暗い路地裏で、銃声が響いた。

三体のゾンビが、一人の少女を狙っている。
ゾンビはゲームのような愚鈍な動きではなく、暗殺者のような俊敏な動きをしていた。

少女は怖気付く事なく、銃弾をゾンビに撃ち込む。
しかし、ゾンビは少し仰け反っただけで、死ぬ事はなかった。
両腕を突き出し、少女を捕らえようとする。

「くっ…しつこい…」

とうとう壁に追い詰められ、ここまでかと思った時だ。


バサッ


黒いマントを翻して、何者かが現れた。
その男は、ゾンビに向かって、何かを突き刺した。

それは、青い液体の入った注射器だった。

液体を打ち込まれた瞬間、ゾンビは呻きだし、その場に倒れてのたうち回った。
男は残りの二体のゾンビにも注射器を刺した。
ゾンビ達は地面に転がって、もがき苦しんだ。
すると、ゾンビの体に変化が表れた。

灰色にくすんでいた肌が、人の肌の色に戻り、
濁った白目は、虚ろな黒目に戻った。

数秒後、ゾンビは人間の姿に戻っていた。

少女はへなへなと、その場に崩れ落ちた。
それに気付いたのか、男が振り向いた。

男の肌は真っ白で、紫色の宝石のような頭をしていた。
唇は紫色で、口元からは、真珠のような二本の八重歯が覗いている。
そして、その瞳は血のような紅だった。
それは、人々がゾンビと同じく恐れていた生き物…。

「…ヴァンパイア…」

少女の口から、掠れた声が出た。
男…ヴァンパイアは無言で、少女に近付いた。

「嫌…来ないで…!!」

少女は銃を構えて、ヴァンパイアを睨んだ。
しかし、ヴァンパイアは止まる事なく、少女の目の前に来た。
そして、その赤い目で少女の目を覗き込んだ。

「あっ…」

ヴァンパイアに見つめられた瞬間、少女は気を失って、倒れ込んだ。
倒れそうになる少女を、ヴァンパイアが受け止める。
ヴァンパイアは少女の髪や顔、服を観察するように眺めてから、少女を抱き上げた。
そしてそのまま、少女を連れて、闇の中へ消えていった…。