君が為
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「やあ待ってたよ。**くん、どうぞ入って」
「お邪魔します」
鶴見中尉の部屋にお邪魔する。私の部屋と変わらず質素な造りではあるが調度品は良いものを揃えている。月島さんはいないようだ、余計緊張してしまう
「気を張らずに腰かけてください。甘いものはお好きかな?汁粉をとりよせておきました」
「はい、ありがとうございます。甘いものは好きです。東京でも銀座のあんぱんを好んで食しておりました。……それと鶴見中尉殿、僕にも皆さんと同じように接してください、身分は実際は一番下ですので。出来れば他の皆さんにもそうお伝え頂けると幸いです」
笑顔でそう告げたあと、木で出来た椅子に腰掛けてテーブルの上に置いてあった汁粉を覗き込む。形式的なことでも取っ払うと人は油断したり気が緩むものだ。今はただ周りとの距離を縮めたい。覗き込んだ椀の中にはとろりとしたあんが甘やかな香りを放っている。なんとも美味しそうだ
「……、分かりました。なるべくそのように。東京のあんぱんか、確か陛下が好んでらっしゃいましたな」
一瞬間が空いたが承諾をしてもらえた。相手側も年が十以上は下の若造に敬語は嫌だろう
「そうなのです!、あれは陛下も気にいらっしゃるほど美味ですよ!鶴見中尉の好物が甘味だと知っていれば土産に持ってきましたのに……申し訳ないです」
「はは、何、気にはなるが北海道にもあんぱんはあるし、東京にはないような珍しい菓子もある」
にやりと鶴見中尉が笑った。綺麗に整えられた口ひげがこの人をより一層魅力的に見せているような気がした。しかし帝都にはないような菓子とは一体何なのだろうか、興味をそそられ身をすこし乗り出しつつ聞く
「珍しい菓子とは一体どのようなものなのですか」
「ここ小樽で売られているそれはそれは美しい、水晶のような菓子のことだよ」
水晶のような菓子とは何で出来ているのだろうか、水菓子のことだろうかと想像する
「どんな菓子なのですか?気になります」
「それは──」
鶴見中尉が言いかけた時ドアの外から忙しい足音が聞こえてきた。そして声が掛けられる
「鶴見中尉!報告すべきことがあります。」
「なんだ、今は客を招いている。火急の用でなければ出直せ」
「はっなるべく早めにご報告致したいのですが!」
なにやら尋常ではない様子だ。鶴見中尉もそれを感じ取ったのか席を立ち、ドアを開けて隊員の報告を受けている。小声でこちらには聞こえないように話していることから察すると気取られると不味いことでも起きたのだろうか。ここは勢いに任せ自分も鶴見中尉の隣に行き話を聞くことにした
「どうかしましたか?焦ってらっしゃったようですが……」
「うっ、いえ……」
「隠すようなことでもないだろう、どうやら尾形上等兵が川で見つかったらしい」
「えっ、それは…、大丈夫なのですか!?」
「ああ。自力で川からあがっていたらしく息はあるらしい。」
予期せぬ言葉に吃驚してしまったが尾形さんの命は助かっているらしいことを聞くとひとまず胸をなでおろす。だが鶴見中尉の口調から察するに尾形上等兵が何か事故で川で落ちてしまったとは考え辛い。事故で落っこちてしまった程度ならば川から這い上がった後自身でこの兵舎まで帰ってくることが可能だろう。何者かに襲われたと考えるのが妥当だ。そして意識があるという表現よりも息があるという表現を使うあたり事態は深刻なように伺える。まだ憶測の域をでないからはっきりとは言えないが。更なる状況の情報を得るために同行を要求しよう
「僕も同行します。お許しを」
「分かった。おい、馬をもう一頭用意しろ」
「はっ、了解しました」
隊員は敬礼をすると駆け足で去っていった。私も鶴見中尉に敬礼をし、コートを着る為に自室へともどった。それから早々に馬の準備が出来たとの報せを聞き外に出て、鶴見中尉と尾形さんが発見された場所へと向かった。日は既に西の空へと呑み込まれつつあった
***
森の中の川の下流付近に来た既に鶴見中尉の隊の兵士が多く集まっていた。松明の灯がそこかしこにあり何かを囲むようにしている。おそらく中心にあるのは尾形さんだろう。私は下馬しその中心へと近づく。
「夕方に川岸で見つけました。発見がもう少し遅ければ低体温症で死んでいたでしょう。この怪我でよく岸まで這い上がったものです」
確かによくこんな大怪我で岸まであがってこれた……。誰かが引き上げたのか……?いやそれならば放置する意味がわからない。特に今は冬であるし、今言っていたように低体温症で死んでしまう。ならばやはり自力で……。腕を折っているようで固定がなされている。顔も何かに強打したらしくパンパンに膨れ上がっている。勿論意識はない
「……」
だがしかし私は今、不謹慎ながらもこの尾形という男に心底驚き、また最大級の敬意を感じている。この真冬の川で片腕でしかも目がほとんど見えないであろう中岸まで這い上がったのだ。これが陸軍最強の第七師団かと、身が震えた。
全体としては尾形さんが誰かから襲撃を受けたかも何故単独行動をしていたかも分からないということにまずは落ち着いたようだが、私の推測は変わらない。傷の具合を見ないことには、はっきりとは断言できないが……
ふとあることに気が付き近くの兵士に声を掛ける
「あの……尾形さんの鉄砲はどこに?」
「いやなかったです、多分重かったから川に捨てたんじゃないでしょうか」
その言葉に違和感を覚えた。極寒の川に片腕を骨折し顔面が潰れた状態でそのような判断ができるのだろうか、足のつかない川の中で背負った鉄砲を外すだけでも一苦労だろう。となるとやはり尾形さんは鉄砲での交戦の後敗れ川に落とされた可能性が高い。だがこれ程の人間を負かす相手とは……。一般人とは考えづらい。ならば仲間割れ?深い夜の色に染まった川を眺めながら一人思索していたら、尾形さんをソリに固定し終わったらしく声を掛けられこの場を離れることになった。
尾形さんは兵舎から離れた病院へと運ばれていった。大変な怪我で純粋に心配でもあったので明日見舞いにいくことにする
「お邪魔します」
鶴見中尉の部屋にお邪魔する。私の部屋と変わらず質素な造りではあるが調度品は良いものを揃えている。月島さんはいないようだ、余計緊張してしまう
「気を張らずに腰かけてください。甘いものはお好きかな?汁粉をとりよせておきました」
「はい、ありがとうございます。甘いものは好きです。東京でも銀座のあんぱんを好んで食しておりました。……それと鶴見中尉殿、僕にも皆さんと同じように接してください、身分は実際は一番下ですので。出来れば他の皆さんにもそうお伝え頂けると幸いです」
笑顔でそう告げたあと、木で出来た椅子に腰掛けてテーブルの上に置いてあった汁粉を覗き込む。形式的なことでも取っ払うと人は油断したり気が緩むものだ。今はただ周りとの距離を縮めたい。覗き込んだ椀の中にはとろりとしたあんが甘やかな香りを放っている。なんとも美味しそうだ
「……、分かりました。なるべくそのように。東京のあんぱんか、確か陛下が好んでらっしゃいましたな」
一瞬間が空いたが承諾をしてもらえた。相手側も年が十以上は下の若造に敬語は嫌だろう
「そうなのです!、あれは陛下も気にいらっしゃるほど美味ですよ!鶴見中尉の好物が甘味だと知っていれば土産に持ってきましたのに……申し訳ないです」
「はは、何、気にはなるが北海道にもあんぱんはあるし、東京にはないような珍しい菓子もある」
にやりと鶴見中尉が笑った。綺麗に整えられた口ひげがこの人をより一層魅力的に見せているような気がした。しかし帝都にはないような菓子とは一体何なのだろうか、興味をそそられ身をすこし乗り出しつつ聞く
「珍しい菓子とは一体どのようなものなのですか」
「ここ小樽で売られているそれはそれは美しい、水晶のような菓子のことだよ」
水晶のような菓子とは何で出来ているのだろうか、水菓子のことだろうかと想像する
「どんな菓子なのですか?気になります」
「それは──」
鶴見中尉が言いかけた時ドアの外から忙しい足音が聞こえてきた。そして声が掛けられる
「鶴見中尉!報告すべきことがあります。」
「なんだ、今は客を招いている。火急の用でなければ出直せ」
「はっなるべく早めにご報告致したいのですが!」
なにやら尋常ではない様子だ。鶴見中尉もそれを感じ取ったのか席を立ち、ドアを開けて隊員の報告を受けている。小声でこちらには聞こえないように話していることから察すると気取られると不味いことでも起きたのだろうか。ここは勢いに任せ自分も鶴見中尉の隣に行き話を聞くことにした
「どうかしましたか?焦ってらっしゃったようですが……」
「うっ、いえ……」
「隠すようなことでもないだろう、どうやら尾形上等兵が川で見つかったらしい」
「えっ、それは…、大丈夫なのですか!?」
「ああ。自力で川からあがっていたらしく息はあるらしい。」
予期せぬ言葉に吃驚してしまったが尾形さんの命は助かっているらしいことを聞くとひとまず胸をなでおろす。だが鶴見中尉の口調から察するに尾形上等兵が何か事故で川で落ちてしまったとは考え辛い。事故で落っこちてしまった程度ならば川から這い上がった後自身でこの兵舎まで帰ってくることが可能だろう。何者かに襲われたと考えるのが妥当だ。そして意識があるという表現よりも息があるという表現を使うあたり事態は深刻なように伺える。まだ憶測の域をでないからはっきりとは言えないが。更なる状況の情報を得るために同行を要求しよう
「僕も同行します。お許しを」
「分かった。おい、馬をもう一頭用意しろ」
「はっ、了解しました」
隊員は敬礼をすると駆け足で去っていった。私も鶴見中尉に敬礼をし、コートを着る為に自室へともどった。それから早々に馬の準備が出来たとの報せを聞き外に出て、鶴見中尉と尾形さんが発見された場所へと向かった。日は既に西の空へと呑み込まれつつあった
***
森の中の川の下流付近に来た既に鶴見中尉の隊の兵士が多く集まっていた。松明の灯がそこかしこにあり何かを囲むようにしている。おそらく中心にあるのは尾形さんだろう。私は下馬しその中心へと近づく。
「夕方に川岸で見つけました。発見がもう少し遅ければ低体温症で死んでいたでしょう。この怪我でよく岸まで這い上がったものです」
確かによくこんな大怪我で岸まであがってこれた……。誰かが引き上げたのか……?いやそれならば放置する意味がわからない。特に今は冬であるし、今言っていたように低体温症で死んでしまう。ならばやはり自力で……。腕を折っているようで固定がなされている。顔も何かに強打したらしくパンパンに膨れ上がっている。勿論意識はない
「……」
だがしかし私は今、不謹慎ながらもこの尾形という男に心底驚き、また最大級の敬意を感じている。この真冬の川で片腕でしかも目がほとんど見えないであろう中岸まで這い上がったのだ。これが陸軍最強の第七師団かと、身が震えた。
全体としては尾形さんが誰かから襲撃を受けたかも何故単独行動をしていたかも分からないということにまずは落ち着いたようだが、私の推測は変わらない。傷の具合を見ないことには、はっきりとは断言できないが……
ふとあることに気が付き近くの兵士に声を掛ける
「あの……尾形さんの鉄砲はどこに?」
「いやなかったです、多分重かったから川に捨てたんじゃないでしょうか」
その言葉に違和感を覚えた。極寒の川に片腕を骨折し顔面が潰れた状態でそのような判断ができるのだろうか、足のつかない川の中で背負った鉄砲を外すだけでも一苦労だろう。となるとやはり尾形さんは鉄砲での交戦の後敗れ川に落とされた可能性が高い。だがこれ程の人間を負かす相手とは……。一般人とは考えづらい。ならば仲間割れ?深い夜の色に染まった川を眺めながら一人思索していたら、尾形さんをソリに固定し終わったらしく声を掛けられこの場を離れることになった。
尾形さんは兵舎から離れた病院へと運ばれていった。大変な怪我で純粋に心配でもあったので明日見舞いにいくことにする