「なぁ､牛丼食いたくねぇか?」

「食べたい!お腹空いた!」


日曜の部活は､練習試合とかじゃない限り大体半日で終わる｡今日は午前中で上がりなので､昼食を摂ってから帰る事がしばしばだ｡


「じゃあよ､樺地誘って吉牛行かないか?」

「行く行く!」


宍戸の提案で吉牛に行く事になった｡あたしは宍戸が着替えてる間に､片付けを手伝ってくれてる樺地に話し掛けた｡


「樺ちゃん牛丼好きでしょ?この後宍戸と吉牛行くんだけど一緒に行かない?」

「行き…ます｡」

「決まり♪早く片付けちゃおう!」

「ウス!」



あたしと樺地が二手に別れてボールを数えようとしたとき､背後から風に乗って香水の匂いがした｡


「俺様も行く｡」

「どこへ?」


言いながら振り返ると､予想通りに跡部が腕を組んで立っていた｡


「ヨシギューとかいう所だ｡」

「なんで?!」

「俺様が行くと何か都合でも悪ぃのか?アーン?」

「そーゆーわけじゃないけど…どうしたの?」

「庶民の味とやらを知りたくなったんでね｡」


イヤミな事この上ない発言をしながら､前髪をファサッとかきあげた｡


「別にいいけど…｡」




片付けと着替えを急いで済ませ､あたし達は吉牛へ向かった｡






「おい､カードは使えねぇのか?」


券売機の前で腕を組む跡部を見るのはなんか新鮮だ｡


写メ撮りたい｡



「何言ってんだよι使えるわけねーだろ?」


跡部の横から小銭を入れ､牛丼大盛のボタンを押す宍戸｡それを見て跡部は顔をしかめた｡


「跡部現金持ってないの?｣

「アーン?現金なんて持ち歩いてねぇよ｡」


中学生のくせに現金持ってないなんて､さすがは跡部だ｡ボンボン長太郎ですらたまに小銭持ってるというのに｡


「じゃあ貸してあげる｡並?大盛?」

「俺様は金なんて借りねぇんだよ｡女からなんて以っての他だ｡」

「じゃあどーすんのよ｡ホラもう!早くしてよ!後ろ詰まってるじゃん!!」

「チッ｡分かったよ｡不本意だが借りてやるぜ｡」


金を貸すのはあたしなのに､この偉そうな態度｡跡部のこーゆートコが割と好きだったりする｡それでこそ跡部!みたいな｡


「倍返しね♪並?大盛?」

「なんでもいい｡」


何となく食べ盛りの来なそうな跡部なので､あたしと同じ並にした｡








「狭い｡お前もう少しそっち行け｡」

「こーゆーもんなの｡我慢して｡」


左から樺地､跡部､あたし､宍戸の順番で席に座った｡カウンターに券を出して少しすると､注文の品とおみそ汁が出された｡



「おい樺地!何やってんだ!」

「Σウス?!」


割り箸を割り､いただきますをした直後に跡部が叫び出した｡


「ったく｡何だっつーんだよ｡おい跡部!どーかしたか?」


宍戸が上体を後ろにし､あたしを挟んで跡部に尋ねた｡あたしも横目で跡部を見た｡


「樺地のヤツ､生卵入れやがった…!」


跡部の丼を見てみたが､生卵なんて入っていなかった｡


「入ってないじゃん｡」

「俺のじゃねぇ｡樺地のだ!」


跡部越しに樺地の特盛丼を見ると､確かに生卵が入っていた｡


「何かと思えば…｡別に普通だろι早く食おうぜ｡」



宍戸は呆れて体制を戻した｡


「いい?生卵は好みで入れるトッピングなの｡普通なんだよ?」

「チッ｡それを早く言っとけよ｡」

「牛丼初心者の跡部にはまだ早いぜ?」


宍戸が牛丼を掻き込みながら言った｡
牛丼初心者ってなんだ｡お前は自分が牛丼マスターとでも言いたいのか｡


「好みがあるから､とりあえず跡部はそのまま食べようね｡」


これでやっと牛丼が食べられる｡あたしは前を向き､牛丼を食べ始めた｡













食べ始めて少し経った時､跡部が箸を置いた｡



「どうしたの?口に合わない?」


すると跡部は足を組み､真剣な眼差しで言った｡




「おい｡そこの店員｡シェフを呼べ｡」












「ブッ!!ゲホッ!ゴフッ!」

「Σちょっ!!汚!」


宍戸は跡部の発言にむせ､その時宍戸の口から元気良く飛び立った米粒があたしのみそ汁にダイブした｡


「おいしくなかった?」


クレームでもするのかと､跡部のみそ汁と自分のみそ汁(宍戸入り)をすり替えながら尋ねた｡


「こんな中小企業がこんな低コストで…一体何がどうなってやがる…!よほど腕のいいシェフがいるんだろ?」


言いたい放題の跡部にアルバイトの人が明らかに困っていたので､「すみません｡気にしないで下さい｡」とお辞儀した｡


「こんな薄っぺらい肉をここまで美味くできるなんて､海外で相当積んできたに違いねぇ｡そうだろ?宍戸よ…｡」

「Σ俺?!」


米粒が鼻に昇ったらしく､片方の鼻を紙ナプキンで押さえていた所を跡部に絡まれた｡

あたしは見るに見兼ねて言ってやった｡











「牛丼屋にシェフなんていないから｡黙って食べて｡お願い｡」












それから跡部は一言も発する事無く､牛丼を残さず綺麗に召し上がった｡








この日からだ｡最低でも月に一度､牛丼屋から出て来る跡部と樺地の目撃情報が飛び交うようになったのは｡







終わり


[後書き]

リク内容『お任せ跡部夢』です｡原点に戻って日常夢にしてみました☆

跡部ってなんだかんだで手が掛かりそうな…｡


真由美さんすみません！リク夢で跡部の牛丼デビューなんてアホな事してホントすみませんでしたm(__)m


伝説のハジケリスト様は吉野家派ですか?松屋派ですか?私は吉野家派です｡