君が為
name setting
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鶴見中尉に同行し、海へとやって来た。この辺り一帯はニシン漁が盛んらしく、それのみで成り上がった者もいる。市街地の警備強化のための資金繰りをする目的を基にここへと来たと鶴見中尉は言う。だがそうではないことはわかっているし、本人も気づかれていると分かっているだろう。
尾形百之助から遠く離れた地に私がいる安心感からか油断からかは分からないが、鶴見中尉から離れての行動を許可されていた。監視の目もあったが、少しの間目を盗む程度容易であった。今回の目的は、鶴見中尉を注視するだけではない。前からずっと頼んでいた刺青の囚人のリスト、それから切れかけている男性ホルモンその他殺傷力のある器具諸々を大佐の使者から受け取り中間報告をすることも含まれていた。
私が第七師団から行方を眩ました後、大佐には偽りの報告をする。自身でもそのような行動に躍り出るなど驚いているが、既に尾形上等兵と同盟を結んでしまった。何より大佐の御命を救いたいという欲のほうが勝ってしまっていた。
誰の目もないことを確認しつつ、浜辺の岩場を覗く。そこには一人の男がいた。身長の高い、痩せ気味に見える男は無言で帝国陸軍第一師団のバッジを見せると手紙と共に液体に入った小瓶、爆薬、薬品、それから拳銃を渡してきた。私も同様に無言のままそれらと引き換えに今までの中間報告をした。内容は一部改変してある。鶴見中尉が黒であることは書いたが、証拠が足りないのでこのまま調査を続ける。もしくは鶴見中尉の隊から離れ、単独で調査を続けると。男はそれを受け取り一礼した後、素早くその場を後にした。私はその後隊が駐留している宿へと引き返す前に物品の確認をし、それらを海沿いにある木の下に埋めた。滞在中荷物に紛らせておくのは少々リスキーだ。発つ日にまた掘り返しに来よう。
宿に帰り、あてがわれた自室へと向かう。今回の遠征では大して人を連れては来なかったせいか、大分動きやすい。しかし、少々腑に落ちないこともある。鶴見中尉に常についている月島軍曹が同行していないのは、引っかかる。やはり舎に残った者や、尾形上等兵を監視する為であるのか。それだけでないような気もするが……。思考に耽っているとノックがした。
「**くん、今いいかな」
鶴見中尉の声だ。このような時間帯に何が起こったというのか。一抹の不安が脳裏をよぎる。
「はい!ただいま参ります。」
私はすぐに立ち上がり、短刀を懐に扉を開けた。
「少し明日のことで話がある。今から私の部屋に来てもらえますかな?」
「ええ!ニシン場の親方様との交渉事でしょうか?僕に協力できることがあればなんなりと仰ってください。」
鶴見中尉の部屋は宿の二階奥、私のそれよりも一回り大きい部屋で調度品もしっかりとあった。部屋に入り、鶴見中尉の対角にある椅子に掛けることを促されると素直に従い、腰を下ろした。鶴見中尉が急須に入っていたお茶を二人分注ぐと私へと一つをやった。鶴見中尉が口にするのを確認してから私もそれに習った。
「いや、用をといっても大層なことではないのですが…。」
「鶴見中尉のお役に立てるのであれば、僕も本望です。いかがされましたか?」
鶴見中尉は顎髭を触りつつ、相談事ですが、と続ける。
「お恥ずかしながら我が隊に、この前の一件、捕虜を取り逃したことですが、それに加担した裏切り者がいるようで。」
平然を装い、聞き返す。
「ですが、あれは、言い方が悪くなってしまいますが、二階堂兄弟の独断で招いた結果では…?」
「誰かが、奴の拘束を解いたのですよ。」
「馬鹿な…。一体だれが……?」
……気づかれている。確実に。鶴見中尉の黒い双眼が私をまとわりつくようにしてこちらを見ては離さない。
「まあ、それは良いのです。犯人捜しはまた後だ。…ところで補佐官殿。先ほどまでお見掛けしなかったがどちらへ?」
「晩までは時間があると聞いていたので、海を見に行っていました。内地では海は珍しいので……。それが、どうか致しましたか?」
「いやこのようなところ、特にすることもなく内地に比べれば退屈かと思いましてね。」
「そのようなこと、は……。」
途端に目がかすみ、視界がはっきりとしなくなってきた。鶴見中尉が椅子に背を預け、膝に組んだ両手を預けながら続ける。
「そうでしたか、まあそうでしょうな。お前の大事な人間と文通が出来るものなあ。ですが、やはりなかなかの暗号技術だ。この私でも一部しか解読できなかった。」
「!」
机上に出されたのは、血濡れた一枚の紙。それは私が先ほど第一師団の男に中間報告として手渡した手紙だった。
「あなた、同士に手を出したのですか。」
どんどんと輪郭を手放していく視界をこらえ、鶴見中尉を睨みつける。目の前の男はにやりと嫌な笑みを崩さず、口を開いた。
「同士、何がだ。私の同士は今も満州の冷たい土の下だ。決して本部でぬくぬくと安穏に過ごしている腑抜け共のことではない。」
「っ!許されない、行為だ!きさまっ、、くっ、」
椅子から転げおち、上か下かも認識出来なくなってきた。完全に一服盛られたようである。口から涎が垂れていることも構わず、鶴見中尉の足を掴んだ。
「私が先に茶を口にするのを確認してから飲んだのは、いい判断だったが、陶器にも警戒することだ。**くん。」
「……、私が、死んでも……代わりは、いる……。」
見下した鶴見中尉の眼に射られながら、意識は途絶えた。ただその瞬間も思い浮かぶのは大佐の御姿と、ちらと尾形上等兵の顔が頭をよぎった。
尾形百之助から遠く離れた地に私がいる安心感からか油断からかは分からないが、鶴見中尉から離れての行動を許可されていた。監視の目もあったが、少しの間目を盗む程度容易であった。今回の目的は、鶴見中尉を注視するだけではない。前からずっと頼んでいた刺青の囚人のリスト、それから切れかけている男性ホルモンその他殺傷力のある器具諸々を大佐の使者から受け取り中間報告をすることも含まれていた。
私が第七師団から行方を眩ました後、大佐には偽りの報告をする。自身でもそのような行動に躍り出るなど驚いているが、既に尾形上等兵と同盟を結んでしまった。何より大佐の御命を救いたいという欲のほうが勝ってしまっていた。
誰の目もないことを確認しつつ、浜辺の岩場を覗く。そこには一人の男がいた。身長の高い、痩せ気味に見える男は無言で帝国陸軍第一師団のバッジを見せると手紙と共に液体に入った小瓶、爆薬、薬品、それから拳銃を渡してきた。私も同様に無言のままそれらと引き換えに今までの中間報告をした。内容は一部改変してある。鶴見中尉が黒であることは書いたが、証拠が足りないのでこのまま調査を続ける。もしくは鶴見中尉の隊から離れ、単独で調査を続けると。男はそれを受け取り一礼した後、素早くその場を後にした。私はその後隊が駐留している宿へと引き返す前に物品の確認をし、それらを海沿いにある木の下に埋めた。滞在中荷物に紛らせておくのは少々リスキーだ。発つ日にまた掘り返しに来よう。
宿に帰り、あてがわれた自室へと向かう。今回の遠征では大して人を連れては来なかったせいか、大分動きやすい。しかし、少々腑に落ちないこともある。鶴見中尉に常についている月島軍曹が同行していないのは、引っかかる。やはり舎に残った者や、尾形上等兵を監視する為であるのか。それだけでないような気もするが……。思考に耽っているとノックがした。
「**くん、今いいかな」
鶴見中尉の声だ。このような時間帯に何が起こったというのか。一抹の不安が脳裏をよぎる。
「はい!ただいま参ります。」
私はすぐに立ち上がり、短刀を懐に扉を開けた。
「少し明日のことで話がある。今から私の部屋に来てもらえますかな?」
「ええ!ニシン場の親方様との交渉事でしょうか?僕に協力できることがあればなんなりと仰ってください。」
鶴見中尉の部屋は宿の二階奥、私のそれよりも一回り大きい部屋で調度品もしっかりとあった。部屋に入り、鶴見中尉の対角にある椅子に掛けることを促されると素直に従い、腰を下ろした。鶴見中尉が急須に入っていたお茶を二人分注ぐと私へと一つをやった。鶴見中尉が口にするのを確認してから私もそれに習った。
「いや、用をといっても大層なことではないのですが…。」
「鶴見中尉のお役に立てるのであれば、僕も本望です。いかがされましたか?」
鶴見中尉は顎髭を触りつつ、相談事ですが、と続ける。
「お恥ずかしながら我が隊に、この前の一件、捕虜を取り逃したことですが、それに加担した裏切り者がいるようで。」
平然を装い、聞き返す。
「ですが、あれは、言い方が悪くなってしまいますが、二階堂兄弟の独断で招いた結果では…?」
「誰かが、奴の拘束を解いたのですよ。」
「馬鹿な…。一体だれが……?」
……気づかれている。確実に。鶴見中尉の黒い双眼が私をまとわりつくようにしてこちらを見ては離さない。
「まあ、それは良いのです。犯人捜しはまた後だ。…ところで補佐官殿。先ほどまでお見掛けしなかったがどちらへ?」
「晩までは時間があると聞いていたので、海を見に行っていました。内地では海は珍しいので……。それが、どうか致しましたか?」
「いやこのようなところ、特にすることもなく内地に比べれば退屈かと思いましてね。」
「そのようなこと、は……。」
途端に目がかすみ、視界がはっきりとしなくなってきた。鶴見中尉が椅子に背を預け、膝に組んだ両手を預けながら続ける。
「そうでしたか、まあそうでしょうな。お前の大事な人間と文通が出来るものなあ。ですが、やはりなかなかの暗号技術だ。この私でも一部しか解読できなかった。」
「!」
机上に出されたのは、血濡れた一枚の紙。それは私が先ほど第一師団の男に中間報告として手渡した手紙だった。
「あなた、同士に手を出したのですか。」
どんどんと輪郭を手放していく視界をこらえ、鶴見中尉を睨みつける。目の前の男はにやりと嫌な笑みを崩さず、口を開いた。
「同士、何がだ。私の同士は今も満州の冷たい土の下だ。決して本部でぬくぬくと安穏に過ごしている腑抜け共のことではない。」
「っ!許されない、行為だ!きさまっ、、くっ、」
椅子から転げおち、上か下かも認識出来なくなってきた。完全に一服盛られたようである。口から涎が垂れていることも構わず、鶴見中尉の足を掴んだ。
「私が先に茶を口にするのを確認してから飲んだのは、いい判断だったが、陶器にも警戒することだ。**くん。」
「……、私が、死んでも……代わりは、いる……。」
見下した鶴見中尉の眼に射られながら、意識は途絶えた。ただその瞬間も思い浮かぶのは大佐の御姿と、ちらと尾形上等兵の顔が頭をよぎった。