君が為
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昨日の朝早くアイヌ親子の捜索に出た切り、四人は戻らなかった。現在鶴見中尉率いる第七師団の兵士らで四人が行方不明になった山で大規模な捜索に追われている。私はまだ雪山には不慣れということで兵舎での留守番だ。
留守番をしながら四人が行方不明になったと推測される事態を考えていた。
考えは三つ、事故か、何者かに襲われたか、造反か。まず一つ目、周りの者からの聴取によると四人とも山には不慣れではなかったという。私自身谷垣さんが雪山に慣れたマタギであるというのは知っている。なので一つ目の線は薄い。
二つ目、何者かに襲われたかだ。もしそうであるならば一般人とは考えづらいし例えあの不死身であろうと帝国陸軍兵士四人は厳しい。不死身に協力者がいるならば可能性は見えるが。
三つ目、私はこれを懸念している。尾形さんが何者かに襲われたことを理由に四人でこの隊を脱退したか、襲ったものを炙り出そうとし姿をくらましているのか。もしそうだとするならばこのタイミングでそういった行動は控えてほしかった。だがまだ確定した訳ではない。まだこちらには尾形さんがいる。もし四人で姿をくらましているならばどこかのタイミングで必ず会いに来るだろう。
「**殿!今から手の空いている兵士は再度市街地の確認に参ります。**殿は如何されますか?」
「僕はここに残れと鶴見中尉に申し付けられておりますので。四人の帰りを待つことにします。雲行きが怪しくなってきましたので雨雪にはお気をつけて」
「ありがとうございます。折角本部の方から来ていただいたのにこのような事態になってしまい申し訳ありません」
「いいえ。今は四人の安否が最優先ですし僕は来れて良かったと心から思っていますよ」
私がそうまだ年若い兵士に言うと彼は曇った顔を少し晴れやかにして礼をした
「我々の方も**殿とお会いすることができ良かったです。こういうと失礼かとは思いますが東京の者はいけ好かない者ばかりだと思っていましたので。**殿と生活を共にするうちに考えは変わりました!……**殿が、この先も我が隊にいてくれれば良いのに、と考えてしまします」
「……共に戦う同志ではないですか。所属する団は違うとも日本を守り、掲げる志は同じ。同じ軍であり、日本を信奉する限り僕らは仲間です。そうでしょう?」
にこやかに目の前の兵士に言った。彼は一瞬悲しみにまみれた表情をしてそうですね、と一言だけ言った後もう行かなければならないと足早に駆けていった。
鶴見中尉、貴方の隊の兵士にはもう少し教育が必要であったようだ。……日本国に謀反を謀るなどあってはならないことだ。貴方の目的が何にせよ祖国の恩情を忘れ利己的な欲へと走ることなど言語道断だ
あらかた兵が引いたのを確認した後こっそりと兵舎を抜け出す。尾形さんの見舞いだ。そんなにこそこそする必要があるわけではないが姿を見られていない方が何かあった時都合がいい。今日ならば尾形さんについている見張りも手薄だろう
*
尾形さんの病室にやって来た。彼の瞳は未だに開かないまま。頬もこけた印象である。近場にあった椅子に腰掛ける
(尾形百之助。あの森で何があったのですか。あの森で出会ったのはもしかして元第一師団の者ではないですか……?)
生気なく眠る男をじっと見る。顎が割れていたそうだがもう手術を終えて縫い留めた糸が露出している。なんとも生々しい傷跡だ。ふといけないことだと思いながら好奇心に負け、私はその傷跡にそっと指を這わせた
「……」
「……。補佐官殿には、そういった趣味がおありで…?」
「っ!お、起きたのですか!」
傷をなぞっていたら彼の目が薄く開き言葉を紡いだ。私はすぐさま手を離し椅子から飛び上がった
「き、気分は如何ですか?今、看護婦を!」
「待て。その必要はない。行くんじゃない」
「何故……。…もしやずっと意識は、」
「あった」
布団から上体を起こし髪を撫でつけながらこともなげに言う。私は戸惑いを隠せないまま彼に問う
「、意識はいつから?」
「はっきりとあったのは昨晩だ」
「何故周りの者に知らせないでいるのですか」
「周りの人間に今意識があると知られるのはまずい」
「では……、何故僕には、そして何故まずいのでしょうか」
「ふー、なぜが多いな。優秀な本部の補佐官殿。わからないか?俺がこうしている理由が」
何故尾形百之助が意識が戻ったのを隠しているのか、思い当たる点は造反に関すること?私が彼の味方だと確信が持てている?だが私が彼らに協力的立場だと示したのは、一昨日のあの時だけ……。もしや尾形さんはあの時も実は意識が微かにあったのではないか。そうすればある程度の合点はいくが……
「フッ、ある程度までは理解がいったようじゃねーか。俺が一昨日目を覚まして眠りに再び落ちようとしたときにあんたは来た。そこで野間との会話を聞いた。部外者のあんたが造反をする俺たちにとっては今は一番信頼できる。視察ってのもこの隊の動きが怪しいから国への叛逆の芽を摘み取る為に来たんだろ?」
「え、ええ。それにしても貴方の意識が戻ったと隠す理由は、」
「今回、捜索に出た四人のうち谷垣だけが造反組でない。鶴見中尉の側 だ」
そういう言い方をする、ということは岡田さん、玉井さん、野間さんは谷垣さんと争いになった……?そして何らかの形で今帰れなくなっているということか
「玉井伍長は、谷垣を勧誘しようとしていた。だが谷垣は簡単に寝返るような奴ではない。恐らく勧誘に失敗し相打ちとなったか、谷垣が生き残り、残りの造反者に見つからないように今はどこかで潜伏しているか、だ。そうした場合、俺は万全の状態でここを抜け出て奴が鶴見中尉に会う前に奴を殺 る。そのために見張りが緩い今の状態を維持しておくためにだ。それに鶴見中尉の尋問も逃れたいしな」
「理解しました。貴方のそれはまだ不確定ではありますが。……それで、僕は何をすれば」
「まだ鶴見中尉が叛逆を企てているという決定的な証拠は少ない。だから本部への連絡はまだだ。あんたはなるべく谷垣が潜んでいそうな所を探ってくれ」
分かりました、と返事を返す。もし尾形さんの仮説が本当だとしたら私たちは数少ない同志を失ったという大きな痛手がある。だからこそすぐにでも信頼できる仲間が欲しかったのだろう。外面では落ち着き払っていても、私に接触を計ってきたということは焦りがあるということだ。だが、相手にとって私が信頼できるとはいっても私にとって尾形さんが完全に信頼できるかは微妙なラインだ
「貴方が信頼に足る人物であるというのを証明できる手立ては?」
「……そうだな。あんたも保証が欲しいか、……鶴見中尉の部屋には行ったか?」
「ええ。入りました」
「そうか、あの情報将校は人の皮を隠し持っている。厳重にな。刺青の皮だ。もうこちらに来る前に色々調べてきてんだろ」
刺青の、人皮。少しだけだが帝都で聞き及んでいた。脱獄囚の体に掘られたとされるアイヌの財宝の在り処を示した地図!御伽噺ではなかったのか……!いや、鶴見中尉の部屋でそれが確認出来るまでは信じることはできない。今は一刻も早く兵舎に戻り真相を確かめなければ!
「そのアイヌの宝を掻っ攫ってあの男は戦争をする気だ。これでいいか?」
「確認が出来たら、貴方が言っていた通り谷垣一等卒を探します。もし出来なければ、すぐさま僕はこのことを本部に報せます。では」
「頼んだぜ****補佐官殿……」
そのまま私は誰かに見られないように病院を後にした。すっかりと暗くなってしまった空から雪がちらついて来た。これはいけない、鶴見中尉たちが捜索を切り上げ帰ってきてしまう。私も急がなければ、事態がようやく動き出したのだ
留守番をしながら四人が行方不明になったと推測される事態を考えていた。
考えは三つ、事故か、何者かに襲われたか、造反か。まず一つ目、周りの者からの聴取によると四人とも山には不慣れではなかったという。私自身谷垣さんが雪山に慣れたマタギであるというのは知っている。なので一つ目の線は薄い。
二つ目、何者かに襲われたかだ。もしそうであるならば一般人とは考えづらいし例えあの不死身であろうと帝国陸軍兵士四人は厳しい。不死身に協力者がいるならば可能性は見えるが。
三つ目、私はこれを懸念している。尾形さんが何者かに襲われたことを理由に四人でこの隊を脱退したか、襲ったものを炙り出そうとし姿をくらましているのか。もしそうだとするならばこのタイミングでそういった行動は控えてほしかった。だがまだ確定した訳ではない。まだこちらには尾形さんがいる。もし四人で姿をくらましているならばどこかのタイミングで必ず会いに来るだろう。
「**殿!今から手の空いている兵士は再度市街地の確認に参ります。**殿は如何されますか?」
「僕はここに残れと鶴見中尉に申し付けられておりますので。四人の帰りを待つことにします。雲行きが怪しくなってきましたので雨雪にはお気をつけて」
「ありがとうございます。折角本部の方から来ていただいたのにこのような事態になってしまい申し訳ありません」
「いいえ。今は四人の安否が最優先ですし僕は来れて良かったと心から思っていますよ」
私がそうまだ年若い兵士に言うと彼は曇った顔を少し晴れやかにして礼をした
「我々の方も**殿とお会いすることができ良かったです。こういうと失礼かとは思いますが東京の者はいけ好かない者ばかりだと思っていましたので。**殿と生活を共にするうちに考えは変わりました!……**殿が、この先も我が隊にいてくれれば良いのに、と考えてしまします」
「……共に戦う同志ではないですか。所属する団は違うとも日本を守り、掲げる志は同じ。同じ軍であり、日本を信奉する限り僕らは仲間です。そうでしょう?」
にこやかに目の前の兵士に言った。彼は一瞬悲しみにまみれた表情をしてそうですね、と一言だけ言った後もう行かなければならないと足早に駆けていった。
鶴見中尉、貴方の隊の兵士にはもう少し教育が必要であったようだ。……日本国に謀反を謀るなどあってはならないことだ。貴方の目的が何にせよ祖国の恩情を忘れ利己的な欲へと走ることなど言語道断だ
あらかた兵が引いたのを確認した後こっそりと兵舎を抜け出す。尾形さんの見舞いだ。そんなにこそこそする必要があるわけではないが姿を見られていない方が何かあった時都合がいい。今日ならば尾形さんについている見張りも手薄だろう
*
尾形さんの病室にやって来た。彼の瞳は未だに開かないまま。頬もこけた印象である。近場にあった椅子に腰掛ける
(尾形百之助。あの森で何があったのですか。あの森で出会ったのはもしかして元第一師団の者ではないですか……?)
生気なく眠る男をじっと見る。顎が割れていたそうだがもう手術を終えて縫い留めた糸が露出している。なんとも生々しい傷跡だ。ふといけないことだと思いながら好奇心に負け、私はその傷跡にそっと指を這わせた
「……」
「……。補佐官殿には、そういった趣味がおありで…?」
「っ!お、起きたのですか!」
傷をなぞっていたら彼の目が薄く開き言葉を紡いだ。私はすぐさま手を離し椅子から飛び上がった
「き、気分は如何ですか?今、看護婦を!」
「待て。その必要はない。行くんじゃない」
「何故……。…もしやずっと意識は、」
「あった」
布団から上体を起こし髪を撫でつけながらこともなげに言う。私は戸惑いを隠せないまま彼に問う
「、意識はいつから?」
「はっきりとあったのは昨晩だ」
「何故周りの者に知らせないでいるのですか」
「周りの人間に今意識があると知られるのはまずい」
「では……、何故僕には、そして何故まずいのでしょうか」
「ふー、なぜが多いな。優秀な本部の補佐官殿。わからないか?俺がこうしている理由が」
何故尾形百之助が意識が戻ったのを隠しているのか、思い当たる点は造反に関すること?私が彼の味方だと確信が持てている?だが私が彼らに協力的立場だと示したのは、一昨日のあの時だけ……。もしや尾形さんはあの時も実は意識が微かにあったのではないか。そうすればある程度の合点はいくが……
「フッ、ある程度までは理解がいったようじゃねーか。俺が一昨日目を覚まして眠りに再び落ちようとしたときにあんたは来た。そこで野間との会話を聞いた。部外者のあんたが造反をする俺たちにとっては今は一番信頼できる。視察ってのもこの隊の動きが怪しいから国への叛逆の芽を摘み取る為に来たんだろ?」
「え、ええ。それにしても貴方の意識が戻ったと隠す理由は、」
「今回、捜索に出た四人のうち谷垣だけが造反組でない。鶴見中尉の
そういう言い方をする、ということは岡田さん、玉井さん、野間さんは谷垣さんと争いになった……?そして何らかの形で今帰れなくなっているということか
「玉井伍長は、谷垣を勧誘しようとしていた。だが谷垣は簡単に寝返るような奴ではない。恐らく勧誘に失敗し相打ちとなったか、谷垣が生き残り、残りの造反者に見つからないように今はどこかで潜伏しているか、だ。そうした場合、俺は万全の状態でここを抜け出て奴が鶴見中尉に会う前に奴を
「理解しました。貴方のそれはまだ不確定ではありますが。……それで、僕は何をすれば」
「まだ鶴見中尉が叛逆を企てているという決定的な証拠は少ない。だから本部への連絡はまだだ。あんたはなるべく谷垣が潜んでいそうな所を探ってくれ」
分かりました、と返事を返す。もし尾形さんの仮説が本当だとしたら私たちは数少ない同志を失ったという大きな痛手がある。だからこそすぐにでも信頼できる仲間が欲しかったのだろう。外面では落ち着き払っていても、私に接触を計ってきたということは焦りがあるということだ。だが、相手にとって私が信頼できるとはいっても私にとって尾形さんが完全に信頼できるかは微妙なラインだ
「貴方が信頼に足る人物であるというのを証明できる手立ては?」
「……そうだな。あんたも保証が欲しいか、……鶴見中尉の部屋には行ったか?」
「ええ。入りました」
「そうか、あの情報将校は人の皮を隠し持っている。厳重にな。刺青の皮だ。もうこちらに来る前に色々調べてきてんだろ」
刺青の、人皮。少しだけだが帝都で聞き及んでいた。脱獄囚の体に掘られたとされるアイヌの財宝の在り処を示した地図!御伽噺ではなかったのか……!いや、鶴見中尉の部屋でそれが確認出来るまでは信じることはできない。今は一刻も早く兵舎に戻り真相を確かめなければ!
「そのアイヌの宝を掻っ攫ってあの男は戦争をする気だ。これでいいか?」
「確認が出来たら、貴方が言っていた通り谷垣一等卒を探します。もし出来なければ、すぐさま僕はこのことを本部に報せます。では」
「頼んだぜ****補佐官殿……」
そのまま私は誰かに見られないように病院を後にした。すっかりと暗くなってしまった空から雪がちらついて来た。これはいけない、鶴見中尉たちが捜索を切り上げ帰ってきてしまう。私も急がなければ、事態がようやく動き出したのだ