君が為
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自室の屋根裏から不審者が拘束されているという部屋の真上まで来た。この時ばかりは自身の体躯に感謝すべきか。馬力は出ないが、他の兵よりは小回りが利く。屋根裏から中を確認する。誰か、男が椅子に縛り付けられたままでいるようだ。だが部屋の中は薄暗くよくは見えない。
「……。」
誰か入って来た。二階堂兄弟か。私は彼らを注視した。そして、部屋に入るや否や信じたくない言葉を耳にする。
「こいつがあの『不死身の杉元』だなんてよぉ…。本当に人違いじゃねぇのか?なあ洋平」
「!」
やはり、やはりそうだったのか……!不死身の杉元っ!北海道に行ったとは風の噂に聞いたが、よもやこんなところに……!我が第一師団では彼の話をする者は少なくなったが、大佐は今でも彼のことを尊敬していると仰っていた。日露戦争には私は参加しなかった為、彼の姿を拝見することはなかったが、今この場にいるのか。大佐は一度彼に命を救われたと言う。私にとっても敬服すべき人なのだ。
だが、いったい何故彼は蝦夷などに?彼の故郷は蝦夷ではないはず。私怨か?それとも……、金塊……?鶴見中尉がわざわざ拘束をし尋問をしそれでも口を割らず、ここにこうしているのだ。重大な何かしらを抱えて──
「ありかを吐くまで指を落とし続けりゃいい」
ありか──刺青人皮か!不死身の杉本佐一は金塊に関わっていたのか。余程の事情か。それはいいが、今、どうする……!恩人の指を切り落とされるわけにはいかない。
そして腰の短刀に手を掛けた時、一瞬だった。不死身の杉元は、椅子に縛られたまま二人の屈強な兵をのした。そのあまりの光景に私は何も出来ず、ただ見とれることしか出来なかった。
「俺は不死身の杉元だ!!」
……!見惚れている場合ではない!私はすぐさま引き返し、隣部屋の兵達の元へと急いだ。
「すみません。何だか不審人物を保護している部屋が騒がしいようですが。」
「何!?すぐに向かいます。**さんは部屋で休んでいてください!」
「はい……、」
あくまでも冷静に、焦りを悟られてはならない。早く行け、早く行ってあの兄弟を止めてくれ。今はまだ私の動くべき時ではない。機を伺うのだ。焦ってはならない。私は自身の胸をそっと抑える。これからは全てタイミングが肝要だと言い聞かせて。
少し経ったあと二階堂兄弟は部屋で謹慎となった。あの様子から見るとそう大人しくはしていないだろう。あの兄弟がまた杉元佐一の元に来る前にケリをつけなければ。私は屋根裏から彼が拘束されている部屋へと侵入した。
「誰だ……?」
「……察しが良いお方で、小声での問いかけ助かります。時間がありませんので手短に。僕は貴方の味方です。まず、貴方の拘束を解き、そしてすぐその後、外でボヤ騒ぎを起こしに行きます。そのボヤ騒ぎの内にここから脱出してください。幸いここに鍵は掛かっておりません。」
「あんたを信じられる保証がない。」
「外でのボヤ騒ぎは聞き届けられるでしょう。何よりここで貴方の拘束を解きます。」
「あんたは一体……?」
それ以上私は何も言わず彼の拘束を解き、また屋根裏へと戻った。そして外でボヤ騒ぎを起こし、兵達の注意を引き付けた。
ボヤを起こした後、もう一度彼がいる部屋へと向かった。しかし、彼は逃げだしておらず、腸をはみ出させそこに居座ったままだった。
「なっ!これは、どういうことですか!鶴見中尉殿!」
「話は後だ。怪我人を医者のところへ見せに行く。馬車を用意しろ!」
「おれは……、不死身の、スギモトだ……。」
傍らには二階堂兄弟の片割れの骸が転がっている。一体、どういうことだ。ハンデを負っていない彼であれば、ただの兵士一人制圧するのは簡単なことだろう。なのになぜそのような事態になってしまったのか。
「僕も同行します!」
「不許可だ。第一師団参謀長大佐補佐、お前はあくまでも第一師団の人間だ。ここでの待機せよ。」
「……承知致しました。」
何もできない自分が悔しい。何故こんな結果を招いた?二階堂兄弟にもっと注意を払っておくべきだったのだ。こんな失敗、大佐にどう顔向けすればいいのか。私が一人後悔していると、突然鶴見中尉が二階堂洋平の服を脱がせた。
「腸を盗みおった」
「!!」
では、杉元佐一は生きているのか!迂闊だった……!動揺して杉元佐一の顔色を見落としていた……!確かに息は荒かったものの今わの際の人間の顔色よりかは血色があった。その場の出来事にだけ目や思考を奪われるとは。
鶴見中尉は馬の用意ができるとすぐさま飛び出していった。鶴見中尉の馬には悪いが神経系の毒を予め水に含ませておいた。いつものようには走らないだろう。そう考えていたらいつの間にか本当に兵舎に火の手が上がっていた。ボヤはすぐに消し止められたはず、ではこの火は……?杉元佐一を逃す為に放たれた火か?ならばまだここに仲間がいるはず……!
どこだ?どこに行った?わざわざ火を放った理由は増援を阻むためだけではないはず!ならば目的は?…………鶴見中尉の刺青人皮!!
すぐさま鶴見中尉の部屋へと向かう。そこには見慣れない顔をした男がそこかしこをひっくり返すように漁っていた。
「…!ああ、鶴見中尉の刺青人皮を持ち出さなければいけない!何処にあったか。ここは危険だ!場所を教えてくれれば私が救出する!」
おかしい。この顔の人間は事前情報の中にはなかった。加えて額のなかの刺青人皮も知らない。……実際額の中の人皮はもうないか。誰かが既に持ち出したか。もしくは鶴見中尉が所持をしているか。それならば話は早い。
「ここに刺青人皮はありません。貴方は杉元佐一の仲間ですか?」
「……!何を言っているのか……。」
相手は明らかな動揺を示す。黒だ。
「僕は第七師団の人間ではありません。恐らく刺青人皮は鶴見中尉の手元でしょう。ここには何もありません。既に火の追手が来ています…。裏口から逃げてください。」
「あ、あぁ。」
「あ、あとこの軍帽を被って行ってください。その方が良いでしょう。……杉元佐一さんをよろしくお願いします…。」
男を見送ったあと、私も素早く自室へと向かい自身の荷物を取る。そしてすぐさま引き返そうとするが、階段はもう火の海であった。
(男性ホルモンなど捨て置けば良かったか……?)
だが中には大佐から頂戴した大事なものもある。おいそれと消し炭にはできない。私は窓を見つめ、そこからの脱出を図ることにした。
外を見ると多くの兵士と野次馬が集まっている。遠くに鶴見中尉、それからあの軍帽を被った男もいる。ちらりとこちらを見たような気がした。そして下を見る。死ぬ高さではないが、無傷でいられるような高さでもない。だがここにいれば百パーセントの死だ。飛び降りるしかあるまい。だがどうしても飛び降りることだけは、気が引けてしまうのだが……。
窓の縁に手を掛け、私は意を決して二階から飛び降りた
不甲斐なく途中目を閉じてしまったのだが、私はいつまでも地面と接触することはなかった。私を下でキャッチしてくれた人物がいたのだ。
「つ、月島さん……!」
「無事かっ!?**くん」
そのまますぐに私を地面へと降ろす。並みの兵士よりは体格が劣るにしろ私はそれなりの体重であるし、月島軍曹とそう背丈も変わらない。なのにこの人はいとも簡単に地上二階からの重さ数十キロの人の塊を受け止めたのか……。今日何度目かの身震いをする。
「いかん、煙を吸いすぎたか?」
「いえ、いえ、僕は大丈夫です。月島軍曹がしっかりと受け止めてくださったおかげで。」
「んむぅ、そう、か。だがいつもより顔色がおかしい。安静にしたほうがいいな。」
手を引かれる。鶴見中尉や月島さんがここにこのままいるということは、不死身のあの人は上手く逃げ出せたようだ。本当に良かった。
「あー、、、喉の痛みはあります?」
敬語に戻ってしまった月島さんが少しばつが悪そうに問う。いけない、また改めてしっかりとお礼を言わなければ。
「本当に大丈夫です。月島さんが受け止めてくれなければ、僕は全治何か月かの重傷を負うところでした。ありがとうございます。」
「いえ、ならばいいのですが。やっぱりボーっとしているようでしたので。」
「それは……、それは受け止めてくださった月島さんの腕が余りにも…、力強く、少し月島さんに見惚れてしまっていたからです。」
ちらと月島さんの方を見る。眉間に深い皺が入る。やってしまった。私のこの”強い軍人”フェチ気味なところは抑え込まなければ。気色の悪いことを言い、避けられるのは良くない。
「僕も月島さんのようになりたいなーと、見ちゃってました!すみません。」
「あぁ、いえ、俺になんかならないほうがいいですよ。」
そんなことありませんよと言い二人で鶴見中尉の元へ向かう。火はまだ消し止められていないが、隣の家からは距離を取って建築されている。燃え移る可能性は低いだろう。
明日からの作戦を頭の中に組み立てつつ、冷たい冬の空気で肺を満たした。
「……。」
誰か入って来た。二階堂兄弟か。私は彼らを注視した。そして、部屋に入るや否や信じたくない言葉を耳にする。
「こいつがあの『不死身の杉元』だなんてよぉ…。本当に人違いじゃねぇのか?なあ洋平」
「!」
やはり、やはりそうだったのか……!不死身の杉元っ!北海道に行ったとは風の噂に聞いたが、よもやこんなところに……!我が第一師団では彼の話をする者は少なくなったが、大佐は今でも彼のことを尊敬していると仰っていた。日露戦争には私は参加しなかった為、彼の姿を拝見することはなかったが、今この場にいるのか。大佐は一度彼に命を救われたと言う。私にとっても敬服すべき人なのだ。
だが、いったい何故彼は蝦夷などに?彼の故郷は蝦夷ではないはず。私怨か?それとも……、金塊……?鶴見中尉がわざわざ拘束をし尋問をしそれでも口を割らず、ここにこうしているのだ。重大な何かしらを抱えて──
「ありかを吐くまで指を落とし続けりゃいい」
ありか──刺青人皮か!不死身の杉本佐一は金塊に関わっていたのか。余程の事情か。それはいいが、今、どうする……!恩人の指を切り落とされるわけにはいかない。
そして腰の短刀に手を掛けた時、一瞬だった。不死身の杉元は、椅子に縛られたまま二人の屈強な兵をのした。そのあまりの光景に私は何も出来ず、ただ見とれることしか出来なかった。
「俺は不死身の杉元だ!!」
……!見惚れている場合ではない!私はすぐさま引き返し、隣部屋の兵達の元へと急いだ。
「すみません。何だか不審人物を保護している部屋が騒がしいようですが。」
「何!?すぐに向かいます。**さんは部屋で休んでいてください!」
「はい……、」
あくまでも冷静に、焦りを悟られてはならない。早く行け、早く行ってあの兄弟を止めてくれ。今はまだ私の動くべき時ではない。機を伺うのだ。焦ってはならない。私は自身の胸をそっと抑える。これからは全てタイミングが肝要だと言い聞かせて。
少し経ったあと二階堂兄弟は部屋で謹慎となった。あの様子から見るとそう大人しくはしていないだろう。あの兄弟がまた杉元佐一の元に来る前にケリをつけなければ。私は屋根裏から彼が拘束されている部屋へと侵入した。
「誰だ……?」
「……察しが良いお方で、小声での問いかけ助かります。時間がありませんので手短に。僕は貴方の味方です。まず、貴方の拘束を解き、そしてすぐその後、外でボヤ騒ぎを起こしに行きます。そのボヤ騒ぎの内にここから脱出してください。幸いここに鍵は掛かっておりません。」
「あんたを信じられる保証がない。」
「外でのボヤ騒ぎは聞き届けられるでしょう。何よりここで貴方の拘束を解きます。」
「あんたは一体……?」
それ以上私は何も言わず彼の拘束を解き、また屋根裏へと戻った。そして外でボヤ騒ぎを起こし、兵達の注意を引き付けた。
ボヤを起こした後、もう一度彼がいる部屋へと向かった。しかし、彼は逃げだしておらず、腸をはみ出させそこに居座ったままだった。
「なっ!これは、どういうことですか!鶴見中尉殿!」
「話は後だ。怪我人を医者のところへ見せに行く。馬車を用意しろ!」
「おれは……、不死身の、スギモトだ……。」
傍らには二階堂兄弟の片割れの骸が転がっている。一体、どういうことだ。ハンデを負っていない彼であれば、ただの兵士一人制圧するのは簡単なことだろう。なのになぜそのような事態になってしまったのか。
「僕も同行します!」
「不許可だ。第一師団参謀長大佐補佐、お前はあくまでも第一師団の人間だ。ここでの待機せよ。」
「……承知致しました。」
何もできない自分が悔しい。何故こんな結果を招いた?二階堂兄弟にもっと注意を払っておくべきだったのだ。こんな失敗、大佐にどう顔向けすればいいのか。私が一人後悔していると、突然鶴見中尉が二階堂洋平の服を脱がせた。
「腸を盗みおった」
「!!」
では、杉元佐一は生きているのか!迂闊だった……!動揺して杉元佐一の顔色を見落としていた……!確かに息は荒かったものの今わの際の人間の顔色よりかは血色があった。その場の出来事にだけ目や思考を奪われるとは。
鶴見中尉は馬の用意ができるとすぐさま飛び出していった。鶴見中尉の馬には悪いが神経系の毒を予め水に含ませておいた。いつものようには走らないだろう。そう考えていたらいつの間にか本当に兵舎に火の手が上がっていた。ボヤはすぐに消し止められたはず、ではこの火は……?杉元佐一を逃す為に放たれた火か?ならばまだここに仲間がいるはず……!
どこだ?どこに行った?わざわざ火を放った理由は増援を阻むためだけではないはず!ならば目的は?…………鶴見中尉の刺青人皮!!
すぐさま鶴見中尉の部屋へと向かう。そこには見慣れない顔をした男がそこかしこをひっくり返すように漁っていた。
「…!ああ、鶴見中尉の刺青人皮を持ち出さなければいけない!何処にあったか。ここは危険だ!場所を教えてくれれば私が救出する!」
おかしい。この顔の人間は事前情報の中にはなかった。加えて額のなかの刺青人皮も知らない。……実際額の中の人皮はもうないか。誰かが既に持ち出したか。もしくは鶴見中尉が所持をしているか。それならば話は早い。
「ここに刺青人皮はありません。貴方は杉元佐一の仲間ですか?」
「……!何を言っているのか……。」
相手は明らかな動揺を示す。黒だ。
「僕は第七師団の人間ではありません。恐らく刺青人皮は鶴見中尉の手元でしょう。ここには何もありません。既に火の追手が来ています…。裏口から逃げてください。」
「あ、あぁ。」
「あ、あとこの軍帽を被って行ってください。その方が良いでしょう。……杉元佐一さんをよろしくお願いします…。」
男を見送ったあと、私も素早く自室へと向かい自身の荷物を取る。そしてすぐさま引き返そうとするが、階段はもう火の海であった。
(男性ホルモンなど捨て置けば良かったか……?)
だが中には大佐から頂戴した大事なものもある。おいそれと消し炭にはできない。私は窓を見つめ、そこからの脱出を図ることにした。
外を見ると多くの兵士と野次馬が集まっている。遠くに鶴見中尉、それからあの軍帽を被った男もいる。ちらりとこちらを見たような気がした。そして下を見る。死ぬ高さではないが、無傷でいられるような高さでもない。だがここにいれば百パーセントの死だ。飛び降りるしかあるまい。だがどうしても飛び降りることだけは、気が引けてしまうのだが……。
窓の縁に手を掛け、私は意を決して二階から飛び降りた
不甲斐なく途中目を閉じてしまったのだが、私はいつまでも地面と接触することはなかった。私を下でキャッチしてくれた人物がいたのだ。
「つ、月島さん……!」
「無事かっ!?**くん」
そのまますぐに私を地面へと降ろす。並みの兵士よりは体格が劣るにしろ私はそれなりの体重であるし、月島軍曹とそう背丈も変わらない。なのにこの人はいとも簡単に地上二階からの重さ数十キロの人の塊を受け止めたのか……。今日何度目かの身震いをする。
「いかん、煙を吸いすぎたか?」
「いえ、いえ、僕は大丈夫です。月島軍曹がしっかりと受け止めてくださったおかげで。」
「んむぅ、そう、か。だがいつもより顔色がおかしい。安静にしたほうがいいな。」
手を引かれる。鶴見中尉や月島さんがここにこのままいるということは、不死身のあの人は上手く逃げ出せたようだ。本当に良かった。
「あー、、、喉の痛みはあります?」
敬語に戻ってしまった月島さんが少しばつが悪そうに問う。いけない、また改めてしっかりとお礼を言わなければ。
「本当に大丈夫です。月島さんが受け止めてくれなければ、僕は全治何か月かの重傷を負うところでした。ありがとうございます。」
「いえ、ならばいいのですが。やっぱりボーっとしているようでしたので。」
「それは……、それは受け止めてくださった月島さんの腕が余りにも…、力強く、少し月島さんに見惚れてしまっていたからです。」
ちらと月島さんの方を見る。眉間に深い皺が入る。やってしまった。私のこの”強い軍人”フェチ気味なところは抑え込まなければ。気色の悪いことを言い、避けられるのは良くない。
「僕も月島さんのようになりたいなーと、見ちゃってました!すみません。」
「あぁ、いえ、俺になんかならないほうがいいですよ。」
そんなことありませんよと言い二人で鶴見中尉の元へ向かう。火はまだ消し止められていないが、隣の家からは距離を取って建築されている。燃え移る可能性は低いだろう。
明日からの作戦を頭の中に組み立てつつ、冷たい冬の空気で肺を満たした。