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「バネくーん!」
「お、どうした伝説のハジケリスト。ははーん、さては俺にチョコを…」
「どうしよう!昨日精一杯考えたんだけど何も思い付かなくて、ダビデにあげるチョコ作れなかった!どうしよう!」
毎年ダビデを含めたレギュラーには、手作りのクッキーをあげていた。しかし、今年初めて本命のいるバレンタインというものを経験するので、色々考え込んでしまった。
やっぱり差を付けるために、チョコレートケーキとか作った方がいいのだろうか、いや、学校にそんなもの持って行けない。そして本命ということが一発でバレてしまう。気持ちを伝えるのはまだ先でいいから、今本人にバレてしまってはいけない。かと言って他の人と差は付けたい。「もしかして俺のこと好きなのか…?」くらいの、ほのめかすだけの方向でいきたいんだ。
そんなことを考え込んだ結果、いつの間にか寝てしまい、気付いたら朝だった。
「おい、落ち着けよ。帰りに買って渡せばいいじゃねぇか。」
「買う?!そんなの義理と思われるじゃない!」
「つーか、お前のその右手に持ってるビニール袋は何だ?」
「あぁ、これはバネ君達に。」
登校の途中、コンビニで買ったチロルチョコ。みんなには申し訳ないけど、事情が事情なので仕方ない。
「例年とずいぶん差があるな。ま、貰えるだけありがたい。サンキュ!」
バネ君はきなこもちのチロルチョコを選ぶと、その場ですぐに食べた。
「あー…、チロルチョコあげるわけにもいかないし、でもチョコ持ってないし…」
「ん?板チョコも入ってるじゃねぇか。」
「あぁ、これ。」
隙を見て家庭科室で何か作れたらと思い、一応板チョコも買ってみた。けど、卵もなければ小麦粉もない。生クリームもなければバターもない。
これでは何も作れない。ハッキリ言って買ったのは間違えたと思う。
「これでいいじゃねぇか。俺達のと大きさも違うし、差、付けられるんじゃねぇか?」
「差は付くだろうけど、何か違うじゃん!」
板チョコを貰って、「あ、俺のこともしかして好きなのか?」なんて思う男がどこにいるというのか。まして他の女の子達からは可愛いラッピングのものを貰うんだろうから、それと比べられたら明らかに義理チョコ以下だ。
「うーん…そうだな……」
バネ君は腕を組み、首を捻った。こんな、チロルチョコ一個しかくれないようなあたしのために、必死に考えてくれてるバネ君。やっぱり後でちゃんと何か作ってあげよう。
「あ、こういうのはどうだ?」
「何々??」
今は藁にもすがりたい、猫の手も借りたい。どんな微妙なアイデアでもいいから欲しかった。
しかし、バネ君の口から出たアイデアは、いっそ微妙であってほしいほど斬新だった。
「胸にチョコ塗って食わせてみるってのはどうだ?」
「は?」
あたしの耳はどうかしてしまったのだろうか、こんな真剣な顔の人からそんな発言が出るわけがない。サエさんならまだしも、目の前にいるのはバネ君だ。
「いや、だからな、板チョコを溶かして、お前の胸に塗るんだよ。」
聞き間違えではないようだ。バネ君はきっと、サエさんから借りまくったエロ本とかエロDVDの影響をもろに受けてしまったに違いない。
「ちょっと待って。なんでそうなるの?」
「だって、お前は他の女子と差を付けたいんだろ?そして今、お前は板チョコしか持ってない。だったらそれしかないだろ。」
何でそれしかないと言い切れるのか。ホントこいつ何を言い出すんだ。それしかないの“それ”が胸にチョコを塗るって、思春期の男子の発想を超えておやじの域だ。
「いや、もちろん他の女の子達とも差を付けたいってのはあるけど、そうじゃなくて、バネ君達のチョコと差を付けたいってことなんだけど…。」
「だったらなおさらだな。」
なおさら?バネ君達にはチロルチョコ、だったらダビデにはあたしのおっぱいチョコで差を付けろ?何がどうなおさらなのかさっぱり分からない。ここはあたしが冷静にならなければならない。
「でも、そんなことしたらあたしヘンタイじゃん。」
「あぁ、そうだな。ヘンタイだ。」
六角テニス部レギュラーで、バネ君が一番の理解者であり、一番の常識人だと今日まで思っていた。だが、違ったようだ。
一瞬にしてバネ君が分からなくなり、あたしは目眩を覚えた。
「もう帰る…」
「ま、待てって!冗談だ!」
慌てた様子であたしの腕を掴むと、すまんすまん、と言った。
「お前があんまりダビデダビデ言って、俺達のことをチロルチョコ程度にしか考えてないと思ったらつい、な。悪かった。」
「バネ君…!こっちこそごめん!違うの、チロルチョコ程度なんて思ってない!ただ…」
「あぁ、分かってる。今のも半分冗談だ。」
やっぱり、後日にでもちゃんとしたのを作ろう。ダビデのことはそりゃあ好きだけど、みんなのことも友達として大好きだもん。
「よかった、バネ君がついにサエさん化したかと思ったよ。」
あんなのは一人で充分だ。
「はは!でもなぁ、塗るのは無理だが、胸に挟んでみるのもいいと思うぞ?もちろん服の上からな。」
「えぇ?!またまた~冗談でしょ?」
「いや、よく考えてみろよ。あいつの場合、何かのネタの前振りだと思いそうじゃないか?あいつなら“胸にあるチョコ…チョコパイ”とか言いそうだろ?」
「あぁ~…」
それは確かに言えてる。みんなには普通に渡したのに、ダビデにはダビデだけの渡し方で、それも、ダビデの大好物である前振りの意味合いを込めているんだと思わせたら、印象が良くなるかもしれない。
「でも、挟めるほど胸ないんですけど。」
「だったら胸ポケットにいれたらどうだ?」
「なるほど!それならいやらしくもないし、チロルチョコでもいけるよね!」
何というナイスアイデアだろうか。胸がないという発言に対し、何のフォローもなかったところが少々気になるところだけど。
「じゃあ、ちょっとダビデ呼び出してくるね!」
「あぁ、頑張れよ!」
「伝説のハジケリストさん、こんにちは。」
「こ、こんにちは。」
張り切ってダビデを呼び出したものの、いざ本人を目の前にすると緊張する。
頑張れあたし、いつものように、いつものように…
「もしかして、チョコっスか?」
「え?!あ、うん、そうそう、まだダビデにあげてないなーと思って!」
「チョコをチョコっと下さい…ブッ!」
「ぶふっ!」
ベタなダジャレに思わず若干ウケてしまった。いつもそうだけど、別にダジャレが面白かったわけじゃなく、ダジャレを言ったダビデが面白かったのだ。
ダビデのおかげで、緊張がほぐれていつもの調子を取り戻すことが出来た。
さぁ、今こそ!
「チョコあげるんだけど、あたしのここに入ってるの。自分で取って?」
チロルチョコの入った左胸を指さし、ダビデの反応を待つ。バネ君が言った通りのことを言うかもしれない。またはそれ以上にサムイことを言うかもしれない。(“チチ(乳)ロルチョコ”とか)
ダジャレを考えているのか、無表情であたしの胸元を見ている。その様子をあたしもじっと見ていると…
「Σ( ̄□ ̄;)!!ちょっ、出てる!」
ダビデの鼻から、赤い液体が流れ出した。
「鼻血!ダビデ、鼻血!」
ティッシュは持っていないし、どうしようかと慌てふためいていると、
「スンマセン…」
ダビデは鼻を押さえて走り去ってしまった。
その日から、ダビデは明らかにあたしを意識し出した。正確には、あたしの胸を。
あたしが話し掛けるたび、胸を見ては顔を赤くして逸らす。
意識されるのは念願叶ってのことなのだが、果たして本当に成功したのか、もしそうだとしても一体どう意識されてるのか。
チロルチョコに聞いても、答えは出なかった。
終わり
[後書き]
バレンタインということで、かなり急いで書き上げました。これなら書かなかった方がよかったのではと思いますが、せっかくのバレンタインなので。(何でもバレンタインのせいさ!)
思春期ボーイの想像力を甘く見てはいけません。それを踏まえた上での提案をバネさんはしたんだと思います。ちょっとズレてるけどね!
ここまでお付き合い下さってありがとうございました。そしてすみませんでした。