小ネタ集
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【3-2恵方巻き】
お昼休み。食べ終わったお弁当を片付けていると、
「腹いっぱいか?」
ビニール袋を片手にぶら下げた白石がやってきた。
「いっぱいってわけじゃないけど、まぁ。なんで?」
「今日節分やろ?一緒に恵方巻き食わんかな、思てな。」
何を言っているのだろう。食ってもいいけど、何で弁当を食った後に言うかな。つーかせめて前日に言おうよ。そう思いつつも、まだお腹には余裕もあったので
「いいけど、白石はそれがご飯なの?」
「いや、弁当食ったで。」
「へぇ…」
見かけによらずよく食うな、と思いながら、弁当箱を鞄にしまっていると
「謙也!」
白石が大きな声で、遠くに座る謙也を呼んだ。謙也がこちらを見ると、白石は黙って手招きし、謙也は紙パックのジュースを飲みながらこちらへとやって来た。
「なんや。」
「恵方巻き食わん?」
「メシ食ったばっかやろ。何で今言うねん。」
ホントだよね、と思いながら白石の顔を見ると、
「お前らなら食えるやろ。」
デザートに酢飯を食う、さもそれが当たり前かのように言われた。
「待ってよ!謙也は男子だし、育ち盛りだから分かるけど、なんであたしまでそうなってんの?超失礼!」
「でも、食えるんやろ?」
そんなこと言われても…
「食える。」
「食えるんか!」
謙也の素早いツッコミもありがたく、そう答えるしかなかった。だって本当に食えるもん。自分に正直答えてしまったけど、
「せやろ?」
白石の笑った顔が見れたからヨシとしよう。
「で、何でお前は恵方巻き持ってんねん。」
「朝来る途中コンビニで買うてん。節分やし、やっとかなあかん思てな。」
白石が袋から出したのは、三本で一パックの恵方巻き。太さはあるけど短かったので、まぁこれなら大丈夫、いける、と安心した。
各自恵方巻きを手に取り、あたしがいただきますと言い掛けて
「ちょお待ち。」
謙也がそれを遮った。
「恵方巻きて、なんや食べ方あったよな?食いながら笑うんやったっけ?」
「えー、それはまた違うやつじゃない?あ、方角決まってて、そっち見ながら食べるんじゃなかったけ?」
すると白石が
「せやったな。えーっと、今年は東北東…北があっちやから…あの辺や。二人とも、あの辺見て食うんやで。」
と言って、廊下方面の左斜めあたりを指さした。
「せめて窓の外がよかったね。」
「せやな、みんなこっち見てんで。」
話ながら、恵方巻きを口にした。
「あ、しょう油付けてなかった。」
「俺もや。それ俺にも付けて。」
入っていたしょう油の封を切り、自分と謙也の恵方巻きに、慎重にしょう油をたらした。
「白石は?」
白石の方に顔を向けると、まだ恵方巻きを口にしておらず、パッケージに付いていたシールとにらめっこしていた。
そして
「恵方巻きの食べ方。一、食べる前に今年の恵方に向きましょう。」
「向いた向いた。」
「二、食べている時は話してはいけません。」
「ちょっとそれ早く言ってよね!けっこうしゃべっちゃったじゃん!」
「現在進行形でな。」
そう言いつつも、食べることをやめない謙也とあたし。
「三、食べた後は、はっはっはっ、と元気よく笑いましょう。」
「ほらな、俺の言った通りやん。」
「そうだったけ?」
じゃあ笑わなきゃ、なんて思いながらもぐもぐしていると、廊下を歩く隣のクラスの千歳くんと目が合った。
そして教室に入ってきて
「何しとっと?」
「白石が恵方巻き買うてきてん。」
「あー、今日節分か。」
千歳くんは白石の手からシールを取ると、
「恵方巻きの食べ方?一、食べる前に今年の恵方に向きましょう。」
それを聞きながら、お腹がいっぱいで苦しくなってきたのを感じつつ食べ続けた。
謙也を見ると、大きいけど一口でいけそうなところまでいっていた。あたしも今口に入っている分を飲み込み、もう一口食べれば残りも一口でいける感じだ。白石はあと少しで半分というところだった。
「二、太巻きは最後まで食べきりましょう。」
「え、今何て?」
恵方巻きに飽きてきたので、早くやっつけようと思い。聞いたあと二口分を無理矢理口に詰め込んだ。
「最後まで残さず食えって。」
そんなこと、さっき白石は言ってなかった。あたしと同じ疑問を持っていたらしい謙也が
「最後の一つは?」
と聞くと
「三、食べている時は話してはいけません。」
ええっ?!
「ちょ、どういうこっちゃ!ちょお貸して!」
謙也が千歳くんからシールを取ると、そこには最後に白石が言った、“食べた後に笑う”という項目が確かに無かった。
「千歳ー、それは言うたらあかんやろ。こいつら何も知らんと廊下に向かって笑うところやったんやで?」
「何してくれとんのや!食い終わった後笑う気満々やったで!」
「笑ったらええやん。」
あたしも笑う気満々だった。しかもさっき謙也は「俺の言った通りやろ?」とか言って、超ウケる。つーか白石最悪!と言いたいところだけど、口に恵方巻きが詰まってて何も言えない。そしてそんな状態で笑ってしまってるからとても苦しい。
「白石お前サイアクや!」
白石本人はというと、
「千歳のおかげで絶頂(エクスタシー)ならんかったわ。」
残念そうにしてみせてたけど、謙也とあたしを見てものすごく楽しそうだった。充分絶頂だ。
「それはすまんかった。お詫びにお茶でも買ってくるけん。」
「俺も行く。お前の分も買うてくるわ。」
同じ犠牲者である謙也は、最後の恵方巻きを口に入れ、千歳くんと教室を出て行った。
残されたあたしは、まだ口の中に詰まった恵方巻きを精一杯もぐもぐと噛みながら、さわやかに恵方巻きを頬張る白石を横目で見た。
このヤロー、という思いを込めて見ている、いや、睨んでいると、白石はおもむろに携帯を取り出し、カメラであたしを撮った。
むかついたのであたしも携帯を取り出し、恵方巻きにかぶりつく白石を撮ろうとレンズを向けると、親指を立ててポーズを決めてきた。手に持ってるのは恵方巻き。
今口に入ってるものを噛み砕き、全てを飲み込んだら、ミスター恵方巻きかよお前、と言ってやりたくて仕方なかった。
終わり