四天生活
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今日は男子にとっても女子にとっても一大イベントである、バレンタインデー。
だが、特に好きな人もいない女子にとっては、お菓子を作って誰かにあげる日、以外のなにものでもない。
あたしもそのうちの一人で、男女問わず仲の良い友人に配る分を用意していた。といっても男子はごく少数で、ほとんどは女子にあげるために持ってきている。
教室に着いて、鞄を机に掛けてコートとマフラーを取ると、袋を持った友達が席に集まって来て、さっそくみんなで交換した。
いっぱいもらったところで、今度は男子に配ろうと思い、チョコの入った手提げを持ち、配りに行った。
「忍足謙也くん!ずっと前から好きでした!これ、受け取って下さい!」
あたしが芝居掛かった口調で謙也にチョコを突き出すと、そのチョコは謙也の鼻にドーンとぶつかった。いや、わざとぶつかるように渡したんだけど。
「痛いっちゅーねん!ホンマお前朝からアホやな!」
「お願いします!受け取って下さい!」
「分かった、分かったから押すな!でこに袋の角刺さっとんねん!」
「じゃあ…」
「しゃあない、お前の気持ち受け取ったるわ。」
何だかんだで謙也も乗ってくれた。だからこいつに絡むのは止められない。
「一生懸命作ったんだから、全部食えよ?」
「お前の手作りか。なんも入ってへんよな?」
「返せ。」
「冗談やて。」
そんなやり取りをしていると、
「おい、あれ見てみい。」
謙也が入口を指さしたのでそちらを見ると
「うわっ…」
まだ登校したばかりだというのに、チョコを山ほど持った白石が現れた。
よく見たらもうすでに、机の上にも中にもチョコがたくさんあった。その上、更に女子が押し寄せてチョコを渡している。
「妖怪チョコ洗いやな。」
「そうね。」
「伝説のハジケリスト、そこはチョコは洗えん言うてつっこむところやで。」
「ごめん、ついあれに圧倒されて…」
大変そうな白石を見ながらそんなことを言っていると
「お前も白石にあげるんやろ?」
謙也が聞いてきた。
「うん。でも、あんなにもらってたらさすがにいらないでしょ。まだまだもらうだろうし。」
「部活もあるしな。」
「あげないのも優しさだよね。」
白石にどうしてもあげたいってわけでもないし、日頃の感謝の気持ちを表すなら、あげないのもアリだと思う。それか、昼に何かおごろうかなって考えていると
「先生来たで。」
しょうがないので自分の席に戻った。
チャイムが鳴って、お昼休みになった。しょっぱいものでも奢ろうと思って白石を見ると、謙也と一緒に教室を出て行ったところだった。
後を追いかけるのもなんかアレだったので、あたしもお昼にしようと、友達と教室を出て行った。
○●○●○●○
一方学食では
「今年もお返し大変やな。」
「けど誰がくれたか分からんのもあんねん。」
うどんとカツ丼をトレイに乗せ、席に着きながら謙也と白石が話していた。
「伝説のハジケリストお前のあれみてびっくりしてたで?」
「伝説のハジケリストが?」
「おお、あんなにあったらいらんやろ言うてな、お前にあげるの遠慮しとったで。」
「じゃあくれへんのかな。」
「あげないのも優しさ言うてたで。つーかお前、あんだけもろてまだ欲しいんか。」
「謙也はもろたん?」
「もろたで。鼻にぐいぐい押し付けてきよってん。しかもな、あいつの手作りやで。ちょっとした兵器や。」
「………。」
「あ、七味取ってくれん?」
「………。」
「おい、聞いとんのか。」
「悪い謙也、俺用事思い出したわ。」
そう言って、白石は席を立って歩き出した。
「おい!メシどうすんねん!」
「食ってええで!」
振り向き様に謙也にそう告げると、急いでどこかへ行ってしまった。
謙也が二人分の昼食を食べ終えて教室に戻っている最中、
「なんか白石くんが、もらったチョコ片っ端から返してるらしいよ。あたしの友達も返されたって。」
「え、なんで?」
「さぁ?とにかく、ごめんやっぱり受け取れないって返すんだって。」
女子が廊下で立ち話をしているのを聞いた。
「なんや、そういうことか。」
○●○●○●○
そんなことがあったなんて知らないあたしは、呑気に昼休みを過ごしていた。
ご飯も食べ終わって教室に戻ると、白石の机とロッカーがキレイになっていた。もう全部食べちゃったのか、でもまぁ今減らしておかないと、また後でもらうんだもんね、とか思いながら、白石にはメールでも入れておこうと決めて、午後の授業を受けていた。
放課後になり、帰る支度をしていると、結局渡さなかったチョコが目に入った。コートを着て、マフラーを巻きながら誰に渡そうか考えていると
「伝説のハジケリスト。」
白石が話し掛けてきた。
「なに?」
「ちょっとええか?」
「うん。」
そう言って教室から出て行こうとしたので、白石の後を追った。
「どうしたの?何かあった?」
「あぁ、ちょっとな。」
誰かに告られてどうしようとかの相談かな、なんて思っていると、屋上に続く階段にさしかかり、しばらく昇ってから、踊り場で白石が足を止めた。
屋上が閉まっていることもあって、人気は全くと言っていいほど無い。誰にも内緒の話をするなら恰好の場所だ。
白石は振り返り、真剣な顔であたしを見て
「チョコ、くれへん?」
そう言った。
「え、まだ食うの?」
こんな所に呼び出して何を言うかと思えば…あれだけの量をもらって昼休みに完食し、これからもまだもらえるでしょうに。まさか白石がこんなに食いしん坊だとは思わなかった。
そんなあたしの心中を察したのか、白石の目は更に真剣味を帯び
「全部返した。」
思いもよらない答えを返してきたので
「えー!なんで!」
つい大きな声を出してしまった。だって、意味が分からない。
「伝説のハジケリストのチョコが欲しいねん。」
「なんでまた?」
あたしが持ってきたのはごく普通のもので、特に気合いを入れて作ったわけでもない。
「今日って、バレンタインやろ?」
「うん。」
「バレンタインて、女の子が男に告白する日なんやろ?」
「まぁ、そうみたいだね。」
「逆もアリやと思うか?」
「それって男子から告るってこと?」
「そや。」
「まぁ、アリなんじゃない?逆チョコってのもあるくらいだし。」
「そうか。」
話ながら、白石が言いたいことを理解した。白石はあたしからのチョコを借りて、誰かに告りに行きたいんだ。あたしは別にいいけど、白石は自分で用意したものじゃなくていいんだろうか。
ただ一つ分からないのが、あの白石がそのチョコを何故持ってきていないかだ。あれだけたくさんもらったから、自分のと混ざってしまったのだろうか。でも白石がそんなミスをするとは思えない。
首を捻って考えていると
「伝説のハジケリスト」
白石に呼ばれ、我にかえった。
「あ、ごめん、どうした?」
「何で俺がもらったチョコ全部返して、伝説のハジケリストのチョコもらおうとしてるか分かるか?」
「あたしのチョコで逆チョコしに行くからじゃないの?」
「ハズレや。」
え、違うの?じゃあ…と、また考えを巡らせる。けどそれは無意味なことで
「好きな子からのチョコしかいらんから。」
白石から、目が離せない。
「せやから、もしよかったら俺にチョコ下さい。」
突然のことに状況が把握できず、しばらく間が開いてから
「え、ちょっと待って、白石は好きな人のチョコが欲しくて、あたしにチョコくれって言ってて…」
自分でこの状況を整理していたら
「伝説のハジケリストのこと好きやねん。」
決定づけるかのように、ハッキリとした口調で言われた。
今まで白石のことをそんなふうに考えたことがなかったし、そりゃあ白石のことは大好きだけど、そういう大好きじゃなくて、もうなんだか自分でもよく分からないけど
「困らせると思ったから言われへんかったけど、もう友達でおんの嫌やから。」
あまりに真っ直ぐあたしの目を見るから、あたしの手は自然とチョコを取りだして、
「はい…」
白石に差し出していた。
「ええの…?」
白石は少し驚いたように目を丸くして、チョコとあたしを見た。
「うん。」
我ながら、なんて単純なんだろうと思う。けど、あれだけたくさんの女子から(中には可愛い子もいたと思う)チョコをもらっておいて、それを全部、白石自ら返しに回って、そしてあたしのチョコだけが欲しいなんて言われて、心が動かない人がいたら見てみたい。
しかも相手は白石。顔はもちろん性格だっていい。でもどこか残念で、そんなところが面白くて、一緒にいて気を遣わないし、楽しい。
断る理由が、あたしには見つからない。
「それって…俺の気持ち、受け入れてくれるっちゅーこと?」
「うん。」
すると白石は、はぁ~と長いため息をゆっくり吐きながら、その場にしゃがみ込んでしまった。
「よかった…」
安心したようにそう呟いて
「絶対無理やと思てた。」
気が抜けたように下を向いているので、あたしからは白石の頭上しか見えない。
「めっちゃ緊張したわ…」
なんで白石が、あたしみたいな女子らしからぬヤツを好きになってくれたのかが全然分からないけど、
「白石、ありがとう。」
これだけは言える。あたしも白石の前にしゃがんで
「ねぇ、今からあたし、白石の彼女になるってことだよね?」
実感が湧かなくて、ドキドキしながら確かめた。
「そやな。伝説のハジケリストは俺の彼女で、俺は伝説のハジケリストの彼氏や。」
少し顔を上げた白石の顔は、眉間にシワを寄せながらちょっと赤くなってて、それにまたドキッとした。こんな白石の顔、今まで見たことがない。
いつも余裕な感じで、あまり表情をくずさない白石が、こんな顔するなんて。
「なんか、恥ずかしいね。」
「けど、嬉しいわ。」
絶対無理やと思ってたって言ったけど、あたしもまさか白石に告白されて、自分が白石にそういう感情になるなんて思わなかった。
白石は立ち上がり、あたしに手を差し伸べて
「今日、一緒に帰る?」
って聞いてきたから
「うん。あ、でも部活は?」
「伝説のハジケリストが見に来てくれたら、調子上がりそうなんやけど。」
「じゃあ、見て待ってる。」
白石の手を取って、あたしも立ち上がった。その時の白石の、ちょっと下を向いて、照れたような、はにかんだ笑顔。それにつられてあたしも同じ顔をしてたと思う。
白石の右手にはあたしのチョコ、左手にはあたしの手。
これからどんどん白石を好きになっていって、最終的にはあたしの方が好きになってるんじゃないかって、そんな予感でいっぱいだった。
終わり
【後書き】
恋愛に器用そうに見えるけど、実は好きな子にはイッパイイッパイの白石であって欲しいです。彼はテニス一筋であり、テニスのことで頭いっぱい。ですが、やはり恋というものは避けて通れない道ですから、そんな時、彼が初めての気持ちにどう向き合うのかを想像するとえらく楽しいです。
テニスに対してもそうであるように、好きな子に対しても一途。デート一つにしても下調べを入念にし、パーフェクトを目指しているといいと思います。そんな自分に酔ってることもありますが、他ならぬ好きな子のためなのです。
そして付き合っていくうちにどんどん白石の中の魔性が覚醒していきます。本人自覚はありませんが、一瞬できゅん死にできるような発言、行動を余裕を持ってするようになっていき、上げて下げてもお手の物になっていきます。たまに自覚を持ってやる時もあり、完全なる魔性、もう白石でないと駄目な体にされてしまうのです。
ちょっと興奮して長くなってしまいましてすみません。ここまでお付き合い頂いてありがとうございました。