四天生活
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ずっとお腹空きっぱなしの午前中の授業が全て終わって、やっとお昼の時間になった。チャイムが鳴ったとたん、ダッシュで出て行く男子や席を移動する女子、そんなクラスメイト達の声が飛び交い、がやがやとした雰囲気に変わった。
自分もさっさとお昼にしようと、ふう、とひと息付いて、机の上に出ている授業の道具をしまっていた時
「ねぇ、伝説のハジケリスト。」
後ろの席の##NAME2##に声を掛けられた。
「ん?」
振り向くとすでにお弁当とお茶を持っていて、
「今日外で食おうぜ。」
「別にいいけど…外ってどこよ。」
「外は外だよ。早く行こう!腹減った!」
若干キレ気味に言われたし、断る理由もなかったので、##NAME2##に付いていくことにした。
教室を出て、エントランスを出て、
「寒い!」
##NAME2##が叫んだ。じゃあ何で外行こうなんて言ったんだろう。なんとなくイケる気がしたのかな?なんて思いながら##NAME2##を見ると、身を縮めて体を震わせながらあたしを見ていた。
「お前寒くねぇの?」
「寒いよ。」
「何でこんなに寒いんだろうね。」
「教室戻る?」
「戻んない。」
意味が分からず、どんどん歩いていく##NAME2##に付いていく。どこへ行くんだろうか。このまま行くと、漫才ライブとかやったりするあの華月がある。でも華月は閉まってるだろうから…もしや外って、本当に学校の外?
「ところでどこまで行く気?」
気になる気持ちを抑えきれず聞くと、
「ここまで行く気。」
華月の前で止まった。
「え、ここ入れんの?」
「だいじょぶだいじょぶ。」
鍵っていつも閉まってなかったっけ?と思いながら、##NAME2##が華月の扉を開けるのを見ていた。
「ほら、寒いから早く入ろう!」
背中を押され、真っ暗な館内に入ると、後ろでガチャッと鍵の閉まる音がした。
「おい暗くてなんも見えないんだけど。」
「まぁ待てって。」
すると##NAME2##は大きな声で
「連れてきたー!」
と叫んだ。え?何?どういうこと?と、頭には疑問符が浮かびまくって、
「ご苦労さん!」
男子の声がしたと思ったら、舞台がライトで照らされた。
遠くて詳しいことは分からないけど、舞台上には三角帽子を被った男子が二人いて、スポットライトを浴びながら立っている。
「え?」
何が何だかさっぱり分からず##NAME2##を見ると、口を押さえて小刻みに震え、笑いを堪えていた。
全然現状を把握できないでいると、
「ワン、ツー、ハァッピバースデイトゥ~ユ~♪」
「ハァッピバースデイトゥ~ユ~♪」
「ハァッピバースデイ、ディア……」
「……伝説のハジケリスト~♪」
「ハァッピバースデイ、トゥユ~↑」
「ハァッピバースデイ、トゥユ~↓」
『パーン!』
キレイにハモったアカペラが終わって、クラッカーのような乾いた音が鳴り響き、場内の明かりが点いた。
「ちょ、何これ!(笑)つーか誰あそこにいるの!」
「(笑)(笑)(笑)」
よく分かんないけど面白くて、そんで眩しくて目がシパシパする中、今日が自分の誕生日で、だから##NAME2##が何か用意してくれたんだと分かった。
「行こう。」
笑った涙が目尻に光る##NAME2##と、急いで舞台に近寄っていく。
そこにいたのは
「驚いた?」
パーティー用のキラキラした三角帽子を被り、鼻眼鏡を掛けた白石くんと
「ハモり完璧やったろ!」
鼻眼鏡はしてないけど、同じく三角帽子を被った謙也がいた。
「つーか何であんただけ鼻眼鏡してんの?(笑)まずそれに驚くよね。」
「パーティーいうたら鼻眼鏡やろ。」
「まぁ完全にお前の頭がパーティーだよね。ホント残念な美形だよ。」
「でも、そこが好きなんやろ?」
「はいはいもうそれでいいよ。」
「つれへんなぁ。そんなに腹減っとんのか。」
「そうだよ!」
白石くんと##NAME2##のやり取りを聞きながら謙也をチラッと見ると
「いつまでもそんなとこにおらんと」
舞台上にいる謙也が屈んで、あたしに手を差し伸べた。珍しくツッコミに参加しないな、なんて考えてたので、とっさの判断ができず
「え、何?」
「何?てお前、手ぇ貸しとんねん。」
「??」
「あのなぁ……」
本気で分からないあたしを見て、謙也がため息をついた。
「まぁええわ。俺の手ぇ掴んで上がってこい、っちゅーことや。」
「あ、そっか。ありがとう。」
謙也の手を握ると、強い力であたしを舞台の上に引き上げた。
それに続くようにして、鼻眼鏡の白石くんも、##NAME2##を引き上げていた。
舞台に上がってちょっと歩くと、ゴザの上に重箱と、小さな箱があって
「まぁ座ってくれ。」
謙也に促されるまま、靴を脱いでゴザに上がり、重箱を囲むように四人で座った。
「これ被ってな。」
そして無理矢理お揃いの三角帽子を被らされた。
全員が落ち着いたところで、白石くんが小さな箱を開けに掛かった。ワクワクしながらそれを見ていると、チーズケーキが出てきて、その上にはすでにロウソクが立てられていた。
「謙也。」
「おう。」
それを謙也が受け取ると、マッチを取り出した。
あたしの歳の数と同じ本数のロウソクに、火が点されていく。それを見ながら、白石くんが
「このチーズケーキ、##NAME2##が作ったんやで。」
「えぇ?!##NAME2##が作ったの?!」
「そうだよ。なかなかやるだろ?」
得意げに笑って言った後、
「つーか何でそんなびっくりしてんの?失礼なんですけど。」
眉間にシワを寄せて口を尖らす##NAME2##。本気で怒ってるわけじゃなく、これがこいつの、いつもの冗談怒りだってことは分かってて、でも、次々に出てくるサプライズに混乱を隠せない。
「いや、違う、ごめん、嬉しい。」
「落ち着け(笑)」
そんなやり取りを##NAME2##としていると、
「全部点いたで。」
謙也がケーキをあたしの方に向けて
「一気に消すんやで?」
って言った。
「んなこと言うて、謙也が横から消すんやろ?」
「あいつらと一緒にすんな。」
あいつらって、テニス部の人達のことかな?なんて思ってたら
「消すで伝説のハジケリスト、せーの!」
急に言われ、戸惑いつつもフーッとロウソクの火を消すと、拍手と共におめでとうの声がした。
「まぁこれは後で食うとして、まずはメシ食お。」
謙也はケーキをしまうと、目の前の重箱を開いた。
「わっ、何コレ!すごーい!」
広げられていく重箱の中身は、玉子焼き、ウインナー、アスパラベーコン、唐揚げ、海老フライ、ハンバーグ、ポテトサラダ、プチトマト、煮豆、おにぎりと、運動会のお弁当のような、豪華なおかずがキレイに詰められていた。
「写メ撮りたい!」
「あたしも!」
##NAME2##と携帯でパシャパシャ撮ってると。
「朝早起きして、謙也んちで作ったんやで。」
「ほとんど俺が作ってん。詰めたんは白石や。見てみい、この無駄の無い詰め方。前に言うたやろ?こいつテニスの聖書言われとるて。ほんでテニス以外でも無駄無いねん。凄いやろ?」
「詰めたモン勝ちや。」
「そういえば謙也はなんだっけ?スーパースターじゃなくて…」
「伝説のハジケリストおしいで。あとちょっとで正解や。」
「スピードスターや。まぁスーパースターでも間違うてへんけどな。」
そんな話をしている間にも、白石くんは紙皿にキレイにおかずを取り分けていく。本当になんて無駄の無いヤツなんだろう。
「あ、でもお弁当持ってるんだった。##NAME2##も持ってなかったけ?」
「あたしのは空っぽだよ。」
「え、なんで!」
「だって今日のこと知ってたし。」
「えー!じゃああたしにも弁当いらないこと言ってよ!」
「そしたらサプライズになんないじゃん。」
「そっか。どうしよう…」
「俺が食う。」
そう言って、謙也はあたしの手からお弁当箱を取った。
「いつも思うんやけど、女子ってこんな小さい弁当で足りてるんか?」
「うん、まぁ、足りてるけど…」
はぁ~と感慨深げな声を出しながら、あたしのお弁当を広げて口にした。
「見てないでお前も食えよ。」
「あ、うん!」
なんかちょっと照れくさくなって##NAME2##を見ると、
「いただきまーす。つーかいつまでソレ付けてんの?」
「今外すわ。##NAME2##も付ける?」
「あたしはいいや。」
「実は付けたいんやろ?」
「ちょっとね。」
すでに携帯をしまってて、おにぎりをモリモリ食べながら、白石くんと鼻眼鏡を付けるか付けないかの話をしていた。
あたしも携帯をしまい、いただきますをしてまず唐揚げを食べた。
「謙也って料理できるんだっけ?」
「まぁボチボチな。言うてもほぼ冷凍やけど。でも唐揚げとハンバーグと海老フライと煮豆意外は手作りやで。」
「あ、そうなの?じゃあ」
せっかくなので、謙也お手製の玉子焼きを食べてみた。形はいびつだけど、ダシが効いてて美味しい。
「どや?うまいか?」
「うん、うまい。」
「そか!いっぱい食えよ!」
嬉しそうな謙也を見てると、なんだかこっちまで嬉しくなる。
それから、四人で下らない話をしながらあっという間にお弁当もケーキも食べ終えた。
「あー、お腹いっぱい!」
「午後の授業面倒やな。」
片付けも終わって、白石くんと##NAME2##が舞台から降りながら言ってるのを聞いて、心の中で同意しながらあたしも舞台から降りようとした。
すると、謙也が先に降りて
「手ぇ貸す。」
また手を差し伸べた。今度は意味も分かったし、せっかくだから手を借りようと思ったけど
「どうした?降りられへんのか?」
手を掴んだはいいものの、降りる時はどうしたらいいのか分からなくなった。逆に手を借りない方が降りやすいなって思ってると
「わっ!!」
強く手を引っ張られ、固いものに鼻をぶつけた。
痛さに顔を歪めながら上を見るとすぐ近くに謙也がいて、今ぶつかったのは謙也の胸の辺りだったんだなって分かった。
「はは、ヘンな顔!」
「びっくりしたからしょうがないじゃん!つーか痛いし!」
「ずっと固まっとるからやん。あのまま待っとったら昼休みどころか一日が終わってまうわ。」
「だってどうすればいいか分からなかったんだもん!」
「悪かった悪かった。」
「謙也、俺ら照明落としてから行くから、先出ててくれん?」
「おう。」
そう言って、あたしの手を引いたまま出口に向かって歩き始めた。
何で手ぇ繋いでるんだろう、ちょ、マジどうしようとか、内心もの凄く焦りながらも、どうにか謙也の後に続いて歩いた。
外に出ると、冷たい風が顔に当たって、それが心地よく感じた。それで自分の顔が熱くなっていることに気付く。
「謙也。」
「なんや。」
「手…なんだけど…」
手?と言って、繋がれた手に視線を落とすと
「す、すまん!!」
無意識だったのか、今気付いたといった感じで慌ててバッと離した。
「………。」
「………。」
気まずい沈黙が流れて、##NAME2##達早く来ないかなと思ってると
「あいつら遅いな。」
謙也が口を開いた。
「うん。」
「忘れ物ないか?」
「うん。」
「………。」
「………。」
「あのさ!」
「あのさ!」
この微妙に気まずい感じに居心地の悪さを感じ、あたしからも話そうとしたら、見事に被ってしまった。
「何?」
「いや、お前先に言え。」
「いいよ、謙也から言って。」
「俺はええねん。お前先言え。」
ほら、と催促するように言われたので、
「今日、ありがとう。」
「おお。」
「………。」
「………。」
「そんだけか?」
「うん。」
「ほな俺の番やな。」
そう言って、ポケットから小さい紙袋を出した。
「これやるわ。」
「え?」
「誕生日のプレゼントや。」
「え…え?!」
プレゼントはさっきのパーティーで、でも今謙也は何かあたしに差し出してて…
「いらんのか?」
「…いります。」
ワケ分かんないのと嬉しいのと恥ずかしいのと色々で、もうなんていうか、混乱する。ていうか今日は混乱してばっかだな、あたし。
謙也から袋を受け取って、
「開けてもいい?」
「どうぞ。」
テープを綺麗に外して中を見ると、
「何これ!ちょーウケる!(笑)」
フリーザとザーボンとドドリアの消しゴムが入ってた。
「すごいやろ?こんなんよく見付けたと思うやろ?」
「うんうん!何これどこにあったの?」
「秘密や。レアやから大事に使えよ?」
「ありがとう!大事にするわコレ。」
まさかの誕生日プレゼント。その内容に、さっきまでのトキメキが一瞬にして笑いに変わってしまって、残念なような、それで良かったような、なんとも複雑な心境だ。
結局その消しゴムは使うのが勿体なくて、家の机に飾っている。
パニックに陥りまくったあたしの誕生日。けど、一番パニックしたのは、その後家に帰って##NAME2##から電話で聞いた話。
『あのパーティー、謙也がやろうって言ってきたんだよ。あたしは個人的にプレゼント渡そうとだけ思ってたんだけどね。あいつやるよね。』
あたしはてっきり、##NAME2##が計画したものかと思ってて
『普段めんどくさがってこういうことしないのにね。ねぇ伝説のハジケリスト、なんでだろうね?』
そんなのこっちが聞きたいくらいだよって言ったんだけど、それ以上は何を聞いても教えてくれなかった。
そして、帰ってから気付いた、消しゴムに紛れて奥底に入ってた星形のイヤリング。
『星?!何あいつ、自分がスピードスターだから?!出たよ自分センス!マジだりぃチョイスじゃん(笑)』
あたしも一緒になって笑ったけど、大きさも丁度良くて、実際カワイイと思う。
『お礼のメール入れておきなよ。今日中にだぞ?あ、電話でもいいけど。』
そんなこともあって、かれこれ10分以上携帯のメール作成画面を開き、打っては消してを繰り返している。いつもはすらすら打てるのに、今日この時ばかりはそうもいかない。
今日を境に、このメールを境に、何かが変わる気がして。
終わり
【後書き】
サンお誕生日おめでとう!ということで、なんとも本人達丸出しの、気持ち悪い一品を書き上げてしまいました。完全なるオーダーメイド。
ある日電話で、サンが「謙也と白石同じクラスなんだよ」と萌え萌えした様子で語ってくれたことがありました。「同じクラスだったら絶対楽しいよね!」と盛り上がったのがきっかけとなりました。
確かに仲の良い友達と自分と、謙也と白石で同じ班、そんで仲良しグループとかいいなぁってね!
サンは謙也とラブラブとか、謙也と白石に取り合われるとかがいいって言ってたんですけど、私にはハードル高過ぎました。なのでこの続きは脳内で展開して欲しいと思います。
ものすごく気持ち悪い感じになりましたが、後悔はしていません。リアリティある方が相棒も嬉しいだろうて。ホントに謙也と甘酸っぱいことになっちゃったーって思って楽しんで頂けたら嬉しいです。
伝説のハジケリスト様、温かい心でお付き合い頂きありがとうございました。伝説のハジケリスト様にもお楽しみ頂けたのであれば幸いです。