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雨に降られて

雨が降った。
その日は1,2年合同で山でのタイムアタックを予定していた。

---せっかくの機会だったのに、天気予報もアテにならないなぁ。

塔一朗が溜め息をつきながらぼやいた。

---ね、 え、 ユキ・・・?

オレはずっと塔一郎を見つめていた。なんだか頭がボーっとするし、息も熱い。
ここは山の中腹で、小雨でも大丈夫だろうと高を括ってここまできてアウトだ。
雨宿りにもならない木の下で二人きり。
国道沿いにある一本松だ。

他の1,2年はもうとっくに返してある。皆、「寒い!」だの騒ぎながら---特にシキバなんかは---もう部室に戻ったところだろう。


・・・寒い。寒気というよりは悪寒に近い震えが止まらない。
くらくらする。もうだめだ。オレ、死ぬんだ。 なんてバカなことを考えているうちに、ここから少し離れた山道にカントクの車が見えた。

「あっユキ、カントクが車出してくれたみたい。」

もうちょっと頑張れ、と塔一郎は冷えたオレの背中を擦ってくれた。
いつもは暖かい塔一郎の手もすこし冷たかったけれど、触れたところからじんわり、熱が生まれてくるようだ。

「・・・わりぃ・・な、」

舌がもつれて上手く話せず、もどかしいのでオレはたった一言。
寒い中、オレの隣にいてくれる幼馴染に向かって。


「こういう時はお互い様だろ。」

塔一郎は笑って、道路脇に停めてあるバイクを取りに立った。

塔一郎の愛車のBHと、オレの相棒のKUOTAが雨に濡れて光っていた。ああ、これは早く手入れしねぇと。折角油を挿したばかりだというのに。


「車、来たみたいだよ。立てる?」


雨でずぶ濡れの塔一郎。引き締まった身体に、ユニフォームが水分を吸ってぴったりと張り付いている。
長い睫毛からもぽたぽたと水滴が垂れる。伸ばしかけの髪は雨を吸うことなく一気に流れる、額に、頬に、すっと伸びた鼻筋に、綺麗な形をした唇に、首、鎖骨、胸元------





確かそこで意識が途絶えた。雨に濡れた草の上にうつ伏せに転がり、土の匂いがきもちいいな、なんて馬鹿げたことを感じたような気がしなくもない。


とにかく塔一郎に心配をかけてしまったことが一番不甲斐無かった。
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