立海生活
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今日は幸村のお見舞いに行く日だ。
この前見た時、ティッシュとシャンプーが無くなりそうだったので、商店街を通った。
「これだけじゃアレだからイチゴでも買っていこうかなー。」
今日のあたしはすこぶる機嫌がいい事もあり、奮発してイチゴと練乳も買った。
「来たよー。」
「いらっしゃい。」
病室に入ると幸村が一人だった。
「あれ?真田達まだ来てないの?」
「今日はあいつらの顔見たくないんだ。」
「そう…。」
自分の気持ちに正直なのか、サラっと酷い事を言う幸村。あたしも何を思われてるのだろうか…。
「今日は荷物多いんだね。」
「ティッシュとシャンプー無くなる頃でしょ?だから買ってきたの。」
「ありがとう。苦労かける。」
そう言って柔らかく微笑む幸村の顔だけを見ているとクラッと来るんだけどな。
「ううん。気にしないで!イチゴも買ってきたの♪なんと練乳付き。」
「練乳か…。伝説のハジケリストってたまに大胆だよね。」
言う事と考えてる事がオヤジ的でね…。よく、『そのギャップがいい』と言う人がいるが、このギャップはどうですか?
「せ、せっかく買ってきたし食べようか!洗ってくるね!」
あたしはイチゴを洗い、ヘタを切ってお皿に移した。
「お待たせ!」
「ありがとう。そういえば…今日何日だっけ?」
幸村の枕元には小さなカレンダーがあるというのに、そんな質問をしてきた。
「今日は3月5日だよ?」
「5日か…。3月になってもう5日も経つんだね。」
「そうだねー。早く桜見たいね。」
二人で首だけ向け、穏やかに窓の外を眺めていた。
お皿の上のイチゴに爪楊枝を刺そうと思って見たら、またもや一個も無かった。
皿舐めたのかってくらいに、練乳の一滴も残っちゃいない。
「伝説のハジケリスト、今日機嫌いいみたいだけど、何かあったの?」
幸村にイチゴを全部食べられて機嫌が悪くなりそうだったが、コイツにだけは勝てる気がしないので何も言えない。
「うん。特に何もなかったけど、今日はいい気分なの♪」
「そう。伝説のハジケリストがいい気持ちだと僕も気持ちいいよ。」
なんか言い方がやらしいが、突っ込むとどんな言葉が返って来るかおっかないのでやはり何も言えない。
「じゃあ…そろそろ帰ろうかな。」
「今来たばかりじゃない。ゆっくりしていきなよ。」
ガシッと腕を掴まれ、若干よろめいた。
「また来るから。(早くしないと『天国への階段』が…)ね?」
「…わかった。」
わかったと言いつつ離してくれない幸村。振り切ろうにも力負けするだろう。
「今度はプリン買ってくるからさ。」
「丸井と一緒にしないでよ。じゃあ…またね。今日はありがとう。」
「うん。またね。」
ようやく手が離れ、鞄とコートを持って病室を出た。
「伝説のハジケリスト。」
「ゆ、幸村?!Σ( ̄□ ̄;)」
エレベーターから降りると、幸村が立っていた。
「これ、忘れ物。」
そう言って差し出されたのはさっきの練乳。わざわざエレベーターより早く階段を使って届ける物なのだろうか。それかあたしがどんだけ食い意地張ってると思われてるかだ。
「ありがとう…。」
「いいんだ。せっかくだし、玄関まで送るよ。」
幸村に見送られ、病院を後にした。幸村はあたしの姿が見えなくなるまでずっとそこにいた。
「あ、柳。」
「あぁ、伝説のハジケリストか。」
帰り道に柳に会った。
「随分早かったな。精市の所に行っていたんだろう?」
「うん。あ、部誌代わりに書かせてごめんね。」
「それは構わないが…。今日くらいもう少し一緒にいてやればよかったじゃないか。それに、俺達が席を外した意味が無い。」
ずれたテニスバックをかけ直し、柳が意味深発言をした。
「どうして??」
「まさか…忘れているのか?今日が何の日か。」
「今日?」
あたしは鞄から手帖を取り出し、乱暴にページをめくった。
「あっ…!!」
3月5日の欄に、
『幸村の誕生日』
と記されていた。今日の幸村の言動や行動を思い返してみると、自分はなんてヒドイ事をしてしまったのだろうか。
「今からでも間に合うだろう。病院に戻れ。」
「でもあたし、プレゼントとか何も用意してないよ…。」
「必要ない。精市はお前が傍にいればそれで満足なんだ。さぁ、行ってこい。」
「うん!」
柳に背中を押され、あたしは全速力で走った。
「幸村!!」
「あれ?どうしたの?」
「あたし…ごめんね…!誕生日おめでとう。」
誕生日を忘れてたあたしを、幸村はいつもの暖かい笑顔で迎えてくれた…のも最初だけで。
「忘れられてたなんて悲しいな。」
「すみません…。」
「今夜はとことん付き合ってもらうよ?」
「Σえっ」
最終的にはいつもの黒い笑顔になっていた。
結局、その夜は隠れて幸村の病室に泊まり、朝までガーデニングの話を聞かされた。後から気付いたけど、よく見たら『幸村の誕生日』と書かれているのは、あたしの字ではなかった。
終わり
[後書き]
手帖に『幸村の誕生日』と書いたのは、紛れも無く幸村本人です。
この時期だったら入院してないと思うのですが、自分設定でいきました。見逃して下さいm(__)m
幸村誕生日おめでとう!!