青学生活
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部活を終え、着替えを済ませたあたしは部誌を書くために部室に入った。
「お疲れ。ここいい?」
「ああ。」
手塚もすでに着替え終わっていたが、何か作業をしていた。
あたしはテーブルを挟んで手塚の前に座った。
「それ何?」
「文化祭の予算の見積だ。」
「そっかー。もうそんな時期かー。」
手塚も大変だよなー。部活もやって勉強もして生徒会の仕事もして…。
そんなことを考えながら、あたしは部誌を書き始めた。
無言のまま、シャーペンの音とプリントをめくる音だけが聞こえる。
あたしは手塚をチラっと見た。プリントと睨めっこしている。
それにしたって綺麗な顔してる。
シャープな顎のライン、厚くも薄くもない整った唇、切れ長の目…。
あたしは書く手を止め、手塚の顔を堪能した。
眉間には皺が寄っている。それはもう室井さん並に。
~ピタっ。
!Σ( ̄□ ̄;)
止まった。
手塚のおでこに蚊が止まった。
手塚の綺麗な顔に止まりよって、なんて身の程知らずな蚊だ。
『バチィン!!』
あたしは考えるより先にひっぱたいた。つーかひっぱたいてしまった。
掌には手塚に止まった蚊の無惨な死骸が付いていた。
「よし!仕留めた!」
「…何をする。」
手塚の眉間の皺が今、室井さんを越えんばかりに増えていた。手塚の睨みが恐い。
「蚊がいたの!ほら!」
あたしは慌てて手塚に自分の掌に付いた蚊の死骸を見せ付けた。目が悪い手塚にもよく見えるようにと眼鏡すれすれまで手を近づけて。
手塚は何も言わずに鞄からティッシュを取り出してあたしに差し出した。
「すまなかった。これで手を拭くといい。」
「ありがとう。」
あたしは蚊の死骸を貰ったティッシュで取り、そのティッシュを折りたたんで綺麗な部分で手塚のおでこを拭いた。
(…おでこに蚊に刺された跡のある手塚ってのも見てみたかったかも。そんでシャーペンとかでさりげなくおでこ掻いたりしてね。)
いやいや、あたしは間違ってない。この綺麗な顔を守りきったあたしは間違ってない。
「…なぜ俺の額を拭いている。」
「蚊を潰したときに汚れてたらあれだから。」
「そうか…。もういい。」
あたしは拭く手を止め、再び部誌を書こうとシャーペンを握った。
手塚も作業を続けた。
「お前は考える前に行動するんだな。」
珍しく手塚から話し掛けてきた。
「うん。つい反射的にね。言葉もそうかも。あたし考えるの苦手だし。」
「そうか…。」
そう言った手塚の眉間の皺はまだ残っていた。
仕事を終えたあたしたちは部室の鍵を閉めてから、あたしは部誌を、手塚は予算の見積書を職員室に持って行った。
「「失礼しました。」」
職員室から出て昇降口まで手塚と歩いた。
二人きりになることは滅多にないので変な感じがした。
沈黙に耐えられない。
「あのさ、手塚も蚊に刺されるんだね。」
「どういう意味だ。」
「よく分からないけど蚊に刺されなそうだし。蚊に刺された所を掻いてる手塚とか想像つかないしさ。」
「…。」
それからずっと無言のままだった。手塚を見るとまだ眉間に皺が寄っていた。
(…もしかして怒ってる??)
今日一日振り返って考えてみたが、思い当たることが多すぎて怒ってる理由が分からない。
靴に履き変え鞄を持つ。
「じゃあ手塚、また明日ね。」
あたしは当たり障りのないようにとあいさつをして踵を返した。
『ガシッ』
「??」
振り返ると手塚があたしの腕を掴んでいた。
「…もう外も暗い。送ろう。」
「えっ?!いいよ!疲れてるでしょ?悪いもん。」
(こいつ絶対説教する気だ!)
手塚の説教って痛いとこを一言で突いてくるんだもんなー。それはまぁいいとしても、その後の無言状態が一番イヤ。
「何かあっては困る。帰るぞ。」
そう言ってあたしの手を掴んだまま歩き出した。
「………………。」
「………………。」
やはり無言状態。
「あのさ、なんか怒ってる?」
耐えられなくなってあたしから口を開いた。
「怒ってなどいない。」
「だっていつもより眉間に皺が…。」
「…。」
それからまたお互い口を開かなかった。
手塚の足が止まった。
気付くと自分の家の前に着いていた。
「あれ?!ここあたしんちじゃん!」
暫く考え事していたもんで気付かなかった。
「説教は?!」
「なんの話だ。」
「あたしの腕掴んで逃げないようにしたじゃん!説教する気だったんでしょ?」
手塚は目を丸くした。
「違うの?」
手塚はフッと笑った。
「何がおかしいのさ!わけ分かんない。」
「すまない。ただ…」
「ただ?」
「お前が言うように考える前に行動してみただけだ。」
そう言った手塚の眉間の皺は無くなっていた。
終わり
[後書き]
手塚の恋愛を想像するのが難しいです。
ただ、私の中で彼は天然だと思ってます。