君が為
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いつだったか、あれは。夏に父に連れられて静岡の海へ行った。父は何故か出身でもないのに静岡のことを特別気に入っていた。夜のうちに帝都から離れ静岡へ向かった。朝日に染まった海はとても綺麗で、子どもの私にはどんな宝物よりも輝く誰も手に入れられない宝に思えた。そのせいか、私には海は青いものではなく光輝く橙色の印象が強い。父が私の手を引き浜辺を歩く……周りは橙色で自分の輪郭も段々あやふやになっていく、父が、何かを言っている何かをー
「……っ!……くん!**くん、着きましたよ!」
「……ぇ……?」
「小樽です。しっかりなさってください」
がばりと起き上がる。外を見てみると旭川よりかは劣るが雪に覆われた活気のある市街地が見えた。自分はそんなに深く眠っていたのか、荷物は?手元にある、ちゃんと抱えて眠っていたようだ。取り敢えず眠っている間に荷物をさぐられた可能性はなくなった。それをひそかに確認した後月島さんに謝罪をする
「すみません、旅の疲れが出ていたようで。全く、自分は軟弱者で……」
「いえ、自分の方が昨夜は少しばかり羽目を外してしまった所為もありますので。そろそろおります。ご準備を」
「あ、はい」
一夜明けて月島さんに昨日のような熱はなく事務的な面がまた出てきてしまっていた。そのことに若干の寂しさを覚えながらも下車する準備をする。準備といってもただ上着を着直すとかそういうことしかないが
小樽の駅を出ると迎えがあり、小隊の馬が引くソリに乗って鶴見中尉小隊が現在活動拠点にしている兵舎へと向かった。迎えの人は三島と名乗っていた。今回事前に調べた人間にはいなかったが人当たりのいい感触で好青年のように受け取られた。彼は兵舎に着くまでに小樽での暮らしや気を付けるべきことなどを教えてくれた
私が三島さんと話している最中、月島さんは三島さんが持って来ていた書類に目を通していたので会話には混じってこなかった。そうしているうちに第七師団小樽兵舎に着いた。そして三島さんに礼を言い、荷物を下ろしあてがわれた部屋へと向かった。途中、鶴見中尉はいらっしゃらないのかと聞いたが、今丁度運悪く出払っていると言われた。外面では気落ちをさせながらも内心はほっとしていた。
「まぁ、今日貴方が来られると分かっているだろうから鶴見中尉も早めに帰って来られるだろう」
「わ~、ほんとうですか~?楽しみだな~」
思ってもいないことを吐きすぎて少々声が嘘くさくなってしまった気がするがご愛嬌ということで見逃してほしい。お願いします。それが天に届いたのか特に気にされる風もなく月島さんが続ける
「そんな鶴見中尉にぞっこんな**くんの為のこの部屋、実は鶴見中尉の隣です」
「……う、嬉しすぎて言葉に出来ません…………。ありがとう、ございます。」
文字通り、言葉に出来ないほどの衝撃に襲われている。こんなに近くに監視対象がいられては事が運びづらい。何とかできないものかと月島さんに食い下がる
「あっでもそれは逆に興奮しすぎて夜眠れなくなってしまう可能性があるので僕は全然遠目でも全然」
「ふむ、そうですか、ならその興奮して眠れない夜には向かいの部屋の俺が気の済むまで話にでもなんにでも付き合います。鍵はこちらです。あと、ある程度荷解きが出来ましたらば、玄関まで来てください。美味い飯を食いに行きましょう」
とだけ言うと返事をする間もなく出て行ってしまった。なんということだ。鶴見中尉の忠臣、月島さんが向かいの部屋にいるだなんてますます動きづらい。だがもうこれ以上はどうしようもない、鶴見中尉の隣部屋から異常に離れたがる方が怪しく映ってしまう。相手もこちらを監視する気なのならこちらもそれを最大限に有効活用するまでだ
荷解きを終えて部屋から出て鍵をかける。小細工も忘れずに、ドアの上部分に細い紙を張り付けておく。こうすれば自分以外の出入りがあったとき分かる。相手側から渡された鍵なんてなんの保障にもならないからだ。そして兵舎のなかを玄関へ向けて進み始める。のだが……
「……迷ってしまった」
どうやら増築を繰り返しているようで結構複雑になっている。こういうところでしっかりしていないから中央のエリートボンボン達に気が抜けてるだの間抜けだの言われるのだ私は!そう自分のことを責めていたら声をかけられた
「そこのお前。見ない顔だな、出身と階級、名前を答えろ」
「はっ、第一師団より派遣で参りました第一師団参謀長大佐補佐官、****です」
「!……これはとんだご無礼を、貴方様が第一師団からの派遣の方でいらっしゃったか。話は伺っております。」
「あっはい!それは良かった、決して不審な人物などではないのでご安心を。ええと」
「第七師団上等兵、尾形百之助です。して、かようなところで如何されましたか」
「尾形百之助さん!覚えました!ああ、実はお恥ずかしいことに玄関入口までの通路を忘れてしまいまして……」
「そうでしたか。いや、ですが不思議だ。この兵舎そこまで広いわけでも入り組んでいるわけでもないと思いますが……。ですがそうですね、初めてですと分かりづらい面もあるかもしれません。ご案内致します。」
尾形百之助、花澤中将の子息らしいが本家の出ではない。特にこれといった情報はないが、狙撃の腕は師団の中でも上位に食い込む。だが花澤中将は国家への責任を取り自決している。そのことを恨み政府への反逆を企てる可能性の高い人物でもある。そしてサラッと流したが今この人暗に私のことを方向音痴だと馬鹿にしなかったか、なんという野郎だ、度し難い。そうして玄関まで案内をして貰っていたら既に月島さんはそこにいた
「尾形か、補佐官殿と一緒にどうした」
「玄関の場所がわからなくなっていたようでしたので案内を」
「月島さん、遅くなりました。尾形さんに声をかけていただいたので、それで……。というか、僕のことはあれほど補佐官殿と呼ばないでくれと」
「他の者に示しが……」
「いいんですよ!ね!尾形さん」
「はあ、何のことかいまいちわかりかねますが、」
「尾形さんも僕のことは是非名前でお呼びください、ということですよ」
「それは、さすがに隊の風紀が乱れるかと思いますので遠慮いたします。大佐補佐殿」
尾形さんは表情を変えることなく言う。出会った時から思ったがこの人はあまり表情の変化がないせいで感情の機微が分かりにくい。ここで押し問答をしていてもしょうがないので尾形さんと別れ小樽の地元料理が食べられる店へ月島さんと向かった。そこで出された新鮮な魚料理を食べながら月島さんに隊の説明を受ける。話の途中で尾形百之助に関して印象はどうかとかそんなようなことも聞かれた。当たり障りのないことを言っておいたが尾形百之助は身内から警戒でもされているのだろうか?いずれにせよ慎重な調査が必要である。それと月島さんとの距離がほんの少し縮まった気がする。気持ち彼の笑顔が見れる回数が増えたからだ。
「……っ!……くん!**くん、着きましたよ!」
「……ぇ……?」
「小樽です。しっかりなさってください」
がばりと起き上がる。外を見てみると旭川よりかは劣るが雪に覆われた活気のある市街地が見えた。自分はそんなに深く眠っていたのか、荷物は?手元にある、ちゃんと抱えて眠っていたようだ。取り敢えず眠っている間に荷物をさぐられた可能性はなくなった。それをひそかに確認した後月島さんに謝罪をする
「すみません、旅の疲れが出ていたようで。全く、自分は軟弱者で……」
「いえ、自分の方が昨夜は少しばかり羽目を外してしまった所為もありますので。そろそろおります。ご準備を」
「あ、はい」
一夜明けて月島さんに昨日のような熱はなく事務的な面がまた出てきてしまっていた。そのことに若干の寂しさを覚えながらも下車する準備をする。準備といってもただ上着を着直すとかそういうことしかないが
小樽の駅を出ると迎えがあり、小隊の馬が引くソリに乗って鶴見中尉小隊が現在活動拠点にしている兵舎へと向かった。迎えの人は三島と名乗っていた。今回事前に調べた人間にはいなかったが人当たりのいい感触で好青年のように受け取られた。彼は兵舎に着くまでに小樽での暮らしや気を付けるべきことなどを教えてくれた
私が三島さんと話している最中、月島さんは三島さんが持って来ていた書類に目を通していたので会話には混じってこなかった。そうしているうちに第七師団小樽兵舎に着いた。そして三島さんに礼を言い、荷物を下ろしあてがわれた部屋へと向かった。途中、鶴見中尉はいらっしゃらないのかと聞いたが、今丁度運悪く出払っていると言われた。外面では気落ちをさせながらも内心はほっとしていた。
「まぁ、今日貴方が来られると分かっているだろうから鶴見中尉も早めに帰って来られるだろう」
「わ~、ほんとうですか~?楽しみだな~」
思ってもいないことを吐きすぎて少々声が嘘くさくなってしまった気がするがご愛嬌ということで見逃してほしい。お願いします。それが天に届いたのか特に気にされる風もなく月島さんが続ける
「そんな鶴見中尉にぞっこんな**くんの為のこの部屋、実は鶴見中尉の隣です」
「……う、嬉しすぎて言葉に出来ません…………。ありがとう、ございます。」
文字通り、言葉に出来ないほどの衝撃に襲われている。こんなに近くに監視対象がいられては事が運びづらい。何とかできないものかと月島さんに食い下がる
「あっでもそれは逆に興奮しすぎて夜眠れなくなってしまう可能性があるので僕は全然遠目でも全然」
「ふむ、そうですか、ならその興奮して眠れない夜には向かいの部屋の俺が気の済むまで話にでもなんにでも付き合います。鍵はこちらです。あと、ある程度荷解きが出来ましたらば、玄関まで来てください。美味い飯を食いに行きましょう」
とだけ言うと返事をする間もなく出て行ってしまった。なんということだ。鶴見中尉の忠臣、月島さんが向かいの部屋にいるだなんてますます動きづらい。だがもうこれ以上はどうしようもない、鶴見中尉の隣部屋から異常に離れたがる方が怪しく映ってしまう。相手もこちらを監視する気なのならこちらもそれを最大限に有効活用するまでだ
荷解きを終えて部屋から出て鍵をかける。小細工も忘れずに、ドアの上部分に細い紙を張り付けておく。こうすれば自分以外の出入りがあったとき分かる。相手側から渡された鍵なんてなんの保障にもならないからだ。そして兵舎のなかを玄関へ向けて進み始める。のだが……
「……迷ってしまった」
どうやら増築を繰り返しているようで結構複雑になっている。こういうところでしっかりしていないから中央のエリートボンボン達に気が抜けてるだの間抜けだの言われるのだ私は!そう自分のことを責めていたら声をかけられた
「そこのお前。見ない顔だな、出身と階級、名前を答えろ」
「はっ、第一師団より派遣で参りました第一師団参謀長大佐補佐官、****です」
「!……これはとんだご無礼を、貴方様が第一師団からの派遣の方でいらっしゃったか。話は伺っております。」
「あっはい!それは良かった、決して不審な人物などではないのでご安心を。ええと」
「第七師団上等兵、尾形百之助です。して、かようなところで如何されましたか」
「尾形百之助さん!覚えました!ああ、実はお恥ずかしいことに玄関入口までの通路を忘れてしまいまして……」
「そうでしたか。いや、ですが不思議だ。この兵舎そこまで広いわけでも入り組んでいるわけでもないと思いますが……。ですがそうですね、初めてですと分かりづらい面もあるかもしれません。ご案内致します。」
尾形百之助、花澤中将の子息らしいが本家の出ではない。特にこれといった情報はないが、狙撃の腕は師団の中でも上位に食い込む。だが花澤中将は国家への責任を取り自決している。そのことを恨み政府への反逆を企てる可能性の高い人物でもある。そしてサラッと流したが今この人暗に私のことを方向音痴だと馬鹿にしなかったか、なんという野郎だ、度し難い。そうして玄関まで案内をして貰っていたら既に月島さんはそこにいた
「尾形か、補佐官殿と一緒にどうした」
「玄関の場所がわからなくなっていたようでしたので案内を」
「月島さん、遅くなりました。尾形さんに声をかけていただいたので、それで……。というか、僕のことはあれほど補佐官殿と呼ばないでくれと」
「他の者に示しが……」
「いいんですよ!ね!尾形さん」
「はあ、何のことかいまいちわかりかねますが、」
「尾形さんも僕のことは是非名前でお呼びください、ということですよ」
「それは、さすがに隊の風紀が乱れるかと思いますので遠慮いたします。大佐補佐殿」
尾形さんは表情を変えることなく言う。出会った時から思ったがこの人はあまり表情の変化がないせいで感情の機微が分かりにくい。ここで押し問答をしていてもしょうがないので尾形さんと別れ小樽の地元料理が食べられる店へ月島さんと向かった。そこで出された新鮮な魚料理を食べながら月島さんに隊の説明を受ける。話の途中で尾形百之助に関して印象はどうかとかそんなようなことも聞かれた。当たり障りのないことを言っておいたが尾形百之助は身内から警戒でもされているのだろうか?いずれにせよ慎重な調査が必要である。それと月島さんとの距離がほんの少し縮まった気がする。気持ち彼の笑顔が見れる回数が増えたからだ。