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今日はクリスマス。恋人達はいつもより豪華なデートをし、友達同士ではいつもより派手に騒ぐ日だ。
今年も彼氏のいないあたしは、例年通りテニス部のメンバーとパーティーでもするんだろう。そんなことを考えながら、がやがやと着替えているレギュラー達を尻目に部誌を書いていた。
それにしてもあいつらときたら、黙ってたらそこそこイケてるし、実際モテ気味だというのに、何故毎年みんなでパーティーしてるんだろうか。サエさんなんて最も彼女がいてもおかしくない人なのに、張り切ってこちら側に参加し続けている皆勤賞っぷりだ。
今年もまた、全員フル参加なのかなって思ってたら
「お疲れ!」
「お先っス。」
バネくんとダビデが早々に帰って行った。
「俺もお先に失礼するよ。」
「ボクもお先です!」
そしてサエさんと剣太郎までもさっさと出て行ってしまった。
「ねぇ亮ちん、今日って…」
「伝説のハジケリストごめん、俺も急いでるから。」
そう言ってそそくさと部室から出て行った。
書き終わった部誌を閉じ、まだ着替えていたいっちゃんの方を見ると
「伝説のハジケリストも先に行っていいのね。」
「でも…」
「もう外も暗いから、早く行った方がいいのね。」
ものの言い方は柔らかいけど、あたしに帰って欲しい、というオーラが出ていた。
「うん、じゃあ帰るね。お疲れ。」
鍵を机の上に置き、コートを着てあたしも部室を後にした。
いつもは誰かしらと一緒に歩いてる海沿いの道を、今日は一人で歩いている。
携帯を見てみても、着信もメールもない。携帯を鞄にしまう時、用意しておいたプレゼントの包みが手に当たった。
あたしはてっきり今年もみんなで騒ぐものだと思っていたから、正直ショックを受けていた。
いつも一緒にいるのが当たり前で、誰が何を言わなくても自然とみんな集まっていたのに。
去年も主催者なんていなかったけど、一人一個プレゼントを用意してきてて、部活が終わったらみんなで買い出しに行って、飾り付けして…
まぁ今までクリスマスに全員揃ってたことの方が、考えてみれば奇跡かもしれない。
一緒にいるのが当たり前、これがずっと続くなんてことはもちろん思ってなかった。けど、こんなにも早くにその時が来るなんて。
ていうか水くさいじゃない。彼女が出来たんだったら教えてくれてもいいのに。彼女じゃなくて他の友達と過ごすにしても、一言言ってくれたっていいじゃない。
楽しみにしてたの、あたしだけだったのかな。
冷たい向かい風が吹いて、急に悲しくなった。
その時
「真っ赤なおっはっなっの~♪トナカイさっんっは~♪」
やたら歯切れのいい、体育会男子の歌声が後ろから聞こえてきた。
「いっつもみんっなっの~♪わぁらぁいぃもっの~♪」
暗がりから近付いてくる大きな何か。
街灯に照らされたその正体
「そこの可愛いお姫様。サンタさんが迎えに来たよ。」
「はっはっは!何が何やらっつー顔してるな。」
目を見張るほどのピッタリとした全身トナカイスーツ。もちろん角付きである。そしてご丁寧に真っ赤なお鼻を付けた、髪の毛が窮屈そうなバネくん、ダビデ、長い髪の毛をサイドから出してる亮ちんの三人の騎馬(騎馬戦の時に組むアレ)に、サンタの衣装を着たサエさんが乗っていた。
髪の毛の特徴がなかったら、暗いことだし誰が誰だか分かりづらい。
「何事…?」
「何事って、今日はクリスマスだよ。もしかして忘れてたのかい?」
「いや、そうじゃなくて」
みんな帰ったんじゃないのかとか、今日は各自予定があるんじゃないのかとか、そんな疑問よりも何よりも、この人達は何故こんな格好でこんなことをしているのかが気になった。
「おいおい、これからクリスマス会だっつーのに、なに帰ろうとしてんだよ。」
中央のトナカイであるバネくんが、呆れた顔して言ってきた。格好が格好なだけに、その顔にかなりむかついた。
「だってみんなが先に帰っちゃったから。」
「帰ってないよ。衣装に着替えなきゃいけなかったから、急いでオジイのところに行ったんじゃないか。」
正面から見て左のトナカイこと亮ちんにまで呆れられた。でもあたしは何も聞いてないしそんなこと知らない。
なので、ワケが分からずみんなの顔を交互に見ていると、
「バネさん、伝説のハジケリストさんにちゃんと伝えたんスか?」
向かって右のトナカイことダビデが言った。
「伝えたさ。な?」
「ううん、あたしは何も聞いてないけど。」
「え?そうだったか?」
「うん。」
そりゃあすまんすまん、HA!HA!HA!と豪快に笑うバネくんのボディにイイのを一発くれてやろうかと思ったけど、サエさんが落ちたら可哀相なので思い止まった。
「まぁとにかく、今いっちゃんが料理作ってくれてるし、剣太郎とオジイが買い物行ってくれてるからさ。俺達も早く戻ろう。」
「そうだな!俺達は飾り付け係だからな!」
「伝説のハジケリストも衣装に着替えてもらわないと。あ、降ろしてくれる?」
息ピッタリに気持ち悪くしゃがんだ三匹のゴッツゴツのトナカイから、王子様だかサンタだかもはやカオスのサエさんは華麗に降り、あたしの肩に手を置いた。
「え、あたしもそんな格好しなきゃいけないの?」
「大丈夫、ちゃんと俺が選んだから。」
自信に満ちた熱い目で断言したサエさん。もうこの時点で大丈夫じゃないことが確定された。
「さ、伝説のハジケリスト。トナカイに乗って一緒に帰ろう。」
「え、やだ、あたしはいい!歩くからいい!」
「いいからホラ。」
サエさんに押され、そして華麗に靴を脱がされ、このヘンな生物達でできた騎馬にうっかり乗ってしまった。
「よし!行くぞ!」
バネくんのかけ声とともに、息ピッタリに気持ち悪くスッと立つと学校に向かって歩き出した。
「真っ赤なおっはっなっの~♪トナカイさっんっは~♪」
あたしは道中、とてもじゃないけど顔を上げられなかった。
「お帰りなのねー。」
部室を開けると良い匂いがして、さっきは無かったクリスマスツリーが裸でそこにいた。
そしてサンタさんの格好にエプロンで鍋をかき回すいっちゃん。恐ろしいほどにサンタの衣装が似合っていた。
「ただいま。オジイと剣太郎は?」
「今ケーキ屋さんを出たってメールが、ちょっと前に入ってたのね。」
「じゃあすぐ帰ってくるな!さて、俺達は飾り付けだ!」
明るいところで見るトナカイ達は、より一層気持ち悪い。バネくんに至っては、トナカイスーツから髪の毛がちょっと飛び出していた。メッシュの水泳キャップを男子が被った時に生じるあの現象を想像して頂ければ分かると思う。
「いっちゃん、あたしも手伝…」
「伝説のハジケリストは、こっちだよ。」
サエさんに大きな袋を渡され、中を覗くと赤い布に白いふわふわが付いたものが見えた。
「もしかして、これがアレ?」
「そう、それがソレ。」
それを聞いて、持ったまましばらく動けない。
「どうしたの?着方が分からないとか?」
「いや、分かるんだけど…どうしても着なきゃダメ?」
「サンタが嫌なら、バネ達と同じのしかないんだけど。」
「着ます。これを着ます。」
そしてさっさと着てみたものの、やっぱりサエさんが選んだだけあった。
「うん、思った通り。よく似合ってるよ。」
「ありがとう…」
胸がベアトップワンピースのサンタガールの衣装。丈は膝よりやや上程度で、ふわっと広がっている。肩が丸出しにならないように、ケープが付いてるのが意外といえば意外だった。
「なんていうかさ、ケープの下に伝説のハジケリストの生肌が隠れてると思うと、気になって仕方ないよ。」
真剣な眼差しでサエさんは続けた。
「めくったらすぐに肩がある。けどどうにもめくれない。男心を掻き立てるだろ?」
「はぁ…」
「スカートも、ミニすぎないところがまた色っぽいよ。」
聖なる夜、というよりも、性なる夜であるサエさんのエロティズム講義も中程に、部室のドアが開いた。
と思ったら
「みんなお待たせー!わー良い匂い!」
サンタの格好をしたオジイをおんぶした、ボウズトナカイが元気よく登場した。
「おう!後ちょっとで飾り付け終わるから、ちょっと待っててくれ!」
「うん!ボクも手伝うよ!」
剣太郎から降りたオジイが椅子に腰掛けたので、暖かいお茶を入れてあげた。
「サン…キュー…」
ぷるぷるしながらお茶をすすっているオジイを見ながら、いつからおんぶされていたのかが気になった。サエさんの時といい、トナカイはサンタを乗せなければならない、みたいなルールがこの人達の中ではあるんだろう。
「いっちゃん、飾り付け終わったよ。」
「料理も出来たのね。」
アサリの入ったシチューにワカメサラダ、ロールパンにごはんですよがテーブル(ダビデがまたどっかから拾ってきたらしい)に並んだ。
「よしダビデ、電気を消せ!」
「うぃ。」
部室の電気が消えると、さっきまでまっぱだったツリーに施された色とりどりのライトと、オジイが用意してくれたという和風キャンドル(青雲)が綺麗にクリスマスを演出した。
「さぁ、冷めないうちに食べるのね。」
「いただきまーす!」
こうしてまた、今年もみんなで過ごすクリスマス会が始まった。
トナカイ4、サンタ4と、分かりやすいようなそうでないような衣装を身につけためでたい集団のパーティー。
食事の後はツイスターをやり、男子だけの悲惨な状況を携帯カメラに収めたり、花いちもんめをトナカイチームとサンタチームに分かれてやったりした。
ケーキを食べ、プレゼント交換もして、ただそれだけのことなのに、みんなずっと笑ってた。
やっぱりあたしはここが好きで、ずっとこうしていたいって思う。
いつかは離ればなれになる日が来るけれど、出来る限り、こうして集まってバカなことが出来たらいいなって
「みんな!写真撮ろうよ!」
「おう!誰がシャッター押すんだ?」
「あたしのデジカメセルフタイマーできるから。」
デジカメを出し、机の上に固定した。
「よし、オッケー!」
「セルフタイマーで全員写セルフタイマー…ぶっ。」
「だからお前は黙ってろ!!」
「うぐっ!バネさん、それは痛い!」
バネくんがダビデの全身タイツを上に引っ張って、尻にこれでもかと食い込んだところで、シャッター音が鳴った。
「伝説のハジケリストさん見せて……あー!ボク半目になってる!」
「はは!ざまぁみろ!」
「バネさんヒドイ!」
あたしは今、世界一幸せで楽しいクリスマスを過ごしてる。
笑いすぎて痛くなった顔を押さえながら、本気でそう思った。
終わり
[後書き]
寸でのところで間に合いませんでしたが、どうしても書きたかったクリスマス話。今年もロマンスなど微塵も感じなかったクリスマス。ひたすらメーカーとお客と戦っておりました。
六角のクリスマス会は、どこか残念だけどものすごく楽しい気がします。爽やかかつ豪快にハメを外してそうな。そしてこういう行事に死ぬほど力入れてそう。
ここまでお付き合い下さってありがとうございましたメリークリスマス。