
不気味な悲鳴をあげてしまったが関係ない。
とにかく怖い。
目の前にはメデューサのようなものがあたしを見下ろしている。
「ごめんなさい!ごめんなさい!許してぇぇ!!(T□T)」
「伝説のハジケリスト先輩っスか?!俺っスよ!」
「…赤…也?」
あたしは一気に安心し、差し出された手を掴もうとしたその時。
「キェェェィ!!!」
奇声と共に突然何かが赤也を吹っ飛ばした。
「Σヒィィィ!!」
あたしは自分もヤられると思い、怖くなって逃げようと立ち上がろうとした。
しかし、さっきから踏んでいた何かに足を掴まれた。
「やめてぇぇ!!!」
あたしは必死に掴まれていない方の足でその『何か』を押さえ付けたがツルツル滑ってうまくいかない。
「痛!やめろ!俺だ!頭蹴るなって!!」
ジャッカル?!
「あんたなんでこんなとこで寝てんのよ?!」
「仁王が丸井を驚かせたら丸井がびびってしゃがみ込んじまったんだよ!だから抱き起こそうとしたらお前に踏まれたんだよ!(怒)」
蝋燭の明かりを頼りに目線をずらすと、ブン太がうずくまっていた。
「ブン太!あたし!大丈夫?!」
あたしはブン太に駆け寄った。
「怖かったー!(T□T)」
ブン太とあたしは抱き合った。
すると、肩を触られ仁王かと思い振り向くと、小さな人魂が二つ揺れていた。
「「ギャァァァ!!」」
あたしとブン太は抱き合ったままその場にしゃがみ込んだ。
二人とももう半ベソだ。
「驚かせてしまって申し訳ありません。無事で何よりです。」
「柳生…?」
「おまえらびびりすぎだろι。」
だって、柳生の眼鏡に映った蝋燭の灯が人魂に見えたんだもの…。
「あれ?真田は?」
「弦一郎ならお前の後を追って走っていったのだが…。来てないのか?」
「よく見てみんしゃい。」
仁王が指差す先には半狂乱の真田と半狂乱の真田に殴られている赤也がいた。
「結局合流してしまいましたね。さぁ、もうじき出口ですよ。」
…もう二度と入りたくない。入るもんかと思った。
出口を出たがブン太はまだ半ベソかいていた。
「俺もういやだ…。」
ブン太、分かるよその気持ち…。
しかしあまりにも凹んでいたのを見兼ねたあたしは、
「ブン太!ソフトクリーム食べよっか♪」
…ピクッ。
「よっしゃ!俺チョコレート♪」
単純でよかった…。
みんなそれぞれジュースやソフトクリーム等を購入した。
「ブン太!ちょっと。」
あたしはブン太の口の横に付いていたソフトクリームをハンカチで拭った。
「あっ!伝説のハジケリスト先輩!俺にも!」
復活した赤也が催促をしてきた。
赤也を見ると、ソフトクリームが付いてる。
確かについているが…
位置がおかしい。
「お前どこで食ってんだよ!」
そう、耳たぶに付いていた。
「俺の性感帯っス♪」
そんなことは聞いていない。
「ちょっとこっち向きんしゃい。」
仁王に言われ振り向いたその時。
ペロ
「Σ?!///」
口の端を舐められた。
「付いとった。」
一瞬の出来事だった。
思わずソフトクリームを落としてしまった。
「Σ食い物を粗末にするとはなんだ!」
「ごめんなさい…。」
真田に怒られながらドキドキが止まらなかった。
「これが最後になるな。」
その最後はここの遊園地で一番スゴイとされているジェットコースターだった。
「えー!観覧車はー?!」
「乗ると帰宅時間が遅くなるぞ。」
あたしたちは所詮中学生。門限を守らなければならない。
「そっか…。じゃあ観覧車は彼氏ができたらにしよう!」
「伝説のハジケリスト先輩!俺はいつでも準備オッケーっスよ!」
ジェットコースターは二人乗りなのでグーパーで決めることにした。
その結果
前からブン太と柳生
あたしとジャッカル
蓮二と仁王
真田と赤也という組合せになった。
並んでいると、落下しているときの写真が売られていることに気付いた。
「これってどこで撮られてるんだろーねー。」
「さぁな。みんな前向いてるってことは気付かないような場所なんだろうな。」
そんな話しをしているうちに自分たちの番になった。
『それでは、いってらっしゃ~い♪』
係員に見送られ、あたしたち王者立海大を乗せたジェットコースターが出発した。
ゆっくりゆっくりあの独特の機会音が鳴りながら上に昇っていく。
そして音が止まった。
「…くる!!」
ジェットコースターは凄いスピードで爽快に駆け抜けていく。
「気持ちい~い!!(≧▽≦)」
あたしの横ではジャッカルが聞いたこともない言語を巻き舌混じりに使って楽しそうにしている。
後ろは見れないけどブン太と赤也が「すっげー♪」って言ってるのが聞こえた。
「楽しかったね!誰かカメラ見つけた?」
「カメラの位置を把握できたのはフラッシュが光ってからでしたよ。何せあの速度ですから。」
「だよね!」
「写真…出来てるぜ。」
「…………。」
あたしは背筋が凍るのを覚えた。
この写真では蓮二と仁王でさえ安全バーにつかまり前を向いてるのに唯一人、真田だけはバッチリカメラ目線なのだ。
それだけではない。
「どうした、弦一郎。」
「うむ。目にゴミが入った。」
写真の中の真田は片目をつむっている。
つまりウインクしているのだ。
「幸村君のお土産にこの写真はいかがでしょう?」
Σなんてことを!!
こんなもん見たらそれこそ面会謝絶になるのでは…。
「そうだな。実によく撮れている。」
Σえ!真田はいいの?!
「うむ。早速明日見舞いに行こう。」
いいんだ…。
幸村…ごめんね(┰_┰)。
―後日―
「失礼します…。」
あたしはノックをしてから病室に入った。
気が重い。
「あれ?今日は伝説のハジケリスト一人?」
「ううん。部活終わってから真田も来るよ。あたしだけ先に来た。」
あたしはお花を変えてから遊園地に行ったことと、遊園地でのエピソードを幸村に事細かに話した。
「…そっか。俺も行きたかったな。」
「退院したら行こうよ!でもお化け屋敷は入りたくないな…。」
「そうだね…。それはトラウマになるね。退院したら二人きりで行こうか?」
優しく微笑む幸村に罪悪感を覚えつつ、あたしは勇気を振り絞った。
「うん…。それはいいんだけどね、その…お土産が…。はい、コレ…。」
鞄から例の写真を出し、幸村に手渡す。
何度も心の中でごめんねを繰り返しながら。
「お土産なんて…。気をつかわなくてよかったのに。」
幸村の目線があたしから写真へと移った。
するとすぐにあたしに目を戻した。
「みんな楽しそうだね。伝説のハジケリストも、とてもかわいく写ってるよ…。」
それから幸村はずっと窓の外を眺めていた。
「失礼する。」
真田が病室に入ってきた。
「やぁ…よく来たね。」
幸村は窓の外を眺めたまま乾いた返事をした。
確かに『よく来た』と思った。
「どうした。具合でも悪いのか。」
「あぁ。大丈夫だよ。」
しばし雑談して、あたしたちはおいとますることにした。
雑談中も幸村はあたしか窓の外しか見なかった。
病室を出ていくとき、幸村は「苦労かける…。」と、幸薄そうに微笑んだ。
終わり
[後書き]
幸村が帰ってきた後の遊園地ネタも書きたいです。ここまで読んで下さってありがとうございましたm(__)m