青学生活
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“甘い甘い恋のチョコレート、あなたにあげてみても”
“目立ちはしないから、私ちょっと最後の手段でキメちゃう”
お菓子メーカーの策略だろうがなんだろうが、今日は一年に一度の大事な日。
女の子から男の子に告白をしやすい、ありがたい日。
今日こそ
今年こそ
気持ちを伝えよう。
「まだ帰ってなかったのか。」
「うん。ちょっとね。」
部活が終わった後、スミレちゃんに部誌を渡しに行こうとしたら、用があるからついでに、と手塚が持って行ってくれた。
どうせ、あたしは手塚に用があるから同じことなんだけれど。
「今年も大量だね。いくつもらったの?」
手塚の両手には大きな紙袋。今日がバレンタインじゃなければ「アキバ系」と言ってからかっているところだ。
「まだ数えていない。」
うちの部員は毎年例外なく、かばんに入りきらないほどたくさんのチョコをもらう。そのくせ自分達じゃ袋を用意しないので、この時期には大きめの紙袋を部室に置いておく。
実際それはとても役に立つ。一晩で糖尿病になれそうなほどの大量のチョコを持って帰れはしない。タカさんと乾と海堂以外のメンバーは、一人二袋も使っていた。
「もう用事は終わったの?」
「あぁ。」
手塚が部室を出てから20分は経っていた。人との会話の所要時間が極めて短い手塚にしては珍しい。
まさか、スミレちゃんとバレンタインにおチョメチョメで熟女に先を越されたなんてことは…
「どうした伝説のハジケリスト。」
「な、なにが?!」
「難しい表情をしていたが、何かあったのか?」
“何かあったのか?”まさにそれは、今あたしが手塚に対して思っていたことだった。
「ねぇ。」
「何だ。」
「スミレちゃんにチョコ、もしくは何かもらった?」
「貰っていないが、それがどうかしたのか?」
眉一つ動かさずサラッと答えたところを見ると、本当にやましいことはないようだ。
「特にどうもしないけど、戻ってくるの遅かったから。」
「練習試合の件で少し話があってな。で、お前は何をしてるんだ?いつもならもう帰ってる時間だろう。」
さて、ここからが本番だ。
「手塚にまだ渡してなかったから。バレンタイン。」
他のみんなには昼休みに配り歩いた。チョコは山ほどもらっているので、気を利かせてうまい棒を二本ずつ、なるべくしょっぱい味のものをあげた。
もちろん、手塚には別に用意してある。
普通のチョコと、あたしの…
「毎年すまないな。」
「気にしないで。本命だから。」
“とっておきのシャレたチョコレートそれは私の唇”
“あなたの腕の中、わざとらしく瞳をつむってあげちゃう”
「手塚…。」
あたしは胸の前で手を組み、わざとらしく瞳をつむった。
これで「ごめん」と言われたらハートブレイク。キスしてくれたら望んでいた青春ゲット。
さぁ!かかってこい!
「どうした。目にゴミでも入ったのか?」
「……。」
“本命”と言ったにも関わらずコレだ。まぁ相手はあの手塚だ。一筋縄ではいかないことは百も承知。こんなのは想定の範囲内だ。
「伝説のハジケリスト、気分が悪いのか?」
「……。」
むしろ気分は高ぶっている。最高潮だ。手塚のニブり具合に目を開けて「ちげーよ!」と言いたいとこだが、ここで引き下がったら負けだ。
「あまり無理をするな。気分が悪いなら早く帰った方がいい。」
「……。」
あたしは目を閉じたまま沈黙を貫き通した。
すると、手塚のため息がかすかに聞こえた。
と思ったら。
「えっ?!」
体が宙に浮いた。
びっくりして目を開けると、そこには手塚の顏が左斜め上に、そして近くにあった。
「目を閉じて動けなくなるほど気分が悪くなる前に、どうして言わなかったんだ。」
手塚の勘違いは止まらないが、手塚にお姫様抱っこをされているというなんとも喜ばしいやら恥ずかしいやらな状況に、こっちもイッパイイッパイだ。
予想だにしていなかった手塚の行動に戸惑いつつも、手塚から香るいい匂いをここぞとばかりに、バレないように嗅いだ。
「怒ってる?」
「怒ってはいないが、呆れている。」
無表情のまま、あたしを抱えながら歩き出した。
「物凄く重いでしょ?」
「…気にするな。」
少し間があった上に否定しない。気にするなと言うほうが間違ってる。
いや、そんなことはこの際どうでもいい。予定が狂ってしまった。
でも、この状況はラッキーかもしれない。
あたしは制服のポケットに手を入れ、友達からもらったチロルチョコを口に入れた。
「ねぇ、バレンタインチョコまだ渡してなかったよね?」
「それより、今は自分の体調の心配をしていろ。」
「手塚、こっち向いて。」
「なんだ。」
あたしを見下ろした時、手塚の首に腕をまわした。
そして…。
「チョコの味、した?」
「………。」
手塚の足が止まった。ついでに動きも全体的に止まった。
「どういうつもりだ。」
「本命って言ったじゃん。あ、もう降ろして。」
あたしを丁寧に降ろすと、持っていてくれたかばんを渡した。
「手塚って、頭いいくせにこーゆーことは分からないよね。目ぇ閉じて待ってんのに勘違いするしさ。」
「…すまない。」
「その“すまない”は、どういう“すまない”?」
珍しく手塚が困った顔をした。手塚の困った顔を見たのは、半年くらい前に、乾に試作品の試飲を頼まれてた時以来だ。
「ちゃんと言うね?」
かばんから用意していたチョコの箱を出し、手塚に差し出した。
「あたし、ずっと手塚が好きでした。付き合って下さい。」
恥ずかしいし、緊張もしている。けど、今日は頑張るって決めてたから、相手は天然モノのニブチンだから、はっきり言った。
でも、返ってきたのは悲しい返事だった。
「その…、すまない。」
多少覚悟はしていたが、本人に言われるとやっぱりツライ。手塚だから、今後に響くようなことはないと思うけど。
あたしは、今までどおり普通に接することができるだろうか。
そんなことを考えながら、言葉を振り絞った。
この場から逃げたかった。
「うん、分かった。こっちこそごめん。」
「いや、そうじゃないんだ。」
差し出したチョコをかばんにしまおうとしたら、手塚が慌てた様子で言ったので手を止めた。
いつもの無表情のまま、手をあたしの方に差し伸べてきた。
「伝説のハジケリストのチョコレートを受け取らせてくれ。」
「それって…」
手塚が無類のチョコ好きで、どんな手を使ってもたくさん欲しいと思ってるとか、そういうわけではないことは分かる。
「お前の努力に気付いてやれなくてすまなかった。」
“もしかしたら”という期待が、あたしの胸を熱くさせた。
そしてそれは、すぐに確かなものになった。
「伝説のハジケリストの気持ち、嬉しく思う。受け取らせてくれるか?」
「手塚…。マジで?」
「あぁ。本気だ。」
体を張った甲斐があったってもんだ。
手塚の、こんなに優しい顔が見れたのだから。
想いが、叶ったのだから。
「ねぇ、こっちのチョコは改めて受け取ってくれないの?」
自分の唇を指してちょっとふざけて言ってみると、
「そういう事には順序というものがあるだろう。」
と、至って真面目に答えてきた。
そんなところも好きだなーって思うと、顔が緩んでしまう。
「交換日記からとか?」
「それもいいかもしれないな。」
あたしの手を優しく包んで、歩調を合わせて歩いてくれている。
今はそれで充分だ。
「ねぇ、そういえばチョコの袋は?」
ふと気が付くと、手塚の手には袋がなかった。繋いでない手の方もだ。
「………部室の前だ。」
「えー!置いてきちゃったの?!手塚でもそんなマヌケなことするんだ!」
「お前の体調の事だけを考えていた。だから、気が回らなかったんだろう。」
「そう…(〃_〃)取りに戻るなら付き合うよ?」
「すまないが、そうしてもらえるか?」
「うん。」
本当ならここで、「お前の以外はいらないからいい」とか言って欲しかったが、律儀で義理堅く、礼儀を重んじる手塚にそれは望めない。
でも、その分一緒にいられる時間が増えたからヨシとしよう。
“あの日からよ 恋のチョコレート銀紙そっと開いて”
“気持ちを確かめて 誰もみんな素敵なロマンスしちゃうの”
「今日からあたし、手塚の彼女?」
「そういうことになるな。」
今日という日を作ったお菓子メーカーに感謝だ。
「ねぇ、あたしの告白どうだった?びっくりした?」
「お前にはいつも驚かされている。」
「そお?」
「あぁ。」
手塚にあげたチョコの箱に付いてたリボンを腕に巻き、そっちの手を繋いで歩いた。
手塚を好きになってから二年目のバレンタイン
やっと、早めの春を迎えることができた
唇も奪えた
“恋の記念日”
終わり
[後書き]
はい、慌てて短時間で書いたらこんなんになっちゃいましたー。ギャグまっしぐらに行きたかったのですが、最近眼鏡ボーイが出てくる少女漫画を読み漁ってる影響でこんなことに。
甘いのを書くのが極端にヘタなので、やっちゃいました感丸出しです。パンツを丸出しにした方がマシな気がしてきました。(どっちにしろ周りが迷惑)
伝説のハジケリスト様、今年のバレンタインはどうですか?意中の彼はいますか?私は何もありません。無印良品で買ったマフィンの素(10個作れて525円!)でマフィンを作り、全部手作りだと言い張って配り歩きます。