君が為
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尾形さんが発見されてから数日が経った。私はあれから毎日のように尾形さんのもとへ見舞いに行き、見張りの者と交流をしていた。その結果、第七師団の皆と仲を深めることができた。二階堂兄弟とも気兼ねなく接するようになって、中々に上手く潜入が出来ていると思う。尾形さんへの見舞いを利用する形とはなったが大きな進歩を得られた。だが、未だ目を覚まさない尾形さんのことも心配ではある。今日も私は午前の仕事を終えて見舞いに行くことにした。そして自室から出ると丁度向かいの部屋の月島さんとかち合わせた
「こんにちは、奇遇ですね。これからお風呂ですか?」
「ああ、**くんは見舞いか。そう毎日通う必要もないと思いますが。随分と献身的ですね」
「僕、鶴見中尉にもお会いしたかったですけど第七師団の皆さんにも教えを乞うためにもやって来たのですよ。尾形さんには鉄砲を習いたくて……。それに何より同じ帝国軍の仲間です。……ですので尾形さんには早く目を覚まして頂きたいのです」
「貴方は出会った時から勉強熱心で人情があるお人だ。」
月島さんが微笑んでこちらを見る。彼も最初の時のような探る目は段々となくなってきて今では他の第七師団の兵にも向けるような目線をくれる。仕事とは別に私はそれが嬉しい。──ふと月島さんの持っている風呂桶にあるものがないことに気がついた
「石鹸をお忘れでは?月島さん」
「ん?ああ、今切らしてしまってるんです。途中で売店に買いに寄りますよ」
「ですが、今日は銭湯横の売店は休みですよ?嫌でなければ僕の石鹸をお貸しします」
「えっ、いやまあ貸して頂けるなら……」
では今お持ちしますね、と言い部屋へ戻る。東京から持ってきた良い香りのサボンがあるのだ。このサボンは英国からの輸入品で花の香りが仄かにする。大佐が誉めくださった私のお気に入りだ。まだ一、二回使った程度だから不潔にも感じられないだろう。笑顔で月島さんへ差し出す。彼にも気に入って貰えたら嬉しいが
「あ、ありがとうございます……。不思議な色ですね」
「輸入品なんです。肌に合わないようであれば使用は中断してくださいね!それでは疲れを洗い流して来てください!いってらっしゃいまし」
「……ぅん…、いってきます」
月島さんはこちらを一瞬凝視したあと戸惑ったように目を外し廊下の先へ消えていった。はて、何かやらかしてしまったかと頭を捻 るが特には問題点はあげられない。唯一あげるとすれば異国のものは苦手であったとか、ならばこれからはその点を考慮しなければなるまい。と考えていたのも束の間、既に時刻は正午をとうに過ぎている。早く尾形さんの元へ見舞いに行こうと歩を玄関へ進めた。そして兵舎を後にし、病院への道を進んでいると前方から同じ軍服を着た兵が馬で走ってくるのが見えた。その兵は玉井伍長で急いでいる様子であった。もしや尾形さんの身に何かあったかと思い、気づいてもらえるように大きく声を掛けた
「玉井さん!何かありましたか!?」
「**さん!今しがた尾形上等兵が目覚められた!私は今から中尉の元へ報告にあがる!君も気になるなら早く病院へ行き給え!」
それだけ言うと慌ただしく玉井さんは去っていった。なにはともあれ私も病院へ早く向かわなければ
病院へ着き、見張り番の野間さんに促され尾形さんの傍へと駆け寄る。だが尾形さんに意識はなく毎日見ている状態と変わってはいなかった。どうやら少しの間意識を取り戻し“ふじみ”と指で書き残したらしい……。
ふじみ……、ふじみ、富士見?それ一つで意味を成す言葉は……。思考の中を泳いでいたらふと一つの考えに行きついた。だが、いや、もしもの可能性だが、でも一体どうして?私は第一師団で不死身、と呼ばれていた男を知っている。実際に相まみえたことはないが大佐の話から聞いている。そして彼が帝国軍脱退後、北海道へ向かうと言っていたらしいことも……。
彼ならば尾形さんを相手取ることも可能だ。だが一体全体どうしてそのようなことを?彼が不味いことに手を染めているのを目撃されたか、もしくは尾形さんが目撃されたか。はたまたそれのどちらかか……。考えていたら野間さんに肩に手を置かれた
「**さん、これはもしもの話なんだが……」
「はい?」
「尾形上等兵が何者かに襲われたと考えて、その何者かが身内の者であったなら君ならどうする?」
「は……、それは、」
「もしもだが、大きなものへ反逆の意思を持つ上司がいたとして、それにも巻かれず立ち向かうほうか?君は」
至極真面目な声で問われる。その声には恐れと強い意志が感じられる。恐れが混じる、ということは野間さんは立ち向かう側なのだろう。……黒だ。第七師団、鶴見中尉の隊は黒であった。ここに来てやっと確信出来た。鶴見中尉は国へと謀反を謀る者。そして野間さん、尾形さんは日本帝国への忠誠を忘れずそれに立ち向かう者。まだ他に鶴見中尉に密かに敵対する者はいるのだろうか。まあそれは後でもいい。この事態に中央の上層部は大佐以外誰も気付いてはいない、ならば問題にして上で取り上げるならばもっと証拠が必要だ。私は慎重に言葉を選ぶことにした
「難しい質問ですね。結局はその時の自身の信条に合う方ではないですか?それと、尾形さんに私怨があるお方に心あたりがおありで?もしそうでなくとも自身の仲間を疑うようなことは不用意に言うものではないですよ。このことは僕の胸の内にしまっておきますね」
「そうか……、すまない。変なことを口走った」
「いえ、……どうやら鶴見中尉殿がいらしたようです。迎えに行ってきますね。それと一つ、僕はいつでも悪しきものの敵です。それが僕の指名です」
「はは、そうか、俺もそうですよ第一師団補佐官殿」
鶴見中尉の隊に与 していないものは尾形さんと野間さん、それから恐らく玉井伍長だろう。野間さんと玉井伍長は二人で行動することが多く前から目をつけていた。がこういうことだったか、もし隊から造反するのであれば少し迂闊な所が儘ある。気を付けてもらわねば。
その後、野間さん、岡田さん、谷垣さん、玉井さんの四人で明日山へ散策する運びとなった。アイヌ猟師の親子が何か知っているとみて探索するらしい。私は一人の人物にいきついていたがそれを誰かに話すことはしなかった。推測の域を出てはいないし、何より彼の、不死身の目的がわからなかったからだ
「こんにちは、奇遇ですね。これからお風呂ですか?」
「ああ、**くんは見舞いか。そう毎日通う必要もないと思いますが。随分と献身的ですね」
「僕、鶴見中尉にもお会いしたかったですけど第七師団の皆さんにも教えを乞うためにもやって来たのですよ。尾形さんには鉄砲を習いたくて……。それに何より同じ帝国軍の仲間です。……ですので尾形さんには早く目を覚まして頂きたいのです」
「貴方は出会った時から勉強熱心で人情があるお人だ。」
月島さんが微笑んでこちらを見る。彼も最初の時のような探る目は段々となくなってきて今では他の第七師団の兵にも向けるような目線をくれる。仕事とは別に私はそれが嬉しい。──ふと月島さんの持っている風呂桶にあるものがないことに気がついた
「石鹸をお忘れでは?月島さん」
「ん?ああ、今切らしてしまってるんです。途中で売店に買いに寄りますよ」
「ですが、今日は銭湯横の売店は休みですよ?嫌でなければ僕の石鹸をお貸しします」
「えっ、いやまあ貸して頂けるなら……」
では今お持ちしますね、と言い部屋へ戻る。東京から持ってきた良い香りのサボンがあるのだ。このサボンは英国からの輸入品で花の香りが仄かにする。大佐が誉めくださった私のお気に入りだ。まだ一、二回使った程度だから不潔にも感じられないだろう。笑顔で月島さんへ差し出す。彼にも気に入って貰えたら嬉しいが
「あ、ありがとうございます……。不思議な色ですね」
「輸入品なんです。肌に合わないようであれば使用は中断してくださいね!それでは疲れを洗い流して来てください!いってらっしゃいまし」
「……ぅん…、いってきます」
月島さんはこちらを一瞬凝視したあと戸惑ったように目を外し廊下の先へ消えていった。はて、何かやらかしてしまったかと頭を
「玉井さん!何かありましたか!?」
「**さん!今しがた尾形上等兵が目覚められた!私は今から中尉の元へ報告にあがる!君も気になるなら早く病院へ行き給え!」
それだけ言うと慌ただしく玉井さんは去っていった。なにはともあれ私も病院へ早く向かわなければ
病院へ着き、見張り番の野間さんに促され尾形さんの傍へと駆け寄る。だが尾形さんに意識はなく毎日見ている状態と変わってはいなかった。どうやら少しの間意識を取り戻し“ふじみ”と指で書き残したらしい……。
ふじみ……、ふじみ、富士見?それ一つで意味を成す言葉は……。思考の中を泳いでいたらふと一つの考えに行きついた。だが、いや、もしもの可能性だが、でも一体どうして?私は第一師団で不死身、と呼ばれていた男を知っている。実際に相まみえたことはないが大佐の話から聞いている。そして彼が帝国軍脱退後、北海道へ向かうと言っていたらしいことも……。
彼ならば尾形さんを相手取ることも可能だ。だが一体全体どうしてそのようなことを?彼が不味いことに手を染めているのを目撃されたか、もしくは尾形さんが目撃されたか。はたまたそれのどちらかか……。考えていたら野間さんに肩に手を置かれた
「**さん、これはもしもの話なんだが……」
「はい?」
「尾形上等兵が何者かに襲われたと考えて、その何者かが身内の者であったなら君ならどうする?」
「は……、それは、」
「もしもだが、大きなものへ反逆の意思を持つ上司がいたとして、それにも巻かれず立ち向かうほうか?君は」
至極真面目な声で問われる。その声には恐れと強い意志が感じられる。恐れが混じる、ということは野間さんは立ち向かう側なのだろう。……黒だ。第七師団、鶴見中尉の隊は黒であった。ここに来てやっと確信出来た。鶴見中尉は国へと謀反を謀る者。そして野間さん、尾形さんは日本帝国への忠誠を忘れずそれに立ち向かう者。まだ他に鶴見中尉に密かに敵対する者はいるのだろうか。まあそれは後でもいい。この事態に中央の上層部は大佐以外誰も気付いてはいない、ならば問題にして上で取り上げるならばもっと証拠が必要だ。私は慎重に言葉を選ぶことにした
「難しい質問ですね。結局はその時の自身の信条に合う方ではないですか?それと、尾形さんに私怨があるお方に心あたりがおありで?もしそうでなくとも自身の仲間を疑うようなことは不用意に言うものではないですよ。このことは僕の胸の内にしまっておきますね」
「そうか……、すまない。変なことを口走った」
「いえ、……どうやら鶴見中尉殿がいらしたようです。迎えに行ってきますね。それと一つ、僕はいつでも悪しきものの敵です。それが僕の指名です」
「はは、そうか、俺もそうですよ第一師団補佐官殿」
鶴見中尉の隊に
その後、野間さん、岡田さん、谷垣さん、玉井さんの四人で明日山へ散策する運びとなった。アイヌ猟師の親子が何か知っているとみて探索するらしい。私は一人の人物にいきついていたがそれを誰かに話すことはしなかった。推測の域を出てはいないし、何より彼の、不死身の目的がわからなかったからだ