君が為
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今日は重要な情報を掴んだ。相変わらず蝦夷は寒さ厳しい日々が続くが、隊員は今日も務めに精を出しているようだ。斯くいう私も、自身の任務、もとい尾形上等兵と約束した谷垣一等卒の捜索を断行している。第七師団の皆には、もう希はないと諦めろと言われたが、もし谷垣源次郎が生き残っていた場合こちらの分が悪いのは確かだ。僅かな可能性でも捨て置けない。そう、その僅かな可能性に関しての情報を掴んだのだ。近頃、アイヌの集落で谷垣一等卒に似た背格好の男を見たという証言が得られたのだ。それが見間違いにせよ何にせよ、確認をする他ない。
今日は非番であった為、私服で舎を出て途中で行商人の服に着替えた。アイヌの集落に近づいた際に怪しまれないためだ。旅をしている行商人であれば山の中を歩いていてもなんらおかしいことはない。確か、谷垣一等卒に似た男は、南東の方に位置するアイヌ民族の居住区で見られたそうだ。こちらも顔を知られている以上、気取られるわけにはいかない。襟巻をし頭の笠を深めに被り出発した。
白銀に染まる山の中をもうずいぶんと歩いた。迷わないように木に印をつけていってはいるが、流石に雪山慣れしていない私一人で山中に入るのは無謀だったかと思う。帰る分にはいいのだが、肝心のアイヌの集落が見当たらない。暗くなり始める前に街に戻ろうかと後ろを振り返る。いや、だがもし未だ谷垣源次郎が生き残っていて、造反の事実を知っているのであれば、それは大変な脅威となり得る。ここで如何様に行動するかが今後に大きく関わってくるだろう。
少し疲労が見え始めて来ていたので、近場の倒木の雪を払い、そこに腰掛ける。さて、どうしたものか。水分補給をしながら、ボウッと考える。これは、引き返したほうがいいかもしれない。過酷な寒さに加え疲労が蓄積されたため頭がよく回らない。もう引き返そう、そう後ろを振り向いた時だった。すぐ近く──ではないが人の足音がする。雪を踏みしめる音だ。もしやと辺りを見回し、音のする方向へと歩を進める。
そこには、大きな魚を担いだアイヌの服装をした男たちがいた。男たち、といっても三人程度でこちらを一瞥した後そのまま何事もなかったかのように進んでいってしまう。
「あのッ!あなた方はアイヌの方でしょうか?」
やっと手掛かりを掴んだ安堵感から思わず話しかけてしまった。計画ではあちらに気づかれないように生存確認だけしようと思っていたのだが……。まあいい。その他にもいくらでもやりようはある。怪訝そうな顔をするアイヌらしき人達に続けて言う。
「僕、今人探しをしているのです。このような人間なのですが……。」
私の言葉が通じているか不安になり、とりあえず持って来ていた谷垣一等卒の写真を見せた。その写真を見るや否や男たちの表情は変わりパァッと明るくなった。
「ああ!今ウチの集落にいるぜ!あんたあの谷垣ニシパの知り合いかい!?」
ビンゴだ!生き残っていたのか。となればずっと身を隠している訳は、尾形さんが言っていた通り、他の造反者に見つかるのを防ぎ、機を狙い鶴見中尉に報告するため……?その線であれば私が会っても問題はないだろう。私には金塊のことや国への叛逆がまだバレていないと思っている。であれば今私に会えば、私づてで鶴見中尉に居場所を報告できる。思考に気を巡らせていた時、アイヌ人の男性から
「知り合いなら案内しよう。今谷垣の旦那は怪我で動けなくてな。知り合いが来たとありゃ喜ぶだろうよ。」
怪我で動けないのか。ならば今の今までなんの音沙汰もなかった理由も分かる。それは玉井伍長達と応戦したせいで出来た怪我なのであろうか。
「あの、怪我とは彼は一体どうしたのですか?」
「ああ、俺らの鹿垣 ──ま、言うなりゃ動物用の罠にかかっちまって、大怪我しちまったんだ。」
では、応戦によって出来た傷ではないのか。動物用の罠に嵌るなどなんともおかしな話に聞こえるが……、いや、黙っておこう。そう話している内にあっという間に集落に到着してしまった。村に入ると、物珍しさからか村の子供たちに囲まれてしまった。
「大和のおにーさん!なんでここに来たの!?名前は!」
「ははっそんなカッコでこの雪山ン中歩いて来たの!?」
「…………あの、お名前教えてほしいの。あとあの、後でうちのチセに来て。」
「僕は****。皆ごめんね、少し急いでて……。ごめんね、この村にちょっとだけ入らせてもらうね。」
子供たちの好奇心に満ちた目から逃れ、谷垣一等卒がいるというアイヌの住居にやって来た。中を覗くと確かにそこには横たわっている谷垣源次郎の姿があった。
「谷垣さんっ!ご無事だったのですねっ!ああ、良かった本当に。」
「~~~、~~。」
アイヌ語を話す老婆に手を引かれた。優しい澄んだ印象を受ける。この人物が介護に当たっていたのか。私は老婦人の両手を取った。
「申し訳ございませんご婦人。僕はアイヌの言葉を解すことは出来ないのです。ですが、貴方様が谷垣源次郎の命を救い、看病してくださっていたのですね。本当にありがとうございます。」
両手を強く握り、感謝の意を表す。これで通じているといいのだが。私は谷垣一等卒に向き直った。
「**さん、どうしてここが……。」
上体を起こしつつこちらを見て彼は言った。驚き、といった表情だな。少しカマをかけてみるか。
「ずっと、探していたのです。玉井伍長達、谷垣さんが行方知れずになってから、街の旅人を中心に聞きまわっていて、やっと谷垣さんによく似た人物がいるとの情報を掴み……っ。そういえば、玉井伍長達は……?何があったのですか?」
涙を溜めた目で問う。すると驚いたような表情で玉井伍長たちが行方不明になったのか、知らなかった、と言う。これは……どういうことだ?谷垣源次郎と野間さん達が揉み合いの末、谷垣源次郎が彼らを手にかけたのではないのか?いや、白を切っているのかもしれない。だが、引っかかる。谷垣一等卒はどうにも人を騙すことに長けているように思えない。なのに一瞬にしてのあの驚きの顔……。演じれるものなのか?もやもやとしているもそのまま居られる訳もない。見たところもうすぐ立って行動ができそうなくらいにまで谷垣は回復している。早く尾形さんに報告しなければなるまい。
「谷垣さん、玉井伍長達は見つかってはいないのです。ですが、本当に良かった、谷垣さんがこうしていてくれたことだけでも。鶴見中尉や皆には僕から、言っておきましょう。まだ歩けないのでしょう?」
「**さん、そんなに俺のことを探していてくださったとは…っ。……申し訳ないのですが、俺がここにいることは少しの間、内緒にしておいてはくれませんか?」
「……何故です?」
やはり造反者からの追撃を恐れているのか。
「ここの、アイヌの人達に世話になったので、少しでも恩返しがしたいのです。許してはいただけませんか。」
「…………承知致しました。そういったことでしたら、誰にも言いません。あともう少し、こちらでゆるりとなさって下さい。僕は谷垣さんが息災だと分かっただけでも満足です。」
それを聞くと彼は安堵の表情を受かべて、ありがとうございます、と一言。では、もう行かねば日が落ちるので、と老婦人にも挨拶を済ませその場を後にする。帰り道にも子供がいて囲まれたが、先程の男性が助けてくれた。帰る分には心配はいらないので村の出口までの見送りに一礼をしすぐにその場を後にした。
「谷垣源次郎は市街地より南南東に位置するアイヌの集落にいました。現在足を患っているようです。鶴見中尉への報告は止められました。」
「やっぱり生きてやがったか……。よく見つけましたな補佐官殿。さすがは中央直属の犬と言ったところでしょうか。」
「僕のことはどうでもいいのです。それより、この後の対処はどうしますか。」
ベッドに横になった彼──尾形上等兵は長くなった髪を撫で付けつつため息をついた。
「始末する以外の選択肢はない。知られたとあれば、その道しかないだろう。幸い俺は全快しているが、周りはまだ完治しちゃいないと思っている。奴はしばらくそのアイヌの集落にいるんだろう?鶴見中尉に直接会う前に片す。鶴見中尉は確か明後日、資金繰りにニシン場の御殿に行くだろう。」
「ええ。そうです。」
「その時にここを抜け出して奴を殺る。理想は誰にも気づかれず完遂することだが、……気づかれた場合隊には戻らない。しばらくな。お前も付いて来い。」
じっと黒い闇が私を見つめる。だが私は首を縦には振らなかった。
「いえ、行きません。二つほど私が同行しない方がいい理由があります。」
「ほう。」
尾形さんが真顔でこちらを見る。
「一つ目、ニシン場へは僕も同行する予定です。残念ながら、僕と尾形さんは目を付けられています。敢えて違う方面へとそれた方が良いでしょう。二つ目は、僕はまだ雪山に慣れていません。悔しいですが、足手纏いになる可能性の方が高いです。」
「そうか、自分が足手纏いになると。補佐官殿は自身の力量をよく分かってらっしゃる。そうだな。その案を飲もう。じゃあ、その後は深川で落ち合おう。」
「バレる前提ですか?」
「そう考えていた方が、上手くいく。万が一をな。」
だが私の任務はこの第七師団、鶴見中尉を見張ること。それでは意味がない。私は難色を示す。
「僕には利点が、ない。それでは……。」
「金塊が、欲しくはないのか?」
「欲しくはありません。僕は大佐の命に従うのみです。」
「ほう。その大佐とやらもアイヌの金塊があれば、助かるだろうに。なのになあ。」
にやりと下卑た笑みを浮かべた。私は、一瞬息が止まる。何故、何故それを知っている……!?
「俺は情報将校、鶴見中尉の下にいたんだ。それなりのことは聞いちゃいる。あんたのとこの大佐殿は体を患ってんだろ。それにゃかなりの金が要るそうだな。」
「…………。」
「手を組まないか、本当の手を。助けたいんだろ。なあ、大佐補佐官殿 ?」
この問いに、私は、私は──
今日は非番であった為、私服で舎を出て途中で行商人の服に着替えた。アイヌの集落に近づいた際に怪しまれないためだ。旅をしている行商人であれば山の中を歩いていてもなんらおかしいことはない。確か、谷垣一等卒に似た男は、南東の方に位置するアイヌ民族の居住区で見られたそうだ。こちらも顔を知られている以上、気取られるわけにはいかない。襟巻をし頭の笠を深めに被り出発した。
白銀に染まる山の中をもうずいぶんと歩いた。迷わないように木に印をつけていってはいるが、流石に雪山慣れしていない私一人で山中に入るのは無謀だったかと思う。帰る分にはいいのだが、肝心のアイヌの集落が見当たらない。暗くなり始める前に街に戻ろうかと後ろを振り返る。いや、だがもし未だ谷垣源次郎が生き残っていて、造反の事実を知っているのであれば、それは大変な脅威となり得る。ここで如何様に行動するかが今後に大きく関わってくるだろう。
少し疲労が見え始めて来ていたので、近場の倒木の雪を払い、そこに腰掛ける。さて、どうしたものか。水分補給をしながら、ボウッと考える。これは、引き返したほうがいいかもしれない。過酷な寒さに加え疲労が蓄積されたため頭がよく回らない。もう引き返そう、そう後ろを振り向いた時だった。すぐ近く──ではないが人の足音がする。雪を踏みしめる音だ。もしやと辺りを見回し、音のする方向へと歩を進める。
そこには、大きな魚を担いだアイヌの服装をした男たちがいた。男たち、といっても三人程度でこちらを一瞥した後そのまま何事もなかったかのように進んでいってしまう。
「あのッ!あなた方はアイヌの方でしょうか?」
やっと手掛かりを掴んだ安堵感から思わず話しかけてしまった。計画ではあちらに気づかれないように生存確認だけしようと思っていたのだが……。まあいい。その他にもいくらでもやりようはある。怪訝そうな顔をするアイヌらしき人達に続けて言う。
「僕、今人探しをしているのです。このような人間なのですが……。」
私の言葉が通じているか不安になり、とりあえず持って来ていた谷垣一等卒の写真を見せた。その写真を見るや否や男たちの表情は変わりパァッと明るくなった。
「ああ!今ウチの集落にいるぜ!あんたあの谷垣ニシパの知り合いかい!?」
ビンゴだ!生き残っていたのか。となればずっと身を隠している訳は、尾形さんが言っていた通り、他の造反者に見つかるのを防ぎ、機を狙い鶴見中尉に報告するため……?その線であれば私が会っても問題はないだろう。私には金塊のことや国への叛逆がまだバレていないと思っている。であれば今私に会えば、私づてで鶴見中尉に居場所を報告できる。思考に気を巡らせていた時、アイヌ人の男性から
「知り合いなら案内しよう。今谷垣の旦那は怪我で動けなくてな。知り合いが来たとありゃ喜ぶだろうよ。」
怪我で動けないのか。ならば今の今までなんの音沙汰もなかった理由も分かる。それは玉井伍長達と応戦したせいで出来た怪我なのであろうか。
「あの、怪我とは彼は一体どうしたのですか?」
「ああ、俺らの
では、応戦によって出来た傷ではないのか。動物用の罠に嵌るなどなんともおかしな話に聞こえるが……、いや、黙っておこう。そう話している内にあっという間に集落に到着してしまった。村に入ると、物珍しさからか村の子供たちに囲まれてしまった。
「大和のおにーさん!なんでここに来たの!?名前は!」
「ははっそんなカッコでこの雪山ン中歩いて来たの!?」
「…………あの、お名前教えてほしいの。あとあの、後でうちのチセに来て。」
「僕は****。皆ごめんね、少し急いでて……。ごめんね、この村にちょっとだけ入らせてもらうね。」
子供たちの好奇心に満ちた目から逃れ、谷垣一等卒がいるというアイヌの住居にやって来た。中を覗くと確かにそこには横たわっている谷垣源次郎の姿があった。
「谷垣さんっ!ご無事だったのですねっ!ああ、良かった本当に。」
「~~~、~~。」
アイヌ語を話す老婆に手を引かれた。優しい澄んだ印象を受ける。この人物が介護に当たっていたのか。私は老婦人の両手を取った。
「申し訳ございませんご婦人。僕はアイヌの言葉を解すことは出来ないのです。ですが、貴方様が谷垣源次郎の命を救い、看病してくださっていたのですね。本当にありがとうございます。」
両手を強く握り、感謝の意を表す。これで通じているといいのだが。私は谷垣一等卒に向き直った。
「**さん、どうしてここが……。」
上体を起こしつつこちらを見て彼は言った。驚き、といった表情だな。少しカマをかけてみるか。
「ずっと、探していたのです。玉井伍長達、谷垣さんが行方知れずになってから、街の旅人を中心に聞きまわっていて、やっと谷垣さんによく似た人物がいるとの情報を掴み……っ。そういえば、玉井伍長達は……?何があったのですか?」
涙を溜めた目で問う。すると驚いたような表情で玉井伍長たちが行方不明になったのか、知らなかった、と言う。これは……どういうことだ?谷垣源次郎と野間さん達が揉み合いの末、谷垣源次郎が彼らを手にかけたのではないのか?いや、白を切っているのかもしれない。だが、引っかかる。谷垣一等卒はどうにも人を騙すことに長けているように思えない。なのに一瞬にしてのあの驚きの顔……。演じれるものなのか?もやもやとしているもそのまま居られる訳もない。見たところもうすぐ立って行動ができそうなくらいにまで谷垣は回復している。早く尾形さんに報告しなければなるまい。
「谷垣さん、玉井伍長達は見つかってはいないのです。ですが、本当に良かった、谷垣さんがこうしていてくれたことだけでも。鶴見中尉や皆には僕から、言っておきましょう。まだ歩けないのでしょう?」
「**さん、そんなに俺のことを探していてくださったとは…っ。……申し訳ないのですが、俺がここにいることは少しの間、内緒にしておいてはくれませんか?」
「……何故です?」
やはり造反者からの追撃を恐れているのか。
「ここの、アイヌの人達に世話になったので、少しでも恩返しがしたいのです。許してはいただけませんか。」
「…………承知致しました。そういったことでしたら、誰にも言いません。あともう少し、こちらでゆるりとなさって下さい。僕は谷垣さんが息災だと分かっただけでも満足です。」
それを聞くと彼は安堵の表情を受かべて、ありがとうございます、と一言。では、もう行かねば日が落ちるので、と老婦人にも挨拶を済ませその場を後にする。帰り道にも子供がいて囲まれたが、先程の男性が助けてくれた。帰る分には心配はいらないので村の出口までの見送りに一礼をしすぐにその場を後にした。
「谷垣源次郎は市街地より南南東に位置するアイヌの集落にいました。現在足を患っているようです。鶴見中尉への報告は止められました。」
「やっぱり生きてやがったか……。よく見つけましたな補佐官殿。さすがは中央直属の犬と言ったところでしょうか。」
「僕のことはどうでもいいのです。それより、この後の対処はどうしますか。」
ベッドに横になった彼──尾形上等兵は長くなった髪を撫で付けつつため息をついた。
「始末する以外の選択肢はない。知られたとあれば、その道しかないだろう。幸い俺は全快しているが、周りはまだ完治しちゃいないと思っている。奴はしばらくそのアイヌの集落にいるんだろう?鶴見中尉に直接会う前に片す。鶴見中尉は確か明後日、資金繰りにニシン場の御殿に行くだろう。」
「ええ。そうです。」
「その時にここを抜け出して奴を殺る。理想は誰にも気づかれず完遂することだが、……気づかれた場合隊には戻らない。しばらくな。お前も付いて来い。」
じっと黒い闇が私を見つめる。だが私は首を縦には振らなかった。
「いえ、行きません。二つほど私が同行しない方がいい理由があります。」
「ほう。」
尾形さんが真顔でこちらを見る。
「一つ目、ニシン場へは僕も同行する予定です。残念ながら、僕と尾形さんは目を付けられています。敢えて違う方面へとそれた方が良いでしょう。二つ目は、僕はまだ雪山に慣れていません。悔しいですが、足手纏いになる可能性の方が高いです。」
「そうか、自分が足手纏いになると。補佐官殿は自身の力量をよく分かってらっしゃる。そうだな。その案を飲もう。じゃあ、その後は深川で落ち合おう。」
「バレる前提ですか?」
「そう考えていた方が、上手くいく。万が一をな。」
だが私の任務はこの第七師団、鶴見中尉を見張ること。それでは意味がない。私は難色を示す。
「僕には利点が、ない。それでは……。」
「金塊が、欲しくはないのか?」
「欲しくはありません。僕は大佐の命に従うのみです。」
「ほう。その大佐とやらもアイヌの金塊があれば、助かるだろうに。なのになあ。」
にやりと下卑た笑みを浮かべた。私は、一瞬息が止まる。何故、何故それを知っている……!?
「俺は情報将校、鶴見中尉の下にいたんだ。それなりのことは聞いちゃいる。あんたのとこの大佐殿は体を患ってんだろ。それにゃかなりの金が要るそうだな。」
「…………。」
「手を組まないか、本当の手を。助けたいんだろ。なあ、
この問いに、私は、私は──