プロデューサーに引き抜かれて、一ヶ月後…。
亜矢はあっという間に、人気歌手の座に返り咲いた。

そして、その日はやってきた。

楽屋で、亜矢はカバンから、ガラスの破片を取り出した。
そしてそれを、阿部まりあの飲み物の中に入れようとした。

「フフフ…今度こそ、まりあを突き落としてやるわ…!!」

その時だった。

「亜矢…ちゃん?」

振り向くと、そこには花束を持った鈴音がいた。
鈴音の手から、花束が落ちて、花びらが散った。

「何してるの…?」
「…あんたこそ、どうしてここに…」
「亜矢ちゃんがMパラに出演するっていうから、お祝いに来たの…」

鈴音の声は、小さく震えていた。

「…見たわね?」

亜矢は氷のように冷たい声で言った。

「邪魔しようったって無駄よ。あんたは知らないだろうけど、私はまりあに人生をめちゃくちゃにされたのよ…!!その復讐を果たすまでは、絶対に諦めない…!!」

亜矢は乱暴にテーブルを叩いて、怒りに震えた。

(そうよ…私は何も悪くない…悪いのは、私を追い越していったまりあ…)


「…変わっちゃったね、亜矢ちゃん」
「え…?」

鈴音は悲しそうな顔をしていた。

「子供の頃は、あんなに優しかったのに…私ね、亜矢ちゃんのお陰で今日までやってこれたの。私は亜矢ちゃんみたいに歌も上手くないし、美人でもない…だけど、亜矢ちゃんの歌を聴いてると、とても励まされるんだよ」

話しているうちに、鈴音の目から、涙がポロポロ零れた。

「亜矢ちゃんは私の憧れだったのに…」

鈴音の泣き顔を見て、亜矢の胸がチクリと痛んだ。
すると、鈴音は身を翻して、走り出していった。

「鈴音!!」

亜矢は鈴音の後を追った。
次の瞬間…。

キキーッ!!ドンッ!!

「おい、君!!しっかりしろ!!」
「誰か、救急車を!!」

外に出た亜矢は愕然とした。

そこには、車に撥ねられて倒れた鈴音の姿があった。

「鈴音…!!」