君が為
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北海道の夜は星がとても綺麗だ。雪は今は止んでおり、無数の星々が瞬いている。白い息を吐きながら兵舎の門まで駆け足で行く。そこには昼間会った尾形上等兵と谷垣一等。彼は東北のマタギだったと自己紹介の際に教えてくれた。少し接しただけだが誠実そうな彼が反乱を企てるとは考えにくいのでマークは早々に外した。油断はしないが
「っ!**補佐官殿、どうかしましたか?」
「あ、はい!これからは夜の見回りに僕も加わることになりましたので、よろしくお願いしますね」
「はあ、恐縮ですが北海道の冬の夜は東京とは恐らく比べ物にはならないほど冷えますので、その……」
「ええ。承知しておりますよ。それがどうかしましたか?」
東京からきた軟弱者だと見誤られているのだろうか、ムッとして少し挑発的に返してしまった。すると谷垣さんは顔色を変え焦った風に返す
「ああ、いえ……失礼致しました。それでは参りましょうか、尾形上等兵殿」
「まあ見回りとは言いますがただの散歩のようなものです。補佐官殿がわざわざ見られるような事はないと思いますが」
「いいえ、学べることがないものや人などこの世にはないと大佐が仰っていました。ならば自分もそれに習うだけです。……さあ早く見回りに参りましょう!」
半ば強引に二人を門外へと促す。谷垣さんは少し戸惑っている様子だが依然として尾形さんの感情は読みとれない。
そうして三人で歩き出すが少しというかかなり歩きづらい……。道はある程度除雪されてはいるが雪は残っている。雪道に慣れていないのもあるが夜道ということも相まって更に私の歩くペースは落ちてしまっている。なんとか上手い歩き方を出来ないかと前を行く二人の足の運びを見る
「……」
「……。補佐官殿、その速さでははぐれてしまいます」
「わ、分かっております……!」
足の遅さを指摘されてしまった。指摘していた谷垣さんはこちらを何度か振り返り確認してくれているが、尾形さんは黙々と前を見て進んでいる。これは……完全に足手纏いになってしまっている。大口叩いて来た手前こんな状況には陥りたくなかった。
「大丈夫です!少々星に見とれていただけで、迷惑を掛けました!今すぐ普通に歩きます!」
「ご無理は、なさらないでください」
羞恥と申し訳なさとで歩幅を大きく開いた瞬間であった。そう、それはものの見事に滑って転んでしまった。受け身をとったので頭をぶつけたりはしなかったが盛大に路上に寝転んでしまった
「……大丈夫ですか?」
「…………お恥ずかしいところを、すみません」
谷垣さんが駆け寄ってきて手を取って立たせてくれた。こんなことなら見栄などはらず素直に歩き方を聞いておけばよかった
「本当に申し訳ない……。実は夜の雪道の上手い歩き方を知らず。本当にお恥ずかしい」
「そうでしたか、貶すつもりはありませんが東京の出だと伺っていましたので心配していました」
「僕に上手い雪道の歩き方をご教授願えますか」
「恐縮です。勿論、俺にできることでしたら」
ありがとうございます、とお礼を言ってレクチャーを受ける。そうしている間も尾形さんは真顔のままこちらを見ているだけだった。待っていてくれるだけありがたいとは思うが
「そうです、少し猫背気味に歩くといいです」
「こうですね、ですが東北のマタギの方自ら雪道の歩き方を教えて頂けるとは。やっぱり付いてきてよかったです」
「補佐官殿の筋がいいのですよ」
「ふふ、ありがとうございます。それと僕のことは是非に名前で」
そういうと谷垣さんは少し目を丸くさせた後ですが、と口ごもる。それを遮りなんとかとお願いをする。補佐官殿、ではあまりによそよそしいのだ
「では、**さん」
「はい谷垣さん」
返事に答える。谷垣さんは帽子を深めに被ってしまった。前に向き直り尾形さんの隣へと移動する
「先ほどはご迷惑をお掛けしました。ですが今ならば遅れは取りません」
「そうですか、それは結構です」
そう素っ気なく言うと歩くスピードをあげられていかれてしまった。私もその調子に合わせようとスピードをあげる
「ご無理をなさる必要はないですよ」
「至って普通です」
涼しい風を吹かせながらこちらを挑発してくる。先ほどのあれで懲りたがその挑発に乗ってやろうと私も負けじと歩調を速めていく
最後の方はもうほぼ競歩であったし後を付いてきていた谷垣さんは困り顔であった
「そろそろ苦しそうですな補佐官殿ォ?」
「まだまだこれからですよ、それと僕のことは名前でぇっ!」
お喋りに気を取られ足をまたもや盛大に滑らせてしまった。川の近くを歩いていたせいで川の方へ足を滑らせ行ってしまう。もう駄目だ、川に落ちてしまうと身を強ばらせたとき強く腰を抱かれた
「……っ!」
「……はあ、真冬の川に飛び込むと死ぬと補佐官殿の尊大なる大佐殿はお教えしなかったので?」
目の前には尾形さんの呆れ顔で、左腕を掴まれ腰にはきつく手が回っていた
「もうしわけ、ありません……。ほんとうに」
「大丈夫ですか!お二人とも!夜に川に落ちては戻れませんよ」
手を離された後、谷垣さんが心配そうにかけよって駆け寄ってきた
「谷垣、お前がこの補佐官殿のことしっかりとお世話してろ」
「尾形上等兵、流石にそれは失礼だと」
「いえ……失態を犯したのは僕です。尾形上等兵殿危ないところを助かりました。今後このようなことがないように尽力致します。ですので、どうか見回りに今後もお供することをお許しくださらないでしょうか……」
尾形さんに深く頭を下げ許しを請う。ここでこの人物に近づく機会を失ってしまうのは避けたかった
「……私共が決めることではありませんので、お好きにどうぞ」
「真 ですか!良かった、愛想をつかされてしまったらどうしようかと」
最初から愛想なんざないとでも言いたげな目で尾形さんはこちらを見てくるが気にはしない。
その後は三人揃って普通の速さで兵舎へ帰った。帰り道、谷垣さんの故郷のマタギについての話になったが興味深いことを沢山聞けた。自身の知らない慣習についても興味がそそられたので帰り道では談話に花が咲いた。相も変わらず尾形さんは会話には入って来なかったが時折こちらを気にしてくれるような素振りがあったので、中々良い変化ではなかろうか。明日には鶴見中尉との茶会などあるのでより一層気を引き締めなければ……
「どうだった、尾形上等兵、帝都からの使者は?」
「特に鈍くさい、くらいしか言うべきところは見当たりませんな」
「ほほう」
何が面白いのかニヤニヤと笑う上司を前に続ける
「それと、奴の体は普通の男と変わらないかと思われます。腰や腕など触って見ましたが少し細い程度で特別なところはないかと」
「それは服の上からだろう。服をひっぺがして確認したわけでもないのだろう?」
「……その噂話は狂言だとも思いますが。報告は以上です。失礼します」
そう言い鶴見中尉の部屋を後にする。何を考えているよくかわからない人間だ。まずあの中央から来た****はまず本部からの監査員といって間違いないだろう。そこまではいい。よくわからない点は****が女だという信憑性の低い噂話に異様に執着することだ。まあ一番今自分が考えるべきはこれからどのように鶴見中尉の目を掻い潜りつつ本部のあの箱入り男の注意を逸らすか、ということだが
「っ!**補佐官殿、どうかしましたか?」
「あ、はい!これからは夜の見回りに僕も加わることになりましたので、よろしくお願いしますね」
「はあ、恐縮ですが北海道の冬の夜は東京とは恐らく比べ物にはならないほど冷えますので、その……」
「ええ。承知しておりますよ。それがどうかしましたか?」
東京からきた軟弱者だと見誤られているのだろうか、ムッとして少し挑発的に返してしまった。すると谷垣さんは顔色を変え焦った風に返す
「ああ、いえ……失礼致しました。それでは参りましょうか、尾形上等兵殿」
「まあ見回りとは言いますがただの散歩のようなものです。補佐官殿がわざわざ見られるような事はないと思いますが」
「いいえ、学べることがないものや人などこの世にはないと大佐が仰っていました。ならば自分もそれに習うだけです。……さあ早く見回りに参りましょう!」
半ば強引に二人を門外へと促す。谷垣さんは少し戸惑っている様子だが依然として尾形さんの感情は読みとれない。
そうして三人で歩き出すが少しというかかなり歩きづらい……。道はある程度除雪されてはいるが雪は残っている。雪道に慣れていないのもあるが夜道ということも相まって更に私の歩くペースは落ちてしまっている。なんとか上手い歩き方を出来ないかと前を行く二人の足の運びを見る
「……」
「……。補佐官殿、その速さでははぐれてしまいます」
「わ、分かっております……!」
足の遅さを指摘されてしまった。指摘していた谷垣さんはこちらを何度か振り返り確認してくれているが、尾形さんは黙々と前を見て進んでいる。これは……完全に足手纏いになってしまっている。大口叩いて来た手前こんな状況には陥りたくなかった。
「大丈夫です!少々星に見とれていただけで、迷惑を掛けました!今すぐ普通に歩きます!」
「ご無理は、なさらないでください」
羞恥と申し訳なさとで歩幅を大きく開いた瞬間であった。そう、それはものの見事に滑って転んでしまった。受け身をとったので頭をぶつけたりはしなかったが盛大に路上に寝転んでしまった
「……大丈夫ですか?」
「…………お恥ずかしいところを、すみません」
谷垣さんが駆け寄ってきて手を取って立たせてくれた。こんなことなら見栄などはらず素直に歩き方を聞いておけばよかった
「本当に申し訳ない……。実は夜の雪道の上手い歩き方を知らず。本当にお恥ずかしい」
「そうでしたか、貶すつもりはありませんが東京の出だと伺っていましたので心配していました」
「僕に上手い雪道の歩き方をご教授願えますか」
「恐縮です。勿論、俺にできることでしたら」
ありがとうございます、とお礼を言ってレクチャーを受ける。そうしている間も尾形さんは真顔のままこちらを見ているだけだった。待っていてくれるだけありがたいとは思うが
「そうです、少し猫背気味に歩くといいです」
「こうですね、ですが東北のマタギの方自ら雪道の歩き方を教えて頂けるとは。やっぱり付いてきてよかったです」
「補佐官殿の筋がいいのですよ」
「ふふ、ありがとうございます。それと僕のことは是非に名前で」
そういうと谷垣さんは少し目を丸くさせた後ですが、と口ごもる。それを遮りなんとかとお願いをする。補佐官殿、ではあまりによそよそしいのだ
「では、**さん」
「はい谷垣さん」
返事に答える。谷垣さんは帽子を深めに被ってしまった。前に向き直り尾形さんの隣へと移動する
「先ほどはご迷惑をお掛けしました。ですが今ならば遅れは取りません」
「そうですか、それは結構です」
そう素っ気なく言うと歩くスピードをあげられていかれてしまった。私もその調子に合わせようとスピードをあげる
「ご無理をなさる必要はないですよ」
「至って普通です」
涼しい風を吹かせながらこちらを挑発してくる。先ほどのあれで懲りたがその挑発に乗ってやろうと私も負けじと歩調を速めていく
最後の方はもうほぼ競歩であったし後を付いてきていた谷垣さんは困り顔であった
「そろそろ苦しそうですな補佐官殿ォ?」
「まだまだこれからですよ、それと僕のことは名前でぇっ!」
お喋りに気を取られ足をまたもや盛大に滑らせてしまった。川の近くを歩いていたせいで川の方へ足を滑らせ行ってしまう。もう駄目だ、川に落ちてしまうと身を強ばらせたとき強く腰を抱かれた
「……っ!」
「……はあ、真冬の川に飛び込むと死ぬと補佐官殿の尊大なる大佐殿はお教えしなかったので?」
目の前には尾形さんの呆れ顔で、左腕を掴まれ腰にはきつく手が回っていた
「もうしわけ、ありません……。ほんとうに」
「大丈夫ですか!お二人とも!夜に川に落ちては戻れませんよ」
手を離された後、谷垣さんが心配そうにかけよって駆け寄ってきた
「谷垣、お前がこの補佐官殿のことしっかりとお世話してろ」
「尾形上等兵、流石にそれは失礼だと」
「いえ……失態を犯したのは僕です。尾形上等兵殿危ないところを助かりました。今後このようなことがないように尽力致します。ですので、どうか見回りに今後もお供することをお許しくださらないでしょうか……」
尾形さんに深く頭を下げ許しを請う。ここでこの人物に近づく機会を失ってしまうのは避けたかった
「……私共が決めることではありませんので、お好きにどうぞ」
「
最初から愛想なんざないとでも言いたげな目で尾形さんはこちらを見てくるが気にはしない。
その後は三人揃って普通の速さで兵舎へ帰った。帰り道、谷垣さんの故郷のマタギについての話になったが興味深いことを沢山聞けた。自身の知らない慣習についても興味がそそられたので帰り道では談話に花が咲いた。相も変わらず尾形さんは会話には入って来なかったが時折こちらを気にしてくれるような素振りがあったので、中々良い変化ではなかろうか。明日には鶴見中尉との茶会などあるのでより一層気を引き締めなければ……
「どうだった、尾形上等兵、帝都からの使者は?」
「特に鈍くさい、くらいしか言うべきところは見当たりませんな」
「ほほう」
何が面白いのかニヤニヤと笑う上司を前に続ける
「それと、奴の体は普通の男と変わらないかと思われます。腰や腕など触って見ましたが少し細い程度で特別なところはないかと」
「それは服の上からだろう。服をひっぺがして確認したわけでもないのだろう?」
「……その噂話は狂言だとも思いますが。報告は以上です。失礼します」
そう言い鶴見中尉の部屋を後にする。何を考えているよくかわからない人間だ。まずあの中央から来た****はまず本部からの監査員といって間違いないだろう。そこまではいい。よくわからない点は****が女だという信憑性の低い噂話に異様に執着することだ。まあ一番今自分が考えるべきはこれからどのように鶴見中尉の目を掻い潜りつつ本部のあの箱入り男の注意を逸らすか、ということだが