青学生活
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今日、あたしは手塚と海に来ている。
数少ない休み、手塚は山に行きたそうだったけど、
「新しい水着買ったから海行きたい!」と言ったら
「…たまには海もいいかもしれないな。」だって!
やはり夏というのは人を開放的にするのかもしれない。
「晴れてよかったね!」
「あぁ。」
借りてきたパラソルを組み立てながら、やっぱり来て良かったと思った。
せっかくの夏休みというのに、あたし達は部活三昧でデートなんてできてなかった。部活も楽しいし、テニスしてる手塚はかっこいいけど、思春期だもの。夏休みくらい遠出したいじゃない。
それに…
「よし、できたぞ。ん…?どうした。」
「Σな、なんでもない!どうする?泳ぐ?」
手塚の肉体美に思わず見とれてしまった。
そう、海と言えば水着だ。普段は学ランやら体操着やらジャージやらで隠されている手塚の肉体。それを拝めるなんて…。
し・あ・わ・せ(〃▽〃)
「そうだな…。少し待っていろ。」
そう言うと、手塚は海の家の方へ歩いて行った。その途中、スタイルのいいお姉さん数人に声をかけられていた。
「待たせたな。のどが渇いただろう。」
「うん!ありがとう♪ねぇ、さっき逆ナンされてたでしょ。」
「ぎゃくなん…?何だそれは。」
あたしにラムネを1本渡すと、パラソルの下に腰を下ろした。
「女の人からナンパされること。」
「歳と、誰と一緒に来ているかを聞かれただけだ。」
「(それをナンパっていうんだけどな…)で、手塚は何て答えたの?」
受け取ったばかりのラムネがもうぬるくなってきた。
「“15歳ですが。急いでいるので失礼します。”と答えた。」
「誰と来てるか言わなかったの?」
「あぁ。見知らぬ人と話している時間があったら、少しでもお前と話していたいからな。」
手塚って意外とこーゆーことをサラッと平気で言ってのけるのよね…。
本人は気づいてないだけで、実は優男の素質があるんじゃなかろうか。
そう思って手塚をチラ見したら、とても穏やかな顔で海を眺めていた。
なんだか照れくさかったので、あたしは話題を変えた。
「昨日部活終わった後、あれから不二と大石とラーメン食べに行ったの。」
「駅前か?」
「うん。味玉おいしかったよ。不二のラーメンね、途中から真っ赤になってた。」
「不二は辛い物が好きだからな。」
「あれは異常だよ。」
「そうか。」
「うん。」
浜辺を歩く女の人達(主に年配の人)が、あたし達の前を通ると手塚を見て嬉しそうに耳打ちする。きっと、『ねぇ、あの眼鏡の子、ヨン様に似てない?』と言ってるに違いない。
けど、あたしが見る限りでは、この浜辺にいる男の人達の中で手塚が一番カッコイイ。
彼氏ということを抜きにしても、だ。
「新しく買ったというのはその水着か?」
飲み終わったラムネのビンを横に置くと、人差し指でメガネの中心を押さえながら聞いてきた。
「うん。似合う?」
「あぁ。よく似合っている。色もいい。」
「ほんと?!よかったー!乾に選んでもらったの。手塚の好きそうなやつ。」
「さすが乾だな。しかし、なぜ乾と買い物に行ったんだ。」
「だから、手塚の好きそうな水着を教えてほしかったからだってば。」
あたしは最後の一口を飲んで、中のビー玉を転がした。
「それなら、直接俺に聞けばよかったんじゃないのか?」
「当日のお楽しみにしたかったんだもん。ねぇ、もしかして…ヤキモチ?」
手塚はあたしを見て、ふっ、と笑うと言った。
「そうかもしれないな。」
手塚って、見た目老けてるし大人っぽくて落ち着いてるってよく言われるけど、よく考えてみたら、彼はそこらへんの子どもよりよっぽど素直だ。
老けた子どもなんだ。きっと。
「ラムネごちそうさま。そろそろ泳ごっか。」
「そうだな。浮輪はあるのか?」
「あ、あるある!空気入れに行かなきゃね。悪いんだけど、その前に背中の方日焼け止め塗ってくれる?」
あたしはバックから日焼け止めを出して手塚に渡すと、座ったまま背を向けた。
「自分では届かないか?」
「届くかもしんないけどしっかり塗れないじゃん。」
「それもそうだな。」
「万遍無くよろしく。」
結構待っても、塗られる感触がない。
不思議に思って振り返ると、手塚が日焼け止めと睨み合っていた。
「どうかした?」
「……いや。塗ろう。」
「よく振ってね。」
少しの間があった後、日焼け止めを振る音がした。
「背中だな。」
「うん。背中全体。できれば肩もお願い。」
「…分かった。」
ようやく手塚が日焼け止めをあたしの背中に塗り始めた。が、おそらく指先だけで塗っているのだろう。
くすぐったい。
「手塚、悪いんだけど、くすぐったいから手ぇ全体で塗ってくれないかな。」
「すまない。しかし…」
「ん?」
「俺も男だ。頭では分かってはいるんだが、妙な気分になってしまう。」
「え、あ、そ、そうよね!ごめんね!変な事頼んじゃって…」
手塚に対して安心しきっている自分がいた事に反省した。あたしは手塚に対してムラムラするけど、その逆はまずないと思っていた。ストイックだし、態度に出さないし。
「いや、こちらこそすまない。」
「日焼け止めはいいや!浮輪膨らましに行こう?」
手塚の『俺、欲情しちゃうから』発言がとても嬉しかった。手すら繋いだ事のないあたし達に、前進の兆しが見られたような気がした。
「しかし、紫外線に直に肌を晒させるわけにはいかない。」
「大丈夫だよ。ちょっとヒリヒリするくらいだもん。」
「そうか…。分かった。」
「え?」
「眼鏡を外せばだいぶ見えなくなるからしっかり塗る事ができるはずだ。」
すると手塚は眼鏡を外し、ケースにしまった。
ヨン様ではなくなってしまったけど、眼鏡を外すと正統派な美形がよりいっそう引き立つ。
「見える?」
「ぼやけていてあまりよく見えない。これなら大丈夫だ。」
「そ、そお?じゃあよろしくね。」
日焼け止めを手塚に渡すと、また背中を向けた。
手塚の手は大きくて、丁寧で、こっちがドキドキした。
「塗れたぞ。」
「ありがとう。」
「見えていなくても照れるものだな。」
真っ直ぐあたしを見つめてそんな事言われたら、腰が砕けるというものだ。
「…浮輪。空気入れに行こう?」
「あぁ、そうだな。」
浮輪を持って立ち上がろうとしたら、手塚があたしの腕を掴んで立たせてくれた。
「足元気をつけろ。」
「うん。……Σうおっ!」
気をつけろと言われたそばから、砂に軽く足をとられた。
「大丈夫か?」
「ダイジョブ……Σ(〃д〃)」
なんと手塚があたしの手を握ってゆっくり歩き出した。
やはり、夏は人を大胆にするのかもしれない。
部活の休憩中、中学生活初の夏休みを迎えたリョーマにそう話したら、「暑くて判断力が鈍るだけなんじゃないスか?」って言われたけど…
「あれ?手塚。眼鏡置いてきたの?」
「あぁ。少し事情があってな。」
「見えなくない?」
「落ち着くまでは見えない方がいい。」
と、耳を真っ赤にして言った。
ぎこちなく繋いだ手からも手塚の熱が伝わってきた。
「落ち着いてないの?」
「情けないが、どうにか理性を保っている。」
やっぱり素直な手塚は、ゆっくりと足元を確かめながら、あたしの手を引いて空気入れのある海の家へと歩いていく。
あたしは照れ笑いを噛み殺す。
かっこよくて
かわいくて
愛しくて。
「手塚。」
「なんだ。」
「……。なんでもない!」
眼鏡が無くてよく見えないせいなのか、イッパイイッパイだからかよく分からないけど、砂に埋まったおじさんの上を歩き出した。
せっかく繋いだ手を離したくなかったので、あたしも手塚の後に続いた。
幸いなことに、おじさんは爆睡していて気づかなかった。
今年の夏は、思った以上に暑くなりそうだ。
終わり
[後書き]
無性に眼鏡キャラを書きたくなって書きました。第1弾は手塚を。
これからどんどん眼鏡キャラ達の眼鏡を外していきたいと思います。
忍足さんが喜んでくれることでしょう。