女だと、どこから漏れていたのか。軍部の中で気づいている者が居たのか、もしくは嘲笑の類として広まっていたのかもしれない。しかし、今気にすべきことはそれではない。軍で習う縄抜けは基礎中の基礎であるが、大佐に教わった特別な縄抜けは更に多くのタイプの束縛に対応している。対自軍を考えたこの縄抜け方法は門外不出だ。難なく縄を解いた後、いかにしてここから脱出すべきか考えた。恐らくドア前に一人、そのほか近場に何人かいると見た方がいい。その場合、素手の私では部が悪すぎる。誰にも気づかれないようにここを抜けるべきだが、窓などはない。
　そういえば、ここは隙間だらけなせいか風がよく通り、潮の匂いがよくする。塩害によって腐食が進み、どこかしら壊しやすい箇所があるかもしれない。

　……あった！しかも扉の裏手、外を覗くと茂みだ。絶好の逃げ場所が見つかった。この僥倖に感謝をしつつ、私はなるべく音を立てないように、時にはカモフラージュのため泣き声を出すなどして、壁の一部を破壊した。外はすっかりと暗くなっていた。そのまま音を立てないように茂みに入った。









　茂みの中を歩いるとようやく人里へとやってこれた。ここにも、既に鶴見の手が回っている可能性は否定できなかった。だが、どちらにせよこの軽装では冬の北海道を乗り切ることが出来ないのは明白であった。ごめんなさい、ひとつ自分のためか他人のためかわからない懺悔を零し、人のいない家屋に侵入して防寒具と食料、移動のための最低限の金を拝借した。他人のもので身を固めるのは、初めてではないにしろ、良心が痛まない訳ではなかった。しかし今はそれすら考えている暇はない。幸い、尾形上等兵と再会するための日にちにはまだ余裕がある。海沿いに埋めた爆薬や薬品を回収後、目的地へと進む。