四天生活
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休日、謙也君に呼び出された。面倒やからシカトしようかと思ったけど、そうすると後がもっと面倒なんで、謙也君の家に行くことにした。
家の前に着いて謙也君のケータイにかけると、二階の窓が開いて
「入ってええで!」
家の人とかおったら気まずいんすけどと思いながら、言われたとおり勝手に入った。
階段を昇って謙也君の部屋に入ると、謙也君はテレビの下の棚に頭と手を突っ込んで、何かを探していた。
「お邪魔します。」
謙也君は一度だけ俺を見て
「その辺テキトーに座ってくれ。」
また捜し物を始めた。
「何してるんすか?」
「いやな、コントローラーが…」
その直後、部屋のドアが開いて
「お、財前やん。」
ユウジさんが入って来た。
「こんちわ。」
「おお、お前も参加するん?」
「参加…?何にですか?」
「何にて、リンドバーグ再結成のお祝いやろ。」
「初めて聞きましたわ。」
もし今日呼び出された理由がそれだとしたら、今すぐ帰りたい。
「あったで!お、ユウジ来とったんか。」
「今来たトコや。で、さっそく始めるか?」
この人らは一体何し出すんやろ、ほんまにリンドバーグ再結成を祝う気か?
「まだ白石来てへんし、もうちょい待と。」
白石部長も来ると聞いて一瞬安心したけど、これから何をするのかよう分からんし、あの人もあの人でたまに頭オカシイんちゃうかと思う時あるから、不安は拭いきれない。
来たことを後悔し始めたから
「これから何するんすか?」
謙也君に聞くと
「何て、そんなもんウイイレに決まっとるやろ。」
「え、リンドバーグ再結成祝いちゃうの?俺そのつもりで“今すぐキスミー”めっちゃ練習してきたんやけど。」
「アホや(笑)」
どうやらユウジさんの冗談だったようで、とりあえずは安心した。ていうか呆れた。
その後謙也くんが飲み物を持ってきて、いつも通りの下らない会話が始まった。俺は部屋にあった雑誌を読みながら、それを半分聞いてるっていう、いつものパターン。
「俺な、こないだひっさびさに三国無双やってん。」
「あー、アレ久しぶりにやるとおもろいよな。ほんでお前よく張角の真似しとったもんなぁ。」
「おおっ…我が魂、天へと昇らん…」
「ぶはっ!(笑)やばい似とる!で、無双いくつや。」
「2や2。」
「2って呂布が恐ろしく強い時やん。下手したら一撃で死ぬやろ。ほんでめっちゃ追いかけてきよるしな。」
「どけぇぇぇい!」
「似とる!(爆笑)あかん、ここに呂布がおるわ!」
確かに似とるけど、何で先輩らこんなアホなんやろと、いつも客観的な目で見てしまう。
「でな、全部やり直して武将を一から育ててん。こないだ何人かの4つ目の武器とレアアイテム全部取ったところや。」
「結構やり込んでるなぁ。」
「夢中になってもうてん。あ、いうても小春には勝てへんで?」
ユウジさん普通にしてたら結構イケてると思うのに、やっぱキモイ。
「あー、なんか俺も無双したくなってきたわ。」
「やったらええやん。財前、お前もやるか?」
雑誌から目を離さず
「ええですわ。」
それだけ答えた。
「つれへんなぁ。ユウジ、お前の背中の押入にゲームソフト入った箱あんねん。悪いけど取ってくれ。俺本体繋いどくから。」
「ほんまに開けてええんか~?見られたらマズイもんでも入ってるんちゃいます~?」
「アホ言えそんなん無いわ!」
「そうでっか~ほな開けるで~」
カチャッと収納が開く音がした後
「うおっ!!」
ユウジさんがめっちゃでかい声出して、思わず俺もびくってなった。
「やかましい奴やな、どないしてん?」
「今開けた瞬間モスラ出てきたで!」
「なんやモスラて。」
「蛾や!蛾!こん中から出てきたんやって!どこ行った…?おった!ほらあそこに!」
顔を上げてユウジさんの指さしたところを見ると、壁の上の方に確かに止まっていた。
「うおっ!ほんまや!キモ!」
「何でこないなとこから蛾が出てくんねん!」
「俺かて聞きたいわ!お前武将なんやろ?あいつ倒してくれ!」
「関係ないやろ!」
「あれチョウコウやで!お前4武器取ったんやろ?いけるて!」
「無理無理!財前!」
「俺も無理っすわ。」
「ほらユウジ!お前しかおらん、真の三国無双ここにありやで!」
「なんでやねん!大体お前んちの蛾やん!お前が飼っとるあのブサイクなイグアナに食ってもろたらええ話やろ!」
「ブサイクゆうな!うちのイグアナ蛾なんて食わんわ!ちゃんといいエサ食っとるっちゅーねん!ほんま失礼なやっちゃな!」
しばらくギャーギャー騒いだ後、ユウジさんに言い負かされた謙也君が
「分かった、俺も男や。」
立ち上がった。
「さすがや…お前の骨は俺が拾ったる。」
「頼むで。せや、武器、武器無いと戦に出られんわ。」
そう言って部屋を出ると、新聞紙を持ってまた部屋に戻って来た。
「よっしゃ、俺がこれで4武器作ったる。」
ユウジさんが新聞紙を受け取ると、丸め始めた。
「できたで。ほな、検討を祈る。」
そしてユウジさんは部屋の隅っこへ、俺も出来るだけ遠くに移動した。
「なぁユウジ、これ何の戦いや?」
「これはまさしく赤壁やで。」
「レッドクリフやな。」
じりじりと蛾の止まってる壁に近付いて行く謙也君。そこへユウジさんが、ケータイで赤壁のサントラを流し始めた。
「あかんテンション上がってくるわ。」
「その調子やで!」
ほんまこの人らアホやと思いつつ、蛾がいるとか無理やから、俺もそれなりに緊張した。
「い、行くで…」
謙也君はふーっと息を吐き、そして
「そらっ!!」
ジャンプして壁をバシッと叩いた。けど
「Σうおっ!!」
すれすれのところでヒットせず、蛾は壁から壁へと移動した。
「コワッ!チョウコウめっちゃコワイ!」
「頑張れ謙也!おしいで、あとちょっとや!」
「よっしゃ、もう逃がさへんで!」
「赤兎馬連れて来るか?」
「赤兎馬おんのか?」
「お前んちのイグアナ。」
「乗れるか!」
そんなんええからはよ倒して欲しいんすけど。
「行くで……そぉい!!」
赤壁のテーマが流れる中、キモイかけ声と共に、再び飛んで壁を叩いた。今度はヒットしたらしく、蛾は床に落ちていた。
けど、当たった場所が羽とかそこら辺やったみたいで、蛾はバタバタと動き回っている。
「ちょ、あかん、財前!エアガン持ってきて!」
「どこにあるんすか?」
「そこの押入れや!」
言われてすぐ側の収納を開けると、エアガンがあった。
近寄ってくる謙也君にそれを渡すと
「伊達正宗や!謙也!お前は伊達政宗や!行ったれ浪速の独眼竜!」
ユウジさんが叫んだ。それに応えて
「独眼竜が出る!」
似てないモノマネでアホみたいに言うて、エアガンを構えた。
「行くで………」
引き金を引いた音はしたけど、弾は出てこない。
「ちょ、弾入ってへんやん!財前!弾!」
「どこすか。」
「さっきと同じところや!はよして!」
さっきと同じ収納を開けると、奧の方に弾があった。それを渡すと、謙也君は慌てて詰めた。
「謙也おしいで!音赤壁のままやけど頑張ってくれ!」
「よっしゃ、今度こそ…」
そして蛾に向かって弾が撃たれた。
けど
「うおっ!痛っ!」
狭い部屋で打った弾は、蛾ではなく壁に当たり、跳ね返って謙也君の顔に当たった。
「兄者、お見事!拙者も負けぬ!」
「関羽や!めっちゃ似てるけどめっさ腹立つ!」
なんでそこで関羽が出てきたんや。さっきまで伊達正宗やったのに。ほんで音楽まだ赤壁やし。
「こなくそ!」
「こなくそ?!」
エアガンを連発しながら叫ぶ謙也君に、ユウジさんが素早いツッコミを入れて、蛾は動かなくなった。と思ったら
「敵将、討ち取ったり!」
謙也君がエアガンを降ろし
「デーデーデーデーデッデ」
ユウジさんが勝利のテーマを自分の声で再現し始めた。なんでさっきまではケータイ使ってたのに、この肝心(?)なとこは口なんやろう。意味分からん。
そして、それに合わせて勝利の舞(?)をする謙也君もアホ過ぎて意味分からん。この人らがアホなんは、今に始まったことやないけど。
「デレデレデレデデッ!」
勝利のポーズが決まったところで、ユウジさんがそれをケータイのカメラで撮り始めた。
「ええで謙也!お前こそ真の三国無双や!財前、お前も撮ってええんやで!ブログに載せたらええやん!」
「いらないっすわ。そんなことより、はよあの蛾、片付けてください。」
「せやな、弔いせなあかんよな。」
ユウジさんが合掌する横で、謙也君はティッシュで蛾をくるみ、部屋を出て行った。
蛾を処理した謙也君が戻ってくると、ユウジさんはそれを拍手で迎えた。
「お前はようやった。いい戦やった。」
「あぁ、あいつはなかなか手強かった。」
「しっかり弔ってきたか?」
「もちろんや。」
それを聞き流しながら、さっき読んでいた雑誌を手に取ると
「遅なってごめんな。」
部長が来た。
「お、財前もおったんか。」
「こんちは。」
「白石遅いで!あとちょっと早く来たらおもろいもん見れたのに。ほんまタイミング悪いわ。」
ユウジさんが大げさに肩をすくめて言った。
「白石残念やったなぁ。俺の勇姿を見逃すなんて。格好良すぎて惚れてまうっちゅー話や。」
謙也君も得意げに言った。
「おもろいもんて何?」
「ケータイにしっかり収めたで!」
ユウジさんがケータイを渡し、謙也君と二人でさっきの出来事を説明し始めた。
「俺もその場に居合わせたかったわ。ほんま無念や。」
部長はそう言いながら俺の横に座った。まだまともな人が来てくれたことにほっとして
「居合わせなくて正解やと思います。」
そう呟いた。それを聞いた部長は少し笑って、俺の肩を叩いてから
「ほな始めよか。チャゲアスデビュー30周年記念。」
ほっとした自分がアホやったと思った。
今度呼ばれた時は、30分、いや、1時間は遅く行こう。
ほんでこの後、アホな先輩らをウイイレでめっためったにしてやろう。
そう心に誓った。
終わり
【後書き】
財前がテニス部の先輩達に呼ばれ、一緒に遊ぶたびに「やっぱ来なきゃよかった」と思ってたらいいな、というお話。でも心の底ではみんなのことが嫌いじゃなくて、実は居心地良いと思ってるので行く、みたいな。居心地の良さを感じていることは、本人決して認めたくないとかだとモアベター。
余談ですが、蛾の話は実話です。
読んで下さって有り難う御座いました