とある病院の一室。
一人の少女がベッドに横たわっている。
少女の顔には、包帯が巻かれていて、その瞳は虚ろだった。

少女の目には、テレビの画面が映っている。
そこには、美しい歌声を響かせる歌手の姿があった。

「…憎い…あいつが憎い…」

少女の渇いた唇から、恨みの声が零れる。
シーツを握りしめ、歯を食いしばる。

「復讐したい…私の人生をめちゃくちゃにしたあいつに…」

憎しみがドロドロと湧き出てくる…。


「その願い…叶えてあげましょうか?」


「誰っ!?」

少女が振り向くと、一人の男が立っていた。

白い肌に、赤い目をした男。
しかし、その姿は人間とはかけ離れていた。

髪の毛は無く、紫色の宝石のような頭をしていて、唇も紫色だった。
腰からは、長い尻尾が生えていて、ユラユラと揺れていた。

「ば…バケモノ…!!」
「失礼ですねぇ…そんな俗っぽい呼び方をするなんて」

男は、胸に手を当てて、恭しくお辞儀した。

「私の名前はフリーザ。どうぞお見知りおきを…中洲亜矢さん…ですよね?元歌手の」
「…だったら何…?」

少女…亜矢が眉を顰めると、フリーザは黒い箱を取り出した。

「あなたの、「復讐したい」という願い…叶えてあげましょう」

フリーザが箱を開けると、そこには白いクリームと苺の乗ったケーキが入っていた。

「これは願いの叶う、魔法のケーキです。これを食べれば、あなたの願いが叶いますよ」

しかし、亜矢は険しい顔をした。

「…いらない。私、以前にもそれに似たチョコレートを食べたわ。でもその結果がこれよ…!!」

亜矢は包帯の巻かれた顔を指差して言った。

「願いが叶うどころか、不幸のどん底よ…!!もう騙されないわ!!」

亜矢の言葉を聞いて、フリーザはため息を吐いた。

「やれやれ…これだから人間という生き物は…亜矢さん、ご安心を。このケーキはあなたを必ず幸せにしますよ」

フリーザの言葉が、亜矢を誘惑する。
始めは訝しく思っていた亜矢も、だんだんその言葉に惹かれていった。

「…これを食べたら、どうなるの?」
「これは、苺のショートケーキ…これを食べれば、あなたの失われた美しさを取り戻せます」

それを聞き、亜矢はショートケーキを口元へ運んだ。

「ただし…お気を付けて。ショートケーキの名前の由来は「脆さ」…強い衝撃が加わると、簡単に壊れてしまうので…」

亜矢には、この言葉の意味がピンと来なかった。

(何だって構わない…あいつに…阿部まりあに復讐出来るなら、何でもしてやる!!)

亜矢は、ショートケーキを一口食べた。
甘い生クリームと、甘酸っぱい苺の味が、口の中に広がった。
その瞬間、亜矢の体を薄ピンク色の光が包んだ。


「美を奪われた哀れな歌姫よ…青き夢に踊りなさい…」


フリーザの声が、耳元で響いた直後、亜矢は意識を手放した…。