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はちみつ

「蜂蜜の、匂いがする」




二人の朝は早い。トーストの香ばしい香りが、寝起きの頭を優しく刺激する。
胃も元気になり始めたのか、きゅるると音を鳴らした。

「ああ、ライナー、おはよう。蜂蜜好きだったでしょ。たっぷり塗っておいたから…はやく、食べて。」
にこ、と笑うベルトルトは、もう着替えを済ませていて、ちびちびとコーヒーを飲んでいた。

猫舌で熱いものを飲むのが苦手なのだ。
そんなところもまた可愛らしいのだが。
以前、そう直接言ったら耳を赤くして「そんな、可愛いなんて言われても、ぼく、嬉しくないよ…」と否定された。その照れた表情も可愛いな、とにやける自分は相当この長身で繊細な幼馴染みにお熱らしい。




「今日、早かったんだったな。」

ベルトルトの向かいの椅子に腰掛け、淹れてくれたコーヒーを一口啜る。やはりベルトルトが淹れたコーヒーが一番美味い。なんて浸りながら会話を続ける。

「うん。でもお昼に一回帰ってくるから、夜ご飯のおかず作っていこうかなって。」
「そっか。肉か?」
「魚だよ。残念でした」

ちぇっ、なんだよ、と口を尖らせ文句を言うと、「昨日もお肉だったでしょ、今日は僕の好きなものが食べたいよ」と少し申し訳なさそうに諭された。

「別にいいさ。魚も嫌いじゃない。」
くく、と笑って、しゅんとしている恋人を宥める。

別に、そんなに肉が食いたい訳じゃない。
我が儘を云って、ベルトルトが困る顔を見たかっただけだ。
我ながら子供臭えな、と自虐的に心の中で笑った。

トーストを半分に割くと、たっぷりと塗られた蜂蜜がとろ、とふたつに分かれるように離れた。伸びた其れは重力でゆっくりと下に落ちてゆく。

「おっと。」
このままではテーブルに零れてしまう。慌てて手で蜂蜜を受け止めた。
「ああ、ベトベトだな。」

言葉通り、ライナーの手は蜂蜜がかかり、ふわ、と甘い香りを立たせながら、ねっとりと指と指の間に糸を引かせている。

「…もう、気をつけてよ、ライナー…」

ふぅ、と溜め息をつきながら、ベルトルトはライナーのべとべとになった手を取った。

「…綺麗にしてくれるか?ベル。」

「わざとやったでしょ、ライナー…」

ばれたか。さすがにわざとらしかったか。

ベルトルトは恨めしげに、でも満更でもなさそうな顔で俺を睨み付けてくる。

「…でも、ぼくも…いっぱい塗りすぎちゃった、ぼくも悪い、かな…」

そう言ったベルトルトの顔は、昨夜の情事を思い出させて、心臓が跳ねた。

ゆっくりと、俺の指がベルトルトの小さな口に近付いてゆく。
ぺろ、と人差し指を赤い舌で舐められる。
ちろちろと蜂蜜が付いた部分を舐められると、くすぐったくてつい、くつくつと喉の奥から笑い声が漏れる。
それにむ、と若干顔をしかめて、今度は掌を舌全体を使うようにして舐められた。

ぴちゃ、ぴちゃと卑猥な音を立てながら。
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